洗濯機にいれたモノ
窓を開けると、柔らかな日射しが部屋に入る。いい加減、洗濯をしなければならない。一人分の洗濯物はとても少なく、忙しさにかまけて、サボりがちだ。
スイッチを入れて、スタートボタンを押すと、勢いよく水が注がれる。
洗剤を入れて、グルグル回る様子を眺める。もう少し入りそう。枕カバーも洗ってしまおう。
テーブルの上の携帯が、メールの着信を知らせる。
<今夜、会いたい>
なんでメールしてくるの。しないでって言ってるのに。
イライラする。連絡してくる彼にも、いつまでたっても着信拒否をできない自分にも、腹が立つ。
こんなものがあるから、ダメなんだ。携帯なんてなかったら、いいのに。携帯がない時代に産まれたかった。
左手に掴んだままの、枕カバーを洗濯機に投げ入れる。
ついでに、右手に掴んでいたモノも、洗濯機に投げ入れた。
「お疲れ様です。平原さん、昨日、師長さんが電話が繋がらないって、困ってましたよ」出勤してすぐ、休憩室で高井が話しかけてくる。
「え?なに?何かあった?」
「いや、昨日、小谷さんの手術の同意書が見当たらなくて、探しても探しても、見つからないから、平原さん、勤務してたから、知ってるんじゃないかって」
「あぁ、丸野が西口先生から預かってたよ」
「やっぱり、そうですか。先生が丸野に渡したって言ってたんですけど、丸野、覚えてませんって」
「それで、どうしたの?」
「家族さんが複写をもっていたので、それでとりあえず、なんとか」
「あぁ、そう」
「それで、平原さん、携帯変えたんですか?」高井は完全に面白がっている。
「洗濯機に投げ入れたら、壊れた」
「そりゃ、洗濯機で回せば、壊れますよ。……投げ入れた?入れたんすか?」
「キレイになるかと思って」きっと高井はすぐに気づく。
「それは、ピカピカになったでしょうね。バックアップ取ってましたよね?」
「……いや、勢いに委せてね……」
「むちゃくちゃっすね」
「高井、病棟のコに言っといてよ。平原は携帯が故障して連絡できませーんって」
「別にそれは構いませんけど、平原さんの交遊関係カバー出来てないと思いますよ」
「適当でいいよ」ちらりと人懐っこい笑顔が浮かぶ。
高井が連絡先を知っているわけないよね。
こっちがダメなら、あっち。そんな都合のいい自分が嫌になる。
また、一緒にご飯を食べたい。汚したセーターのお詫びもしていない。
いつか、どこかで会えるのだろうか。