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三境目。

からん。と、彼女の履く雪駄が鳴った。

「此処が私の家です」

案内された彼女の家は,辺り一面雑木林の中に静かに建つ茅葺屋根の大きな一軒家だった。

日が傾き始め、辺りはすっかり暗くなってしまった。

彼女と出会うまで野宿を覚悟した方がいいと思っていたが、かなり嘗めていた事を自覚した。

何かが闇から現れそうで。

家には明かり一つも灯っておらず,まるで廃屋だと失礼ながらそう思ってしまった。

「…あんたの親は寝てるのか? 明かりが無ぇんだけど…」

「親はいません」

何でも無い様に何でも無い笑顔でそう言った。

こんな周りが雑木林で何も無い一軒家で独りなんて、何か訳ありなのか…。

「(…詮索するのはやめよう。何であれ,おれを家に招いてくれたいい人なのだから)」

「どうぞ上がって下さい」


家の中は外見通り相当古く、部屋の襖は全て締め切っていた。

灯りの付いた灯篭を持たされ彼女の後ろへと続く。

宛がわれた部屋はすぐ横の隣にもう一つ襖がある、六畳一間の部屋だった。

「少し待ってて下さい」

そう言って彼女はぱたぱたと向こうへ行ってしまった。

窓が無く、押入れと床と小さな行灯しか無い殺風景の薄暗い部屋に足を踏み入れる。

進む程に強くなる畳と家の匂い。一歩。二歩。視界の端に男が映った。

「わっ!!」

男に驚いた。見ると部屋の壁に細長い四角の枠があって、その中にいる一人の男が驚いた顔でこちらを見ていた。

目を見開くと,男も目を見開いた。男に近付き覗き込むと,男も同じ様に近付いて覗き込んだ。

「……これが、…おれ?」

それは鏡だった。

少しばかり日に焼けた肌。散切りの黒髪。黒い瞳。やる気の無い地味な印象の顔だった。

「……………平凡なんだな…」

鏡の中の自分は落胆した顔をした。自分で言って何か悲しい気がする。

「あの」

突然後ろからの声。振り向くと何時の間にか彼女がにこやかに笑っていた。

「お風呂も食事も用意が出来ています。どちらを先になさいますか?」


そして、宵闇の蚊帳が降りる乙夜の刻。

「私の部屋は隣ですので、何かあったら呼んで下さい」

彼女も風呂に入って、寝衣として白の襦袢を身につけていた。

「あ、あぁ……」

「それでは、どうぞごゆるりとおやすみなさい」

「お、おやすみ…」

彼女が部屋に入ったのを確認して部屋に入る。

食事や風呂から寝言まで。本当に至り尽くせりだった。


『…何から何まで、有難う』

と、お礼を言ったら。

『そんな事言わないで下さい…。私、とても嬉しいのですから』

と、嬉しそうに微笑んでいたのが印象的だった。


そうして回想しながら布団で横になり、これからをどうするかと思い立った。

取りあえず明日の朝になったら最寄りの人里までの道を聞こう。

其処で記憶を失う前の自分を知っている者がいるかもしれない。

そう悶々としていく内に、眠りについた。

異形は人と全く同じ形をするモノが稀にいる。

【異形のモノを招き誘われてはならない。】

招き誘われたその時が最後、後への戻りはもう出来ない。


招いてはならない。

招き入れた者は黄泉つ(よもつ)の住民。

誘われたモノに喰われるぞ。


誘われてはならない。

誘われた其処は黄泉つ(よもつ)の巣窟。

招かれたソコに呑まれるぞ。

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