第五話 アンセルム国に来たー!
準備が終了し、村長にお世話になったことの礼を言った後、村を出た。
目的地はアンセルム国の首都アメデだ。目的は昨日の話で言っていた奴の情報を集めるためだ。首都アメデにはこの国最大の冒険者ギルドがあるらしくそこにはアンセルム国だけでなく外国のギルドの情報まで集約されているらしい。
ここからそのアメデまでは大分時間がかかるらしい。というよりこの森を抜けるのにもかなり時間がかかるらしい。
あ~あ。俺だけなら走ってすぐにもりから抜けられるのにな~。あっ、そういや真紀ってチートの魔道士だよな。ワープとか使えないのだろうか?
聞いてみた。
「ワープ?あー私も使ってみようと試したけど数十メートル先までしか移動できなかったわ。しかも毎回集中力高めないとできないし。たぶんきちんと呪文を唱えればもっと遠くまで行けるかもしれないけどそんな呪文が書かれた本って数無くて売られてないから入手するのも無理かな。」
「じゃあさ、高速移動くらいできないの?風の魔法とかで早く動けそうな気がするけど。」
「それならできるわよ。でもこれも私一人にならできるけど他人まで一緒にとか無理だから結局歩いてこの森を抜けるしかないわよ。」
ほぉ。俺より早く動けるっていうのか?
「ならさ、俺とどっちが早いか競争してみようよ。俺を鈍足だなんていうくらいだ、余程速いんだろうな?」
「え?誰も隼人の事鈍足だなんて言っていってないよ。って言うかあなた本当にそんなに速く走れるの?」
「そんなに速くって言われても真紀の実力知らねんじゃ何ともいえないぜ。せっかくお互いの事知れる機会でもあるから競争しよう!」
「そういうことならやってみる?森を抜けるにはこっちの方向に真っ直ぐ行けばいいわ。途中罠とか魔物とかに会うかもしれないけど、素通りできるよね?」
「もちろんさ。奴らに俺は見えない。」
《魔物の動体視力は人間の何百倍もしくは何千倍も良いため実際には現在の隼人が最高速度を出しても姿を確認することはできている。ただ追いかけようという気は魔物にも起こらないので無視している。》
「余程速いのね。じゃあヨーイ、ドンで出発するよ。いいね?……位置について、ヨーイ、ドン!」
俺は0.5秒遅れてスタートした。もちろん勝つ自信があったからだ。
断じて負けた時の言い訳としてではない。
くそ!予想外に真紀の奴速いな。差をなかなか縮められない。
しかし俺の体も異常だ。速度がどんどん上がっていく。
やっと追いついた。っといっても5分くらいで。
「なかなか速いな!驚いたぜ!」
「そういうあなたこそ何者よ!私は魔法で動いているからまだしもあなたは走ってこの速さって……あきれたわ。」
「このくらいで驚いてもらっちゃ困るな。俺はもっと速く走れる。付いてこられるかな?」
俺はもっと速度を上げた。
しかしすぐに限界が来た。体の方ではない。服の方だ。そろそろ摩擦で燃えそうだ。というより逆にここまで燃えもせず、破れもせず残っているのが不思議だ。
「森を抜けるまでどのくらいだ?」
「この速さならあと3分くらい。」
「この服持ちこたえるかな?」
「燃やさないでよ、お願いだから。言い忘れたけど私まだ魔法は攻撃系しか使えないから服燃やしたり、破ったりしたら直せないわよ。もちろんだけど服なかったら町に入れなくなるわよ。」
「まあ運だな。」
「あなたが気をつけて走ればいいのよ。」
「んな無茶苦茶な。」
暫くしたら森を抜けた。意外と早かったな。
服も大丈夫だった。
「だいぶ走ったな。」
「ええ、でも隼人全然疲れてなさそうね。」
「それ言うなら真紀だって。」
「私はチートのおかげだからね。隼人は元々なんでしょ?」
「まあな。なんというか肉体的な疲れは感じたことは今までないな。精神的な疲れはあるけど。」
「人間、だよね?」
「もちろん。いや、たぶん。」
っていうか神すら知らないと思う。
「そこは自信持って言わないと……。とりあえず動こう。あそこの城壁があるのが見える?」
「ああ、見えるよ。相当長いな。」
「ええ、ここからじゃよく分からないかもしれないけど高さも結構あるのよ。」
「だな。高さは52.5mか?」
「……今日はあの向こう側の町で休もう。その服もまだ大丈夫とはいえ戦闘には向かないから買う必要もあるしね。」
無視されちまった。俺何も悪いことしてないのに。
「お金は?」
「私結構お金持ちなのよ。」
「へえ。じゃあ今回は奢ってもらうよ。」
村まではだいたい3kmくらいしかなかったので歩いて行くことにした。
景色を楽しむのもいいだろう。
「……そういやなんであの時俺を転生者だと思ったんだ?」
「町に来て村長と話をしていたら怪しい人間の相談を受けてその時名前と特徴聞いて日本人だって思ったわ。」
「そうか。って言うか村長からそんな相談を受けるお前は何者だ?」
「さあね。ちょっとした有名人ってことだけ言っておくわ。」
3、40分くらい雑談しながらのんびり歩いていたら城壁の側まで来た。
「近くに来ると迫力あるなー!」
「本当何度見ても驚くわね。高さはあなたの言った通り52.5mで日本じゃそれ以上高いビルを普通に見ていたのに。やっぱり横にも長いからかな?」
「ん~まるで万里の長城。こっちのほうが比べ物にならないくらいデカイけど造る時どれだけ死人が出たんだろうな~?」
そんな疑問を口に出していたら側の馬に乗った中年の兵士がこっちにやってきた。
「君たちこの国に来るのは初めてかい?他の国から初めて来る人は皆この城壁に驚くからね。ん!?も、もしかして貴方様はあの《黒衣の賢者》様でありますか!?」
なーんーだー?その中二な二つ名は?
「世間は私をそう呼んでいるようだな。」
あれ?しゃべり方変わってる?
「やはりそうでしたか。あ、申し遅れました、私はアンセルム国軍国防隊軍曹のエヴラール・ベソンと申します。魔族侵攻の時は本当にありがとうございました。」
「たいしたことではない。それにもう昔の事だ。」
「そんなこと御座いません。貴方様方がいらっしゃってくれなかったら壁の内まで被害が出て最悪この壁周辺にある町は再起不能になっているところでした。あれ?あ、すみません。確か賢者様はもうお二方、《剛腕の勇者》様と《純白の舞姫》様と一緒にいらっしゃられていましたよね?今は一緒じゃないんですか?」
「彼らは、死んだよ。いや、殺された。たぶん魔族だろうが強さ異常だった。」
「あなた様方でも敵わない魔物がいるなんて……。お悔み申し上げます。」
「気にしなくていい。」
「……あの、ではお隣にいらっしゃる方はどなた様でしょうか?」
よし!やっと口をはさめる!
「こいつは隼人という奴だ。その魔物の討伐に加担してくれることになっている。そうだ、何かそういう魔物の情報はないか?」
しまった!タイミングを逃してしまった。
「えーと、無いですね。」
「そうか。」
「すみません。」
「謝る必要はない。長く時間をとって悪かったな。任務に戻ってくれ。」
やっと話終わった……。
「はい!でもあの、最近魔物はほとんど出なくなっていてそれにこっち側のお隣の国とは仲良くさせていただいているため現在国防隊は軽い警備しかなく、正直暇を持て余している所です。ですから最近は初めてここを訪れた方などにこの国や壁の事を解説しているのです。そちらのハヤト様はご様子を見る限りこちらの国にいらっしゃるのは初めてだと思うのですが私が検問のところまで国や壁の解説をしてもよろしいでしょうか?」
まだ話終わらんのかい。でもこの国のこと知れるならよしとするか。
「ああ。よろしく頼む。」
そういうことで軍曹さんにこの国のことを色々教えてもらった。
壁のことについて興味深いことも聞けた。驚いたことにこの壁は国全部を囲っているらしい。しかもこの壁は三〇〇年ほど前にたった一〇〇〇人の魔法使いによって造られたらしい。
検問の所まで来たら軍曹さんはまた警備の任務に戻っていった、
検問は楽に抜けられた。真紀の知名度のおかげもあるのかもしれない。
検問を抜けるとそこはもう賑やかな町の中だった。
とりあえず真紀の提案でまず宿で部屋を借りに行くことにした。宿はこれまでも真紀がお世話になったことのある「トワエモア」にすることにした。 この店はだいたいどの国にもあって大き目の街に必ず一つはあるくらい多数の店舗があるらしい。つまり大手チェーン店らしい。
「この国に戻って来るのも半年振りか~。なにか新しいお店ないかな~♪」
「半年ぶり?じゃあこの半年間何処にいたんだ?」
「さっきの森、神参る地とも言われているけどそこで修行していたの。あの森は奥に行けばいくほど強くなるっていう噂があったから行ってみたけど本当にその通りで中心辺りには全然近づけなかったわ。」
「へぇ~。俺もいつか挑戦してみたいな。」
「ポーション忘れないようにね、ってあなたには必要ないのかな?森の中走っているとき木の枝なんかで怪我していたはずなのに気づかないうちに治っちゃってるし。」
「よく見ていらっしゃいますね。……ところでなんで俺以外の人と話すとき口調を変えているの?」
「え?ああ、えーと、あれはなんていうか、賢者様って言われたらあんな風にしゃべりたくならない?」
「ならない。」
「んー、やめたほうがいい?」
「絶対普通の方がいい。あんなしゃべり方全然合ってないし、逆に聞いていて何様だって思ってイライラする。」
「ひどい。そんなに言わなくても……。」
「普通のしゃべり方のほうがかわいいよ。」
「え?」
「冗談だけどな。でも普通のほうがましなのは本当だ。」
かわいいのも本当だけど真面目にいうのは恥ずかしいからな。
それにこういう風に言えばアニメみたいに恥ずかしさ誤魔化すために叩いてくれるかもしれないし。(俺ドMかよ!)
「ね、ねえ。手、繋がない?」
えええ!なんでそうなる?俺には嬉しい提案だけど……。
断る理由もないので手を繋ぐ。
やったぞ!俺、手繋いじゃったぞ!嬉しいな~俺にもこんな時が来るなんて!でもいざ手を繋ぐと緊張するな。緊張すると体が熱くなってきた。いや、体というよりは手が熱い。
「あっち!」
繋いでいた手を離して手を見ると、燃えていた。
周りの人も皆こっちを注目している。
「おい、どうにかしろ!」
って真紀……。どこに逃げた。
そろそろ皮膚だけじゃ済まなくなる。急いで火を消さないと。
「おっちゃん、済まねえ!水槽使うぜ!」
ちょうど横が魚屋でよかった。いや、図ったのか?
「だいじょうぶか?兄ちゃん?医者呼んできたろうか?」
「いえ、大丈夫です。ほら。」
手を水槽から出す。みるみる間に怪我が治って元通りになった。
魚屋のおっちゃんは分かり易い驚いた顔をする。
「え!?ああ、兄ちゃん手品師やったんかい!」
あ、そういうことになります?
そして周りの見ていた人たちが一斉に拍手をし始める。
こういう時どういう顔すればいんだろうな?とりあえず何か言わないと。
「えー皆さん。いきなりマジックを始めたりしてしまってすみません。でもお楽しみいただけたでしょうか?私のモットーは驚きのある毎日を皆様に届ける、です。もし皆様驚きになられていましたらこのマジックは成功になるのですが……どうやら驚いていただけたみたいですね。よかったです。半分以上強制だったですがマジック見ていただきありがとうございます。では、またいつか。」
と言って一瞬にして消える、ようにそこにいた人は見えたはずだ。実際は高速で走ってちょっと離れた場所に移動しただけだが。
「にしても照れ隠し、もっと穏やかにしてもらいたいよ……。」
普通じゃない皮膚と回復力のおかげでなんとかなったけど熱さや痛みは感じるっていうのに。
ちょっとしたら真紀が現れた。
「あら、こんなところにいたの。いきなり消えたりしないでよね。」
先に消えたのはお前だろうが。
「まあいいわ。ちょうど目的地にも着いたとこだし。」
後ろを向くと「トワエモア」と書かれた三階建ての宿があった。運よく俺は目的地の前にきていたらしい。
中に入ると受付にお姉さんと呼べる、いや呼びたいくらいの歳の美女がいた。しかも見たところこれが素なのに余計魅かれる。というよりこの世界きてから化粧していそうな人を見かけてない。化粧をするという習慣がないのかな?
《実際この世界の人に化粧をする人はほとんどいない。しかし香水をつける人が最近若者、特に女性に多くなってきている。》
「あの、今お部屋二つほど空いていませんか?」
ああ、やっぱ部屋は分けるのか……。いや、別に変なこと企んでいたわけではないぞ。むしろそのほうが俺も気が楽でいいし。
「少々お待ちください……はい、現在ローエンドクラスのお部屋は満席で、ミドルクラスは一部屋あります。あと少々お値段上がりますがハイエンドクラスに三つお部屋が空いておりますが、どうされます?」
「ハイエンドクラス一部屋一泊どのくらいするの?」
「金貨二枚ですね。」
「結構高いのね。」
「はい。しかしそのかわり清潔さと高級感は他のクラスの何十倍も何百倍もよいことを保証します。それにセキュリティは万全です。壁やドア、それに窓まですべて耐魔法、耐物理攻撃のものになっておりドラゴン級の魔物やそれくらいの強さを持った人物でないと破壊して侵入することはできません。」
「ふーん。じゃあ逆にドラゴン級がきたら侵入できるということ?」
「はい…しかしこの国にそれほどの方は十数人しかいませんし、この街には一人もいないはずなのでセキュリティの面で心配されることはありませんよ。」
「そう。じゃあハイエンドクラスの部屋二つを一週間ほど貸してもらうわ。」
「えっ。あ、失礼しました。ハイエンドクラス二部屋を一週間ですね。今回料金が高額ということもありますので後払いはできませんがご了承ください。ではまずこちらの書類に目を通していただいてお名前をここに記載してください。」
そう言われて俺と真紀はそれぞれ
金貨二八枚お支払願います。」
そういわれて真紀はどこからか膨れた袋を取り出した。
「はい、金貨二八枚確かに受け取りました。ではこれがお部屋の鍵です。お部屋にはそこの三階専用のリフトにお乗りしていただいて二部屋とも通路を左に曲がっていただければあります。ご不明な点がありましたらどうぞ。」
「とりあえずはないわ。」
「俺も。」
「ではごゆっくりお過ごしください。」
そのあとリフトに乗って部屋に向かった。
リフトはエレベーターと違って壁なしで、そのかわりスペースが広くなっている。上下する原理も違うみたいだが魔法によるものということくらいしか分からなかった。
「部屋に入ったらそこで少し待ってて。あとで今後の事について少し話合うから。」
って言われたので今はソファーの上で寝っ転がって待っている。
ついでに部屋はどんな感じかというと期待していたほどでもなかった。ベットが二つでソファーが一つ、なぜかキッチンが付いていて風呂、というかシャワーがある。あとは無駄に装飾品が置いてあるくらいかな。でも俺が金払う訳じゃないから別にいいけどね。
コンコン
おっと来たみたいだ。
「あいてるよ。」
真紀が入ってきた。
ん?
「なんでそんな洒落た服に着替えたんだ?」
「だって今さっきの恰好って見るからに黒衣の賢者って感じだったでしょ。私の顔知っている人はほとんどいないけどもし勘のいい人に気付かれたら何かと面倒なことになりそうだからね。だから黒の対極の色、白を多用した服に着替えたの。そんな訳でちょっと遅くなったわけ、ごめんね。」
「いや、逆に着替えていたとしたら早いよ。大体そんな服どこに隠し持っていたんだよ。」
「あれ?あなたはもってないの?知ってる転生者は必ず持っているんだけど……これ。この袋の中は四次元空間みたいになっていていくらでも物が入るの。しかもこれ、万が一落としてもいつのまにかポケットに戻ってくるし、持ち主の転生者以外が使おうとすると普通の空っぽの袋になるの。いいでしょ~、ほしいでしょ~。」
「ほしいけど~絶対入手不可じゃんか。それ。」
「うん。残念でした~。それじゃそろそろ本題に入ろうか。今日これからやることは、冒険者ギルドに行って登録してもらうこと、戦闘向けの服を購入すること、くらいかな。明日は早速なにか依頼をこなしていこう。」
「ギルドで登録?なんで?」
「その方が他の国や大きな街に入るとき楽になるの。それにあなたも自分のお金がほしいでしょ?」
「まあな。すべて真紀に頼りっぱなしっていうのも悪いしな。」
「納得してくれたなら、早速ギルドへ行こ!」
という訳で俺達は冒険者ギルドへ向かった。
読んでくださった方ありがとうございます!