美少女
一番ヒロインらしい子が出てきます!!
………おかしい、この小説のヒロインは斎のはずなのに(笑)。
穏は生徒会の仕事があるから、と先に席を立った。
期待しているよ斎さん、と言われたが、何に期待しているのかはあえて聞かないことにした。
面倒事は起こしたくない、という斎の偽らざる本音である。
まぁ既に起こってしまっている気もするが、それはそれ。
などとつらつら考えながら、斎は愛と共に彼女の部屋へ向かっていた。
愛は相変わらずふわりとした笑みを浮かべながら、部屋についての説明をする。
「女子寮は色々鑑みて全員二人部屋なのー。
個人のプライベートルームに共同スペースの居間とダイニング、キッチン、トイレに脱衣所付きお風呂、あと洗濯機もあるからねー」
その鑑みた色々にはつっこまないことにした。
そうでもしなければ、最早やっていられない。
「……本当に何なんだこの学校………」
ポツリと呟くと、愛はまぁねぇと笑った。
「慣れてくしかないよー」
「無理です」
げっそりとしながら、部屋のある三階へエレベーターで上がる。
「本当は学年ごとにフロアが変わっていくんだけど、今は女子の数が少ないから、ひとクラスでひとフロア使えるようになってるからー。ラッキーだねぇ」
「そんな部屋数あってもどうしようもありませんが」
むしろ何に使えと。
斎の返答に愛は笑い、そうそう、とカードのようなものを二枚取り出した。
「これ、学生証でもあり部屋の鍵でもあり購買なんかでも支払いが出来るカードだからー。
無くしたら結構大変だからー、気を付けて持ち歩いてねー。
スペアキーは部屋の貴重品入れる金庫に入れておくことー」
「………わかりましたよ、金庫に入れておけばいいんですよね、もう何もつっこみませんよええ」
色々と諦めた斎だった。
受け取ったカードにはそれぞれ斎の顔写真、学籍番号と思われる番号、有効期限(卒業予定の年月日)が刻まれている。
暗証番号は今のところ生年月日だが、すぐに変更したほうがいいと愛は言った。
斎が頷いたところでエレベーターが止まる。
ドアが開いてから見えた廊下は一流ホテル並みに広く、向かい合わせで部屋が並んでいる。
部屋の番号は、エレベーターに一番近い右側が三○一号室、左側が三○二号室となっている。
案内された部屋のドアには、三○五号室と書かれていた。
「ここが斎ちゃんとクラスメイトの更紗ちゃんの部屋になるからねー。
あとの二人はお向かいさんだからー。
あと、ここにカードをかざせば鍵は開くからねー」
「……ああ、そういえばルームメイトがいるんでしたね」
立て続けに衝撃的なことが起きていたせいか、すっかり頭の中から抜け落ちていた。
今更ながら仲良くできるだろうかと少し不安に思うが、もうどうしようもない。
斎は軽く溜め息をついて、愛を見た。
様子を見ていた愛は、斎が落ち着いたと判断したのかひとつ頷く。
「じゃ、開けてもらうねー」
ピンポーン、と呼び鈴を鳴らした。
完璧にマンションだろう、と斎が脱力していると、中からパタパタと小走りにやってくる音がして――――
「は、はいっ!」
ガチャ、とドアが開いて住人が顔を出した。
少女を見た斎は、思わず呟いた。
「可愛いは正義ですよね」
「だよねー」
愛ものほほんと同意する。
「え、え?」
当の本人はおろおろと二人を交互に見る。
肩にかかるぐらいのふわふわの茶髪は彼女の頭の動きに合わせて揺れている。
困惑を浮かべるのは緑がかった大きな瞳。
少女らしい丸みを帯びた体に、斎よりも頭半分以上は小さな背丈。
異性だけではなく同性も庇護欲をそそられる、文句なしの美少女である。
斎はすっと手を差し出して言った。
「高橋斎。3年間よろしく」
「あ、えっと」
美少女も手を差し出し、同時に頭を下げる。
「鷹峰更紗です。よろしくお願いします」
「それじゃあ、あとは二人で頑張るのよー」
にこにこと笑みを絶やさないまま、愛は手を振って戻っていった。
二人揃って見送り、さて、と斎はルームメイトを見る。
「名前だけど、更紗って呼んでいい?」
「う、うん!私も、斎ちゃんって呼んで、いいかな?」
ことり、と首を傾げる様子は本当に可愛らしい。
斎は小さく笑いながら言った。
「もちろん」
すると、更紗は嬉しそうにはにかみながら笑う。
(これは守ってやらないと)
色々な脅威から。
更紗の笑顔に癒されつつ、斎は内心で決意を新たにする。
ふ、と更紗が未だ玄関でやりとりをしていることを思い出したらしく、少し慌てながら言った。
「え、えと、じゃあ、中に入ろっか!」
「そうだな」
斎も頷いて部屋に上がる。
玄関から入ってすぐのところに、それぞれの寝室兼プライベートルームがある。
その奥が居間やダイニングといった共有スペースになっている。
共有スペースはパステルカラーとビビッドカラーが使われており、女子が使うことを目的とする内装になっていた。
恐らく愛が整えたのではないか、と斎は推測する。
えっと、と更紗は玄関から入って右手側のドアを指した。
「こっちが、斎ちゃんの部屋……にしちゃったけど、いいかな?」
「特にこだわりはないから、心配は無用。そもそもギリギリに来た私が悪いし」
ドアを開けて中を覗くと、シンプルなベッドに机、椅子、本棚、クローゼットが備え付けられている。
斎の私物はまだ部屋の隅に積み上がっているダンボールの中だ。
「えっと、斎ちゃん」
何から始めようか、と考え込む斎に、更紗が声をかけた。
「ん?」
「あの、まずはお昼ご飯にしよう?えっと、用意したから」
「………」
斎は二、三度瞬きをした。
「…用意、したのか?更紗が?」
「う、うん。あの、和食だけど、いいかな?」
「ありがとう、折角だし先に食べるか」
うん、と頷いて二人並んでダイニングへ向かう。
用意されていたのは、純和食料理だった。
食べた感想としては。
「更紗、あんたいい嫁になれるよ」
「え、えっと、そうかな?」
「大丈夫、私が信頼する奴のところにしか嫁がせないから、安心して」
「う、うん……?」
斎が更紗を守ろうと心に決める、それぐらいの出来だった。
そして更紗を守ろうと決意する斎。
段々彼女がヒーローに見えてくるのはきっと間違いじゃない。