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ようやく寮に到着です。


「………まさか石蕗と幼馴染みだったとは……」


鎮と別れ、再び歩きだした穏はポツリと呟いた。

未だに衝撃が収まっていないらしい。

斎は穏と並んで歩きながら、言った。


「というか、あいつがそこまで警戒されていることの方が驚きでしたけれど」

「中等部で幅を利かせていたからね。三年の頃には番長だったし」

「………似合わない……あんなに残念な奴なのに。今度絶対笑ってやろう」


力強く頷いた斎を見て、穏はそっと遠い目になった。

それも数秒のことで、彼は気を取り直すかのように頭を軽く振り、斎に言う。


「斎さん、寮が見えてきたよ」

「………うわ……」


今日何度目になるか分からない、うんざりとした表情を斎は浮かべた。

山、というよりは森の中に突然現れた、近代的な建物。

森の中にあることから、どこかちぐはぐな印象を受ける。


「………主に価値観的な意味で、ここで上手くやっていける自信がありません」

「そこは……慣れるしかないね」


苦笑しながらの台詞に斎は肩を落とした。

近づいていくにつれ、その大きさがよくわかる。


「………どうしよう、つっこみどころしか見当たらない。というか何だこれ」

「斎さーん、帰っておいでー」


ぶつぶつと呟きだした斎を現実に立ち返らせるべく、穏は声をかける。

斎の視線の先には寮、というよりはすでに高級マンションとしか思えない外観をした、七階建ての建物があった。

二階までは共通の建物、三階から上は男女で別棟に分けられている。

下から一年、二年、三年となり、残る六・七階は生徒会及び風紀委員といった役職付きの生徒たちの部屋がある。

斎をなだめすかしながら、穏は中へ入る。

食品売り場のある一階を通り過ぎ、食堂のある二階へ上がった。


「………世知辛いですよね、世の中って」

「どうしたの斎さん」


遠い目で呟く斎を気にかけつつ、穏は女子寮側の管理人室のドアをノックする。


「閑谷です。最後の新入生を連れてきました」

「はーい」


明るい声と共に、ドアが開いた。

焦げ茶の髪を緩く結んだ、小柄な可愛らしい女性が顔を出す。


「お疲れ様、閑谷くん。お茶でもどう?」


二人が顔を合わせたのは、何も今回が初めてではない。

というのも、女子を寮まで案内する仕事を穏は担当していたからだ。

つまり、今回の斎が最後の一人である。

今までと変わらずにお茶の誘いをかける女性。

普段であれば断りをいれる穏だが、今日は初めて頷いた。


「頂いても構いませんか?」


女性は目を瞬かせ、すぐににこりと笑う。


「もちろんよー?でも、珍しいわね」


どういう風の吹き回しかと言外に問われ、彼は困ったように笑いながら後ろを向いた。


「彼女を現実に戻すためには、いたほうがいいかと思いまして」

「………おかしいだろう、一階の食品売り場の規模と種類。

そしてなぜ寮の中にエスカレーターが存在するんだ。

談話室のソファも革張りだろう、どう考えても。何なんだここ」


ぶつぶつとつっこむ斎の様子に、女性はああと頷いた。


クリーム色やパステルカラーでまとめられた、女性らしい部屋。

それが、管理人室内の第一印象である。


「初めまして、女子寮側の管理人の浮舟愛うきふね めぐむです。

女子の皆さんと同じで、今年から管理人になりましたー。

新人同士、お互い助け合って行こうねー」


そう言ってふんわりと笑う愛。

斎よりも低い背丈の、女子大生と言っても通じそうな可愛らしい女性である。

焦げ茶のセミロングの髪を後ろで緩く結び、大きな茶色の瞳がどこか幼さを感じさせる。

口調も間延び、というかのんびりとしていて、毒気を抜かれそうだ。


「高橋斎です。浮舟ですか、いい名字ですね」


挨拶もそこそこに、斎は愛の名字を褒める。

愛は照れたように笑った。


「ありがとう。今年変わったばかりなのー」

「ああ、新婚の方でしたか」

「その前は中君なかのきみだったのよー」

「………それはそれで名字が変わってよかったですね」

「うふふ、斎ちゃんは読書家なのねー」


元中君、現在浮舟。

世界的にも有名な古典に縁のある名字を持つ人である。


「それで寿退社することになってねー?今は夫婦で寮の管理人やってるのよー」


これでも第一課だったから、腕は立つのよー?

ふんわりと笑う愛だが、第一課と言えばマル暴とも呼ばれる、いわゆる暴力団を相手とする課である。

そこに属していたということは、腕が立つのは間違いなく事実なのだろう。

見た目とは裏腹の腕っ節を持つ女性なのだ。

というかそんな人物を管理人に置く必要があるのか。


「まぁ今年から獅子王や灰色狼ロボ、死神と言った豪華メンバーが入学することになったからね、警戒はいくらしてもしたりないと」


半眼になった斎を見て、穏は苦笑混じりに上層部うえの考えを伝えた。

どうやら名だたる不良たちが揃って入学するらしい。

そしてその名だたる不良のなかに鎮が入っている。


「獅子王………警戒されているのかあいつ………というか獅子王……笑える…っ」


斎はとうとう口元を押さえてふふっと笑い出した。

肩を震わせている斎を見やり、愛が穏に問いかける。


「閑谷くん、獅子王って一番警戒して欲しいって言ってた子だよねー?」

「………まぁ、はい」

「斎ちゃん、知り合いなのー?」

「幼馴染みだそうです。先程遭遇してきました」

「斎ちゃんの尻に敷かれてる感じかなー?」


愛の言葉に、穏は遠い目をして答えた。

尻に敷かれるというよりも、あれは。


「………躾られている、と言ったほうが正しいかもしれません」

「………それは、また」


さすがの愛も言葉を濁さざるをえなかった。

数多の不良たちの中でも、メンバーの数が最も多い通称「獅子一家」。

そんな彼らをまとめる獅子王は、不良たちの間でも一目置かれる存在であり、上級生には目を付けられやすい存在である。

その獅子王が土下座をするような相手。

むしろ、彼を躾られる少女。


「私がここに来る意味あったのかなー?」

「そこは恐らく触れてはいけません」


改めて考えると、とんでもない人物が入ってきたものだと二人は苦笑した。


寮に到着、設備が既に色々とおかしい。

そしてまだまだネタにされる獅子王(笑)。

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