雨宮「ファイア!」
遅筆で済まぬ
あれから数日……もう終業式の日、今日から夏休みだ。宿題ばかり多くてとくにすることもない日々が続く……わけではない。今年は。
「あーまみーやせーんぱーい!」
帰り道、水谷が声を掛けてきた。
「なんだ? 今日は何をしようって言うんだ?」
この最近放課後は水谷に付き合って特訓をさせられている。別に嫌ってわけじゃないが、まぁとりあえずアレだ。水谷と一緒にいて暁とかクラスの奴らにイジられるのがめんどくさいんだ。
この最近のことはハナにも説明してあるし、特訓だったら遅くても別にいいらしい。というか暇なら一緒についてきててもいいんじゃないかとも思ったが、別にいいと言うんだからいいんだろう。
「今日も特訓です!もう大会まで日にちがないんですから!」
能力者のバトル、俺は特に叶えたい夢があるわけでもないし興味は無いんだが……ハナの意向で俺の参加が決定している。ずっと疑問なのだが、一応ライバル候補であるはずの俺を特訓に誘うというのはどうなんだ?
「少し買い物があるから待ってくれ」
「そうですか、じゃあ私は先に鈴ちゃん家で待ってますから!」
そう言って水谷はさっさと走っていった。買い物と言うのはインスタントばっかだと体に悪いから、料理の練習でもしようということで食材を買いに行くんだ。
そういやなぜ鈴さんの家なのか気になる? 実はあの人所謂金持ちってやつでさ、家も庭も広くて特訓するにはもってこいなんだってさ。俺も最初に行ったときはビックリしたけど、あんな若くて医者って能力ありにしてもコネないと難しいよなって納得もいった。
とりあえず俺は近くのスーパーへ向かっていった。何を作ってみようかと食材を探していると、
「おい」
後ろから声を掛けられた。どこかで、少し前に聞いたことがあるような、そう思いながら振り向くと……そこには筋肉質の大柄なおっさん……あのときの火の男がいた。
「あぁ、久しぶり」
動揺しすぎて普通に返しちまった。
「あの時だけだってのに馴れ馴れしいな、そんな久しぶりってわけでもねぇし」
「そうだな、で? 俺に何の用があるんだ?」
「別に用なんてねぇよ、買い物にきたらお前を見つけたんで話しかけただけだ」
意外と暇なんだなこの人。
「買い物自体も暇だからだしな……そうだ、お前も多少は能力使えるようになってんだろ? ちょっと相手してくれよ」
「働けニート」
「オーケー、了承ってわけだな? 死に場所は選ばせてやる」
正直言葉の選択を誤った。完全に怒ってるよね? 笑顔が引きつってますよ?
「あー俺用事思い出したー急いで行かねぇとー。『高速』!」
買い物かごとかそのへんに放って逃げる! 店から出てそのまま隠れる場所を探す。というかこのまま鈴さんの家まで行こう。逃げ切れてなくても呼べば水谷とか鈴さんが出てきてくれるかもしれないしな。まぁ『高速』で逃げ切れないようなことは無いと思うが。
少し走って鈴さんの家の門の前まで来た。あいつもついて来れてな
「おい、いきなり能力使って逃げんなよ」
「な……おまえどうやって……」
「教えねぇよ、てか逃げるなら挑発すんなよ……」
ごもっともです。はい。
「ここはお前ん家……そんなわけないか」
「決め付けるな、まぁ違うけど……」
そんなやりとりをしているとまた誰かに声を掛けられる。
「あれ? 雨宮先輩?」
「人ん家の前で何やってんだ?」
水谷と鈴さんだ。
「そちらの方は?」
鈴さんが俺に火の男のことを尋ねた。そうだ! 鈴さんの好奇心を利用すれば……
「火の能力者の人です」
「なっ!おい!」
「ほぅほぅそれは興味深い! ぜひ見せてもらえませんかね!」
鈴さんは身を乗り出して予想通り食いついてきた。助かった……鈴さんが火の男を押さえてる間に逃げようとすると、手を掴まれた。
「どこ行くんですか雨宮先輩?」
そうだコイツもいたんだ。
「雨宮! 火野さんがお前の相手をして能力見せてくれるって!」
「え……ちょ……」
「結果は変わらないということだ」
納得のいかない俺は引きずられながら鈴さんの家の中へ連れて行かれ……
――――――――――――――
場所は鈴さんの家の裏庭、整えられた芝生が広がる。水谷と鈴さんは少し離れたところに椅子と机を用意していた。火野はストレッチしてるしやる気まんまんだな。逃げ出したい。
こっちにくるまでに全員で一通り自己紹介はし終わった。火の男は火野太一という名前らしい。名前にまんま能力入ってるって神様も相当選んでるよな。火野は俺たちがお互いを知ってることに驚いていた。曰く「能力者がこんなにも集まるなんて大会のときぐらいだ」とかなんとか。
つーか……結局戦わなきゃいけないのか! 戦わなければ生き残れないのか!? 普通に話せるじゃん! 争いは何も生まないこと理解してないの!? 水谷も鈴さんも離れて完全に観戦モードだし……どうしてものときは助けてくれますよね?
「さぁて、いつでもいいぜ?」
「俺はどんなときでもヤだよ」
「じゃあ俺から行く、『火炎弾』!!」
火野はいきなり無数の火の玉を飛ばしてきた。前に見たときよりも速い。
「『高速』!」
五倍速で動いて避けるが、かなりギリギリだ。火の玉は地面に落ちて弾け、芝生に小さく燃え移っている。
「なんだ? あのときより遅いぞ?」
あのとき……無意識で発動した高速移動……ハナが言うには十倍速ぐらいらしいが今の俺はまだそこまで到達していない。特訓は水谷としているからそれなりに能力の扱いは覚えたが、まだ能力の強化にまでは至れなかった。
「チッ!ギリギリでも完璧に避けてるな。だったら……『火炎柱』!!」
大きな火柱が地面から生えてきた。周りにも何本も立っている。柱自体は動かないようだが……
「そらっ!」
「うお!?」
柱で動きを制限されて火の玉を避けきれない。一発当たったら次々と来る。痛ぇ!熱い!
「今ので倒れるかと思ったら案外平気そうだな」
「平気じゃねぇよ! 痛いし熱いっつーの!」
だが火野の言うとおり、今のが普通だと倒れるレベルの攻撃だったとするなら俺の体は少し丈夫になっているということか?
「そんじゃ、もっといくぜ?」
また火の玉が飛んでくる。火の柱にも気をつけながら避けるのは今の俺じゃ無理……だな。せめてもう 少し速く動けるようになれば……どうせ特訓みたいなもんだし、一回試すか。
「うおおおおおお!! 音速!!」
あ…………成功した……。飛んでくる火の玉を柱に気をつけながらでも回避できる!
「はーっはっはー! どうした! そんなもんか!」
気分がいいのでちょっと挑発してみた。火の玉も当たらなければ怖くない。
「動きがまともになっただけで調子に乗るんじゃねェ!!」
そんな台詞が聞こえたかと思うと、いつの間にか火の柱が消え、俺の周りに炎の壁ができていた。出口は見当たらない。
「ぶっ飛べ!」
火野が叫んだ瞬間地面が爆発した。そのまま俺は上に打ち上げられ炎の壁から脱出。そして落下……
「うわああああああああ!!」
あぁ、俺の人生はこんなところで終わってしまうのか……
諦めて目を閉じ、落ちてゆく。落ちたときにむにゅっとした感触が俺を包んだ。やわらかくて気持ちいい……
「ま、間に合いました……」
「火野さんちょっとやりすぎじゃない? 調子に乗って挑発した雨宮も悪いが」
どうやら水谷が助けてくれたようだ。スライムのようなやわらかい何かがクッションになって助かったっぽい。鈴さんは火野にいろいろ言いながら焦げたり抉れたりした箇所を直している。とりあえず俺は地面にゆっくり降りようとするが、水が散ってそのまま地面に落ちた。おい水谷。
「それにしても火野さんすごい威力ですね!」
水谷が火野を褒めているようだが、火野は少し思うところがあるようだ。
「君、その水はどこから出したんだ?」
「え? 能力で出しましたけど? 火野さんは違うんですか?」
火野も能力で火を出していたんじゃないのか?
「俺の能力は……いや、君もライバルになるのか。あまり情報は与えないほうがいいな」
「ケチですね」
いや水谷、それが普通だろ。たしかに気になるが……
「ケチって……戦い方まで見せておいてそれは無いんじゃないか?」
火野も正論で反論する。水谷も納得したらしく「そうですね……」といって会話は途切れた。
それからはなんやかんやありつつ鈴さんの家で飯をいただき、皆で軽く特訓したりして過ごした。有名なシェフが作ったとかの料理はうまかったなぁ……また食べたい。
「食事までお世話になってしまって申し訳ないですね」
「いえいえ、俺も能力者のバトルが見れて面白かったですし」
「鈴ちゃんまた明日ね!」
「明日も来るつもりか」
「雨宮先輩もですよ!」
「俺もかよ!」
そんなこんなでみんな帰路についた。
雨×ハナ、雨×時、雨×水、雨×鈴、雨×火、時×あり、水×鈴、水×火、火×鈴……夢がひろがりんぐ