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【脚本】真ネザーワールド リヴァイヴ(冥界蘇生)~神々の黄昏と陽だまりの詩~  作者: たくみふじ


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第三話 神隠しの噂と砕かれた日常㈠

千年の地獄を耐え抜いた魂が、神々に抗い『陽だまり』の日常を守る!

〇シーン1 高橋家・縁側(朝)

初夏の日差しが降り注ぐ高橋家の縁側。

庭の木々が風に揺れ葉擦れの音を立てている。

黒い豆柴の姿をした元死神・シジマことクロが日向に寝そべりながら大きなあくびをする。

その小さな鼻がピクピクと動き周囲の空気を探っている。


シジマのモノローグ

「犬の嗅覚というのは実に厄介なものである。路地の奥から漂う焼き魚の香ばしい匂い、湿った土が告げる雨の予感、そして何よりも人間の心から無意識に滲み出る微かな悪意の腐臭。これら全てが情報の奔流となって絶え間なく鼻腔を刺激してくるのだから安眠などできたものではない。俺があの雨の日にこの双子に拾われてから早三年。カイとソラは小学四年生になった。あのヤミたちエリート死神部隊からの直接的な物理干渉はぱたりと止んでいる。だが俺は知っている。嵐の前には必ず不気味な凪があることを。そしてその静寂の中でこそ腐敗は静かにしかし確実に進行していくのだということを」


クロが前足で顔をこすっていると玄関のほうから元気な声が響いてくる。


ソラ

「クロ、行くよ!」


黄色い通学帽子を被り赤いランドセルを背負ったソラが玄関から飛び出してくる。

続いて少し大人びた表情のカイが靴紐を結びながら現れる。

十歳になったカイの背中は以前よりも少し広くなりその瞳の深淵さは増している。


カイ

「もう、ソラ。クロがびっくりしてるじゃないか。あんまり急かすなよ」


クロがやれやれといった風情で身震いをしのそりと立ち上がる。

彼の任務はこの双子の護衛だ。

学校への登下校に付き添うのも忠実な番犬としての重要な日課となっている。

二人と一匹が家を出て数歩歩くと数軒隣の家の扉が勢いよく開き一人の少女が飛び出してくる。

カイとソラの幼なじみである相沢ひかりだ。


ひかり

「あ、カイくん! ソラちゃん! クロ!」


ソラ

「おはよう、ひかり。今日も早いね!」


ひかり

「おはよー! 今日の給食、揚げパンだって! 楽しみだね!」


クロ

「わん」


ひかりがクロの頭を撫でクロは尻尾を振って応える。


シジマのモノローグ

「平和だな。この相沢ひかりという少女はこの町で唯一、彼らの魂の異質さを無意識に受け入れ対等に接してくれる稀有な存在だ。だがこの平和な光景がいつまで続くか」


四人が並んで通学路を歩き出す。

どこにでもあるありふれた朝の光景のはずだった。

だがクロの鼻は確実にある異変を捉えていた。

すれ違う近所の主婦たちがカイとソラを見た瞬間にヒソヒソと耳打ちを始める。


主婦A

「ねえ、あの子たちよ。最近色々と変な噂があるっていう……」


主婦B

「やだ、目を見ちゃダメよ。関わるとろくなことがないって専らの評判じゃない」


登校中の他の児童たちも双子に向けた瞬間にサッと目を逸らし恐怖と忌避の混じった視線を向けてくる。

空気中に微粒子のような拒絶の念が蔓延し始めている。


シジマのモノローグ

「……始まったか。死神たちの攻撃は物理的な破壊から精神的な包囲へとフェーズを移行させていたのだ。人間関係という見えない糸を切り刻む陰湿な作戦に」


クロは双子を守るように少し前を歩き低く唸り声を上げる。


〇シーン2 小学校・教室(昼)

教室の空気が粘つくように澱んでいる。

物理的な汚れではなく子供たちの間に流れる集団心理の歪みが空間を重くしている。

カイとソラは教室の一番後ろの席で静かに教科書を広げている。

かつてはクラスの中心で笑っていたソラも今は硬い表情で口数を減らしている。

周囲の席のクラスメイトたちがわざと聞こえるような声量で陰口を叩いている。


クラスメイトA

「……ねえ、知ってる? あいつらと関わると、呪われるんだって」


クラスメイトB

「この前も掃除の時間に花瓶が勝手に割れたらしいよ。あいつらが睨んだだけでさ」


クラスメイトC

「気味悪いよね。いつも二人だけでなんかコソコソ話してるし」


ソラが悔しそうに下唇を噛む。

彼女の机の中を映すカット。

教科書の表紙には黒いペンで無数の落書きがされ靴箱を開けた際にゴミが詰め込まれていた光景がフラッシュバックする。

教師に相談しても「君たちにも原因があるんじゃないのか?」と厄介者扱いされるだけの現状。

死神たちの干渉は人々の心の隙間に入り込み元々あった小さな嫉妬や不満をどす黒い悪意へと増幅させていた。

カイは無表情のまま黒板を見つめているがその机の下で握られた拳は白くなるほど力が入っている。


〇シーン3 小学校・校庭の銀杏の木の下(休み時間)

校庭の隅にある大きな銀杏の木の下。

ここだけが針の筵のような教室から逃れられる唯一の安息地だった。

ソラが体育座りをして膝を抱え目元を赤くして俯いている。


ソラ

「……悔しいな。私たちが何をしたっていうの? 普通にしてるだけなのに……なんで、みんな急に変わっちゃうの?」


ソラの魂はかつて奪衣婆として何億もの罪人の嘘と欺瞞を見抜いてきた。

だからこそ今のクラスメイトたちが向ける理不尽な悪意の正体が何者かに操られている結果だと分かってしまう。

分かってしまうからこそ憎むこともできずただ悲しいのだ。

カイが黙ってソラの肩に温かい手を置く。


カイ

「僕たちのせいじゃない。……奴らの仕業だ」


カイの瞳が校舎の屋上付近を見据える。

一般人の目には見えないがカイの目には屋上の縁にまとわりつく黒い靄がはっきりと見えている。


カイ

「奴らは、僕たちを孤立させようとしている。周りの人間を操って僕たちの心を折り魂を絶望で染め上げるのを待っているんだ」


ソラ

「そんなの……卑怯だよ」


カイ

「ああ。でも、負けちゃだめだ。僕たちが心を閉ざしてしまえば、それこそ奴らの思う壺だ。僕たちは耐え抜かなければならない」


カイの言葉は力強いがその横顔には十歳の少年が背負うにはあまりにも重い疲労の色が滲んでいる。

そこへ息を切らせてひかりが走ってくる。

彼女の手には購買で買ったばかりの湯気が立つ焼きそばパンが三つ握られている。


ひかり

「二人とも! こんなところにいたのね。探したんだよ」


ひかりが満面の笑みで二人の隣に座り込む。


ひかり

「一緒に食べよ? ほら、まだ温かいよ」


ひかりの笑顔はこの曇った世界の中で唯一変わらない陽だまりだった。

ソラが心配そうにひかりの顔を見つめる。


ソラ

「ひかり……いいの? 私たちと一緒にいたら、ひかりまでクラスのみんなにいじめられちゃうよ。巻き込みたくないの」


ひかりがぷうっと頬を膨らませて怒ったふりをする。


ひかり

「何言ってるの! 私たちは親友でしょ? それに、みんながおかしいだけだもん。根拠のない噂なんかで二人を仲間外れにするなんて間違ってる。私が二人を守るんだから!」


その健気な強さにカイとソラは救われる思いがした。

二人の顔に微かな笑みが戻る。

だがその光景さえも校舎の三階の窓から黒い影が嘲笑うように見下ろしている。


〇シーン4 小学校・教室(数日後の朝)

数日後の朝のホームルーム。

チャイムが鳴り終わると同時に担任教師が血の気を失った青ざめた顔で教室に入ってくる。

教室内が教師のただならぬ様子に静まり返る。


担任教師

「えー、皆さんに悲しいお知らせがあります。……クラスメイトの高山献太くんが、昨日から行方不明になっています」


教室全体が大きくどよめく。

高山献太はクラスのボス的な存在であり最近カイとソラへのいじめを主導していた中心人物でもあった。


クラスメイトA

「献太が? 嘘だろ……」


クラスメイトB

「昨日一緒に帰った時は普通だったのに」


担任教師

「警察も懸命に捜索していますが、まだ手掛かりが全くありません。皆さんも放課後は寄り道せずに必ず集団下校するようにしてください」


カイとソラが顔を見合わせる。

カイの心臓が嫌なリズムで跳ねる。

単なる迷子ではない。霊的な悪意の匂いがこの事件の背後に濃密に漂っているのをカイの魂が感じ取っていた。


〇シーン5 小学校・校門前(放課後)

放課後の校門前。

町は不穏な噂で持ちきりとなっており下校する生徒たちの間でも不安の声が飛び交っている。


生徒A

「絶対に神隠しだって!」


生徒B

「昨日の夕方、あそこの川沿いにある廃工場の近くで献太を見たって人がいるらしいよ」


生徒C

「お化けに連れて行かれたんじゃないの?」


カイ、ソラ、ひかりの三人が重い足取りで校門を出る。

そこにはいつものようにクロが待っていた。

だが今日のクロは尻尾を振って出迎えることをせず低く唸りながら校門の向こうの道路を睨みつけている。

その直後、けたたましいスキール音と共に一台の黒い高級車が猛スピードで滑り込んできて急ブレーキで停車する。

タイヤの焼ける匂いが漂う。

車のドアが乱暴に開き狂乱した様子の女性が飛び出してくる。

高山献太の母親、高山夫人だ。

彼女は髪を振り乱し下校する生徒たちを突き飛ばすようにして掻き分けカイとソラを見つけると鬼のような形相で突進してくる。


高山夫人

「あなたたちねッ!!」


絶叫と共に彼女はソラの胸倉を力任せに掴み上げる。


ソラ

「きゃっ!? な、何をするの!?」


高山夫人

「返しなさい! 私の献太を、返しなさいよ!! お前たちが隠したんでしょう!!」


彼女の目は血走り完全に正気を失っていた。

カイが慌てて止めに入ろうと夫人の腕を掴む。


カイ

「おばさん、何を言ってるんですか! 離してください!」


夫人は凄まじい力でカイを突き飛ばす。

カイが地面に転がる。


高山夫人

「とぼけないで! 夢で見たのよ! お前たちが……お前たち悪魔の子が、献太の手を引いて、恐ろしい暗闇に連れて行くのを! 献太が泣きながら『助けて』って叫んでいたわ!!」


夢。

その言葉を聞いた瞬間、カイは戦慄する。


カイのモノローグ

(あいつらだ……! 死神どもが夢を使って、この母親の脳内に偽の記憶を植え付けたんだ! 子供を誘拐し不安と恐怖で理性を失った親を利用して、僕たちを社会的に断罪させる気だ。なんという卑劣な罠か)


高山夫人

「人殺し! 悪魔! 私の息子を返して!」


夫人の絶叫に周囲の生徒や保護者たちが足をとめ遠巻きに群がり始める。

彼らの目はカイたちへの同情ではなく恐怖と疑惑に満ちていた。


保護者A

「まさか、本当にあの子たちが……?」


保護者B

「あの子たちなら、やりかねないわ。気味が悪いもの」


保護者C

「やっぱり、呪われてるのよ」


無数の視線が冷たい針のように突き刺さる。

ソラはあまりの恐怖と理不尽な暴力に声も出せずにガタガタと震えている。

カイは立ち上がり歯を食いしばってソラを庇うように夫人の前に立つ。


カイ

「僕たちはやってません! 献太くんの行方なんて何も知りません!」


高山夫人

「嘘よ! この嘘つき! 悪魔の分際で!」


夫人が狂気に満ちた目を剥きカイに向かって手を振り上げたその時。

黒い影が地面を蹴って飛び出し夫人の足に噛み付く。

クロだ。

決して血が出ない程度の甘噛みだがその迫力に夫人が悲鳴を上げる。


高山夫人

「ひっ! な、何この犬! 離れなさい!」


夫人がひるんだ隙にひかりが小さな体を張って夫人の前に割って入る。

ひかりは両手を広げ涙声で叫ぶ。


ひかり

「やめてください! 証拠もないのに、勝手に決めつけないでください! カイくんとソラちゃんはずっと私と一緒にいました! 献太くんを連れ去るなんて絶対にできません!」


小さな体で必死に友人を守ろうとするひかりの言葉も狂乱した大人には届かない。


高山夫人

「うるさい! お前もグルか! この子たちと一緒に私を騙す気ね! 警察よ! 誰か早く警察を呼んでちょうだい!」


騒ぎを聞きつけた教頭や他の教師たちが慌てて駆けつけ夫人を羽交い締めにしてその場はなんとか収拾がついた。

だがこの出来事はカイとソラにとって決定的な社会的烙印となってしまった。


〇シーン6 高橋家・玄関前〜リビング(夕方)

夕日が沈みかける高橋家の前。

パトカーが赤色灯を回して止まっている。

近所の住人たちが遠巻きに家を指差しヒソヒソと噂話をしている。

玄関のドアが開きひかりの両親が怒りの表情でひかりの腕を無理やり引いて出てくる。


ひかりの父

「もう二度と、うちの娘に関わらないでくれ! お前たちと一緒にいるせいで、うちの娘まで白い目で見られる!」


カイとソラの両親が頭を下げて謝罪しているがひかりの父は聞く耳を持たない。

泣きながら抵抗するひかり。


ひかり

「お父さん、離して! カイくんたちは悪くないの!」


ひかりは振り返り玄関の奥に立つカイとソラに向かって叫ぶ。


ひかり

「カイくん! ソラちゃん! 私、信じてるから! 絶対、二人のこと信じてるからね!」


遠ざかるひかりの悲痛な声が夕暮れの空に響きやがて閉ざされた車のドアの向こうに消えていった。

X(Twitter)でも連載しています。

https://x.com/TakumiFuji2025

魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。

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