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【脚本】真ネザーワールド リヴァイヴ(冥界蘇生)~神々の黄昏と陽だまりの詩~  作者: たくみふじ


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第二話 見えざる狩人と落ちこぼれ死神

千年の地獄を耐え抜いた魂が、神々に抗い『陽だまり』の日常を守る!

〇シーン1 黒き学び舎・統括官室(冥府・夜)

光も風も、時の流れさえも存在しない無機質な空間。

どこまでも続く灰色の回廊の奥にある統括官室。

部屋の中央、虚空に浮かび上がる地上のホログラム映像。

そこに映し出されているのは、雨の降る峠道。

ガードレールを突き破り、今にも崖から落ちそうになっている家族を乗せた車。

次の瞬間、幼い少女ソラの体から淡い光がほとばしり、不可視の衝撃波が死神たちを弾き飛ばす。

車は奇跡的に岩肌に激突して停止する。

ホログラム映像を見つめるヤミの顔が、怒りと屈辱に歪む。


ヤミ

「……忌ま忌ましい。物理的な干渉は、得策ではないということか」


ヤミが苛立ちを隠そうともせずに手を振ると、空中のホログラム映像がノイズと共に掻き消える。

部屋の隅に控えていた数体のエリート死神たちが、ヤミの放つ冷たいプレッシャーに身をすくませる。

ヤミの脳裏に、千年前の自分がこの「黒き学び舎」で受けた屈辱的な訓練の日々が蘇る。

フラッシュバックする映像。

泥にまみれ、仲間を蹴落とし、感情を殺すことを強要された凄惨な記憶。

身体的苦痛、精神的苦痛。それら全てを耐え抜き、彼はただ効率的に標的を排除する殺人機械としてのスキルを磨き上げてきた。

彼にとって「失敗」とは、死に値する最大の罪である。


ヤミ

「前回の失敗は、我々の干渉が直接的すぎたことにある。あの奪衣婆の魂は、守るべき対象への物理的な危機に対して、無意識のうちに過剰反応するようだ。まだ覚醒前だというのに、あの出力……舐めてかかれば、こちらが火傷を負う」


ヤミが再び虚空に指を走らせると、新たな作戦図が空中に構築されていく。

そこに浮かび上がったのは、カイとソラの両親、そして彼らが通う小学校の友人や教師たちの顔写真、さらには通学路の地図。


ヤミ

「魂を狩るのに、必ずしも鋭利な刃が必要なわけではない。我らがこの学び舎で叩き込まれた基礎を思い出せ。最も効果的に、かつ確実に魂を蝕む猛毒は、なんだ?」


薄暗い部屋の中で、部下の死神の一人が恐る恐る一歩前に出る。


部下の死神

「……孤立、でありますか」


ヤミ

「その通りだ。人間とは、実に脆く滑稽な社会的な生き物だ。他者との繋がりを絶たれれば、いかに強靭な魂を持っていようとも、内側から容易く崩れ去る」


ヤミの口元に、酷薄で残忍な笑みが浮かぶ。

彼は空中に浮かぶ顔写真を次々と指し示していく。


ヤミ

「あの双子の周囲の人間たちの心を操れ。両親には些細な不信と苛立ちを、友人たちには根拠のない嫉妬と悪意を植え付けろ。決して我々の姿を見せるな。ただ、じわじわと、真綿で首を絞めるように奴らの環境を地獄に変え、社会的に抹殺するのだ。守るべきものがなくなり、誰からも理解されなくなった時、あの生意気な男の魂も、抵抗する気力さえ失うだろう」


部下の死神たちから、低く不気味な忍び笑いが漏れる。

彼らの目に、幼い子供の命を奪うことへの躊躇など微塵もない。


〇シーン2 閻魔庁・玉座の間(冥府の最深部・昼)

冥府の最深部に位置する閻魔庁。

巨大な水晶の柱が林立し、壁一面に無数のモニターが浮かぶ、宇宙の因果を一手に管理する広大な空間。

その中央、黒曜石で作られた巨大な玉座に、深く身を沈める閻魔大王の姿がある。

大王の眉間には、深い皺が刻まれている。

彼の視線の先にある「浄玻璃じょうはりの鏡」には、ヤミたちが画策する陰湿な計画の全貌、そして地上で無邪気に遊ぶカイとソラの姿が交互に映し出されている。

閻魔大王が、重々しい大きなため息をつく。


閻魔大王

「……やり方が汚すぎる。エリートの皮を被った、ただの悪趣味な狩人どもめ」


閻魔大王は忌ま忌ましげに吐き捨てる。

彼が危惧していたのは、ヤミ率いるエリート死神たちの暴走だった。

彼らの行動は、もはや「冥府の秩序維持」という本来の大義名分を逸脱しつつある。


閻魔大王

「魂を狩るのに、心を殺す必要などない。奴らは、黒き学び舎で一体何を学んでいるのだ……。いや、あれこそが学び舎の教えそのものか。強さのみを求め、情や優しさを徹底的に排除した結果、生まれたのは秩序を守るための道具ではなく、力の行使に酔いしれる怪物の群れだったというわけだ」


大王は玉座の肘掛けを強く叩く。

このままでは、カイとソラは本格的に覚醒する前に心を壊されてしまう。

それは冥府のシステムにとっても大きな損失であり、何より、かつて天使養成校で共に学んだ旧友に対する大王自身の良心が許さなかった。

だが、大王自らが直接介入し、ヤミたちを罰すれば、独立権限を持つ死神組織との全面対決は避けられない。


閻魔大王

「……もっと、静かに。そして奴らの意表を突くやり方で、あの子たちを守らねばならん。力で対抗すれば、ヤミたちはさらに過激になるだろう。必要なのは、戦力ではない。傷ついた子供たちの心に寄り添い、孤独を埋めることができる、絶対的な味方だ」


大王は顎を撫でながら思案に暮れる。

効率と秩序を最優先する冷酷な冥府に、そんな「無駄」な感情を持つ者がいるだろうか。

その時、ふと、ある男の顔が閻魔大王の脳裏をよぎる。

エリート街道から外れ、誰も見向きもしない最下層で埃を被って生きている、一人の変わり者の顔。


閻魔大王

「……そうだ。あそこになら、適任者がいたはずだ。奴らエリートとは真逆の……『落ちこぼれ』がな」


閻魔大王の口元に、悪戯っ子のようなニヤリとした笑みが浮かぶ。

彼は傍らに控える赤鬼に向かって指示を出す。


閻魔大王

「おい、直ちに使いを出せ。遺失物管理倉庫のシジマを、ここへ呼べ!」


〇シーン3 遺失物管理倉庫(冥府の最下層)

冥府の最下層。

薄暗く、どこかカビ臭い広大な倉庫内。

死者たちが生前に遺した「未練」や「執着」が、物体となって流れ着く吹き溜まり。

王の冠、片方だけの靴、赤子の玩具、書きかけの手紙など、ありとあらゆるガラクタが果てしなく続く棚に山積みになっている。

その片隅で、一人の細身の死神・シジマが脚立に乗り、黙々と棚の整理をしている。

黒い死神の衣をまとっているが、背中は心なしか丸まっており、威圧感は全くない。

シジマが、棚の奥から落ちそうになっていた古い懐中時計をそっと手に取る。

彼が懐中時計の表面の汚れを指で拭った瞬間、時計に込められた持ち主の記憶が、温かい光となってシジマの中に流れ込んでくる。

映像のフラッシュバック:娘の結婚式で笑顔を見せる父親、渡せなかった時計を握りしめて涙を流す姿。


シジマ

「……ああ、これは娘の結婚祝いに贈るはずだった時計か。渡せぬまま死んでしまったのか……。さぞかし、無念だったろうな」


シジマの瞳に、深い哀れみと同情の色が浮かぶ。

彼は時計を丁寧にクロスで磨き、元の場所へとそっと戻す。

ここにあるのは、学び舎が否定し続けた「愛」や「想い」の欠片。

シジマは、誰にも知られず、それらの想いに寄り添うことに、自分だけの静かな意義を見出していた。

突然、倉庫の入り口から野太い声が響き渡る。


赤鬼

「――シジマー! 死神番号九百八、シジマはおるか!」


その声に驚いたシジマが、バランスを崩して脚立から落ちそうになる。

ドタバタと慌てて体勢を立て直すシジマ。


シジマ

「げっ……」


入り口に立つ閻魔大王直属の赤鬼を見て、シジマは露骨に嫌な顔をする。

本庁のエリート役人がここに来るなど、ろくな用事ではない。リストラ通告か、さらに劣悪な部署への左遷しか考えられない。


赤鬼

「大王様が、貴様を御召しである! 直ちに閻魔庁へ参上せよ!」


シジマ

「はぁ? 俺を? ゴミ係の俺を、なぜ大王様が……」


シジマは耳を疑いながらも、渋々といった様子で重い腰を上げる。


〇シーン4 閻魔庁・玉座の間

千年ぶりに足を踏み入れた玉座の間の圧倒的な威圧感に、シジマは借りてきた猫のように完全に縮こまっている。

玉座に座る閻魔大王は、値踏みするような鋭い目で、シジマを頭の先から足の先までじっくりと眺めている。


閻魔大王

「……久しいな、シジマよ。息災であったか」


シジマ

「は、はい……! 大王様におかれましても、御健勝のことと、心よりお慶び申し上げます……!」


シジマが深々と、過剰なほどに頭を下げる。


閻魔大王

「堅苦しい挨拶はよい。本題に入る。そなたに、地上へ行ってもらう。ある二人の子供の護衛だ」


シジマが、ぽかんと口を開けたまま固まる。

地上。そして護衛。どちらも彼にとって縁遠い言葉だ。


シジマ

「お、恐れながら、大王様。護衛任務など、それはヤミ様が率いるエリート部隊の管轄では……? なぜ、私のような者が」


閻魔大王

「そのエリート共が、度を超して遊んでおるのだ。奴らは子供たちの心を陰湿な方法で壊そうとしている。だから、そなたに行くよう命じているのだ」


シジマ

「し、しかし! 私のようなDランクの落ちこぼれに、あのヤミ様と渡り合えと仰るのですか!? 到底、無理な話でございます! 瞬殺されます! 跡形もなく消し飛ばされます!」


シジマは両手をバタバタと振って必死に抗議する。

そもそも生々しい生命力が渦巻く地上は、死神にとって息苦しく、不快極まりない場所なのだ。


閻魔大王

「だからこそ、そなたなのだ」


大王の瞳が、鋭い光を放ってシジマを射抜く。


閻魔大王

「奴らは強すぎる。強すぎるが故に、力で全てをねじ伏せることしか知らん。魂の機微も、守るべきものの脆さも理解できん。だが、シジマよ。そなたには、奴らが不純物として捨て去ったものが、まだ残っておるだろう」


閻魔大王が玉座から身を乗り出す。


閻魔大王

「その『優しさ』が、今度の任務には必要なのだ。力で対抗するのではない。奴らの悪意から、ただ、二人の子供の『心』を守ってやればよいのだ。寄り添い、孤独を埋める存在としてな」


シジマは言葉を失う。

自分が落ちこぼれと蔑まれる原因となった「弱さ」。それを、この冥府の頂点に立つ王が「必要だ」と肯定している。

物理的な盾になるのではなく、心を守る。それならば、遺失物倉庫で想いに寄り添い続けた自分にもできるかもしれない。


シジマ

「……はあ。まあ、そういうことなら……。承知いたしました。微力ながら、尽力いたします」


シジマが頭を掻きながら、照れ隠しのように答える。


閻魔大王

「うむ。話が早くて助かる」


満足げに頷いた大王は、どこか楽しそうに口元を緩める。


シジマ

「して、大王様。地上では、どのような姿で活動すればよろしいので? やはり、目立たぬ人間の姿に化けて……」


閻魔大王

「ならぬ。人間では目立ちすぎるし、死神の特有の波動を隠しきれん。ヤミたちに即座に感づかれるだろう」


シジマ

「では、どうやって護衛を?」


閻魔大王

「案ずるな。そなたに最適な、完璧な擬態を用意してある」


大王がニヤリと笑い、玉座から軽く指を振るう。

その瞬間、玉座の間を満たす強力な術式が発動し、シジマの体を眩い光が包み込む。


シジマ

「ぐっ……ぐわあああっ!?」


シジマの骨がきしみ、視界が急激に歪む。

体がみるみるうちに縮んでいく感覚。

意識が遠のき、再び目を開けた時、視線が恐ろしく低くなっていることに気づく。

大理石の床が目の前にある。

シジマが自分の手を見ようと持ち上げると、そこに現れたのは、黒い毛に覆われた、小さな肉球のついた前足だった。


シジマ

「なっ……!? こ、これは……!?」


シジマが慌てて傍らの水晶の柱に自分の姿を映す。

そこには、つぶらな瞳、くるりと巻いた尻尾、短く愛らしい四肢を持った、紛れもない黒い豆柴の姿があった。


シジマ

「わんっ!?」


シジマの魂の叫びは、現実の世界では実に情けなく愛らしい鳴き声となって響き渡るだけだった。


シジマのモノローグ

(なっ!? 閻魔大王様あああ! いくらなんでも、犬は酷すぎますぞおおお! 私の尊厳はどうなるのですか!)


閻魔大王

「フハハハハ! 傑作だ! いや、可愛いではないか! それなら誰からも警戒されんし、子供の懐に入るにはうってつけだ」


大王は腹を抱えて大笑いしている。

シジマは、屈辱に打ち震えながら尻尾を丸める。


シジマのモノローグ

(最悪だ……。こんな姿でどうやって戦えというのだ……)


閻魔大王

「まあ、そう拗ねるな。不憫に免じて、一つだけ面白い能力を授けてやろう」


大王が真顔に戻り、指を鳴らす。

シジマの額に、淡い光の紋章が一瞬だけ浮かび上がる。


閻魔大王

「三分間だけ、別のものに自在に変身できる力をな。いざという時の切り札にせよ。ただし、三分を過ぎれば強制的にこの犬の姿に戻る。使いどころを誤るなよ?」


シジマのモノローグ

(三分限定の変身能力? ウルトラなヒーローじゃあるまいし……!)


閻魔大王

「では、頼んだぞ! カイとソラを、導いてやれ!」


大王はそう言うが早いか、シジマ(豆柴)の首根っこをひょいとつまみ上げると、足元に開いた青白く光る地上の転送陣へと、ぽいと放り込んだ。


シジマ

「キャンッ!」


シジマのモノローグ

(あ、ちょっ――待ってくれえええ!)


シジマの悲鳴は、次元の彼方へと吸い込まれて消えていった。


〇シーン5 地上の路地裏(夜・雨)

冷たい秋雨が激しく降りしきる、薄暗い路地裏。

水たまりの中に、ドサリと何かが上空から落ちてくる。

泥水が跳ね上がる。


シジマのモノローグ

(うぅ……腰が……いや、犬に腰はあるのか?)


泥水にまみれた黒い豆柴シジマが、よろよろと震える足で立ち上がる。

全身の毛が雨に濡れそぼり、寒さが骨身に染みる。


シジマのモノローグ

(あのクソ上司め、覚えていろ……。こんな雨の中に放り出すなんて、動物虐待だぞ……)


シジマは心の中で悪態をつきながら、雨宿りできる場所を探す。


シジマ

「キャン……クゥン……」


口から出るのは、やはり情けない鳴き声だけだ。

これからどうすればいいのか。護衛対象の双子を探さねばならないが、手掛かりは何もない。

その上、この小さな犬の姿だ。野犬狩りにでも遭えば一巻の終わりである。

シジマは途方に暮れ、古びたトタン屋根の軒下を見つけて、そこで小さくうずくまった。

物理的な孤独と心細さが、容赦なく彼の心を襲う。


シジマのモノローグ

(腹が減った……。寒い……。千年間の倉庫暮らしの方が、まだマシだったかもしれない……)


〇シーン6 同・路地裏

降り続く雨音。

その中に混じって、パチャパチャという軽快な足音が近づいてくる。

シジマが耳をピクッと動かす。


ソラ

「あ、カイ、見て。わんちゃんだ……」


頭上から、鈴を転がしたような少女の声が降ってくる。

シジマが弱々しく顔を上げると、一つの赤い傘の下に、レインコートを着た少年と少女が立っていた。

シジマの鼻腔が、彼らの魂の気配を捉える。


シジマのモノローグ

(……間違いない。この波動……。あの、千年の地獄を耐えた男と、奪衣婆のソトだ)


少女、ソラが傘を傾け、シジマの前にそっとしゃがみこむ。

その瞳には、野良犬に対する警戒心よりも、純粋な哀れみと優しさが浮かんでいる。

最近、彼女の周囲の人間たちから向けられることのなかった、暖かい眼差しだった。


ソラ

「可哀想に……。びしょ濡れじゃない。お腹も空いてるのかな」


死神たちの陰湿な攻撃によって、学校でも孤立し始めているはずの彼女。

傷つき、ささくれ立っているはずの心が、自分よりもか弱く見える存在に対して、無防備なほどの優しさを見せている。

隣に立つ少年、カイは、傘の柄を握りしめながら、ただ静かにシジマを見つめていた。

その瞳は、十歳の子供とは思えないほど深く、全てを見通すかのように澄み切っている。


シジマのモノローグ

(……普通の子供ではない。この少年……魂の格が桁違いだ。俺の中身がただの犬ではないことを、見抜いているのか?)


千年の地獄を耐え抜いた魂の輝きの片鱗を、シジマは垣間見た気がして、思わず身をすくめる。

ソラは、泥だらけのシジマを、何の躊躇もなく両手でそっと抱き上げた。


ソラ

「冷たい……。震えてるよ」


少女の小さな胸の体温が、冷え切ったシジマの体を包み込む。


シジマのモノローグ

(……っ! 温かい。数千年ぶりに触れる、他者の温もり。これは、遺失物倉庫で触れていた記憶の中の温もりとは違う。今、確かにここにある、生きた命の熱だ……)


ソラ

「うちに連れて帰ろうよ、カイ。お父さんとお母さん、怒るかな……」


不安げに見上げる姉に、カイは力強く頷いた。


カイ

「大丈夫だよ。僕が説得する。それに……」


カイが手を伸ばし、シジマの濡れた頭をそっと撫でる。

その手もまた、驚くほど温かかった。


カイ

「この子は、ただの犬じゃない気がするんだ。……僕たちと、同じ匂いがする」


ソラ

「同じ匂い?」


カイ

「うん。……独りぼっちの匂いが」


その言葉に、シジマの胸の奥がギュッと締め付けられる。


シジマのモノローグ

(独りぼっち……。そうだ、俺たちは皆、孤独だった。地獄を知る男、感情を殺した女、そして落ちこぼれの死神。はぐれ者たちが、今、この雨の中で出会ったのだ)


シジマは、照れ隠しのように目を逸らしながら、心の中で呟く。


シジマのモノローグ

(……まあ、これも任務だ。仕方ない。しばらくは、こいつらに付き合ってやるか)


シジマは、ソラの腕の中で小さく鳴いた。


シジマ

「ワン」


シジマのモノローグ

(よろしくな、相棒)


雨上がりの空。分厚い雲の切れ間から、微かな夕日が差し込み始めている。

赤い傘をさしたカイと、犬を抱きかかえたソラが、並んで家路につく。

水たまりに、三つの影が映っている。


〇シーン7 高橋家・玄関(夜)

カイとソラが、シジマを抱えて玄関のドアを開ける。

タオルでぐるぐる巻きにされたシジマ。


ソラ

「お父さん、お母さん! あのね、お願いがあるの!」


リビングから、両親が驚いた顔で出てくる。


「まあ、どうしたのその犬! 泥だらけじゃない!」


「どこで拾ってきたんだ? 勝手に連れてきちゃダメだろ」


カイが一歩前に出る。


カイ

「雨の中で震えてたんだ。このままじゃ死んじゃう。……僕がちゃんと世話をするから、この家で飼わせてほしい」


両親は顔を見合わせる。最近の子供たちの孤立した様子を気にかけていた両親は、ため息をつきながらも微笑む。


「……仕方ないな。命を助けたんだ。最後まで責任を持つんだぞ」


ソラ

「やったー! ありがとう、お父さん!」


ソラがシジマを高く掲げる。


ソラ

「この子の名前、どうしようか? 黒いから……『クロ』はどう?」


カイ

「クロ……。うん、いい名前だね」


シジマはタオルの中でジタバタともがく。


シジマのモノローグ

(安直すぎるだろ! 俺にはシジマという立派な名が……まあいい、クロで我慢してやる)


シジマ

「ワン!」


〇シーン8 高橋家・カイとソラの部屋(夜)

電気を消した部屋。

窓から月の光が差し込んでいる。

カイとソラはそれぞれのベッドで寝息を立てている。

部屋の隅に置かれたクッションの上で、クロ(シジマ)は丸くなっている。


シジマのモノローグ

(ヤミたちの気配はない。結界も張った。今夜は大丈夫だろう)


クロが薄く目を開け、二人の寝顔を見つめる。


シジマのモノローグ

(こんな小さな子供たちが、あんな恐ろしい死神たちに狙われているのか……。閻魔大王様、あなたの言う通り、俺には戦う力はないかもしれない。だが、この温かい寝顔を、理不尽な悪意から守る盾くらいには、なれるかもしれない)


クロは目を閉じ、再び眠りにつく。

外では、風が木々を揺らす音が静かに響いている。


〇シーン9 地上の街・通学路(数年後・朝)

季節は春。桜の花びらが舞う通学路。

十歳に成長したカイとソラが、ランドセルを背負って歩いている。

二人の足元には、少し大きくなった黒い豆柴のクロが、軽快な足取りで付き従っている。


ソラ

「クロ、行くよ!」


カイ

「もう、ソラ。クロがびっくりしてるじゃないか」


二人の表情は明るいが、どこか周囲を警戒するような鋭さが宿っている。

数軒隣の家の扉が開き、幼なじみの少女・相沢ひかりが飛び出してくる。


ひかり

「あ、カイくん! ソラちゃん! クロ!」


ソラ

「おはよう、ひかり!」


カイ

「おはよう」


クロ

「わん!」


四人は並んで通学路を歩く。

ありふれた朝の光景。

だが、クロの鼻がヒクヒクと動く。


シジマのモノローグ

(……匂うな。すれ違う主婦たちの、ひそひそ話。他の児童たちが向ける、忌避の視線)


すれ違う主婦が、カイたちを見てヒソヒソと話す。


主婦A

「あの子たち……最近、変な噂があるわよね」


主婦B

「関わらない方がいいわよ。何か不吉なものを引き寄せるみたいだから」


空気中に、粘つくような「拒絶」の気配が蔓延し始めている。


シジマのモノローグ

(物理的な攻撃を諦めたヤミたちが、いよいよ精神的な包囲網を敷き始めたか。……始まったな)


クロは低く唸り声を上げ、カイとソラを守るように一歩前に出る。

カラスが不吉な鳴き声を上げて飛び去っていく。

カイが、鋭い視線で空を見上げる。

X(Twitter)でも連載しています。

https://x.com/TakumiFuji2025

魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。

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