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【脚本】真ネザーワールド リヴァイヴ(冥界蘇生)~神々の黄昏と陽だまりの詩~  作者: たくみふじ


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第十二話 黎明の天秤と陽だまりの詩㈡

千年の地獄を耐え抜いた魂が、神々に抗い『陽だまり』の日常を守る!

〇シーン7 大学のキャンパス(二年後・春)

あれから、二年という月日が流れた。

季節は巡り、また春が訪れていた。

大学の正門へと続く桜並木は、満開の花びらを散らし、アスファルトの上に薄紅色の絨毯を敷き詰めている。

その上を、黒いアカデミックガウンに身を包んだ卒業生たちが、晴れやかな笑顔で歩いていく。

ある者は友と肩を組み、ある者は花束を抱え、ある者は涙を拭いながら。

その中に、カイとソラ、そしてひかりの姿もあった。


カイ

「……終わったね、学生生活」


カイは、手元の卒業証書を見つめた。

筒に入ったそれは、物理的にはただの紙切れ一枚かもしれない。

だが、カイにとっては、かつて振るったどんな神具よりも重く、そして尊いものに感じられた。

あの日。時を巻き戻し、神々と戦い、世界を修正したあの日から、彼らは「ただの学生」として生きることを選んだ。

レポートの締め切りに追われ、単位に一喜一憂し、学食で安い定食を食べ、居酒屋でくだらない話をして笑い合う。

そんな、あくびが出るほど平和で、退屈な日々。

神の視点から見れば「無駄」に見えるかもしれないその時間こそが、彼らが命を懸けて守り抜いた「戦利品」だったのだ。


ソラ

「あーあ! やっと終わった! 卒論、マジで地獄だったー!」


隣でソラが豪快に伸びをする。

彼女のガウンは少し着崩れていて、角帽も斜めに傾いているのがいかにも彼女らしい。


ソラ

「あのゼミの教授、絶対性格悪いよ。私の論文の『念動力の物理的考察』に対して、『空想科学としては面白いが』って赤ペン入れまくるんだもん。本物見せてやろうかと思ったわ」


ひかり

「こらこら。地獄の番人が『地獄』なんて言わないの。……でも、ソラちゃん、よく頑張ったね。一時は留年するかと思ったけど」


ひかりがクスクスと笑いながら、ソラの角帽を直してやる。

彼女は首席での卒業だ。その胸元には、優秀な学生に贈られる金色の徽章が輝いている。


ソラ

「うぅ……ひかりのスパルタ指導のおかげだよぉ。徹夜でデータ整理させられた時は、スサノオと戦ってる時よりしんどかったかも」


ひかり

「ふふっ。でも、カイくんもひかりも、みんなで卒業できてよかった」


カイが微笑むと、ソラとひかりも顔を見合わせ、満面の笑みを返した。


ソラ・ひかり

「カイ(くん)も、おめでとう!」


ふと、カイは立ち止まり、空を見上げた。

雲ひとつない、抜けるような青空。

二年前、あそこに刻まれていた「次元の亀裂」は、もうどこにもない。

黒い泥のようなカオスも、威圧的な神々の気配も、きれいさっぱり消え失せている。

世界は完全に修復されたのだ。

だが、カイの魂の奥底には、まだ微かに「虚無」の感覚が残っている。

それはもう暴走することはないが、彼が「普通」ではないことの証しとして、静かに眠っていた。

彼は、その感覚を嫌だとは思わなかった。

それは、彼が戦い抜いた証しであり、これからも大切な人を守るための「力」なのだから。


クロ

「……ワン!」


足元で、聞き慣れた鳴き声がした。

黒い紋付袴(ひかりの手作りだ)を着せられた豆柴、クロが、尻尾を振って待っている。


カイ

「おっと、ごめんごめん。待ちくたびれたか、クロ」


カイがしゃがみ込み、クロの頭を撫でる。


クロのモノローグ

(……やれやれ。あんなヒラヒラした服を着て、よく恥ずかしくないものだ。俺のこの袴姿の方が、よほど凛々しいだろう?)


クロの心の声が、カイの脳内に直接響く。

神々は去ったが、彼らの「異能」が完全に消えたわけではない。

カイの「虚無と創造」、ソラの「念動力」、クロの「変身能力」。

それらは以前より出力こそ落ちたものの、彼らの魂の一部として定着していた。

ただ、それを使う機会がなくなっただけだ。平和ゆえに。


カイ

「さあ、行こうか。……僕たちの、新しい『城』へ」


カイが立ち上がる。

三人と一匹は、桜舞い散る思い出のキャンパスに背を向け、新たな未来へと歩き出した。


〇シーン8 陽だまり探偵事務所(昼)

街の喧騒から少し離れた、静かな路地裏。

かつては古書店だったという、蔦の絡まる赤レンガ造りの三階建てビル。

カイたちは卒業前の半年間、アルバイトをして資金を貯め、この物件を借り受けた。

自分たちで壁紙を張り替え、家具を運び込み、少しずつ作り上げてきた場所だ。

その一階のテナントに、真新しい木製の看板が掲げられていた。

『陽だまり探偵事務所』〜失せ物探しから心霊相談まで。あなたの日常、守ります〜


カランコロン♪

アンティーク調のドアベルの音が軽やかに響き、カイたちが中へと入る。

室内は午後の日差しがたっぷりと降り注ぎ、温かいオレンジ色に染まっていた。

磨き上げられたフローリングの床。

カイとソラが向かい合うように配置された二つの大きなデスク。

窓際には、ひかり専用のパソコンスペースと、来客用の座り心地の良さそうな革張りのソファ。

壁一面の本棚には、古今東西のミステリー小説とオカルト関連の資料、そして大学時代の思い出の品々がぎっしりと並んでいる。

そして部屋の隅には、クロ専用のふかふかのベッドと、高い位置から室内を見渡せる「ドッグタワー(特注品)」が設置されていた。


ソラ

「うん、いい感じ!」


ソラがドカッとソファに座り込み、スプリングの感触を確かめるように跳ねる。


ソラ

「ここが、今日から私たちの職場かぁ。……なんか、実感湧かないね。学生気分が抜けないっていうか」


ひかり

「そう? 私はもう、やる気満々だよ」


ひかりが奥の給湯室から、淹れたてのコーヒーと手作りのクッキーを載せたトレイを持って現れた。

香ばしい珈琲の香りが事務所内に広がる。


ひかり

「経理と情報収集は任せて。……それに、依頼の予約も、もう入ってるし」


カイ

「えっ、もう!?」


カイが驚いて振り返る。

まだ看板を掛けてから数時間だぞ。


ひかり

「ふふっ。ネットの口コミよ。ソラちゃんがSNSで『心霊現象バスターズ開業!』って宣伝してたでしょ? それに、『以前、大学の集団催眠事件を解決した学生たちが事務所を開いたらしい』って、都市伝説みたいに噂になってるの」


ひかりがタブレットの画面を見せる。

そこには尾ひれのついた噂話と共に、期待を寄せるコメントがいくつも並んでいた。


カイ

「依頼内容は?」


カイが尋ねると、ひかりは少し困ったように、でも嬉しそうに笑った。


ひかり

「『毎晩、亡くなったおばあちゃんが枕元に立つので、話を聞いてあげてほしい』……だって。依頼人は、小学生の男の子」


カイ

「……なるほど。僕たちの専門分野だな」


カイは苦笑した。

神々との戦いは終わったが、この世から「不思議」が消えたわけではない。

霊的な悩み、不可解な現象、あるいは人知を超えたトラブル。

警察や科学では解決できない「隙間」の出来事は、いつの時代もなくならない。

そうした「小さな非日常」を解決し、人々の平穏な日常を守る。

それが、カイたちが選んだ新しい生き方だった。


ソラ

「よし! じゃあ、早速仕事始めといこうか!」


ソラがクッキーを齧りながら立ち上がる。


ソラ

「所長! 指示を!」


カイ

「所長って……僕か?」


カイが目を丸くする。


ソラ

「当たり前でしょ。言い出しっぺなんだから。それに、一番偉そうな席に座ってるし」


クロ

「わん」


クロのモノローグ

(異議なし。ただし、給料は高い缶詰で頼む。あと散歩は一日二回だ)


クロも尻尾で床をパタンパタンと叩いて同意を示す。

カイは、デスクの奥にある「所長席」に座り直してみた。

少し背伸びをしたような、でも妙にしっくりくる感覚。

彼は、窓の外を見た。

ガラス越しに見える街の風景は、今日も平和に動いている。

かつて地獄で千年を過ごし、「虚無」を抱えていた少年は、今、ここにいる。

仲間たちに囲まれ、コーヒーの香りに包まれ、誰かの役に立つために働こうとしている。

カイは自分の手のひらを見つめた。

そこにはもう、世界を書き換えるような強大な「言霊」の力はない。

でも、この手は温かい。

ひかりの手を握り、ソラの頭を撫で、クロを抱きしめることができる。

それで十分だ。

いや、それこそが、最強の奇跡なのだ。


コンコン。

事務所のドアが控えめにノックされた。

最初の依頼人だ。

カイは居住まいを正し、二人のパートナーと一匹の相棒を見た。

ソラがニカッと笑って親指を立てる。

ひかりが優しく微笑んで頷く。

クロが頼もしく「わん!」と吠える。

カイは深く息を吸い込み、そして、一番良い笑顔で言った。


カイ

「はい、どうぞ。……ようこそ、『陽だまり探偵事務所』へ」


ドアを開けて入ってきたのは、ランドセルを背負った小さな男の子だった。

不安そうに室内を見回し、カイたちの顔を見て、少しだけ安心したように息を吐く。


男の子

「……あの、ここ、おばけのこと、相談できるって聞いたんですけど……」


男の子の声は震えていた。

カイは席を立ち、男の子の前に膝をついて目線を合わせた。

その仕草はとても自然で、優しかった。


カイ

「ああ、大丈夫だよ。僕たちは、そういう専門家だからね」


カイが手招きすると、ひかりが温かいココアを持ってくる。


ソラ

「怖くないよー、お姉ちゃんたちがやっつけてあげるからね!」


ソラが頼もしくガッツポーズをする。

クロが男の子の足元にすり寄り、クゥンと鳴いてリラックスさせる。


カイ

「それで、どんなことがあったんだい?」


カイが尋ねると、男の子はポツリポツリと語り始めた。

毎晩亡くなったおばあちゃんが枕元に立って、何かを言いたそうにしていること。

怖くて布団を被ってしまうけれど、本当はおばあちゃんが大好きだったこと。

何か伝え忘れたことがあるんじゃないかと思っていること。

話を聞き終えたカイは、ソラを見た。

ソラはじっと男の子を見つめていた。

彼女の「千里眼」と「霊視」の力は今も健在だ。

彼女は小さく頷いた。


ソラのモノローグ

(……見えるよ。悪い霊じゃない。この子の背中に、優しそうなお婆ちゃんが憑いてる。……何か、探してるみたい)


カイは再び男の子に向き直った。


カイ

「分かった。君のおばあちゃんは、君を怖がらせたいわけじゃない。……何か、探し物をしているみたいだね」


男の子

「探し物……?」


カイ

「うん。一緒に探そう。僕たちが手伝うよ」


カイが立ち上がると、事務所の空気が一変した。

それは「仕事」の空気。

世界を救うような大げさな戦いではないけれど、一人の少年の心を救うための、大切なミッション。


カイ

「ソラ、霊視で場所の特定を頼む」


ソラ

「了解! お婆ちゃんの想念を辿るね」


カイ

「ひかり、おばあちゃんの生前の行動記録と、周辺の地図を照合してくれ」


ひかり

「もうやってるわ。……おばあちゃん、亡くなる直前に、ある場所に頻繁に通っていたみたい」


カイ

「クロ、鼻で『想い』を追跡できるか?」


クロ

「わん!」


クロのモノローグ

(任せろ。懐かしい匂いがする)


四人は颯爽と事務所を飛び出した。

男の子の手を引いて。

夕暮れの街を、影を伸ばしながら歩く彼らの姿は、どこにでもいる若者たちのようで、しかしどこか不思議な輝きを帯びていた。


〇シーン9 神社の境内(夕方)

やがて彼らは、古い神社の境内にたどり着いた。

大きな銀杏の木の下。

ソラの指示で、クロが地面を掘り返す。

そこから出てきたのは、錆びたタイムカプセルだった。

中には、幼い頃の男の子と、若き日のおばあちゃんが一緒に写った写真と、下手な字で書かれた「おばあちゃん、だいすき」という手紙が入っていた。


男の子

「あ……これ……」


男の子が涙を流す。

その瞬間、男の子の背後にいたおばあちゃんの霊が穏やかに微笑み、光となって空へと昇っていった。

未練が晴れたのだ。

ただ、孫との思い出をもう一度確かめたかっただけなのだ。


カイ

「……よかったね」


カイが男の子の頭を撫でる。


カイ

「おばあちゃん、ありがとうって言ってたよ」


男の子は涙を拭って大きく頷いた。


男の子

「うん! ありがとう、探偵さん!」


〇シーン10 陽だまり探偵事務所(夜)

依頼人を送り届け事務所に戻った頃には、すっかり日が暮れていた。

心地よい疲労感が四人を包む。


ソラ

「ふあ〜、疲れたけど、いい仕事したね!」


ソラがソファにダイブする。


ひかり

「そうだね。……あの子の笑顔、素敵だった」


ひかりが満足そうに微笑む。


クロ

「わん」


クロのモノローグ

(今日の飯は格別になりそうだ)


クロも尻尾を振っている。

カイはコーヒーを淹れ直し、みんなに配った。

湯気が立ち上るカップを手に、彼は改めて思う。

世界は広い。神々が去ってもまだまだ知らないこと、解決すべきこと、守るべきものはたくさんある。

僕たちの力は、そのためにあるのだ。


ソラ

「ねえ、カイ」


ソラがコーヒーを啜りながら言った。


ソラ

「私たち、これからずっと、こうやって生きていくのかな?」


カイ

「……そうだね」


カイは頷いた。


カイ

「大変なこともあるだろうし、危険な目に遭うこともあるかもしれない。でも……」


カイは、二人と一匹を見渡した。

千年の時を超えて、ようやく手に入れた、陽だまりのような場所。


カイ

「みんなと一緒なら、悪くない未来だと思うよ」


その言葉に、三人は顔を見合わせ、そして声を上げて笑った。

その笑い声は、夜の街に溶け込み、優しく響き渡った。


彼らの物語は、終わらない。

陽だまりの中で、形を変えて、優しく、賑やかに、いつまでも続いていく。

これは、地獄から帰ってきた少年と、彼を愛した仲間たちが紡ぐ、愛と絆の、終わりのない詩。

窓の外では、春の月が優しく彼らを照らしていた。

まるで、遠い天界から誰かが微笑んでいるかのように。

X(Twitter)でも連載しています。

https://x.com/TakumiFuji2025

魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。

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