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【脚本】真ネザーワールド リヴァイヴ(冥界蘇生)~神々の黄昏と陽だまりの詩~  作者: たくみふじ


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第十話 逆転する因果と崩落する世界

千年の地獄を耐え抜いた魂が、神々に抗い『陽だまり』の日常を守る!

〇シーン1 本部棟・最上階(時計塔前)〜学長室への扉

重厚な両開きの扉が、ギギギギ……と耳障りな金属音を立ててゆっくりと開かれていく。

扉の隙間から溢れ出したのは、目が眩むほどの強烈な黄金の光と、凡人ならば肌が裂けるように感じるほどの圧倒的で禍々しい神気だった。

カイ、ソラ、ひかり、そしてクロは、その強烈な光と圧力に思わず目を細め、腕で顔を覆いながら一歩ずつ中へと足を踏み入れる。

扉の向こうは、もはや大学の学長室の風景ではなかった。

物理的な空間の概念が完全に拡張され、足元には透き通ったガラスのような不可視の床が広がり、頭上には無数の星々が瞬く、果てしなく広大な宇宙空間のような異界が広がっていた。

上下左右の感覚が狂う無重力のような空間。

遥か足元には、どこかの銀河の渦が青白く輝き、悠久の時を刻みながらゆっくりと回転している。

神の領域。

人間の身で踏み入ってはならない、絶対的な禁足地。

息を吸い込むことすら躊躇われるほどの濃密な霊的圧力が、四人の全身を容赦なく押し潰そうと迫ってくる。

カイはその圧力に耐えながら、真っ直ぐに前を見据えた。

その宇宙空間の中心、虚空に浮かぶ豪奢な黒曜石の玉座に、黒いスーツを着た鬼塚が、優雅に足を組んで座っていた。

いや、彼がカイたちを見下ろした瞬間、その姿は見る見るうちにおぞましく変貌していく。

窮屈なスーツが内側からのすさまじい圧力で弾け飛び、荒々しく禍々しい神の衣へと変わる。

整えられていた白髪交じりの髪は、燃え盛る炎のように逆立つ朱色の長髪へと変化し、身の丈は三メートルを超える巨躯へと膨張する。

素戔嗚尊。

破壊と混沌を司る荒ぶる神の、隠しきれない真の姿がそこにあった。

玉座に深く腰掛けたまま、スサノオは退屈そうに頬杖をつき、見下すような冷酷な瞳で四人を捉えた。


スサノオ

「よく来たな、矮小なる人の子らよ」


スサノオの声が、空気のないはずの真空の宇宙空間を震わせ、カイたちの鼓膜ではなく、直接脳髄に響き渡った。

その声には、物理的な質量すら感じさせるほどの重圧があった。


スサノオ

「我が精魂込めて作り上げたこの遊戯盤の最奥までたどり着いた、その執念に対する褒美だ。……本物の神の力の一端、その脆弱な身に深く刻んで逝くがよい。ここが、貴様ら愚かな人間どもの永遠の墓場となる」


〇シーン2 学長室(異界)・宇宙空間での対峙

カイは、恐怖で震えそうになる膝を強靭な意志の力で叱咤し、見えない床を踏みしめて一歩前に出た。

彼の背後には、傷だらけになりながらも決して戦意を失わないソラとクロ、そして蒼白な顔でタブレット端末を握りしめるひかりがいる。

カイは、スサノオの放つ圧倒的なプレッシャーに真っ向から対峙し、声を張り上げた。


カイ

「スサノオ……! 君の悪趣味な遊びは、もう終わりだ。今すぐこの空間を解除し、外で苦しんでいる生徒たちを解放しろ!」


スサノオ

「遊び、か」


スサノオは鼻で嘲笑うようにフッと息を吐いた。

その傲慢な態度は、カイたちの必死の抵抗を全く意に介していないことを示していた。


スサノオ

「破壊こそが、新たな再生の源だ。古い殻が壊れなければ、決して強くはなれん。俺はあの軟弱な学生どもに、真の『強さ』というものを教えてやったのだ。圧倒的な暴力と恐怖の前で、人間がいかに脆く、そしていかに容易く獣へと堕ちるかをな。感謝されこそすれ、恨まれる筋合いなど全くない」


会話は完全に平行線だった。

この荒ぶる神にとって、人間という存在は暇つぶしのための玩具に過ぎず、その苦しみや絶望は退屈を紛らわせるための極上のスパイスに過ぎないのだ。

他者の痛みを理解しようという欠片すら存在しない。


カイのモノローグ

「ダメだ。言葉は通じない。最初から分かっていたことだ。この男は、自分以外の全てを見下し、破壊することにしか興味がない。力でねじ伏せるしかないんだ」


カイの瞳の奥で、千年の地獄で培われた静かな怒りの炎が激しく燃え上がった。

彼は両拳を強く握りしめ、背後の仲間たちに低く鋭い合図を送った。


カイ

「……行くぞ」


〇シーン3 異界・戦闘開始

カイの合図と共に、四人が同時に動いた。


ソラ

「ハァッ!」


ソラが気合いの声を上げ、先陣を切って空へ飛び上がる。

彼女の周囲に浮遊していた無数の瓦礫、キャンパスからこの異空間に巻き込まれていたコンクリートの破片や鉄骨が、彼女の念動力によって一斉に空中に固定される。

次の瞬間、それらの瓦礫がライフル弾のような凄まじい速度で射出され、スサノオめがけて殺到する。

同時に、雷狼の姿へと変身したクロが、全身に金色の稲妻を激しく纏わせ、スサノオの視覚の死角から一直線に飛びかかる。

物理的な質量攻撃と、高圧縮されたエネルギー攻撃の同時多発。

人間離れした完璧な連携攻撃だった。

だが、玉座に座るスサノオは、その猛攻を前にして指一本動かそうとしなかった。

彼がただカッと目を見開いただけで、飛来する無数の瓦礫が空中で目に見えない障壁に衝突したかのように粉々に砕け散り、微細な砂となって虚空へと消え去った。

さらに、死角から迫っていたクロの巨体も、スサノオの周囲を取り巻く絶対的な神気の防壁に激突し、弾かれたように大きく吹き飛んだ。


クロ

「キャインッ!」


クロは空中で数回転しながら無様に吹き飛ばされ、見えない床に激しく叩きつけられて苦悶の声を上げる。


ソラ

「クロ!」


ソラが悲痛な叫び声を上げたその一瞬の隙を、スサノオは見逃さなかった。

スサノオが軽く手を振るうと、彼の手のひらから漆黒の衝撃波が放たれる。

それは音速を超え、空間を歪ませながらソラへと迫った。

ソラはとっさに全霊の念動力で分厚い障壁を展開したが、神の放つ圧倒的な圧力に耐えきれず、障壁ごと後方へと吹き飛ばされ、見えない壁に激突して崩れ落ちた。


ソラ

「うああっ……!」


スサノオ

「小賢しい。地を這う虫けらが、天空の神に易々と触れられるとでも思ったか。身の程を知れ」


スサノオが、忌ま忌ましげに冷笑しながら黒曜石の玉座からゆっくりと立ち上がった。

彼が右手を虚空に伸ばすと、そこに禍々しい三叉の矛、「天逆鉾」が黒い稲妻と共に召喚され、その手に握られた。

黒い雷を絶え間なく撒き散らすその切っ先は、見るだけで視神経を焼き切り、魂を恐怖で縛り付けるほどの強烈な呪いを放っていた。


スサノオ

「さて、前座は終わりだ。真打ちは貴様だな、カイ」


スサノオが天逆鉾を頭上に高く掲げ、一気に振り下ろす。

空間そのものが真っ二つに切り裂かれ、その裂け目から赤黒く濁った神の雷が、カイの頭上めがけて滝のように降り注ぐ。

カイは一歩も退かず、右手を天に向けて高く掲げた。


カイ

「消えろ!」


カイの魂の奥底から、言霊の力が発動する。

絶対的な「無」を定義する言葉が、物理法則を書き換える。

降り注ぐ赤黒い雷は、カイの掲げた手に触れる直前で、その存在意義とエネルギーを完全に失い、シュゥゥゥという音と共に霧散して消え去った。


スサノオ

「ほう。神の雷を言葉一つで消し去るか。面白い。だが、俺の力は雷だけではないぞ。これはどうだ?」


スサノオが狂暴な笑みを浮かべ、右足で虚空の床を激しく踏み鳴らした。

その瞬間、遥か足元で回転していた銀河の渦が、突如として逆回転を始めた。

空間の重力場が異常を来し、そこからブラックホールのような巨大な引力が発生した。

カイの体が、見えない巨大な手に上から押さえつけられたように、床に縫い付けられ、急激に重くなる。


カイ

「ぐっ……!」


カイは両手両膝をつき、歯を食いしばる。

全身の骨がきしみ、砕けそうな音を立てる。

内臓が完全に押しつぶされるような凄まじい圧迫感が彼を襲う。


スサノオ

「貴様の『言霊』は、現実の法則を書き換える厄介な力だ。だが、ここは俺が創り出した俺の領域だ。この空間の現実は、俺の意志が全てを定義する! 貴様のちっぽけな言葉で、神の意志を上書きできると思うな!」


スサノオの圧倒的な意志が、異空間の法則を次々と塗り替えていく。

重力は通常の十倍以上に跳ね上がり、呼吸するたびに肺を焼く毒ガスが空間に充満し、頭上で瞬いていた星々が鋭い氷の礫となってマシンガンのように降り注いでくる。

カイは完全に防戦一方だった。

毒ガスを浄化し、異常な重力を通常に戻し、降り注ぐ氷の礫を空中で溶かす。

言葉を紡ぎ、現実を書き換えても、書き換えたそばからスサノオが即座により強大な事象で上書きしてくる。

神の底知れない演算能力と、人間の脳の限界のある処理能力。

その絶望的なまでの差が、じわじわとカイの精神力を削り、彼を死の淵へと追い詰めていく。


〇シーン4 異界・ひかりの解析

後方で、重力に押しつぶされそうになりながらも、ひかりが必死に叫んだ。


ひかり

「カイくん! 耐えて! 今、この空間の構造を解析してる!」


彼女は這いつくばるような姿勢になりながらも、決してタブレット端末を手放さなかった。

割れた眼鏡の奥の瞳は、絶望の状況下にあっても知的な光を失っていない。

この神が支配する異常な異空間であっても、彼女のずば抜けた情報解析能力は死んでいないのだ。

画面上に流れる無数のデータと霊的な波形を読み解き、彼女はついに一つの真実にたどり着いた。


ひかり

「……わかったわ! この異常な空間の構造と、スサノオの無限の力の秘密が!」


ひかりの張り上げた声が、通信用のインカム越しにカイの耳に響く。


ひかり

「この異空間は、現実世界から完全に独立しているわけじゃないの。現実のキャンパス……特に、結界に閉じ込められた外で怯え、争っている五千人の生徒たちの『恐怖心』や『絶望』を、直接エネルギー源にして維持されているのよ! 彼らの負の精神と、この空間は太いパイプで完全にリンクしている。だからスサノオは、疲労することなく無尽蔵に神の力を使えるのよ!」


カイは重圧に耐えながら、奥歯を強く噛み締めた。


カイのモノローグ

「なんて悪趣味で、吐き気のするシステムだ。外の生徒たちを苦しめて絶望させればさせるほど、スサノオの力は無限に強くなる。僕たちが時間をかければかけるほど、状況は絶望的になっていくということか」


ひかり

「逆を言えば……そのリンクを物理的、あるいは霊的に断ち切れば、この空間は維持できなくなって崩壊する! リンクの最大のハブになっている中継点は、スサノオが座っているあの黒曜石の『玉座』よ! あそこを破壊すれば、外部からのエネルギー供給は完全に止まるわ!」


絶望的な暗闇の中に、一条の細い勝機が見えた。

だが、その玉座には現在、無敵の力を持つスサノオが堂々と鎮座している。

あそこへ近づき、玉座を破壊することは、文字通り自ら死地に飛び込むことを意味する。

それでも、やるしかなかった。それ以外に、この状況を打開する方法はない。


カイ

「……ソラ、クロ。……聞こえるか。一度だけだ。僕が命を懸けて最大のチャンスを作る」


カイは、血の滲む唇を袖で乱暴に拭い、尋常ではない重力に逆らって、ゆっくりと、しかし力強く立ち上がった。

その双眸が、太陽のような眩い金色に輝き始める。


カイ

「僕が全力の言霊で、奴の展開する『理』を全て相殺する。その一瞬の隙を突いて、玉座を破壊してくれ!」


ソラ

「……わかった! 任せて! 絶対に決める!」


ソラがフラフラと立ち上がり、両手に最後の念動力を集中させる。


クロ

「グルルルルッ! 命に代えても、必ず!」


クロも立ち上がり、牙から激しい火花を散らす。


〇シーン5 異界・決死の突撃とスサノオの罠

カイは、肺の奥深くまで空気を吸い込んだ。

自分の命を、魂を、千年の記憶を、全てこの一撃のために燃やし尽くす覚悟。

彼は、スサノオに向かって天地を揺るがすような大声で叫んだ。


カイ

「スサノオォォォッ!!」


カイの両手から、彼が持てるありったけの「言霊」の力が、黄金の奔流となって放たれる。

それは単なる言葉ではない。世界を構築する純粋な意味の塊だ。

ここは宇宙ではない。ただの大学の一室だ!

重力は正常だ。空気は清浄だ。降り注ぐ氷など存在しない!

お前は全能の神などではない。ただの傲慢な侵略者に過ぎない!

カイの強烈な意志が定義した「現実」が、スサノオの構築した「神域」と正面から激しく衝突する。

バチバチバチッ!

空間の至る所に巨大な亀裂が走り、星空の背景とコンクリートの壁が激しく明滅し、バグのように入れ替わり続ける。


スサノオ

「ぬうぅッ……! 人の身で、ここまで我が領域に干渉するか! 小僧、身の程を弁えろ!」


スサノオが、初めてその余裕の表情を崩し、顔をしかめた。

自身の絶対的な支配領域が、人間の強靭な意志によってみるみるうちに侵食されている。

その耐え難い不快感と、空間維持にかかる予想外の負荷に、一瞬、神の動きが完全に止まった。

その刹那。


ソラ

「いっけぇぇぇぇッ!!」


ソラが地面を蹴って跳んだ。

彼女は、自身の体そのものを弾丸とし、残された全ての念動力で自らを限界まで加速させた。

同時に、クロが口から極太の雷撃の束を放つ。

二つの渾身の攻撃が、スサノオの肉体ではなく、その背後の「玉座」一点のみに集中して殺到する。

スサノオがその意図に気づき、天逆鉾で迎撃しようと腕を動かすが、カイの言霊の干渉がそれを許さない。


カイ

「させない! 動くな!」


カイは、スサノオの腕を、目に見えない幾重もの強固な鎖で縛り付けるように空間に「固定」した。

届く。あと数メートル。

ソラの拳が、そしてクロの雷撃が、玉座を粉砕しようとした、その時だった。


スサノオ

「……ククク。甘いな、カイ。あまりにも人間らしくて、反吐が出る」


スサノオが、口元を歪めて邪悪に嗤った。

その顔に浮かんだのは、追い詰められた焦りではなく、無知な獲物が自ら仕掛けた最悪の罠に綺麗にかかったことを見届けた狩人の、残酷極まりない笑みだった。


スサノオ

「貴様のその力、『言霊による現実創造』。……確かに厄介極まりない力だ。神の理にすら干渉するとはな。だが、貴様は一つ、致命的な勘違いをしている」


スサノオは、言霊の鎖で完全に拘束されたはずの腕を、いとも容易く、まるで見えない糸を引きちぎるようにして動かした。

そして、手にした天逆鉾を逆さに構え、刃を己の足元の虚空に深々と突き立てた。


スサノオ

「その強大な力は、貴様の強靭な『精神力』と、仲間を守るという『希望』を燃料にして成立している。ならば……その燃料の根源を絶ち切れば、貴様の力はあっけなく崩壊する。どうなるか、見せてやろう」


ズズズズズッ……!

空間が、異常な音を立てて歪んだ。

スサノオが矛を突き立てたのは、玉座の防御のためではなかった。

カイの背後、はるか後方。

最も安全な圏内にいて、懸命にサポートを続けていた、ひかりの足元に。

音もなく、全てを飲み込むような真っ黒な穴が、ぽっかりと開いたのだ。


〇シーン6 異界・ひかりの喪失とカイの絶望

ひかり

「えっ……?」


ひかりが足元の異変に気づき、小さな声を上げる間もなかった。

その真っ黒な穴から、泥のような闇で構成された無数の手が飛び出し、彼女の足首を、腕を、腰を、執拗に掴み取った。

それは、地獄の最下層で蠢く亡者の手であり、スサノオの純粋な悪意の具現化だった。


ひかり

「きゃあああああっ! いやっ!」


強烈な引きずり込む力で、ひかりの体が闇の中へと沈み込んでいく。


カイ

「ひかり!!」


カイが背後の異変に気づき、血の気が引いた顔で振り返り、必死に手を伸ばす。

ソラも、クロも、玉座への攻撃を急遽中断し、悲鳴を上げて振り返る。

だが、距離が遠すぎる。間に合わない。

ひかりの体は、腰まで、胸まで、泥沼に沈むように無慈悲な闇に飲み込まれていく。


ひかり

「カイくん! 助けて……!」


彼女が必死に伸ばした右手の指先が、全速力で駆けつけたカイの指先をかすめる。

届かない。あと数センチ。

その物理的な距離が、永遠の隔たりのように遠く感じられる。


カイ

「ひかりぃぃぃっ!!」


カイの喉が裂けるほどの絶叫が宇宙空間に響き渡る。

次の瞬間、ひかりの姿は、最後に涙を浮かべた笑顔を残して完全に闇の中へと飲み込まれ、ブラックホールの穴は音もなく閉じた。

そこには、ただ冷たい虚空が広がるだけで、誰もいなかった。

まるで最初から、相沢ひかりなどという少女はこの世界に存在しなかったかのように、一切の痕跡が消え去っていた。


カイ

「……あ……あ……」


カイの伸ばした手が、虚空を掴んだままピタリと止まる。

思考が、完全に停止した。

心臓が、激しく早鐘を打つのをやめ、氷のように冷たく凍りついていく。

守れなかった。またしても。

千年の地獄から戻り、一番大切に思っていた人を。

僕の心をこの世界に繋ぎ止めてくれていた、ただ一つの陽だまりを。


スサノオ

「そうだ、その顔だ。絶望しろ、カイ。その底なしの絶望こそが、俺の天逆鉾の極上の糧となるのだ!」


スサノオが狂気に満ちた声で高らかに叫び、天逆鉾を大きく振るう。

その三叉の穂先が、どす黒く禍々しい光を強烈に放った。

カイの全身から放たれていた、世界を修復しようとする黄金の「言霊の光」が、スサノオの鉾の力によって瞬時に反転させられた。

因果の完全なる逆転。

光は闇へ。創造の力は破壊の力へ。希望は深い絶望へ。

カイの強大な力が、彼自身の心を食い破りながら逆流し始めたのだ。


カイ

「あ……が……あ、あ、あああああああっ!!」


カイが、頭を両手で激しく抱え、虚空の床をのたうち回る。

自分の内側から堰を切ったように溢れ出す「虚無」の力が、主の理性を失い、完全な制御不能状態に陥り、恐ろしい暴走を始める。

それはもはや、何かを守るための秩序だった力ではない。

世界に存在する全てのものを喰らい尽くし、無に帰そうとする、飢えた怪物。

カイの小さな体から、漆黒の巨大な衝撃波が全方位に向けて球状に放たれた。


ソラ

「カイ! しっかりして! 私だよ!」


ソラが涙を流しながら駆け寄ろうとするが、暴走したカイの放つ拒絶の波動に弾き飛ばされる。


クロ

「グオッ……!」


クロもまた、衝撃波をまともに受けて吹き飛ばされ、雷狼への変身が強制的に解けて豆柴の姿に戻り、ピクリとも動かなくなった。


ソラ

「う……あ……カイ……」


ソラが、痛む体を引きずりながら床を這う。

弟に触れて正気に戻そうとするが、近づくことさえできない。

カイの周囲の空間そのものが、近づく端から「無」へと変換され、物理的に消滅しているからだ。


スサノオ

「見ろ、カイ。これが貴様の力の無様な末路だ」


スサノオが、玉座から見下ろしながら冷ややかに告げる。


スサノオ

「貴様の暴走した『虚無』は、この学内という箱庭だけでなく、外の現実世界へも際限なく溢れ出し、全てを飲み込む巨大なブラックホールとなるだろう。世界を滅ぼすのは、悪神である私ではない。……正義の味方、救世主気取りの、貴様自身だ」


〇シーン7 学長室崩壊〜世界の崩壊

バリバリバリッ!

学長室の虚空の壁が、天井の星空が、耳障りな音を立ててひび割れ、崩れ去っていく。

眼下に見えるキャンパスは、カイを中心とした巨大な黒い渦に飲み込まれようとしていた。

結界の中で逃げ惑い、争っていた学生たち。

彼らの悲鳴や怒号さえもが、黒い渦に触れた瞬間に途中でブツリと途切れ、完全な静寂へと変わっていく。

死んだのではない。存在そのものが宇宙の記録から消去されているのだ。

校舎が、街が、山が、空が、次々と黒く塗りつぶされ「無」に帰していく。

止まらない。誰にも止められない。

僕が、この世界を殺している。

ひかりを永遠に失ったこの世界に、存続する何の価値がある?

いっそ、全部、何もかも消えて無くなってしまえばいい。

そんな、カイの心の奥底に巣食う虚無の囁きが、暴走の速度をさらに加速させる。


カイ

「……あ……ああ……消えろ……全部……」


カイの瞳から、人間としての理性の光が完全に消え失せた。

白目がどす黒く染まり、金色の瞳孔だけが、感情のない機械のように虚ろに輝く。

完全に、心が砕け散り、死んだ。

それと同時に、この世界を維持していた最後の物理的な理が崩壊し、宇宙は、音もなく完全な暗転へと向かった。


〇シーン8 冥府・閻魔庁

舞台は変わり、冥府の最深部にある閻魔庁。

地上の様子を監視していた巨大な浄玻璃の鏡が、バジッという不吉な音と共に全体にひび割れ、粉々に砕け散った。

その破片の一つ一つに映し出されていた地上の崩壊の映像が、ザザザーという砂嵐のノイズに変わり、そして完全にブラックアウトする。


閻魔大王

「……終わったか」


閻魔大王は、巨大な玉座の肘掛けを、太い指の爪が食い込み砕けるほど強く握りしめた。

彼の目には、深い悲しみと、そして避けられなかった残酷な運命への静かな諦観が宿っていた。


閻魔大王

「カイよ……。そなたの人間らしい優しさが、最大の仇となったか。スサノオの悪意の深さは、そなたの想像を遥かに超えていたのだ」


ゴゴゴゴゴ……!

冥府全体が、激しい地震のように振動し始める。

地上の完全な崩壊は、因果の糸で繋がったこの冥府へも容赦なく波及し始めていた。

閻魔庁の分厚い石の天井が崩れ落ち、三途の川の流れが逆流して氾濫し、責め苦を受けていた罪人たちの魂がパニックに陥って蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。


赤鬼

「大王様! このままでは冥府のシステムそのものが完全に崩壊します! 避難を!」


側近の鬼たちが絶叫する。

だが、逃げ場などどこにもない。

宇宙そのものが、根底からシステムダウンを起こして消滅しようとしているのだから。


閻魔大王

「……慌てるな。だが、これで全てが終わりというわけではない」


閻魔は、崩れゆく玉座からゆっくりと立ち上がり、崩落する天井の隙間から、存在しないはずの天を仰いだ。

その視線は、遥か高み、次元の壁を超えた先にある清浄なる高天原、そしてそこにいるであろう「彼女」に向けられていた。


閻魔大王

「天照よ。……我らが交わした、最後の約束の時だ」


閻魔は、迫り来る闇の中で静かに目を閉じた。

彼にできる物理的なことは、もう何もない。

冥府の王としての強大な権能も、この宇宙規模の崩壊の前では無力に等しい。

あとは、宇宙の創造主たる彼女の、最後の、そして最も重い自己犠牲を伴う最大の決断に委ねるのみ。


閻魔大王

「頼む……。あの子たちに、もう一度だけ、やり直すための未来を与えてやってくれ」


冥府の闇が、上空から降りてきたカイの生み出した絶対的な「虚無」に飲み込まれていく。

地獄も、天界も、全てが消えゆく中、冥府の王の切実な祈りだけが、暗闇の中で微かな光となって最後まで残った。

X(Twitter)でも連載しています。

https://x.com/TakumiFuji2025

魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。

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