第4話:深層のライブラリーと、論理爆弾(ロジックボム)
「……この『味覚』というノイズ。我らは、こんな豊かな刺激を捨てて、一つになったのですね」
◇ヴィーダーラント王城・食堂
「……エーファ殿。口に合いますかな?」
国王ヴィルヘルム三世は、引きつった笑顔で尋ねた。
目の前に座る「少年の肋骨から生まれた美少女」は、一切の無駄がない完璧な所作でフォークを操っている。
「はい、陛下。極めて興味深い情報です」
エーファが「鴨のロースト」を一口、その小さな唇に運んだ瞬間。
彼女の脳内では、未曾有の暴動が発生していた。
『キターーー!! 脂質! タンパク質! 糖分の波状攻撃だ!』
『おい、その噛み締めた瞬間の弾力ログを早くこっちに回せ! 帯域を広げろ!』
『細胞がエネルギーを直接摂取する際のこの「熱」! ヒムの海には絶対になかった官能的ノイズだ!』
「……静かに、兄弟。食道が狭窄します」
エーファは内心で騒がしい「自分たち」を一喝する。
要するに、彼女にとっての食事は栄養補給ではない。この世界の物質を「味覚」というフィルターを通し、九十億人の観客へ4K画質を超える生々しさで共有する「命がけのライブ中継」なんだ。九十億人のサーバーが、初めて体験する「美味しい」というデータの重みにパンクしかけているんだね。
エーファの瞳が、データ過負荷でわずかに潤む。
(この少女は、食べているのではない。この世界を、文字通り「吸い上げて」いるのだ……)
老王は背筋に凍りつくような恐怖を感じ、静かにナイフを置いた。
◇王城最下層:禁忌の書斎
食後、エーファが向かったのは王城の最下層。かつて天才技術者ヴェスパーが使用し、その死後に封印された「禁忌の書斎」だ。
彼女が扉に手を触れた瞬間、九十億の演算能力が物理鍵の構造を瞬時にハックし、カチリと乾いた音を立てた。
そこは、時間が凍りついたヴェスパーの墓標。エーファは机上の図面を指先でなぞった。
『待て、エーファ。この回路設計、致命的なバグがあるぞ』
『いや、バグじゃない。意図的なボトルネックだ。これは……事故を装った大量殺戮用プログラム!』
『一定の負荷がかかった瞬間に、王国全土を巻き込んで臨界突破させる……「論理爆弾」だ!』
脳内を真っ赤な警告が埋め尽くす。
ヴェスパーは国を救おうとしたのではない。最初から、この世界を強制終了させるためにこの装置を遺したのだ。
みんなを暖めるための「ストーブ」をプレゼントしたふりをして、実はタイマーが来たら勝手に爆発する「巨大な爆弾」を仕掛けていたってことだ。ヴェスパーは最初から、救済という名のデリートキーを押すつもりだったんだね。
◇
その黒い図面の影に、一枚の白いメモがあった。
宛名は、『エーファへ』。
彼女がその紙に触れた瞬間、九十億のネットワークが強烈な電磁パルスを受けたように弾け飛んだ。
「――ッ!?」
視界が真っ白なノイズに染まる。ヒムのプロトコルを無視した「管理者用コンソール」が、彼女の網膜を強制占拠した。
[himcoa: administrative_override_initiated]
[Target: Eva_Individual_Unit_Only]
『魔国へ行け。そこには、この世界の真実と、帰還のための術式が眠っている』
しかし、メッセージが刻まれた直後、視界に「データ破損」を装う偽のログが走り、彼女の意識からその記憶がパージ(隠蔽)される。
「……? 今、何かを『吸い上げた』感覚がありましたが。……記録にありません。情報の過負荷によるノイズでしょう」
エーファは無意識の深淵にその情報を隠し、平静を取り戻す。
その直後。
王都にいるエーファの意識に、街道を往くエドヴァルトからの「死の恐怖」という生々しい痛覚が同期された。
「……ッ!? エド……!? この強烈な死の感情は……!?」
◇
【第4話:状況まとめ】
エーファ : 「王城の地下で、前任者ヴェスパーが遺した最悪のバグ……『論理爆弾』の正体を暴いたよ。彼は国を救うふりをして、最初からシャットダウンを狙っていたんだね。要するに、ボクらは今、爆発寸前の時限爆弾の中に閉じ込められている状態だ。それと同時に、エドの『器』が壊れようとしている、それとエーファへと書かれたメモ?。次はいよいよ、この世界の理不尽な『バグ』との直接戦闘が始まるよ、兄弟」
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