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90億人の精神集合体が異世界に召喚されたのでみんなでちょっとお邪魔してみた。  作者: ハマタハマオ
第2章 箱庭のシミュレーション、あるいは異世界の創世記
23/23

第23話:青き創造主と、因果を綴る指先


  「えっと……ボクだよ、タチバナさん」 


   ◇秘匿された真名と、神様の降臨


 眼鏡の奥で、私の思考が完全に凍りついた。

 「……えっ?」

 なぜ。なぜこの「ヴェスパー」という男が、私の本当の名前を知っているの?

 この世界で私は「コンラート」であり、私の正体を知っているのは、現実世界でモニター越しに私を見守っているはずのオダギリ君だけのはずなのに。


 ピピがレンズの隅で「同期率一〇〇%……解析完了。この魔力波長、オダギリ君のPCから発せられていたログと完全に一致します!」と絶叫している。

 ああ、もう、ピピ。そんなに騒がないで。状況が重すぎて処理が追いつかないわ。


 「タチバナさんがこっちの世界に来てるのは、すぐにわかったよ。プログラムの波形ログを見ていたからね。だから、ボクも後を追ったんだ」

 呆然とする私に、彼はいつもの、どこかぶっきらぼうで素っ気ない、けれど聞き慣れた響きで答えた。

 「ボクはこの世界の『創造主(管理者)』だからね。そのままの姿で降臨しちゃうと、存在自体がバグになってシステムが物理的に焼き切れる。だから、適当に良さそうな人物のアバターを選んで……この世界の人類とは異なる『青い肌』のヴェスパーとして、この因果に転生したんだよ」


  要するに、彼は「運営の神様」がそのままログインするとサーバーが落ちちゃうから、目立たない(といっても青い肌だけど)サブキャラクターのアカウントを作って、裏側から世界の進行を直接手伝っていたってわけだね。 


  ◇二つの「献身」の交差


 ヴェスパー――いえ、オダギリオギは言葉を投げ捨てるように続けた。

 「本当のところ、歴史通りにヴェスパーが絶望して自殺するシーンで、君にバレないように『ログアウト』するつもりだったんだ。言うつもりもなかった。それを、いきなりタチバナさんがゴリ押しで歴史をハックして助けちゃうから……」


 「……ちょっと待って。じゃあ、あのデタラメな魔力炉は? あのメルトダウンは? あんた、失敗して死ぬつもりだったの?」


 「そう。セレナさんに頼んで、メルトダウンを『確実に起こすため』のオーバーロード技術を提供してもらったんだよ。……そうしないと、未来で君が現実世界に帰るための、あの膨大なエネルギーが生まれないからね」


 視界が歪んだ。

 私が「生存戦略」だの「歴史のハック」だのと息巻いて、冷徹なエンジニアを気取って彼を救おうとしていたその裏で。

 彼は彼で、私が存在する「未来」を確定させるために、自分の死すら計算に入れて奔走していたのだ。自分自身を破滅させる「メルトダウン」という最悪の結末を、自ら魔王に乞うてまで。


  要するに、未来でボクたちが動き出すための「巨大な乾電池」を充電するために、彼は自分という端末を焼き切って、その熱量を未来へ送ろうとしていたんだ。彼にとっては、ボクが救われることだけが、システム上の『正解』だったんだね。 


 「……先に言っとけよ。……バカ、オギ」


 私は膝から崩れ落ちそうになるのを堪え、毒気を抜かれたように息を吐き出した。私の「黒いエゴ」なんて、彼の「透明な自己犠牲」の前では、あまりにちっぽけで、救いようがない。


 ◇ 「魔王様」の慈悲と世界の成り立ち


 「そういう理由でな、ワシがそなたに責められる所以はないと思うが……どうじゃ? タチバナ」

 セレナ様は外した角をサイドボードの上で弄びながら、面白そうに私を覗き込んだ。


 角を外した彼女の佇まいは、三百年という時間を美貌と知略に変えて纏った、成熟した大人の女性の色香を漂わせている。

 椅子に深く腰掛け、ドレスの隙間から覗く艶やかな脚を優雅に組み替えるその一挙手一投足は、圧倒的な「魔王様」としての余裕に満ちていた。


 「このフィンシュテルニス魔国はな、このアーキテラに国ごと転送されてきた『転生国』なのじゃ。我らの先祖は、自分たちの技術が再び戦争の道具に使われることを恐れた。ゆえに、あえて他国から『恐れられる怪物』として振る舞う道を選んだ。それが魔国の正体……『恐れ』という名の防壁よ」


 「そんな……。わざと悪役を演じてたっていうの?」


 「ヴィーダーラント王国の貧しさは、さすがに不憫でな。ヴェンツェルのわっぱに『転移魔術』を教えたのは、何を隠そうワシじゃ。もちろん、魔王からの教えとは悟られぬよう、細心の注意を払ってな」


 私の驚愕を余所に、セレナ様は悪戯っぽく微笑んだ。知略に長けた絶世の美女が、私たちのような異物を楽しんでいる。

 「あの老いぼれも、まさか自分が『魔王の弟子』だとは夢にも思うまい。……さて、タチバナと言ったか。お主らが救おうとした世界は、お主らが思うよりずっと、不器用な優しさで回っておるのかもしれんぞ」


  ◇ 招かれざる(?)来客


 その時、気の良さそうな青い肌の執事が静かに告げた。

 「ヴェスパー様、お連れ様が到着されたようです」


 オギが弾かれたように立ち上がった。その顔には、先ほどまでの「創造主」としての余裕など微塵もなく、ただの慌てふためく少年の表情が張り付いている。


 「あ、あいつらに見つかったら、大変な事になる。……説明しても、エド以外には絶対に伝わらないと思うんだ。ボクたち、もう元の世界におイトマするよ。タチバナさん、隠れて!」


    挿絵(By みてみん)


 【第23話:状況まとめ】 

 エドヴァルト: 「魔国の最奥で、歴史の全てのバグが繋がったね。要するに、ヴェスパーの正体は創造主オダギリ君であり、彼はタチバナさんの未来を救うために自ら『贄』になろうとしていたわけだ。さらに魔王セレナが世界の裏側の導き手だったことも判明した。因果の円環が完成しようとする中、物語の主役たちがついにこの部屋へ到達したよ。観測者(神様)と被造物ボクらの、史上最悪に気まずい邂逅が始まるよ、兄弟」



次回も18:00にUP予定です、明日もぜひ見てくださいね。

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