第21話:偽りの残光、あるいは救済のハック
「ピピ、始めるわよ。神様が書いたシナリオに、特大のバグを叩き込んでやるわ」
◇ 歴史という名の「クソコード」を書き換えろ
ヴィーダーラントに訪れた偽りの春。
それはヴェスパーの命を燃料にした、刹那の幻に過ぎない。
けれど、黙って悲劇が完結するのを見届けるなんて、私の「個」が許さなかった。
私は眼鏡を指で押し上げ、歴史を上書きするための「三つの工作」をガシガシと実行に移した。
要するに、あらかじめ決まっている「悲劇のイベント」をまともにこなす必要なんてないんだ。観客(歴史)が見ている前で死んだふりをして、舞台裏からこっそり逃げ出す――そんな最高に性格の悪い「裏技」で、世界をハックしてやるのよ。
◇ 工作1:最短・最速の説得(物理)
私は成功の余韻に浸って呆然としているヴェスパーの襟首を掴み、地下の物置へと引きずり込んだ。
「ヴェスパー、四の五の言わずに聞きなさい。この炉はあと数日でメルトダウンを起こすわ」
「えっ……そんな、計算では……」
「あんたの甘い計算なんて、魔族の核には通用しないのよ! このままじゃあんたは救世主から一転、国を滅ぼしたA級戦犯として火あぶりよ。分かったら今すぐ、私の指示通りに『死んで』もらうわ!」
有無を言わせぬ私の気迫に、ヴェスパーはただ「はい……」と頷くしかなかった。
◇工作2:死の偽装
絶望に打ちひしがれ、自責の念から城壁の崖に立ち尽くすヴェスパー――の影武者(ピピ製・高精度ホログラム)。
その背中を必死に追ってきたのは、弟子のクララだった。
「ヴェスパー様、行かないで!」
その瞬間、私はリモコン操作で影武者を崖から突き落とした。
クララの悲鳴が夜の闇に響き渡る。
……ごめんね、クララ。でも、これで歴史には 『技術者ヴェスパー、投身自殺』 という完璧な一行が刻まれる。
私は本物のヴェスパーの口を封じ、歴史の観測が届かない闇へと強引に拉致した。
要するに、本人は生かしたまま、世間には「死体」を見せて納得させたってこと。クララの証言があれば、誰もヴェスパーの死を疑わないわ。これで彼は、この世界のしがらみから自由になれるの。
◇工作3:失踪、そして魔国へのカチコミ
私は泣きじゃくるクララの前に、最後の「師匠」として現れた。
「クララ、聞きなさい。炉はもう止められない。このままでは魔力がメルトダウンを起こす」
彼女に真実を明かすことはできない。それは歴史のログで決まっているから。
「このままでは魔力がメルトダウンを起こす」
それはコンラートとしての、そしてタチバナとしての、決別の合言葉だった。
私は歴史の観測外へと放り出したヴェスパーを連れ、地吹雪の向こう側――東部、 フィンシュテルニス魔国 へと足を踏み入れた。
目的は二つ。
メルトダウンの莫大なエネルギーを、未来の『ヒム』の起動信号として、時空の隙間に正しく「アース(放流)」すること。
そして――。
「どういうつもりであんな危ないモンをヴェスパーに渡したのか、魔王に直接、弁解切ってもらわないと気が済まないわ」
目の前に広がるのは、霧に包まれた幻想的な樹上都市。
私は、引きこもりのタチバナでも、伝説の聖人コンラートでもない。
ただの、最高にお節介で傲慢な 「一人のファイター」 として、霧の中へ一歩を踏み出した。
`[HIM_Core] 判定:特異点「TACHIBANA」による歴史の強制書き換えを確認。`
`[HIM_Core] ステータス:二名の個体は「観測不能領域」へとログアウトしました。`
【第21話:状況まとめ】
エドヴァルト: 「タチバナさんは見事に歴史を欺いたね。要するに、ヴェスパーが死んだという『嘘のログ』を歴史に刻ませつつ、本物を救出して魔国へと転移させたわけだ。このハックによって、メルトダウンのエネルギーは正しく未来のボクたちへと放流されることになった。次は、この『観測不能領域』で彼女たちが遭遇する、魔王様との対面を見守ろうか、兄弟」
次回も18:00にUP予定です、明日もぜひ見てくださいね。
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