第16話:雪の王国のエンジニア
「あっちの世界じゃ時間は止まってるから、ゆっくり遊んでいきなよ。……なんて、ピンクのクマに言われちゃったら、やるしかないわよね、兄弟」
◇ 近況報告:英雄はじめました
私はタチバナ、そしてこの世界では「コンラート」と呼ばれている。
『ヒム』が能力の下駄を履かせてくれたおかげで、未知の世界でのサバイバルも意外と何とかなっているわ。
支給された眼鏡型デバイスを掛けると、視界の端に現れるのは相棒の 「ピピ」 。
私の思考を読み取って、レンズ越しに 「ピンク色のふわふわクマのぬいぐるみ」 の姿で現れてくれる。今もほら、私の肩の上あたりで短い尻尾を振りながら、ドヤ顔で建国アドバイスを投げつけてくる。
「あっちの世界じゃ時間は一秒も経過していないらしいから、ゆっくり遊んでいきなよ」
ピピがそう言うなら話は早い。私はがぜん、やる気を出した。教室での憂鬱を晴らすには、一国の再設計くらいがちょうどいい!
要するに、私は今「最新の攻略ガイド付きスマートグラス」を装備して、中世レベルの異世界という「無理ゲー」を攻略している最中なんだ。ピピの指示通りに動けば、知識がなくても天才エンジニアになれちゃうんだから、チートもいいところよね。
◇ 極寒のヴィーダーラント:古代ローマ級のインフラを叩き直せ!
私が降り立ったヴィーダーラントは、万年雪に閉ざされた絶望の地だった。
文化水準は、せいぜい地球の古代ローマ時代。現国王のヴィルヘルム三世も、民を思ってオロオロするばかりの「いい人そうなおじいちゃん」だ。
このままじゃ国が凍死する。歴史のレール(ログ)によれば、私は最後に行方不明になるらしいけれど、そんなの関係ない。私は私のやり方で、この地獄を「快適な居住空間」に書き換えてやる!
◇ コンラートの活動記録:生存戦略
私とピピが着手したのは、徹底した「生存戦略」だ。魔法を神秘だなんて思わない。魔法はただの「高効率エネルギー」よ。
* 食糧革命: 垂直農法と水耕栽培プラントを強引に導入。太陽がないなら魔法光で照らせばいいじゃない。
* タンパク源: 貴重な栄養源として「昆虫タンパク」の工場化。見た目はアレだけど、背に腹は代えられない。
* エネルギー革命: 地熱発電と暖房システムを完備。現代の断熱技術と二重窓で、王城を「常夏のパラダイス」へアップデート!
要するに、凍える雪国を「巨大な温室」に変えちゃったってこと。魔法というクリーンエネルギーを使って、ビニールハウス栽培や地熱床暖房を国中に張り巡らせたわけ。これでもう、この国から「餓死」と「凍死」というバグは消滅したわ。
気づけば五年が経っていた。不思議なことに、一度も戻りたいとは思わなかった。
地熱の熱が、私の冷え切っていた心の傷を少しずつ癒やしていく。私は今、最高に有能な「建国エンジニア」として、長い夢を謳歌していた。
◇ 初めての弟子:泥だらけのクララ
地熱プラントの建設現場で、一人の少女に出会った。
名前は、 クララ 。
没落した下級貴族の娘で、凍えた手で私のマントを掴み、「魔法を教えてほしい」と直訴してきた向こう見ずな子供。後にエドを導くあの知的な女性が、今はまだ鼻水を垂らした泥だらけの顔で、私を真っ直ぐ見つめていた。
(……ああ、この子がワタシの弟子になるのか)
彼女の未来を、そしてこの国の百年後を守る。それが私の「戦い(ハック)」の始まり。
「……いいよ。ただし、厳しいわよ」
私が答えると、彼女は世界を照らすような笑顔を見せた。その瞬間、私は「英雄」としての、そして「師匠」としての人生を完全に受け入れた。
クララは天才だった。私の合理的な――この世界の人間には異端すぎる――論理を、スポンジが水を吸うように吸収していく。
傍らでは若き日の老魔導士ヴェンツェルが目を丸くし、新米騎士団長のジークムントが不器用な正義感を燃やして私を守っている。
◇青い肌の予兆:最大のイレギュラー
建国事業が軌道に乗り、民に笑顔が戻り始めた頃。
「コンラート殿だけでは足りぬ。さらなる『力』を!」
老王ヴィルヘルム三世の焦りが、再び禁忌の魔法陣を起動させた。
「……ピピ、今の信号、なに?」
ピンクのクマが、不吉なノイズを検知して顔を曇らせる。
光の中から現れたのは、私とは決定的に違う 「青い肌」 をした転生者。
私の穏やかな建国ログに、最大の攪乱分子が紛れ込んだ瞬間だった。
【第16話:状況まとめ】
エドヴァルト: 「過去の異世界に転移したタチバナさんは、『コンラート』として順調に国のインフラをハックしていったようだね。要するに、彼女は五年間で雪国をハイテクな楽園へ作り替えたわけだ。だが、盤面に新たな駒が登場した。青い肌の転生者――ヴェスパー。彼こそが、この円環を完成させる最後の鍵となる人物だ。創造主であるオギ君がどう動くのか、目が離せないよ、兄弟」
次回も18:00にUP予定です、明日もぜひ見てくださいね。
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