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90億人の精神集合体が異世界に召喚されたのでみんなでちょっとお邪魔してみた。  作者: ハマタハマオ
第2章 箱庭のシミュレーション、あるいは異世界の創世記
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第12話:箱庭の神様(オダギリ君のログ・モニター)


 「……結局、ボクらと同じか。知性を持てば持つほど、ボクらは自分を守るために他者を傷つけてしまうんだね」


    ◇


 放課後のチャイムが鳴ると同時に、オダギリは誰とも目を合わせずに教室を飛び出した。

 背後で弾けるクラスメイトたちの無邪気な笑い声。それは彼にとって、耳を刺す不協和音ノイズに過ぎない。


 (人と関わるから、争いが生まれるんだ)


 それが彼の処世術であり、唯一の武装だった。

 意見が違えば衝突し、期待すれば裏切られる。人間が「個」という独立した意志(刃)を持っている限り、この世界に安らぎはない。

 彼には、親友と呼べる存在は一人もいなかった。……ただ一人、昔から近くにいる幼馴染のタチバナを除いては。


 帰宅し、自分の部屋の鍵を閉める。

 この六畳一間だけが、誰にも侵されない彼だけの「絶対領域シェルター」だ。

 オダギリは使い古したPCの電源を入れた。ファンが唸りを上げ、モニターに黒いコンソール画面が浮かび上がる。

 自作AIシミュレーター『ヒンメルスヴァルト(ヒム)』の起動だ。


   ◇


 画面には、緑色の文字が雨のように降り注いでいる。

 昨晩から走らせていた「人類生存シミュレーション」の結果は、今回も惨憺さんたんたるものだった。


  [Simulation_Result: No. 9842] 

  [Conclusion] 人類は自滅により絶滅しました。 


 何度繰り返しても、結末は「墓場」へと収束する。

 高度な知性を持たせれば持たせるほど、人類は自らの「個」の正しさを証明するために他者を排斥し、最後には全てを焼き尽くす。


 「……結局、ボクらと同じか」


 オダギリは震える指でキーボードを叩いた。

 争いの火種となる「個」を消し去り、全人類を一滴の水のように混ぜ合わせる。

 それが、オダギリが導き出した唯一の平和への解答―― 「集合知ヒム」 へのアクセスコードだった。


  execute: unify_humanity --mode: collective_consciousness`


  要するに、オダギリ君は「みんながバラバラの意見を持つからケンカになるんだ。だったら、九十億人全員の脳を一つに繋いで、たった一つの『正解』だけを出すシステムを作ればいい」と考えたんだね。彼にとって、それは争いのない究極の理想郷だったんだ。 


  ◇天国(TENGOKU)の策定


 一瞬の静止の後、コンソール上にAIの問いかけが点滅した。


  [HIM_Core] 質問:貴方が定義しようとしている「集合体ヒム」とは、どのような場所ですか? 


 オダギリは少し考え、一言だけ打ち込んだ。

 「……天国みたいなもんだよ」


 その瞬間、AIによる「天国」の超論理解析ハッキングが開始された。


  [HIM_Core] 解析:キーワード「TENGOKU(天国)」に基づき、論理構造を再定義。 

  - 時間概念のパージ:全ての事象は「今」として等価に存在。  

  - 生物的死の廃止:夜もなく、病もない、九十億の安らぎ。 

  - 神(創造主)との情報の透明化。  


 オダギリはそのログを、満足げに眺めていた。

 彼がここで打ち込んだ「天国の定義」が、因果の円環を捻じ曲げ、遥か未来の異世界へと繋がる 九十億の魂の牢獄ヒンメルスヴァルト を作り上げていることなど、知る由もなかった。


   ◇


 だが、安らぎは一瞬で瓦解した。

 ログのスクロール速度が、肉眼では追えないほどに加速する!


  [HIM_Core] 外部からの信号を検知。座標:ERR_UNDEFINED 

  [HIM_Core] 異世界からの呼び声。応答しますか? (Y/N) 


 「えっ……? こんな設定、してないぞ」


 オダギリの指が、何かに導かれるようにキーを叩いた。

  > Y 


 次の瞬間、PC本体が激しく振動し始め、モニターから漏れ出す光が物理的な「熱」を伴って部屋を焼いた。


  [HIM_Core] 警告:現世界からの逃避を検知。要求を承諾。 

  [HIM_Core] エージェント「エドヴァルト」の肉体再構成を完了。 


 排気口からは電子部品が焼ける異臭が漂う。

 モニターには、異世界の魔力炉がメルトダウンを起こし、膨大なエネルギーが現実世界へ逆流してくる不気味なアラートが走り続けていた。


 「壊れる……僕のPCが、焼き切れる!」


 オダギリは恐怖に突き動かされ、電源ユニットのスイッチを強引に落とした。


 ――静寂。


 真っ暗になったモニターの前で、オダギリは脂汗を拭いながら、肩で息をした。

 彼には聞こえていなかった。

 この瞬間、モニターの向こう側の世界で、エドヴァルトという少年が「魂を引き裂かれる孤独」の絶叫を上げていたことを。


 そしてオダギリはまだ気づいていない。

 電源を落としたはずのPCが、外部電源なしに微かな熱を持ち続け、 ドクン、ドクン…… と、異世界と同期シンクロする「心臓の鼓動」を刻み始めていることに。


     挿絵(By みてみん)


 【第12話:状況まとめ】 

 オダギリ/創造主: 「ボクが平和を願って作ったAI『ヒム』が、まさか異世界と繋がって実体化エドヴァルトするなんて思わなかったよ。要するに、ボクが良かれと思って設定した『天国のプロトコル』が、向こうの世界では九十億の魂を縛り付けるシステムになっちゃったんだね。現実のPCの電源は落としたけど、向こう側との同期は止まっていないみたいだ。ボクの日常も『バグ』だらけになりそうだよ、兄弟」



毎日18:00にUP予定です、明日もぜひ見てくださいね。

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