訓練
「ここだよね…」
フェルンと共に訓練場まで来たがガランとして活気がない。
「場所間違えたかな?」
「でも、イマジナーさんの教官はここにいるはずだけど」
辺りをキョロキョロしながらその場に立ち尽くしていると、突然刀が僕の耳の横をかすめる。
「反応が遅い…」
どこからともなく現れた姿は鋭い眼差しに片目を眼帯で隠した女性だった。
「貴方がイマジナーね…私はメークよろしく。貴方の話は聞いてるわ。ビシバシ教育してあげる」
「メークさんは一人で幹部レベルの夢像を倒した実力者で教え子にローズやシェアーソングがいるよ」
フェルンの言葉に足がすくんでしまう。
その瞬間背中が凍るような感覚を感じる。
「まずは、今の力を確かめさせて貰うわ。安心して、このフィールド内では痛みも損傷もしないわ。AIが自動的に勝者をきめてくれるのよ」
彼女が刀を構える。
「はっ!」
彼女の攻撃が少し頬をかすめた。ギリギリで急所を免れた。
こちらも剣を想像して右手に生み出す。しかし彼女の行動の癖やどう避けるかを考えていて上手く生成することが出来なかった。
「それで私に勝てると思わないで!」
彼女の攻撃を寸前で止めることは出来た。しかし軽々と剣を折られてしまい首に刀を向けられる。
「貴方の負けよ」
どうにか事状況を打破する方法を考える。まだ負けたわけではない。
彼女が痺れを切らして刀を振り上げた瞬間に両手から盾を生成する。
彼女の刀を弾き返す。バランスを崩した彼女の足元を払い倒れたところにトドメを刺そうとした瞬間に視界が歪んだ。
「よくやったわね」
盾は木っ端微塵に切り刻まれていて、負傷パラメーターを見ると全身が切られている。
「勝者、メーク」
周りに貼られてた結界が瞬時に無くなり、先ほどの景色に戻る。
僕はその場から動くことができず唖然とした表情で彼女を見つめる。
「実力はまぁまぁね…でも才能は感じられた。これからは、厳しくいくから、泣かないようにね」
彼女の声は少しだけ震えていた。
「イマジナーさん!現代最強筆頭の教官にあそこまで戦えるなんて凄いよ!」
「結果は負けだ。これからもっと成長するように
努力する」
(やはり…盾の強度が足りなかったか…いや…もっと想像力を上げるべきか…)
「その心構え…悪くないわね。まずはもっと想像の力を極める事ね」
「何が足りなかった?」
彼女は少し考えたあとに目を細めて言葉を切り出した。
「想像の力は他の事に意識してしまうと上手く生成出来ないわ。極めたら相手の行動を予測しながら生成も可能だけど…途方もない努力が必要よ。それに武器を正確に生成するには、構造まで理解することね」
彼女は自分の腰に掛けていた刀を取り出して、僕に渡してきた。
「まずこの刀を完璧にコピーして。特徴もきめ細かく理解して」
僕は彼女の刀を観察して特徴を頭に入れる。
丁重に手入れされてる刃に、持ち手の部分は攻撃しやすい構造になっている。重さは軽くしかし頑丈な素材で作られている。
「この刃の部分の素材は何でできてるの?」
「アメストよ。貴重な金属資源で作られていて、攻撃力や防御力にも優れた素材よ」
軽く指で突く。感触は金属と大差ない。しかし僕が生成した刀と明らかに質量が違う。
「…理解した…」
目を閉じて右手を突き出す。虹色の光が瞬く間に辺りを照らして刀が生成されていく。
目を開いて確かな感触のある刀を見つめる。彼女の刀と見比べても同じ物に見える。
「見た目は完璧ね」
彼女は生成した刀を取って素振りをする。華麗な動きで刀を振る。残像を形成しながら攻撃する彼女に隙や癖などは見られなかった。
「完成度としては…40%ね…まだ荒削りと言ったところかしら…刃の部分の金属にムラがある。重さもだいぶ差がある。持ち手の部分も歪な形で攻撃しづらい。でも初めてにしては優れているわ。実戦なら…正夢級の敵なら倒せそうね」
「敵の位ってどのぐらいあるの?」
「8個に分類されるわ。一番下が吉夢級よ。2番目が雑夢級、3番目が正夢級よ。一番上が悪凶夢級よ…私も実際は見たことはないわ。でも教官になって…一度だけシュミレーションで戦ったわ。………勝てなかった……あと一息だった…油断と判断力がもっと優れていたなら…勝てたかもしれないのに…」
「実戦にその悪凶夢級は存在するの?」
「そうね…実際にいるらしいわ。夢像軍も進化していくわ。その過程できっと何体も生み出されているわ。私が倒した幹部の位が5番目の逆夢級だった…」
彼女は拳を強く握りしめて言った。
「でも、貴方のその力は無限の可能性を秘めてるの。だから……なるべく…無理しないで」
「分かった。無理はなるべくしないようにする」
この世界に悲しみが溢れないように僕が強くなって救ってみせる。だれも傷つかないように。
「今日の訓練は終わりよ。後はゆっくり休みなさい」
彼女は足音を鳴らして立ち去った。少し浮かれているようにも見えた。
「やっぱり風格あるな。メークさんは本当に尊敬しちゃうよ」
完成度が不十分な刀を思わずギュとにきりしめてしまう。
フェルンと共に宿まで戻る。その道中で任務を終えた三人とばったり会った。
「あっ!フェルン達だ!」
モッチがこちらに走って近づいてくる。
「訓練どうだった?!」
「あまり上手くいかなかったね」
「そう…教官は誰だったの?」
ローズは腕を組んであまり興味がなさそうだ。
「メーク…だったよ」
その名前を聞いた瞬間にローズの目つきと顔色がぱっと変わる。
「メーク様はどこにおられる?今すぐ会いに行く」
「いきなりは、辞めたほうがいいよ」
ユーリエが彼女をなだめる
「そうか…またの機会にする」
少し落ち着きを取り戻してまた無表情になる。
酒場で彼女たちを食事をして今日あった話を聞いた。何やら任務をしていたら謎の声が聞こえたようだ。まだ解明されていないが、おそらく夢像による仕業と推測されている。
「メークさんも…無茶言うわね…アメストの刀を再現なんて不可能よ。危険地帯の奥深くにしかない鉱石なのに。ナリックとか…ムルーンとかなら、できないことは…ないはず」
ユーリエの言葉にモッチが反論する。
「でも、想像の力はすごいから!きっと出来るはずだよ!」
「そうね…私もイマジナーさんを信じてる」
「イマジナー、明日も訓練があるなら私も行きたいのだが…」
「そうね…明日の護衛はローズに任せましょうか…」
フェルンがそう言うとローズは少し笑みを浮かべた。
宿に戻ってみんな、疲労困憊だったのかすぐ眠りについた。
僕は外に出て夜風に当たる。体の中でアメストの鉱石を想像して生み出す。しかし出来るのはなんのへんてつもない石だった。
まだ未熟だな。
そう思って立ち上がると、突然誰かに手を引かれた。その瞬間目の前が真っ暗になって水の渦に飲まれた。
――――
「久しぶりですわね…イマジナーさん」
「君は…幻影?」
「はい…そうです…貴方の幻影ですよ」
「貴方は凄いですのよ。彼女の刀を40%も再現するなんて、他の人なら3%が限界でしょう」
「君は再現出来るのか?」
そう聞くと彼女の手が青色の光に包まれ刀が現れた。
「これぐらい…朝飯前ですよ」
「コツとか、意識することとかないの?」
「無意識に…その事だけを考えれば。きっとできますわ…」
「そういえば…前もこの世界に来たような…たしか」
彼女は僕の言葉を遮るようにまた口を塞いだ。
「これ以上は駄目ですよ。さぁ…元の世界にお戻りなさい…イマジナーさん」
黒い渦に飲まれて手を伸ばしたが何も掴めなかった。
――――
目覚めると宿のベッドにいた。昨日は草原にいたはずなのに。
隣には無表情でこちらを見つめているローズの姿があった。
「目覚めたか」
彼女の声に少し優しさを感じる。
「目覚めた時イマジナーがいなかったから、探した。あまり夜は出歩くな危険だから。もし行くなら私もついていく…」
彼女は少し耳を赤らめて早い口調で言葉を続ける。
「護衛として、守る必要がある。起きたなら早く訓練に行くぞ。外で待ってる」
ドアの閉まる音が部屋に響く。
「行くか…」
機械をそっと手首にはめた。




