第57話:婚約継続期間最終日が来てしまった!その裏で繋がる策略!
ナダルテ王国では、アルクレゼ騎士団が自領へ戻るために王城を出発した。
貴族を始めとする住民たちは皆、騎士団にお礼を述べて彼らを見送った。
「アルクレゼ騎士団万歳!ポルモア王国万歳!」
その声は途切れることなく続いている。
「ヘヘッ、何だか照れるな。」
「お前が照れてどうする!」
上機嫌なニコルに父テルが突っ込んだ。
どうやらニコルは昨夜のパーティーで女性陣からモテモテだったようだ。
しかしニコルも婚約している身。丁重にお断りをしていた。
特に王城に到着した日にニコルを庇っていた女性はナダルテ国王の娘、王女だった事が判明し、一時大騒ぎになったのだった。
なんだかんだ言っていたがニコルは婚約者のフランの事が昔から大好きなのだ。それを知っている父のテルはニマニマしながらニコルを見ていた。
「フラン嬢に言いつけてやるぞ?」と一言言われるとニコルは女性陣からササッとその場から逃げ出したほどだ。
テルはそんなニコルを面白おかしく見守っていた。
「団長、ルクセブル様はもう領地に着きましたかね。」
「さあな、あいつ、慌てて駆けて行ったから馬の存在を忘れてるやもしれんな。追いつけば良いが。」
グラナスはルクセブルの慌て様によっぽどアレクサンドラ嬢に会いたいのだと思った。そして自身も妻のラモニアに会いたくてたまらないのだった。
◆ ◆ ◆
そんな時、当のラモニア夫人は未だにルクセブルの安否がわからなくてイライラしていた。
〝どうして夫はその後の手紙をよこさないのか?こちらからの手紙にも返事をしないのか?〟
そう、ナダルテ王国国王からルクセブルの安否を含めた手紙をポルモア王国国王宛に送っていたのだが、ポルモア国王の思惑によりその内容は伏せられていたのだった。
婚約継続期間はとうとう今日で終わる…。
同じくアレクサンドラのフレシアテ家にも何も情報がないまま婚約継続期間があと数時間で終了しようとしていた。
しかも翌日には登城してビリー王太子殿下のプロポーズを受けてこの国を立たなければならないのだ。
ラモニア夫人よりも更に悲壮感漂うフレシアテ家だった。
◆ ◆ ◆
そんな事になってるとは露ほども知らず、ただひたすら帰国するために歩き続けるルクセブル。
〝ダメだ…。こんな村しかない山ばかりの所だと馬を拾えない…。やはり王都まで戻るしかないのか?〟
そう思いながら必死で歩くルクセブルの前に猫が横切った。
「う、うわぁっ!」
思わずルクセブルは尻もちをついた。
よく見るとその猫はジャポスカだった!
「おおー!ジャポスカ、久しぶりだね!」
〝ルクセブル!ソンナノンキナコト イッテテイイノ?アンタノ タイセツナヒト、トラレチャウヨ?〟
「え?どういうことだ?」
ルクセブルは姿勢を直してジャポスカに向き合った。
〝クワシクハ ワカラナイケド、アンタノママン、イッテタ。アシタデ コンヤクケイゾクキジツガオワルッテ。ソシタラ、アンタノタイセツナヒトガ ホカノヒトノモノニ ナルンダッテイッテタヨ。〟
「なんで婚約継続期間なんてものがあるんだ?僕は解消するなんて言った事もないのに?」
〝サアネ、ナニカモンダイガ ハッセイシタンジャナイノ?アンタノタイセツナヒトハ カンタンニアンタヲ ウラギッタリ シナインデショ?〟
「ああ。絶対待ってるって誓ってくれたよ。」
〝ダッタラ、ココデ ゴチャゴチャイッテナイデ ハヤクイコウ!〟
「待て!ジャポスカ。僕は馬がなくて歩くしか手段がないんだ…!とてもじゃないが1日で辿り着けない!」
焦るルクセブルに対してジャポスカはルクセブルを
ジ──────────ッ!
と見てから呟いた。
〝ハァ~~~~~~ッ、ルクセブルハ コンナトキデサエ マジメダネ。ワタシタチガ キョウリョクスレバ マニアウカモヨ?〟
「え…。」
そう言ってジャポスカはニンマリと笑った。
◆ ◆ ◆
ここはポルモア王国の国王の執務室
1人の男が国王とヒソヒソ話をしていた。
そう、ビリー王太子殿下だ。
今夜、この夜さえ開けてしまえばアレクサンドラは自分のものになるのだ。
明日の朝、ポルモア国王の前でプロポーズをして正式に婚約者として自国へと連れて行くつもりだ。
「陛下、彼の者の安否について黙殺下さり感謝しますよ。」
「ハハハ。私もそなたの国と今後も親しく付き合いたいからの。充分協力しますよ。」
ビリーはにっこりと笑った。
「しかし、私も黙殺したとはいえ、手紙を途中で奪ったのはそなたの手のうちではないのかい?」
「流石陛下、気付いておられましたか。アルクレゼ侯爵夫人には申し訳ないが、どうしてもアレクサンドラ嬢を手に入れたくてね。情報を遮断するのは基本中の基本ですからね。」
「おお…怖いの、そなたは」
「我らは運命共同体ですよ、陛下。」
ふふふ…ハハハ…!!
2人の悪巧みの声が執務室で響いていた。
執務室の外にはダナジーが立っていた。
偶然父に用があり、ノックをしようとしたところ、何やら不穏な言葉が聞こえたから入室せずに待機していたのだ。
〝こ、これは大変なことだ!父上とアイツが手を組んで双方の手紙を止めていたとは…!!僕はどうすればいい?〟
ダナジーは迷った。
王太子として〝誤ったことは正さねばならない。〟しかし、それが外交問題に繋がるかもしれないのだ。一瞬、躊躇したがダナジーは意を決して乗り込む事にした。幼なじみでもあり親友でもあるルクセブルのために….。
バ──────────ン!!!!!!
「父上!今のお話は本当ですか!」
いきなりのダナジー登場に驚く父。そして反対にビリーは余裕の対応でダナジーに向かってこう言った。
「ダナジー殿。それが本当であっても偽りであっても、もう今夜が終わるのはあと10分。あなたに何が出来ますか?」
「───────っ!!」
「そうだな。もう、何も変わらんよ。衛兵!ダナジーを部屋に軟禁せよ!」
「なっ!父上?!」
「お前はもう少し〝外交〟というものを学ぶべきだ。感情よりも現実を見なさい。部屋で静かに考えるんだな。」
国王の護衛たちがダナジーの腕を囲み、行動を制限する。
「離せっ!」
ダナジーが抗っても護衛たちは〝国王付き〟だから例え王太子と言えど国王の命令でない為に手を緩めず、強引に自室へと連れて行かれ、外から鍵を掛けられた。
─────ガチャン!!─────
鍵を掛けられたダナジーは絶望し、項垂れた。
そして、幼なじみでもある親友のピンチに役に立てなかった自分を責めた。
〝レルロア………、共にアレクサンドラ嬢を守ろうと約束したのに………。こんな僕をキミは情けなく思うだろうな。そんな僕が1番僕を許せないよ。……くっ!〟
床に拳を叩きつけたダナジーの手からは血が滲み出ていた。彼の悔しさの表れであろう。
そんなダナシーが落ち込んでいる頃、国王たちはまだ話を続けていた。
「陛下、何も軟禁までされなくても宜しいのでは?」
「念には念だよ。私はややこしいのはごめんだからね。」
「フフフ…。そう言う陛下を尊敬しますよ。僕は。」
こうして2人のせいで手紙が届かなかった事実は隠されてしまった。
ご覧下さりありがとうございます。
とうとう婚約継続期間最終日になりました。アレクサンドラの悲壮感は計り知れないものとなりました。ルクセブルの母ラモニアも同じでした。
そんな彼女らの思いとは裏腹に婚姻外交を企む国王を味方につけた隣国王太子ビリー。唯一の味方であり助けてくれる存在のダナジーが軟禁されてしまい、アレクサンドラかなりのピンチです…!
次回をお楽しみに!




