第54話:試される…救われる
そこは辺り一面霧がかかっていた。
歩いても歩いてもどこに自分が居るのかわからなかった。
〝こんな時は歩くのはとても危険だな。これ以上は霧が晴れるまでジッとしているべきかな。〟
その場に腰を下ろしたのはルクセブルだった。
〝僕は確かラナベルの家でお茶を飲んでいたはずだったのだが…。いつの間にここに来たんだ?〟
ルクセブルは今ある情報を整理した。だが、情報量が少なすぎて結論に至らない。
〝はぁ~~~~~~っ、ダメだ、何もわからない。この場所も解決策も。このままだとアレンの待つポルモア王国まで辿り着けないかもしれない。アレン、あなたを守る剣に僕はなった。例えあなたの傍にいなくても僕の心はあなたと共にある。永遠に枯れないというユリの花をあなたに捧げよう。〟
そう思った時に目の前にス────ッとラナベルが現れた。
「ケイン、いえルクセブル?もう一度聞きます。私と共にここに残ってくれませんか?」
「ラナ………、もう一度聞かれても僕の答えは変わらない。僕は君の提案に応える事は出来ない。僕は故郷に大切な人を残してきてるんだ。確かに記憶を無くしてた頃は君にはとてもよくしてもらったし、感謝の一言ではすまないと思ってる。そして僕は献身的な君に心を動かされていたのも事実だ。しかし、それは君しか僕の周りにいなかった事、そして君の行動への感謝から惹かれていたんだ。記憶を取り戻りし僕は大勢の中から選んだ僕の大切な人を悲しませたくないんだ。だから…!ごめん!」
ラナベルはふっと笑って
「あなたならきっとそう言うと思ったわ。一度はあなたを引き止める為に忘れ薬を飲ませようと思ったのだけど、出来なかった。私はあなたがとても好きよ。だからあなたには幸せになって欲しい。その為に私が足枷になるのは嫌なの。さあ、目を覚まして。あなたの求めていたユリはここに…。私があなたを愛し続ける限り咲き続けるの…。ここにあなたの幸せを願って祈りを込めるわ。せめてこのユリだけはあなたの近くで育てて….。」
そう告げてラナベルは消えていった。
「ラナ!」
ルクセブルが手を伸ばしたがラナベルは目の前から消えた。
そして自身の手にはラナベルが渡してくれたユリの花があった。
ユリを見ているうちにルクセブルはハッと目が覚めた。
「……………っ?!」
そしてテーブルの、ルクセブルの傍に夢でもらったさっきのユリが置いてあった。
「夢?それとも現実?」
〝さあ、行って。もう二度とここには来ないで…..さようなら、私のケイン。〟
ラナベルの声が聞こえたが姿は見えない。しかも声も微かに頭の中に聞こえるかのように…。
「ありがとう、ラナ。君への恩は一生忘れないよ。」
そうしてルクセブルは家を出てそのままアレクサンドラが待つポルモア王国へと走り出した。
その頃ラナベルは百合の薗にいた。
百合の薗の番人となったラナベルはユリの花を通して声を伝えたり幻覚作用を起こす事も出来る。
その幻覚作用によってルクセブルに夢の中に迷わせそこで最後のお別れをしたのだった。
本当の意味でさよならね…
大好きなケイン…
あなたの幸せを永遠に願っているわ…
◆ ◆ ◆
一方、ポルモア王国では今日もまたアレクサンドラは近隣国の王太子ビリーに振り回されていた。
「もうすぐ春も終わるね。あなたの待ち人は中々戻らないね。まあ、僕にとってはその方が有難いけど、あなたは大丈夫かい?」
アレクサンドラはビリーの方を見てキッと睨んだ。
「おわかりになりながら問うのですか?」
ビリーはニヤリと笑った。
「僕はどんな手を使ってでもあなたを手に入れたいと言ったはずだよね。今はあなたの自由を手に入れて、あなたの気持ちもいつか必ず手に入れるよ。」
「私はそんなに簡単には気持ちを切り替えれません。」
「ああ、だからこそ僕はあなたを望むのさ。一途な王妃でないと困るからね。それに僕自身、あなたにとても興味があって惹かれるんだよ。
まあ、人は立場によって変わるからね…。いつしか僕を選ぶだろう。」
アレクサンドラは自身を見つめてくるピリーに対してぷいっとそっぽ向いた。
「ふっ、ハハハッ!」ビリーは笑う。
「あなたは本当に飽きないな。」
どんなに冷たくしても諦めてくれない。アレクサンドラは期日は迫ってくるわ、ビリーは迫ってくるわで内心穏やかではなかった。
そんなある日、国王に王城に来るようにと呼ばれた。
「国王陛下、アレクサンドラ・フレシアテでございます。」
相変わらず見事なカーテシーだ。
「うむ、そなたを呼んだのはそなたもわかっているのではないか?」
「いえ、私には全く検討も尽かす…申し訳ございません。」
「よい、謝らずともよいのだ。楽にせよ。」
そうして姿勢を少し楽にして陛下に向き直った。
「ビリー王太子殿下のことだ。そなたを大層気に入っておると聞いておる。どうだ?間もなくアルクレゼ侯爵家が出した期日が来るのだが、その後は彼との婚姻を結んではもらえぬか?」
「──────────!!!!」
国王はアレクサンドラに尋ねる形で話を切り出したが、これは実質有無を言わさず「婚約しろ」との事だ。国王からの申し出に伯爵家の令嬢ごときが異議を唱えられるわけが無いのだ。
「ん、?どうした?」
「あ、いえ…。あ、あの…。」
「ん?アレクサンドラ嬢にしては歯切れが悪いな。」
「あ…。」
アレクサンドラがたった一言「はい。」と言うのを国王は待っているのだ。決められた、決まっていることなのだが、アレクサンドラはその言葉を簡単に言う事が出来なかった。
そんな時、
──────────バン!!!!!!
と、勢いよく扉が開いてやってくる人がいる。
「お待ちください、父上。」
そう、ルクセブルとも幼なじみであるこの国の王太子のダナジーだ。
「ダナジー!失礼であるぞ?!」
国王は声を荒らげた。
「百も承知!ですがこれは余りにも理不尽でございます!まだ期日があるのですから今、それをアレクサンドラ嬢に迫る必要を感じません!」
「お前は私の決定に否を申すか!」
「そう言う訳ではございません。僕はルクブルが留守の間、アレクサンドラ嬢を守るように約束しています!もう少し、アレクサンドラ嬢の心に寄り添って頂きたいのでございます。あと数日ですが、どうかそれまではお待ち願えないでしょうか。ルクセブルは、彼は我らの用命を受けて出たのではありませんか!」
〝チッ、ダナジーのヤツめ。ここで言質を取っておきたかったのだが、仕方あるまい。〟
国王は渋い顔をしてそう思った。
「わかった。あと数日の問題だ。今回は儂が引こう。下がってよいぞ、アレクサンドラ嬢。」
「は、はいっ、陛下。失礼致します。」
深くお辞儀をしてからカーテシーをした。
「ダナジー殿下、ありがとうございます。」
ダナジーは手で「よい。」と仕草をして頷き、アレクサンドラに早く退出するように今度は手を振り払う仕草を見せた。
アレクサンドラはダナジーにカーテシーを披露してから退出した。
〝ルク様…!あなたがお頼りになったダナジー殿下が守って下さったわ!〟
アレクサンドラはダナジーとルクセブルに、2人の幼なじみ以上の絆に感謝したのだった。
広間には国王とダナジーが残った。
「ダナジーよ、友達思いは良いが一国を治める者としては時には非情にもならなければならぬぞ。」
「父上、私はそうならないように務めて参ります。」
「ふん!そんな綺麗事が通れば苦労せん。」
そう言い残して国王は退出した。
ダナジーはその場でしゃがみこんだ。
ご覧下さりありがとうございます。
ルクセブルもアレクサンドラもそれぞれ試練にあいますが、かろうじて回避出来ました。
アレクサンドラは国王も絡んでいる為中々勇気がいります。
初めてのライトノベルですが完結済みですので今後もご覧下さると嬉しいです。
お楽しみに!




