第 5話:逸る気持ち「あなたに会いたい…」
このお話はフィクションです。
ある日の昼過ぎ
自分の部屋の窓際で壁に寄りかかりかながらお気に入りの本を読んでいたルクセブルの手が止まった。
そして窓から見える母ご自慢の庭園を眺めながら呟いた。アレクサンドラ嬢は花が好きだと言ってたいたのを思い出したのだ。そうすると彼女に無性に会いたくなった。前に彼女の顔を見てから2ヶ月見ていない。せっかく婚約したのに…。
「半月後まで彼女に会えないのか…。」
少しの間庭園を眺めていたが、何かを思い立ったのか、手に持っていた本を机にガサッと置いてルクセブルは部屋を飛び出した。
「ルクセブル様!どちらへ?」
廊下で出会った執事が問いかける…。
「少し遠乗りしてくるよ!心配ないよ、ふが近くだから!」
そう叫んでルクセブルは厩舎へと向かった。
「わかりました。お気を付けて!」
執事がそう声を掛けてお辞儀をしていた。
ルクセブルは振り返りはしなかったが軽く手を挙げて応えていた。
厩舎には何頭もの馬がおり厩舎長が管理している。
ルクセブルの愛馬、カールは毛の艶が美しく気性も優しい白馬だ。
「カール!おいで、出かけよう!」
カールの顔をなで、タテガミをなで挨拶をし
カールにまたがりそのまま領地を駆け出した。
〝また あの場所に行けば彼女に会えないだろうか…。〟
ルクセブルはそう思いながら逸る気持ちを抑えながらカールの手網を引いて駆け出した。
侯爵邸を抜け出し森へと駆け抜ける。
優しく囀る小鳥たち、春の温かさに青々と茂った木々から零れる光がキラキラと眩しい。そして頬を撫でて通り過ぎる風が心地よい。
もしかしたら…という期待感が高まり、ルクセブルはこの上なく興奮していた。
出会ったあの場所に近づいてくるとルクセブルの胸が高鳴ってきた。
カールから降りて近くの木に手綱を括るとゆっくりと泉に近付く。
〝どうか彼女がいますように…!〟
祈る気持ちいっぱいで心に願いながらその場所を覗き込む。
………!!
__さわさわさわ………
風が通り抜けた…。
とても冷酷に感じた。
「は…はは…。」
右手で自身の目を覆うかのような仕草をしながらルクセブルは拍子抜けした。
〝残念ながら人生そう上手くはいかないな…。〟
大きく〝はあー。〟とため息をついてその場に腰を降ろして座り込んだ。
そして目の前の泉を眺める。
「彼女に会いたいなぁ…。」
しばらくそう思いながら泉を眺めていたルクセブル。
彼女と出会った時の事を思い出しながら…。
天気も良く陽射しが暖かでとても心地よい。
少しうとうと…していたようだ。
話し声が聞こえてきたので目が覚めた。
〝寝てたのか…。ん?声が聞こえてくる…。このままだと恥ずかしいな…。〟
そう思って身なりを整えようとしているとその声たちはより一層近づいてくる。
〝女性の声だ…。失礼のないようにしなくては…!ん?近付いてくる…?〟
とても楽しそうな朗らかな声…!!
〝ま、まさか…!!〟
がばっと立ち上がる!
「きゃっ!」
驚く声の主。
「ああ…!」
ルクセブルの顔からは笑みが零れた。
「?!ル…ルクセ…!アルクレゼ小侯爵様?」
声の主が喋った。
侍女を伴った女性はルクセブルの思い人、アレクサンドラだった。
〝あぁ…やっと会えた!今日も彼女はとても可愛い…〟
優しい眼差しで彼女を見つめるルクセブル。
「アルクレゼ小侯爵様?ここで何をなさってらしたの?」
そう声を掛けたアレクサンドラは淡い水色のドレスを見に纏っていた。その色は優しくアレクサンドラによく似合っていた。
少し見惚れてしまったルクセブルは気を取り直してアレクサンドラに挨拶をする。
「アレクサンドラ令嬢。驚かせてすみません。」
「ええ、驚きましたわ。クスッ。」
アレクサンドラの中ではこんなに慌てるルクセブルを目の当たりにしたのは驚きもしたが
〝きっと誰もあのアルクセレゼ小侯爵さまがこんなに慌ててる姿を見ることもできないんだわ。〟
と、得した気分になったのだ。
「実は貴女に会えないかと…来てみたのです。」
「まあ、私にですか?」
アレクサンドラは顔を赤らめて持っていた日傘をキュッと握った。
チラッと侍女の姿を探したが見当たらない。
きっと婚約も決まって気を利かせたのだろう。
「この度は婚約の話を受けて下さってありがとうございます。突然で驚かれたでしょう。」
ルクセブルは丁寧にお礼を述べて話をしだした。
「ふふふ。そうですね、とても驚きましたわ。社交界でも引く手数多な小侯爵様ですもの。父上なんかはもう大変でしたのよ?ふふ。」
大変と言う言葉とは裏腹にアレクサンドラは楽しそうに話をした。
「そうなんですね。はは…。」
「良かったらこちらで泉を眺めて少しお話しませんか?」
「ええ。喜んで。」
泉の前に座ったふたり。
「ふふっ。ここに来ると思い出しますわね。あれから2年経ちますのよね?」
「覚えていましたか?僕もあの時の事が忘れられません。」
その後ふたりの話が弾んで泉の周りにはふたりの楽しそうな声しか響いていなかった。
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