第44話:ラナペルの覚醒!
いつものように朝、ラナベルほケイン(ルクセブル)の元にやってきた。
「ケイン!ケイーン!」
いつもならまだ起きて間も無い様子なのだが、今日は部屋にいない。
おかしいなと思いつつ家の中を探すもいない。
〝こんな朝早くからどこにもいかないはずだし……。〟
そしてふと、倉庫のことが気になった。
〝まさか!〟
慌てて倉庫に向かうとそこにあったはずの服と剣がなくなっており、代わりに今まで来ていたケインの服が落ちていた。
その状況を見て咄嗟にラナベルは悟った。
「ああ………っ!」
その場に崩れ落ちるラナベル。
「いつか、いつか!こんな日が来ると思ってたのよ!分かってたの!でもっ!でもっ!!」
ずっとそのまま泣き崩れていた。
どれだけ泣いていたかわからない。
ふと、近くのテーブルにメモがあるのに気付いた。
「え?」
〝親愛なるラナベル-
僕は君のお陰で命を救われた。君のお陰で元気に回復した。君がいなければ僕は元に戻る事がなかった。とても感謝している。
感謝という言葉では足りないくらいだ。
君と過ごしたこの数ヶ月は本当に楽しくて幸せだった。ありがとう。
僕は僕を待つ人達の元に帰ることにします。
どうか僕の事は忘れて素敵な男性と幸せになって下さい。
あなたは僕の最高の憧れの女性だった。
-あなたのケインより- 〟
「ケイン…。思い出したのでしょ?本当の名前くらい書いてくれてもよかったじゃない…。」
ラナベルはそのメモを持って百合畑へと向かった。
「本当は知っていたのよ。ケイン、あなたがここで佇む私を見ていた事。ねえ、もう一度そうやって私をみてよ!」
震える声でラナベルはそう言った。
足元にある全然咲かない百合の蕾にラナベルから溢れた涙が零れ落ちて当たった。
──────その時───!!
蕾がゆっくりと開いていった…。
ラナベルの足元から順に静かに、だけど勢いよく蕾たちが咲いていくさまが広がっていく…。
「えっ?」
泣いていたラナベルも驚いた!
あんなに…どんなに工夫しても自分の代になってから蕾のまま咲かなかったユリたち。
ぱあ────────っ
と、どんどん咲いていく。
不思議なことにユリが無かった部分にまで種が飛んでいき、すぐに成長して花が咲いたのだ。
畑と皆に揶揄されていたのに
「これが……!!これが百合の薗!!」
ラナベルは感動したのだった。
失恋してとても悲しくてどん底ではあったものの、ようやく花を咲かす事が出来たのだ!
「ふ…ふふふ………、皮肉ね。悲しいのに、悲しくて堪らないのに花がやっと咲いて嬉しいなんて…。」
ラナベルはしばらくそのゆりたちを眺めていた。
そして初代の百合の園の番人「ルル・リリーマリア」が現れた。
「ラナベル、よく百合の花を咲かせましたね。苦労したでしょう。このユリの花は口伝によって伝わります。求めてきた者には分け与えなさい。この花はあなたが死ぬまで枯れません。これよりあなたは不死の身体となりました。次の世代をあなたが産み育てるまでずっとです。
あなたが沢山の感情を自身の中に育てた結果、百合たちに認められたのです。いいですね、大切にこのあなたのユリの園を守りなさい。」
「初代ルル様。しかし私が不死の身体だなんて…!」
「この園は代々女性が継いできました。あなたも自身の心で感じているはずです。どうか大切にしてください。
「もし、あなたが人間に恋をしたならあなたの足元にあるあなたの涙が最初に当たった始まりの百合を相手に煎じて飲ませなさい。
それまでの記憶を無くしてあなたとの日々を夢見るようになるでしょう。そうして次の世代を産み育てるのです。次の世代が15歳になると管理人は引き継がれます。その時にあなたは歳を再開し始めます。つまり不死ではなくなるのです。今のあなたのユリたちは次の世代が咲かせた時に蕾に戻るでしょう。」
そう言い残して初代百合の薗の番人は消えた。
永遠に咲くユリなんてない…
つまり、管理人は次世代に引き継ぐまで不死であるため、そのように伝わっているのだろう…。
ラナベルは百合の薗を管理する番人として、服まで変わっていた。
「これでは…、この薗を守らなければならないのなら、あの人を追いかける事すら出来ない…!」
ラナベルは悲しみを感じたが少し考えて唇をギュッと噛んだ。
そして立ち上がり自分が咲かせた百合の薗をゆっくりと見渡した。
一族にずっとバカにされて来たが、ようやく咲かせることに成功したのだ。
これからは番人として守るしかない!と腹を括った。
あの人の事は忘れない…。
ずっと私の中で、この思いを育てていくわ…。
あの人以外に恋をしないわ。だからこの花たちは枯れることなく咲き続けるでしょう。
そんなラナベルを咲きたての百合たちが優しく慰めるかのように揺れた
◆ ◆ ◆
こちらはポルモア王国のアレクサンドラ。
ルクセブルの記憶がないこと、戻ったことを含めて何一つ情報がない中、自分で集めようと躍起になっていた。
もちろん、王室でも王太子ダナジーの指揮の元調査は行われている。
そんな中、近隣国の王太子がお忍びでやってきていると噂が広まった。
「接待役をアレクサンドラ嬢がされるなら任せても安心だな。」
と、王室の判断なのだが、ルクセブルがこのまま行方不明であれば春の終わりの日に婚約破棄となる。そうすれば今度は自動的に近隣国の王太子の婚約者となるかもしれないのだ。
それは国にとっても、アレクサンドラにとっても悪くない話だ。国王は乗り気だ。
ただ、アレクサンドラを除いて…。
そしてルクセブルをよく知る周りの人間は皆複雑な気持ちだった。
フレシアテ家にビリー王太子からの馬車が到着した。
アレクサンドラが乗り込もうとすると
ビリーも同席していた。
「ビリー王太子様、そのお姿は…?」
その服装を見てアレクサンドラは驚いた。
「ああ、アレクサンドラ令嬢。あなたもこちらの服を着て来てくれないかい?普段の私たちの服装では街中は目立つからね。」
「あ、はい。わかりましたわ。少々お待ちください。」
「ああ、大丈夫だ。あなたと共に出られるならどれだけでも待てるぞ?」
その言葉にアレクサンドラは顔が赤くなった!
〝いやだわ、王太子殿下ったら!〟
そうして急いで着替えてきた。
「ふふ、似合うね、そういう服も。」
「お褒め頂き?ありがとうございます。」
「ああ、いいよ、そんなに畏まらなくても。楽にしてくれ。」
「はい。」
「それから、これから先、街中では私の事を〝ビー〟と呼ぶように!私もあなたのことをサンドラと呼ぼう。」
「わかりましたわ。ビー?」
「馴染むのが早いね。いいよ、そういうところも気に入った!」
「は、早く街中へ行きましょう?」
アレクサンドラは王太子ビリーに振り回されていた。
「ああ、馬丁、街中やってくれ。」
そうして馬車は街中へと走って行った。
◆ ◆ ◆
その頃、記憶を取り戻したルクセブルは記憶を失う前、つまり事故に遭う前に居た場所に戻ってきていた。
運良くそれまでに魔物に出会わずに済んだ。
〝聖剣、君のおかげだよ。僕が無事だったのも記憶を取り戻せたのも、そしてここまで無事だったのも…。あとは皆と合流するまでだ!〟
あの時とは違い雪がない分山道も歩きやすくなっていた。地図はない。だが、西に向いて進んでいたのを覚えていたため、陽の傾きを見て西を目指していた。
「ここら辺は何故こんなにも焼け野原のようになってるんだ?もしかしたら魔物との対戦の跡なのかもしれないな。」
そう、ルクセブルが辿り着いた場所は中級魔物ブラクトと皆が戦った跡地だった。
「この焼け跡から考えるとそんなに日は経っていないのかもしれない。ヨシ!もうすぐ皆と合流できるぞ!」
ルクセブルは確信を持ってその後もどんどん西へと進んで行った。
途中で赤いリボンに気付く。
〝ハッ、これは!〟
進むたびに規則正しくリボンが巻かれてるのを発見する。
〝そっか、スアン殿が万が一のために付けてくれてたんだ!これがあれば迷うこと無く皆に追いつける!ありがとう、スアン殿!〟
ルクセブルの歩みは早まった。
ご覧下さりありがとうございます。
今回ラナベルの正体が判明しました。彼女の苦悩もルクセブルに恋をする事で覚醒したのでした。
このお話の題名にもなっているキーワードのシラユリ。そして題名の「永遠に咲くシラユリをあなたに…」はどういう意味を持つのか…。
今後の展開をお楽しみ!
初めてのライトノベルですが、完結済みですので今後もご覧下さると嬉しいです。




