第30話:魔物たちの習性?暫しの休息
ポルモア王国ではアレクサンドラを気遣い、レルロアを始め、ナハムとミルマが定期的にお茶会を開催したり、伯爵邸にやって来たりしてくれていた。
彼女らがいない日はステファニ公爵夫人がラモニア侯爵夫人とともに公爵邸に呼び出すのだった。きっとレルロアが裏で仕切ってくれているのだろう。
皆の気遣いのお陰でアレクサンドラは不安な気持ちに浸る余裕すらなくなっていた。
〝皆さんのお気持ちはとても嬉しいのだけれど、ルクセブル様を思う時間が削られてるわ。私はルクセブル様を信じているから大丈夫ですのに…。でも、こうして気にして下さる方々がいるからこそ不安にならずにすんでいるのかも….。〟
アレクサンドラは皆の気持ちに感謝した。
はぁっ…。
自分の部屋で外を眺めていたアレクサンドラ。その窓に息を吹きかけると白くなった。
「もうすっかり冬ね…。ルク様と離れてもう3ヶ月過ぎようとしてるのね…。ルク様…。寂しいですわ。早く無事に帰っきて…。」
窓にコツンと額を付けて呟いた。
外は雪が降り始めた…。
「綺麗…。積もるかなぁ…。」
しばらくそのまま様子を見て
「ルク様たちはここよりも南側にいてもきっと山の中だろうから、もう雪に遭ってるのかもしれないわね…。山の雪は…大変よね…。大丈夫かしら…。」
遙か彼方のルクセブルを思いながら心配し、少し落ち込んだ。
「ん~~~!ダメダメ!こんなんじゃ、ルク様に顔を合わせられないわ!大丈夫!きっと無事に戻ってこられるわ!」
キュッと唇を噛みしめて外を眺めた。
遠く…遠く…ルクセブルの向かった南へと…
◆ ◆ ◆
「ふぅ~~~~~~っ!寒っ!!」
吐く息が白くなっている。そう、山の中だから南側であってももう雪は降っていたのだ。
ザク、ザク、ザク…、
捜索隊の歩く足音が雪を深く踏み込んでいるのがわかる。
ピカッタの群れに遭遇して以来、今のところ他には何も遭遇せずに来れている。
「魔物たちも雪や寒さは苦手なのか?!」
ふとニコルが言う。
「さあな、僕もちょっとそれを思っていたところだが…。」
ルクセブルがそう答えると周りをキョロキョロしだした。
「ん?どうした?」
「……………。」
誰かを発見したようだ!
「ごめん、ニコル!あの方に聞いてくる!」
そう言ってルクセブルは走り出した。
「スアン騎士団長!!」
ルクセブルの声にスアンが振り向いた。
「どうされましたか?ルクセブル殿。」
「スアン騎士団長にお聞きしたい事があります!」
「はい、なんなりと。」
「魔物は冬、寒さに弱いとかあるんでしょうか?」
「………ああ、種別によりますね。大物クラスになると寒さも関係なく出回りますが、ヤツらは賢いので滅多に人里には現れません。中級クラスのブラクトあたりはちょっと厄介だと思います。」
「ブラクト?」
「はい、こいつもピカッタのように空を飛びます。低周波は吐きませんが、なにせ素早いので….。まあ、ガガール以外は空飛ぶのが普通なので油断できませんね。ですが身体が濡れるのを嫌うので雪の日は比較的安全ですよ。」
「そうか、雪の方が安全なのか。」
「ええ、今のうちに移動したり、食料の確保や武器を備えたりしときましょう。」
「わかった。ありがとう!」
「こちらこそ、ご協力ありがとうございます。」
コクンとルクセブルは頷く。
「もうすぐ滝があります。そこで休憩がてら食料と武器調達を行いましょう。」
「ああ、助かるよ。皆に伝えてくれ。」
「はい、承知しました。それでは失礼します。」
スアンはそう挨拶をしてルクセブルの傍から去った。
少し離れた所で2人のやり取りを見ていたニコルは
「俺、スアン殿はちょっと苦手なんだ…。」
「?ニコルにも苦手とかあるんだ?」
「俺だって普通にあるんだよ、奴は真面目すぎんだ!」
「ハハハ!知らなかったよ。その事、テルは知ってるの?」
「は?親父?!知るわけないだろ?」
「ふぅ~ん、案外バレてると思うけどなぁ。」
「はぁぁぁ?んなこたないよ。」
調子にのって勢いよく話をするニコル。だが、
「ワシがどうしたと?」
「うわぁーっ!親父?!」
2人で話をしてると思っていたらいつの間にか近くにニコルの父、テルが傍にいたのだ。
自分の名前が出てきたから声を掛けたようだ。
咄嗟の事で狼狽えるニコル。
剣の師でもある父にはどうやっても逆らえないのだ。
周りからクスクスゲラゲラ笑う声が聞こえてくる。
不思議なことにテルの周りには人が絶えた事がない。多分、彼の人柄によるものだろう。彼の行動のスピードに皆が自然と合わせているのだ。
ニコルにはまだそれがない。若さゆえの暴走さが邪魔しているのだろう。かと言って皆がニコルを嫌っている訳でもないのだ。このままニコル自身が経験と知識を重ねていき、人を導く力を身につければいずれテルのような偉大な剣士になるだろう。
「雪の方が安全….。つまり、春になると本格的に活動すると言うことだ。」
そう呟いたルクセブルの肩に〝ポン〟と手を置いた人物がいた。
ルクセブルがその方向を振り返り見ると父、グラナスがそこにいた。
「父上…。」
「魔物たちの性質に気付いたのか?なら今のうちに武器を沢山作って食料も確保しとけ!」
ルクセブルはコクンと頷き
「はい、父上!」
と返事をした。
ずっと張り詰めていたものが少し緩んだ瞬間だった。
正式に騎士になってすぐに魔物討伐のための捜索隊として属し、途中出くわした魔物たちは退治していくという、訓練ではなく実践にて経験を積んでいくのだ。
ひとつ間違えれば自分はおろか、家臣も全滅するかもしれない。そう考えると流石のルクセブルもずっと緊張していたのだ。
いくら聖剣の持ち主で剣の加護があったとしてもそれは自分にしか発動しないのだ。家臣たちには効かない。
「ルク~~~っ!おーーーい!」
遠くから名前を呼ばれている。誰か…なんて確認するまでもない。声の主だからじゃない。こんな呼び方をするのは1人しかいないからだ。
「ニ・コ・ル!」
流石のルクセブルもニコルに講義した。
だが、肝心のニコルには効果がなかったようだ。
「ハハハッ!なんだよぉー!俺とお前の中じゃないか!ほら、気楽に行こうぜっ!」
そう言ってニコルはルクセブルの背中をバーンと叩いた。
「ったあ~~~っ!」
ルクセブルにはわかっていた。これがニコル流の慰め方なのだ。落ち込んでいたら必ずふざけてやってくる。そしていつも以上にからかいにくるのだ。まあ…、ニコルの場合は普段からこんな調子だからそれが伝わりにくい人もいるが、幼なじみでもあるのだ、ルクセブルにはわかっていたのだ。
「ニコル、励ますにしてももっと違う方法ってあるだろ?」
ルクセブルは背中を押さえながら言った。
「はあ?俺は何にもしらねぇぜ?それよか腹減ったからメシ行こうぜ?親父がお前呼んでこいって言ってたんだ。」
「テルが?そういうの早く言ってよ、ニコル!」
「ハハハッ!行くぞ~~~!」
〝子供かっ!てくらい無邪気に…ふっ。〟
ルクセブルはニコルの前では悩んだり落ち込んだりするのが馬鹿らしく思えてきた。
ニコルだってスアン騎士団長と一緒でやりにくいだろうに…。そんな事微塵も感じさせない明るさにルクセブルは今日も救われていたのだ。
ご覧下さりありがとうございます。
アレクサンドラの寂しさを皆が紛らわすためにしてくれるのが嬉しいですね。
また、ルクセブルたちは魔物が冬には活動が鈍ると気付きます。暫しの休息に安堵しますが…。
このお話は完結済みですので今後もご覧下さると嬉しいです。




