第28話:トカチナ王国との和解
トカチナ国主催お茶会の当日
温室にセッティングされた会場は見事だった。
トカチナ国の伝統柄のテーブルクロスに花瓶、茶器や菓子を取り分けるお皿まで自国から持参したようだ。
飾られたお花の一部はどうやらトカチナ国のもののようだ。
茶会の席に案内されたナハム、ミルマ、アレクサンドラは〝ほぉ~~~〟と、簡単のため息が思わず漏れた。
そしてナハムとミルマは主催者であるトカチナ国の王女2人にまず挨拶をし、先日の非礼を詫びて深々と頭を下げた。
王女たちはまさか2人がお詫びをするとは思っていなくて驚いた。
「どうやらかなり反省なさったようね。謝罪を受け入れましょう。」
エイミー王女がそう言うと横でリズ王女も頷いていた。
「ありがとうございます。エイミー王女殿下、リズ王女殿下。」
そしてすぐに令嬢3人の元に向かい、同じように深々と頭を下げてお詫びをした。
こちらもびっくりしていたが両王女殿下も許していたし、不快ではあったが許せないとかそういうものでもなかったので3人も王女たちと同じように謝罪を受け入れた。
「私たちも謝罪を受け入れます。仲良くしましょう、ナハム令嬢、ミルマ令嬢。」
「ありがとうございます。」
「さあ、皆様着席なさって。お茶会を開始しましょう。」
「はい、王妃殿下。」
こうしてトカチナ国主催のお茶会が始まった。
最初はよく流通されている茶葉だ。
「こちらは先日アレクサンドラ嬢が出して下さった茶葉ですわね。」
リズ王女がそういう。
「私、この茶葉が特に気に入っておりますの。」
レルロアがそう言い、話を続ける。
「アレクサンドラ嬢、あなた…もしかして私に淹れる事があるかもしれないと勉強なさってたの?とても短期間では習得出来なくてよ?」
〝ああ、やっぱりレルロア様は何でもお見通しだわ。とても賢いお方だ。〟
「………。」
アレクサンドラは答えずにニッコリと微笑んだ。
そしてレルロアはフッと笑って
「私の失言だったわね。ふふ。」
と言った。
王族たちはみな、それで理解したのだ。
〝レルロアはもちろんだがやはりあの娘も中々やるではないか。あのレルロアと上手くやり取り出来ているではないか。これはこの先ひょっとしたら社交界を引っ張るようになるやもしれぬな。ふふふ。面白いの。〟
王妃はアレクサンドラを見つめてそう思った。
今度のお茶会ではナハムとミルマも3人の令嬢たちと上手くやれているようだ。時々賑やかに話が盛り上がっているようだ。
〝ふむ。キチンと心を入れ替えたようだな。それも全てあの娘のおかげか。面白い娘を選んだのだな、ルクセブルよ。〟
ルクセブルは我が息子と小さな頃から共に育ったのだ。王妃にとってはルクセブルも息子のような存在のだ。そのルクセブルが中々婚約者を選ばなかったことに王妃も気にしていたのだが、今回の事で全てを理解したようだ。
そうして茶会も終盤になり、主催者の代表ララが新しい茶を出てきた。
「こちらは当国最新のブランド茶葉でございます。より深みがあって香りも良くてお勧めです。低温で淹れておりますのですぐにお飲み頂けます。」
「ほぉー!そのような茶葉を!」
王妃はそのもてなしの心に痛く感心した。本来の正規ルートでは来年の夏前頃にしか入ってこないのだ。それをこんなにも早く試飲出来るのだから。
「ふむ、中々深い味わいで良いな。」
王妃の反応は良かった。
王女たちも満面の笑みだ。隣国の王妃に褒めてもらったのだから。
「職人にも王妃殿下のお言葉、伝えさせて頂きます。さぞ喜ぶ事でしょう。更に美味しい茶葉を開発する意欲となりましょう。」
エイミー王女が言った。隣でリズ王女もうんうんと頷いていた。
「ほほほ…!それは楽しみだわ。」
こうしてトカチナ国主催のお茶会も無事に終わった。
「明日はゆっくりして明後日、シタレン領内にあるシダレ山の泉にでも皆で行くが良い。天気も良さそうだ。」
「はい、王妃殿下。」
そうしてその場で皆解散した。
◆ ◆ ◆
そしてシダレ山に行く日、
王妃宮には既に馬車が4台用意されていた。
王族用と使用人用だ。使用人用には侍女たちと
ピクニックセットが積まれていた。
馬車には4人と5人に別れて乗ることとなった。
王女2人とレルロア、アレクサンドラの4人、トカチナ国の3人の令嬢たちとナハムとミルマの5人だ。
全員が馬車に乗り込むと馬車は出発した。
馬車には護衛騎士がそれぞれ付き添う。
アレクサンドラにも伯爵令嬢ではあるが、アルクレゼ侯爵家と婚約している身である以上アルクレゼから護衛騎士が選任された。
トカチナ国はそれぞれが護衛騎士を連れての入国だった。
ガラガラガラガラ……
馬車はゆっくりと進み、王都からシタレン領に入った。
もう間もなく冬が、やってくる。
シダレ山を登っていると山頂付近はもう木が枯れて冬の準備しているようだ。
「あら、思った以上に寒いかもしれませんわね。」
自領なので皆に冬の装いをさせたがそれでも少し寒いかもしれないとレルロアは思った。
「お気遣いなく、レルロア嬢。私たちの国はこちらの領地よりも北側ですので寒さはあまり変わりませんわ。」
〝いくら北側だと言ってもこの山の標高に比べたら…〟
「ありがとうございます。そのように仰って下さって救われます。」
そう、王女はレルロアに負担を感じさせまいと敢えてそのように言ったのだった。
山頂付近の泉のある目的地に到着した。
皆馬車から降りて辺りを散策する。
思ったよりも寒かったため、近くのシタレン公爵家管轄のロッジにてピクニックの代わりに休憩することになった。
準備は付き添った侍女たちだ。
泉の周りを散策してる途中、眺めの良い場所にも立ち寄った。
王女たちと3人の令嬢はその眺めには大喜びだった。なんと!そこからは自国、トカチナ国が見えるのだ。しかも王城が薄らと見えたのだ。
「見えまして?お姉様!私たちのお城が遠くに…!!」
「ええ、見えるわね!リズ!凄いわ!!」
「見えて良かったですわ。曇ってると流石に見えないので…。」
「これはまた素敵な思い出となりましたわ。ありがとうございます。レルロア嬢!」
「とんでもないです。エイミー王女殿下。」
「あら、あなたも私たちが見分けられて?」
「ふふ。」
両王女はニッコリ笑って
「寒くなってきたから暖まりに行きましょう。」
と言って歩き出した。
全員でロッジに戻り暖を取る。そしてお互いに茶を楽しみ色々な話をして盛り上がった。
「今回、この場を作って本当に良かったわ。」
「私達も皆同じ思いです。」
「早いものでもうすぐ帰国だわ…。」
9人はそれぞれ感慨深いようで少し黙ってしまった。
茶会を終えて帰りの馬車に乗り込もうとした時、雪が降ってきた。
「まあ、雪だわ!」
「今年初めての雪です、王女殿下。」
「ふふふ。それは素敵な思い出に素晴らしいスパイスね。」
その場にいた全員が微笑んだ。
そして馬車に乗り込み、王妃宮へと戻って行った。
「明後日の送別パーティーは私たちも参加しますのでまたお会いしましょう。」
ナハムとミルマ、アレクサンドラがトカチナ国の令嬢たちに挨拶をした。
◆ ◆ ◆
送別パーティー当日
「皆様、長い間お世話になりました。お陰様でとても楽しい時間を過ごせました。」
エイミー王女殿下がそう挨拶をした。
「私たちにとって、とても貴重な時間でしたわ。ありがとうごさいました。」
続いてリズ王女殿下も挨拶をした。
それに伴って3人の令嬢たちもお辞儀をした。
「もう10日経つのか…。早いものだな。良い時間を過ごせたようで何よりだ。父王陛下にも宜しく伝えて下され。」
「はい、陛下。」
トカチナ国の王女と令嬢たちはカーテシーを行う。
「よい、今宵は送別パーティーだ。楽にして過ごして下され。さあ!ダンスパーティーも始めるぞ!音楽を!」
サッとホール中央が開けて代わりに王太子ダナジーとレルロアが出て来た。ダンスパーティー開始のダンスは王族が行うのだ。
曲が流れ2人のダンスが始まった。いつもながらに華麗に舞うように踊るレルロアに男女構わす誰もが見とれていた。
そして華麗にステップを踏むダナジーには女性陣の視線が集まった。
〝本当にお似合いの2人だわ。〟
見る者皆がきっとそう思うだろう。
そうして2人のダンスが終わり、次のダンスになる。
「レルロア嬢、少し殿下をお借りしても宜しくて?」
エイミー王女が声を掛けてきた。
「勿論でございます。」
即答するレルロアに少しシュンとするダナジーだが、交流の場、表情に出さずに
「光栄でございます。王女殿下。」
そう返事をしてホール中央へと向かって踊り出した。
レルロアは黙って2人のダンスを見ていた。
「レルロア嬢、姉がすみません。」
「…………?」
「二人を見てモヤっとしてはないですか?」
「ふふっ。楽しそうで良かったと思っておりますわ。」
「そうでしたか。では、私も記念に殿下をお借りしても?」
「……!」
「やっぱりダメでした?」
「いいえ、少し驚きまして…。ダナジーのどこがよろしいのかと……..。」
「まあ!レルロア嬢ったら、彼の魅力に気付いてないだなんて…!!まあいいわ。あ、終わったみたいなので行ってきますわね。」
「……………。」
ポツンと残されたレルロアは考えた事もなかったが目の前で自分をこよなく愛してやまないと断言している男が他の女性と楽しそうに踊っているのだ。
段々と心がモヤモヤしてきた。
〝な…なんなの?このモヤモヤは…。〟
そうしてパーティーは無事に済んで翌朝、王女たちの帰国の日となった。
「気を付けて帰られよ。ここを第2の故郷だと思って、またいつでもくるが良い。」
国王がそう言い
「そうね、また来てちょうだい。楽しかったわ。道中気をつけて」
王妃もそう言った。
「光栄でございます。陛下、殿下。」
エイミーとリズが答えた。
「名残惜しいですわ。王女殿下方。」
「私たちもだわ、レルロア嬢。それに…。」
「あなたたちもね!」
「私たちもです。殿下方。」
ナハム、ミルマ、アレクサンドラは深々とお辞儀をした。
そうして5人は馬車に乗り込んだ。
手を振って……
馬車が宮殿を出るまで皆で見送った。
〝どうか…無事にお帰りになりますように。〟
王妃がアレクサンドラたち3人に向かって
「よくぞ立派におもてなしをこなしてくれた。礼を言う。今回の事をそれぞれの今後に活かしていくように。今後も楽しみにしているわ。」
「ありがとうございます。殿下。」
3人は深くお辞儀をした。
王族はそのまま宮殿内へと戻って行った。
無事…交流会は終了したのだ。
「アレクサンドラ令嬢、無事に済みましたね。約束通り愛称で呼んでも?」
ナハムが言ってきた。
「もちろん……!」
アレクサンドラはニッコリ笑ってそう答えた。
チラ…チラ……と雪が降り始めた。
「まあ…、王都でも雪が降り始めたわ。」
3人はその場で雪を眺めてこの10日間を振り返っていた。
〝もう………、ルク様が立たれてからふた月が過ぎようとしているのね….。大丈夫なのかしら…。あちらの冬は…。〟
アレクサンドラはまだ何も情報が無いことにそろそろ不安になってきた。こうして令嬢たちと話をしたりしていれば気も紛れるが、本心は不安で堪らないのだ。
〝ルク様、あなたがいない間に私、沢山の事をこなしましたわ。早くあなたに伝えたい…。どうか無事で1日も早く戻って来て…。〟
アレクサンドラは雪に祈るような気持ちで見つめていた。
ご覧下さりありがとうございます。
無事、ナハムとミルマもトカチナ王国の貴賓に謝罪出来て皆で有意義な時間を過ごす事が出来ました。
こうしてアレクサンドラは苦手な社交界も何とか乗り越える事が出来ました。
このお話は完結済みですので今後もご覧下さると嬉しいです。




