第26話:意外な行動に驚き安堵するアレクサンドラ
交流会のお茶会が無事済んで、貴賓と王族が退席したあとの話、ナハムとミルマがアレクサンドラの元に近付いてきた。
いつも批判ばかりされるので思わず身構えるアレクサンドラ。
しかし、このままいつものように見下されてばかりで良いのかと自問自答して、自分を奮い立たせていた。
2人がアレクサンドラの前まで来て立ち止まった。そして2人はジッとアレクサンドラを見つめ
「ごめんなさいっ!」
と、2人して勢いよくバッと頭を下げた。
「えっ?」
意外な2人の行動に驚きを隠せないアレクサンドラ。
アレクサンドラが驚いているのにも関係なく2人は続けた。
「さっきのお茶会が無事成功したのはあなたのお陰だわ!あなたがいなかったら私たちとてもじゃないけど怒らせてしまったと思うわ。」
「そうよ、あなたのお陰よ、私たちあなたを侮辱していたこと、謝るわ!」
「…………。」
アレクサンドラはずっと2人の言う事を聞いていた。と、いうよりも2人が勢いよくて言葉を挟めなかったというのが正解だろう。
「あなたのこと、よく知りもしないのに感情のままにあなたを侮辱してしまってごめんなさい!」
「…………。はぁ……。」
アレクサンドラは小さくため息をついて、
「もう顔を上げて下さい、ナハム様、ミルマ様。」
「………!!」
アレクサンドラの声に驚いて慌てて顔を上げる2人。そんな2人をじっと見つめてアレクサンドラは続けて言う。
「確かに、お2人のされた事は悲しかったし辛くて正直怒りを覚えました。謝られても到底許せません。しかし、それをいつまでも抱えていては何も生まれないと私は思っております。だからお2人をお助けしました。こうして改心して下さったのですから私はお2人を許します。」
「………!本当に酷い事をしてしまったわね私たち、許してくれてありがとう。」
「ふふっ、これからは仲良くして下さりますか?」
アレクサンドラが微笑みながらそう言うと
「ええ、喜んで!」
2人は勢いよく答えた。そうしてアレクサンドラは初めて2人の笑顔を見た。
ナハムとミルマは改めてアレクサンドラの懐の広さに敵わないと思い、尊敬を抱いた。完全なる敗北だ。だが、不思議と気持ちは晴れやか
それから2人がアレクサンドラに問う。
そしてどうして茶葉を持ってたのかと。
流石にレルロア懐柔作戦に買った時の伝手だとか、淹れかたもその時に母から習ったなんていえる訳もなく誤魔化した。まさか、こんな事で役に立つとは思ってもいなかったのだ。
会場はそのままだったので3人はその場でお茶会を開いた。茶会というよりはただの団欒だ。
「もう1度あのトカチナ国のお茶が飲みたいわ。私にも淹れ方を教えて下さる?」
「私も!お願いしますわ、アレクサンドラ嬢。」
「では、見てて下さいね。トカチナ国のお茶は低い温度で淹れます。そして蒸らし時間を我が国の茶葉よりも少し長くします。温度が低いから長めにしないと風味も味も出にくいんです。」
「なるほど、茶葉ってみんな同じだと思ってましたわ。」
「私もです。」
「そうなんです、私もお母様から教わった時に思いましたの。もしかしたら他の国の茶葉も独特な淹れ方があるのかもしれませんわね。」
「そうすると今回の交流会も楽しみになりましてよ。ね、ミルマ。」
「そうですわね、ナハム。」
「アレクサンドラ嬢!今回の交流会が無事に済んだら私たち、あなたのことを愛称でお呼びしたいのですが、かまわないかしら?もちろん、私たちのことも愛称呼びをしてもらいたいの!」
「…………!!」
「私も同じ気持ちよ、ぜひお願いしたいわ。」
ナハムとミルマはかなり心を開いたようでアレクサンドラに互いに愛称呼びをしたいと言い出した。
これは同時に2人に認められたということを意味する。
「わかりました。その時はぜひ、お願いしますわ。ナハム様、ミルマ様。」
アレクサンドラはそう答えた。
今すぐ愛称呼びをしようと言わないのはそれだけの事をしてきたということを踏まえて交流会が終わるまで自分たちを見て欲しいという気持ちからだ。アレクサンドラはそんな2人の思いを汲み取ってそう答えたのだ。
「ふぅ~、少し寒くなってきましたわね。」
「もう冬が近いですものね。」
ナハムとミルマが会話する。
「…………。」
アレクサンドラは黙ったままだった。
「アレクサンドラ嬢?寒くなってきましたし、そろそろお開きにしましょう?」
「………?アレクサンドラ嬢?」
〝ハッ〟と我に変えるアレクサンドラ。
「あ…、ごめんなさい。そうですわね、お開きにしましょう。」
「………。」
ナハムとミルマは互いに顔を見合った。
〝きっとルクセブル様のことを思ってたんだわ。もうひと月過ぎたもの、心配よね。〟
2人はそう思った。
しかし、アレクサンドラが口にしないのだから敢えて自分たちも口にはしなかった。
「明日はお休みで明後日またここ(王妃宮)で集合ね。」
「ええ、また明後日。」
そう挨拶をしてアレクサンドラは2人にカーテシーを披露しようとした。
「もうっ!私たちだけの時はそれは必要ないわ!」
「そうよ!私たちはあなたを認めてるんだから!」
「あ、ありがとうございます。ナハム様、ミルマ様。」
2人は照れくさそうにしていた。そうしてその日は宮殿を後にした。
馬車がフレシアテ家へと戻る。
「お帰りなさいませ。お嬢様。」
「ただいま戻りました。執事長、お母様はお部屋?」
「はい、お嬢様をお待ちです。」
「そう、ありがとう。」
アレクサンドラはニッコリ笑って母の元へ向かった。
コンコンコン!
「お母様、アレクサンドラです。ただいま戻りました。」
扉が開いて母マリアンヌが直接出迎えた。
「おかえりなさい、アレン。その様子だと無事終わったのね。」
「はい、お母様のお陰です。」
「……?」
母はキョトンとしていた。今回のお茶会の前には事前に何もしていなかったからだ。
前にレルロアとは和解した話は聞いていたが…。
そこでアレクサンドラは今日あった事を全て事細かく母マリアンヌに話した。
アレクサンドラの話にマリアンヌはハラハラしながら聞いていたが、次第に微笑みに変わっていった。
そしてアレクサンドラをギュッと抱きしめて
「頑張ったわね、アレン。」
そう言った。
「お母様…。」
母に抱きしめられてアレクサンドラは張り詰めていた気持ちが一気に解けていくかのようだった。
「ええ。ええ、お母様。お母様があの時教えて下さったから出来たことですわ。お母様、ありがとうございます。」
アレクサンドラも精一杯母に抱きついて、そして抱きしめた。
〝この子は…。大好きなルクセブル様が不在で心細いでしょうに…。〟
母はアレクサンドラの心情を読み取っていた。そしてそんな中で社交の場を見事自身の手で切り開いたのだ。それはとても誇らしいことだ。
「アレン、あなたは社交界が苦手でしたが、それを克服しましたね。よく頑張りました。私も胸を張って侯爵家に送り出す事が出来ます。」
「お母様…。まだまだ不安ですわ。今日はたまたま何とかなっただけでしょうし…。」
〝こういう引っ込み思案なところがたまに傷ね。〟
「アレン、自信を持ちなさい。それにこれからも私たちがついているわ。」
「………。はい、お母様。」
マリアンヌはコクンと頷いた。
「ルクセブル様たちもあなたに恥じないようにときっと頑張ってらっしゃるわ。あなたもトカチナ国の方々がお帰りになるまで、気を抜かないようにして、最後までやり遂げなさい。」
「はい、お母様。ルク様が帰られたら沢山お話が出来るように私の精一杯を務めて参ります。」
マリアンヌはニッコリと笑って頷いた。
泣き虫弱虫のアレクサンドラはもうそこにはいなかった。
代わりに「無事に戻る」と言ったルクセブルの言葉を信じて待つ少女がそこにいたのだ。
ご覧下さりありがとうございます。
いつものように責め立ててくるのかと思ったら意外にも謝罪してきたナハムとミルマ。驚きつつもアレクサンドラは2人を許しました。
これから2人はアレクサンドラにとってどういう存在になっていくのでしょうか。
このお話は初めてのライトノベルですが完結しておりますので今後もご覧下さると嬉しいです。




