第25話:窮地を救ったのは…?
テーブルを挟んでアレクサンドラはナハムとミルマを見ていてふたりの危機的状況を把握した。
2人には意地悪されて悔しかったけど、このままでは両国間の信頼にヒビが入りかねない。そう思うと咄嗟に名乗り出てしまっていた。
「恐れ入ります!お2人から賜り用意しております故、私が直ちにお淹れします。ご用意する為に失礼します!」
アレクサンドラはカーテシーをして給湯室へと向かった。
咄嗟の出来事にその場にいた者は皆シーンと静まってしまった。下手に口を出す暇さえ与えずその場を自然に退場したのだ、お見事としか言えなかった!
「ホホホ!見事だわ、そなたら2人、彼女に救われたのよ、感謝なさい!」
王妃は思わず大きな声で笑ってしまった。そして3人のチームワークが取れていない事にも気付いていたので2人の侯爵令嬢の窮地を救ったアレクサンドラに今後手出しせぬように遠回しに伝えたのだった。
流石の2人もアレクサンドラに救われた事は理解出来た。とても悔しいが、自分達の失態だ。更に用意する事すら考えていなかった入手困難な茶葉を用意していたという手際の良さにも頭が上がらないとその時に痛感したのだ。
階級が下の格下貴族だからとバカにしてきたが、自分たちの方が何も知らないのだと…。
そして準備が終えて茶を入れ始める。
〝え?どうして湯を冷ましてるの?え?どうして蒸らす時間が長いの?〟
ナハムもミルマも疑問に思ってアレクサンドラを見つめていた。
〝お母様に以前しっかりと淹れ方を伝授してもらって良かったわ。手順は合ってるからあとはリラックスして慎重に….。〟
アレクサンドラ自身、まさかあの時の事が今になって役に立つとは思っておらず、不安の中、しっかりと思い出しながら茶を淹れる。
そして王女殿下2人に出して、貴賓の令嬢3人、王妃殿下、レルロア、ナハムとミルマに出し、最後に自分に注ぎ着席した。
それぞれがアレクサンドラの淹れた茶を飲む。
「あなた、お名前は?」
エイミー第一王女がアレクサンドラに問う。
「はい、フレシアテ伯爵家のアレクサンドラと申します、エイミー王女殿下。」
「…!まあ、私たちが見分けられるの?」
「はい、エイミー王女殿下の目元には星のようなホクロがこざいます。」
「………!」
星のようなホクロ。それは星の形をしたという意味ではなく、女性は皆容姿を気にするので一般的にそのまま言うのではなく敢えて〝素敵なもの〟を例えにする。
「ふふふっ、私、気に入りましてよ?ねぇ、お姉様もでしょ?」
リズ第二王女殿下が言う。
「ええ、そうよ。よく、我が国の茶葉の淹れ方を知っていたわね。それにこの時期は入手困難でしょ?だからといってこの様子だと早くから取り置いていたものでは無かったはずよ?」
「はい、少しだけですが、勉強しました。茶葉も以前取り寄せた事がございましたので、その時の伝手で普段と変わりなく手に入れる事が出来ました。」
「その茶葉はあなたの機転であろう?その2人はあなたを邪険にしてるように見えたが?」
流石は第一王女、鋭い洞察力だ。しかしアレクサンドラは
「いいえ、殿下。私はお2人に頼まれて茶葉を手配していたのですわ。」
ニッコリと笑ってそのまま通す事にした。
余りにも堂々とした態度にエイミーは
「ふふふっ、!良いでしょう。あなたの言う通りだと言う事にしましょう。」
「さあ、皆様も!せっかくのお茶を頂きましょう!」
リズ王女がそう足した。
そうしてその場は上手く収まった。
アレクサンドラはレルロアと目が合った。
レルロアは静かに口角を上げて〝ふっ〟と笑った。
アレクサンドラは自分のした事が間違ってなかったと安堵した。
ナハムとミルマはそれ以降大人しくなり、ひたすら王族の会話に頷いたり、返事をするしか出来なかった。
そして王妃が提案した。
「トロファ嬢、ノトロフ嬢。」
「はい、王妃殿下。」
「交流会だからフレシアテ嬢と交代なさい。あちらの令嬢たちも持て成してきてもらえるかしら?」
「はい…。王妃殿下。失礼します。」
「うむ。」
「フレシアテ嬢!こちらへ参り持て成しておくれ。」
「……!! はい、王妃殿下。すぐに参ります。」
「まあ、アレクサンドラ嬢、残念ですわ。」
「とても楽しい時間でしてよ?」
「また、明明後日も楽しみにしてるわね。」
3人の令嬢たちはアレクサンドラに告げる。
「はい、私も楽しく過ごせました。ありがとうございました。ララ様、シャラ様、リリア様。明明後日、私も楽しみにしております。それでは失礼します。」
3人の令嬢たちに向かって深くお辞儀をしてその場を後にして王族席にと向かった。
3人の前にはナハムとミルマがやってきた。
「これより、私たちがおもてなしをさせて頂きます。ナハム・トロファです。こちらはミルマ・ノトロフです。」
2人はお辞儀をした。
「ええ、よろしくお願いしますわね。トロファ嬢、ノトロフ嬢。」
ポルモアもトカチナも自分よりも身分が低い者に「嬢」と付け、高い者に「様」と付けて呼ぶ。
先程の件でナハムとミルマは彼女らにとっては格下であると認定されたようだ。
ハマン公爵令嬢とシャラ公爵令嬢ならまだしも、同爵位のリリアにもそう思われている、3人の令嬢からの視線はそう物語っていた。
ナハムとミルマはここても肩身の狭い思いをするのだった。
「で?本当のところはどうなの?あなたちち、彼女に助けてもらったのではなくて?」
「いえ…、その、彼女にはサプライズを用意するように申し伝えたのです。ね、ナハム。」
「そうですわ、皆様方がお喜びになられるものを何か用意するようにと言ったのです。」
「ふぅ~ん、まあいいわ。この国のこと、何でもいいからアピールしてくれないかしら?それがおもてなしではなくて?」
「は、はい!」
そうして何とかその場は持ち直した。
アレクサンドラはそれらのやり取りを背中で聞きながら王族席へと向かった。途中、ハラハラしたけど何とか場が収まって一安心。次は自分自身がしっかりしなくてはならない。相手は王族だからだ。
アレクサンドラに緊張が走る……。
「お待たせ致しました。これからおもてなしをさせて頂きますアレクサンドラです。」
そしてカーテシーをした。
「ふふ、流石ね。あなたにはあの2人にはない礼儀正しさがあるわね。」
エイミー王女が言った。
「エイミー王女殿、フレシアテ嬢は我が国一番のマナーに厳しいステファニ公爵夫人のお気に入りなんですのよ。」
王妃が切り出した。
「まあ!どうりで!カーテシーも見事ですし、マナーとは何かを心得てると思いましたわ。」
「私も、そう思いましたわ、お姉様。おもてなしをする相手をよく見ていて感心しましたのよ。」
「あらまあ、これでは私の出る幕はありませんわね、アレクサンドラ嬢?クスッ。」
レルロアはそう言って笑っている。
「皆様方…、恐れ入ります。」
「そんなに固くならずともよい。リラックスして皆を持て成して頂戴。我々を普通の貴族と同じと思えば良いから。」
「王妃殿下、流石にそれは無理と言うものでしてよ?クスクス。」
「ははっ!そなたも言うようになったな、レルロア。今後が楽しみだわ。」
「恐れ入ります。ダナジー様とご一緒になる身、殿下に親しみを持つのは当然ですので。」
「ほほ~、人前で表情を崩さぬそなたがそうなるとは不思議だわ。」
「アレクサンドラ嬢は本当に不思議な魅力をお持ちのようですわね。あちらの席でも楽しそうに皆していましたし。」
「恐れ入ります、リズ王女殿下。有難いお言葉でございます。」
「そういえば、あのルクセブル・アルクレゼ様が婚約されたそうですが…?」
「そちらの国にも噂が届いておりましたか。その相手がこのフレシアテ嬢なのですよ。」
「まあ!そうでしたの?それは知らず、フレシアテ嬢、婚約おめでとう!」
エイミーとリズは揃って祝いの言葉を述べた。
「ありがとうございます、エイミー王女殿下、リズ王女殿下。王女殿下方にお祝いのお言葉を頂戴出来るなんて夢にも思わず感激してしまいました!」
「私たちの国からもアルクレゼ侯爵家へ確か打診があったはずですが見事に断られましたの。納得いたしましたわ。」
「…えっ?」
「あなたの婚約者様はそれだけおモテになるということよ。ふふ。」
「はい、ルクセブル様は素敵な方ですので…。」
アレクサンドラは段々顔が赤くなってきた。
「きゃあ~~~っ!甘いわぁ~~~!」
2人の王女たちは初々しい反応を見せるアレクサンドラに夢中で話を続けた。その様子を見て王妃はニマリと微笑んだ。レルロアも目を細め、口元が緩んでいた。
どうやらおもてなしは成功のようだ。
そしてそれから時間があっという間に過ぎて無事、交流会はお開きとなった。
皆が会場から退出したのち、ナハムとミルマがアレクサンドラに近付いてきた。
〝今度は何を言うつもりなのかしら…。見下されてばかりじゃダメよね。〟
アレクサンドラは気持ちを強く持って2人を見た…。
ご覧下さりありがとうございます。
今回は以前に母から教えをもらったトカチナ産茶葉の淹れ方を覚えていたアレクサンドラが2人の窮地を救いました。
そして同時に自身の価値を高めたのです。
ナハムとミルマは自分達が邪険にしていたアレクサンドラが自分達の窮地を救った事に戸惑っています。
初めてのライトノベルですが、このお話は完結しておりますので今後もご覧下さると嬉しいです。




