第 2話:幼なじみ兼護衛のニコル
このお話はフィクションです。
母との話が終わりルクセブルは自身の部屋に戻る。部屋の前で男が待機していた。
「ルク!久しぶりに剣を交わそうぜ?」
そう切り出したのは彼に仕える幼馴染でもあるニコルだ。
ニコルはタラン子爵の次男でルクセブルよりも4つ年上で騎士になったばかりだ。
幼少期よりルクセブルと共に父であるタラン子爵に剣を鍛えられていた。
20歳になって騎士の称号を受け、その後更に訓練を重ねて今や護衛を兼ねてルクセブルに仕えている23歳の若者だ。
陽気で負けず嫌いな性格はルクセブルにも大きな影響を与えていた。
まるで良き兄のように…。
2人で剣術所に向かい剣をとる。
今は見習い騎士たちは出払っているのだろうか、剣術所には誰もいなかった。
向き合う2人の表情は真剣そのものだ。
ジリジリと間合いをはかる。
どちらもひけをとらない緊張感だ。
タッ…!!
ルクセブルから挑んだ…。
カーン!キーン!…と
剣が交わる音がその場に響く。
2人の剣術はほぼ互角だ。
どれだけ2人が打ち合っていたのだろうか。
爽やかな風が舞う季節だというのに2人の額からは汗が流れている。
カーン!キーン!カーン!カッ!!
2人の剣が交わる音が止まった。
お互いに緊張感が高まる…!
至近距離だ!!
「全然衰えてないな、ルク!」
ニッと笑ってニコルが言う。
「ニコルこそ!また腕をあげたんじゃないか?
僕は必死だよ」
そう言ってルクセブルがニコルの剣を跳ね除けた。
そして2人の剣の交わる音が再開した!
サワサワサワ…
城内にある木々が風に揺れている。
その頃ルクセブルの母、ラモニアは夫であるグラナス侯爵にルクセブルの話をしていた。
ルクセブルの初恋相手のフレシアテ伯爵家へ求婚状を書いてもらうように訪ねていたのだ。
「そうか…。ルクセブルが…。こちらはいくらでも選びたい放題なのにな…。」
グラナスが葉巻を取り出して火をつけて咥えた。
ふーっと煙を吐き
「わかった。すぐに書いて明日には届けよう。フレシアテ家と言えば領地経営の評判がいいと聞いている。下級貴族である事が懸念されるが…。」
グラナスはラモニアにそう返事をした。
幼い頃から親の言うことを素直に聞いてきたルクセブルが頑なに譲らなかったのには理由があったのだと…いつの間にか大きく成長したと感じたグラナスであった。
あれからどれだけ剣を交わしたのだろうか。
見習い騎士たちも戻ってきて2人の対戦を見守っている。
「ルク!まだ降参しないのか?!」
〝今の動き、面白いな〟そう思いながら
少し息が乱れてきたニコルがそう言う。
「まだまだだよ、ニコル!次こそは決着をつけよう!」
そう答えるルクセブルも少し息が上がっていた。
ふたりは全身汗でびっしょりになっていた。
その時…!
カキーン!
剣が空を舞った…!!
シュルシュルシュル………!
回転しながらルクセブルの足元に落ちて地面に刺さった。
ドン…!!
「はあ…はあ……」
「君の勝ちだよ、ニコル」
そう、勝者はニコルだった。
「当たり前だ!お前に負けたら騎士の称号を受けた俺はどうなるんだ!」
そう言いながらニコルは大声で笑った。
「はははっ…!僕はそんな君が気に入ってるよ!」
見習い騎士の1人がルクセブルに駆け寄ってタオルを渡す。
「ルクセブル様もお見事でした!」
タオルを受け取り楽しそうに笑いながら答えるルクセブル。
「僕はまだまだだよ。また訓練をしに来るよ!」
その瞬間、
「次は私とお願いします!」
見習いたちの声がどっと重なった。
そして
「ルクセブル様の剣はいつも優雅で、見ていて飽きない」
「ニコル様の力強い剣筋は、僕たちの目標だ」
などと口々に言う者すらいた。
ルクセブルの人懐こい性格はどこでも発揮され、彼はいつも人に囲まれるような人間だった。
剣術所から去り際にルクセブルとニコルはお互いに話をしていた。
「ルク、本当に強くなったな…。油断したらすぐに負けるかもしれないと思ったぞ?こうして剣を交わせるのもいつまでだろうな。」
ニコルがそう言った。
「まだまだだよ、僕はいつかニコルに剣で勝つのが僕の目標だよ」
「お前ならきっと出来るさ!楽しみにしてるよ。」
夕焼けに染まる剣術所を後にする二人の後ろ姿には、互いの成長を喜び、未来への希望に満ちた光が宿っていた。それぞれの未来を見据えて歩む二人の後ろ姿は、言葉を交わさずとも互いの固い絆を物語っていた。
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