第11話:レルロアに会うために…
アレクサンドラの乗った馬車は陽が暮れてから伯爵邸に到着した。
「お帰りなさいませ、お嬢様。」
「ただいま戻りましたわ。お母様は?」
「奥様でしたら旦那様の書斎にいらっしゃいます。」
「そう…。お父様とご一緒なのね。」
「お帰りの旨、お伝え致しましょうか。」
「いいえ。あとで夜食の時にするわ。それまでお部屋にいるわね。」
「承知致しました。」
執事はアレクサンドラにお辞儀をした。
ニコッと微笑んだあと、アレクサンドラは部屋に戻った。
すぐに侍女のリラが茶を用意して来た。
「お嬢様、お疲れ様でした。レルロア様にはお会い出来たのでしょうか…。」
恐る恐るアレクサンドラに尋ねた。
アレクサンドラはリラの顔を見てからキュッと口角を上げてから
「ダメだったわ。お留守で待たせて頂いたのだけどお帰りにならなかったの。」
「それは残念でございましたね。」
「そうね…。」
元気の無いアレクサンドラ。
「お嬢様、またお約束を取りましょう!ここで諦めてはダメです!」
リラはそう言ってガッツポーズを見せた。
その姿を見てアレクサンドラは張り詰めていた気持ちが少し緩んだ。
「そうね、その通りだわ。リラ!お手紙を書くわ!」
「はい、お嬢様!すぐにご用意致します!」
リラはすぐに便箋とペン一式を用意した。
〝敬愛なるレルロア様
本日はこちらからご無理を言いお邪魔した事で執事様方を困らせてしまいました。
多忙なレルロア様のご様子が心配です。直接お会いして先日の非礼をお詫びしたいと思いますが難しいご様子なのでどうしたものかと思い悩んでおります。これ以上レルロア様のご負担にはなりたくありません。
次の王室舞踏会で、もしお会いする事がありましたらその時に少しだけお時間を下さいませんでしょうか。
-アレクサンドラ・フレシアテ-〟
「出来たわ!リラ、とびきりのお花と共にお届けして!」
「かしこまりました、お嬢様。」
〝今から届ければ明日の朝には手元に届くはず。王太子の婚約者ともなれば王宮作法やら覚える事も多いのでしょうね、きっと。
才女で有名なレルロア様ですらこんなに多忙なのだから本当に体調を崩されたりしないのかしら…。〟
アレクサンドラはレルロアの心配をしていた。
そしてダイニングルームで夜食を終えた時、アレクサンドラは母マリアンヌに向かって声をかける。
「お母様、あとでお部屋に伺います。」
マリアンヌはニッコリと笑って
「待っているわね、アレン。」
自室へと戻って行った。
「アレン、父には内緒なのかね?」
少し寂しそうに父トーマスは言う。
「ごめんなさい、お父様。でも私、頑張りますから!」
「ふーむ。努力は人を大きくするからな、期待しているよ。」
ポン、とアレクサンドラの肩を優しく叩いた。
「はい!お父様!」
アレクサンドラは元気に返事をした。
「姉様、はい、これ。預かってきたよ!」
弟のラモンが何やら封筒を手渡してきた。
「……!!」
〝ルク様からだわ!〟
「ラモン、ありがとう!ラナシー令嬢とそんなに仲が良かったのね、ビックリしましたわ!」
「ラナシーも困ってたよ…。兄様に無理やり頼まれたって言ってた。まぁ…、僕もちょっと姉様のこと、元気ないって言ってしまったし…。」
「それがラナシー令嬢を経由してルク様に伝わったのね。やだ、恥ずかしいですわ。」
そう言ってアレクサンドラはそそくさと自身の部屋に戻って行った。
〝愛するアレン
僕は君に会えないだけで寂しくてたまらないよ。だけどそんな大切な君が元気がないと妹を通じて聞いたんだ。大丈夫かな?体調が悪いわけではなさそうだと聞いてるが、何かあったのかな?
僕では解決出来ないことかな?頑張り屋の君の事だからご家族とちゃんと話合って何にでも立ち向かっていそうだけど、本当に困った時は遠慮せずにボクを頼って欲しい。
-君を愛するルクセブル-〟
〝まあ!ルク様ったら…!愛するだなんて…!!〟
アレクサンドラは嬉しいやら恥ずかしいやら複雑な気持ちで顔は真っ赤になっていた。
幸せの余韻に浸っていたかったのだが、母の所にもいかなくてはならない。
それにルク様から頂いたお手紙にも返事を書かなくてはならない。
〝すぐにお返事を書きたいけどお母様がお待ちだわ。〟
アレクサンドラは気持ちを抑えてまずは母の所に向かって報告をしに行った。
コンコンコン!
「お母様、アレクサンドラです。」
「どうぞ、アレン。待ってたわ。」
扉はすぐに開いた。本当に待っててくれたんだ。
「お母様、レルロア様には会えませんでした。」
「そう…。」
コクンとうなづいてから
「お手紙を書いてお花と共に届けさせましたの。次の王室舞踏会で会えたら時間が欲しいと…。」
「そうね、お忙しいと言われていたんですものね。無理に会うよりもその時の方がタイミングがいいかもしれないわね。」
「はい、これ以上強引に進めるのは返って失礼になるかと思ったのですわ。」
「そうなると2人きりは難しいかもしれないわね。」
マリアンヌの言葉にアレクサンドラは〝はぁーっ〟とため息をついて
「やっぱりそう思いますわよね。」
「あら。それじゃあ…。もう婚約式の招待状も出てるし、ルクセブル様にご一緒頂いたらどうかしら?」
「えっ!ルク様を巻き込むのですか?」
「ルクセブル様がご一緒ならレルロア様もお断りしづらいでしょ?」
「それは…、そうかもしれませんけど…。」
「どうせあちらは王太子様とご一緒のはずよ?御三方は幼なじみでもあるのだし!」
-しばし考えこむアレクサンドラ。
〝ルク様からも何かあったら自分を頼るようにと書かれていた。本当に頼っていいのだろうか…。〟
「何も全てを話さなくてもいいんじゃなくて?」
「えっ?」
「レルロア様と2人きりで話をしたいので協力して欲しいと言えば良くて?」
「まあ!お母様、それは素敵だわ。」
そのように言えばきっと時間を作ってくれるだろう。
だが、本当にそれでいいのだろうか…?
それだと自分で解決するのではなく、ルクセブルの力を借りる事にならないだろうか?
「深く考えなくてもいいのよ、アレン。他の令嬢を引き離して欲しいとお願いすればいいのです。ルクセブル様ならきっと王太子殿下にもご協力をお願いすると思うわよ。あなたは心配してるけどあくまでも協力であって解決ではないのだから。」
「そう…ですわね。分かりました。ルク様に協力して頂きます!」
「じゃあ、ほら。早くお誘いしなさい!」
そう言ってマリアンヌはアレクサンドラの背中を押して部屋を追い出した。
自身の部屋に戻り、すぐにペンを執った。
〝敬愛するルク様
ご心配をおかけして申し訳ございません。その件で少しお願いしたいことがあります。
次の王室舞踏会に一緒に参加して頂きたいのです。そして、レルロア様と2人きりでお話したいのでその為に他の令嬢から距離を取りたいのです。ぜひご協力して頂けませんか?
-あなたに会いたいアレン-〟
そしてすぐさまその手紙を弟のラモンにラナシー経由で明日渡してもらうことにした。
「いいよ!姉様の頼みだしね!」
ラモンは二ッと悪戯っぽく笑った。
ご覧下さりありがとうございました。
アレクサンドラはレルロアに会うために色々努力をします。上手くいくといいですね。
初めてのライトノベルでしたが、お話は完結しておりますので今後も見て下されば嬉しいです。