第10話:レルロア様に会いに…-アレクサンドラの思いとレルロアの思惑-
公爵令嬢レルロアを味方につけるため、アレクサンドラはお茶会でのお詫び訪問を手紙にて伺った。
〝敬愛なるレルロア様
本日はお茶会にお招き頂きありがとうございました。残念ながら途中退席してしまいましたこと、改めてお詫びに伺いたいのですが2日後にご予定を頂けないでしょうか。
-アレクサンドラ・フレアシテ-〟
〝失態〟とは敢えて書かないでおいた。
自分の中では失態ではないためだ。
あくまでも途中退席した事へのお詫びなのだ。
そして夜に公爵家から返事が届いた。
〝アレクサンドラ嬢
ご指定頂いた2日後も含めてこの1週間は留守がちになります。いつ会えるかわからないわ。
-レルロア・シタレン-〟
〝こ…これは拒絶!!もしかして私、完全に嫌われてるの?〟
もし拒絶されてるこらといってここで諦める訳にはいかない。早速ペンを執る。
〝敬愛なるレルロア様
お返事ありがとうございます。お忙しいようでレルロア様の体調が心配です。どうかご自愛くださいませ。来週でしたらお会いして頂ける日はありますでしょうか。どうしても直接お会いしてお詫びをしたいのです。
-アレクサンドラ・フレシアテ-〟
大丈夫かしら…?ご負担にならないかしら…
アレクサンドラは不安になりながらも手紙を託した。
翌日の昼過ぎに公爵家から返事が届いた。
〝アレクサンドラ嬢
来週も予定が詰まっております。しかし1日だけ少しだけ時間が取れるかもしれません。ですが、保証は出来ません。どうしてもと仰るならその時にお越しください。〇月〇日の〇時にて。
-レルロア・シタレン-〟
「………!!やったわ!!とうとう了承のお返事が来たわ!」
そうなると次は手土産と訪問着の用意が必要だ。
〝手土産…、公爵家よ?何がいいのかしら?お母様に相談しなくちゃ。〟
アレクサンドラは母マリアンヌに手土産について相談しに行った。
「良かったわね。お約束が取れて。」
「ええ。それで手土産なのですが…。」
「そうねぇ…。あちらはトカチナ産の茶葉を愛用してると聞いているわ。用意しましょう。」
「まあ!普段愛用されてる物でよろしいのですか?」
アレクサンドラは驚いた。手土産なのだから普段使わない物の方がいいのだと思っていたのだ。
「ふふふ、そうね。お相手の好みがわからない場合は普段愛用されてる物で頻繁に使われてる物だと間違いがないわ。」
なるほど!とアレクサンドラは感心した。
「ところで、アレクサンドラ。この茶葉の淹れ方はわかる?」
「え…?普通の茶葉とは違うのですか?」
「そうよ。こちらは低い温度で淹れて5分蒸らすのよ。通常よりも温度が低い分長く蒸らすの。」
「そうなんですのね。覚えておきます。」
「午後には茶葉が入荷するから少し練習しましょうか。」
「必要ですか?」
「何があっても対応して認められたいのでしよ?」
「そうでしたわね。わかりました、お母様。」
そうしてマリアンヌは侍女を通して茶葉を手配した。
そのあとお詫びに訪問する時の訪問着を選んだ。
「訪問着はこれにしましょう。」
少し地味なものを選んだ。
午後になり、茶葉も手元に届き、母の指導の元茶葉を淹れる練習をした。
繰り返し、繰り返し練習をして母のお墨付きをもらって安堵するアレクサンドラ。
そうしているうちにあっという間に約束の日が来た。
「行ってきます。」
母に挨拶をして馬車で公爵家へ向かう。
公爵家は東の領地なのでルクセブルの侯爵家がある南領地を抜けてその先になる。少し遠くになるので余裕を持って1時間早く行動したのだ。
〝ルク様はどうしてるのかしら…。帰りにまたあの泉に寄ってみようかしら…。〟
馬車の外の景色を見ながらアレクサンドラは思った。が、すぐに
〝駄目だわ。今はまずレルロア様に会ってお詫びをして少しでも誤解を解いて仲良くならなくちゃ!〟
と、気を引き締めた。
ようやく公爵家に到着した。
約束の時刻の半時前だった。
〝早く着きすぎてしまったわ。〟
しかし公爵家の前に馬車が着くとすぐさま執事が出迎えた。
「フレシアテ伯爵令嬢様でございますね?」
「はい…。アレクサンドラ・フレシアテです。少し早く着いてしまって申し訳ありません。」
「いえいえ、大丈夫でごさいますよ。さあ、応接室へご案内致します。」
そう挨拶を交わして執事に連れられて応接室へと向かった。
「どうぞこちらにお掛けになってお待ちください。お嬢様はまだ外出から戻られておりません。」
「どうぞお構いなく。私が早く着いてしまったのです。」
アレクサンドラは応接室で1人待つことになった。
〝やはりお忙しい方なのだわ…。〟
そうしてジッと時間になるまで待つが中々レルロアは現れない。
コンコンコン!
先程の執事が現れた。
「申し訳ございません。お嬢様はまだお帰りになられておらず…。」
「構いませんわ。事前に会える保証はないと仰って頂いておりましたし…。」
「申し訳ございません。」
執事が深く頭を下げた。
「あの!そこの書棚の本を見せて頂いてもよろしいでしょうか?」
アレクサンドラは書棚にある誰もが有名な本を指した。
「ええ。あの書棚はお待ち頂いてる間にお客様に見て頂けるようにと、旦那様が置いてらっしゃいますのでどうぞ自由に手に取ってお読み下さい。」
「ありがとうございます。本があれば時間なんて気にしないので大丈夫ですわ。」
「それでしたら失礼致します。」
執事は深々とお辞儀をして部屋を去った。
アレクサンドラは本を読んでレルロアが帰ってくるのを待っていた。
しかし
実はレルロアは自分の部屋にいたのだった。
自身の中にまだアレクサンドラに対してのモヤモヤが消えないのだ。
彼女が悪いわけではないと理解はしているが心は認められないのだ。
彼女よりも高位の、幼い頃から1番近くの存在である自分よりも選ばれた事が悔しくて認められないのだ。
元々会うつもりは無かった。相手が強引にでも会おうとしてるのだから少し位意地悪してやろうという気持ちで返事を書いたのだ。
会える保証はないと付け加えて…。
どれだけ時間が過ぎたのだろうか…。
流石にこれ以上彼女を滞在させると帰りに何かあっては困るのだ。
レルロアは執事に言って今日は諦めて帰るように促した。
コンコンコン!
「フレシアテお嬢様、大変申し訳ございません。とうとうお嬢様はお帰りになれなくて、これ以上ここに滞在されると帰りには真っ暗になってしまい危のうございます。本日はもうお引き取り下さいませ。」
執事にそう言われると流石に〝大丈夫〟とは言えない。自身の身を案じてくれているのだから。
「わかりました、執事さん。では、こちらをレルロア様にお渡し願えませんか?また改めてお手紙差し上げます。」
「かしこまりました。」
「長く時間を取らせてしまってごめんなさい。」
アレクサンドラは執事にそう言ってぺこりと頭を下げた。
「……!!とんでもないことでございます!頭を下げないで下さい!」
「いえいえ。お茶菓子、美味しかったです。次は是非ともレルロア様と頂きたいです。」
そう言ってニッコリと笑うアレクサンドラ。
執事は心を少し痛めた…。
「はい…、是非そうであって欲しいです。」
そうアレクサンドラに返答するのでした。
そうしてアレクサンドラは公爵家を後にしました。
〝もう陽が沈んでいくわね…。本当に邸に着く頃には真っ暗になるわ。〟
馬車の中では、やはり沈むアレクサンドラ。
〝レルロア様は本当にお忙しいのかしら…。それともわざと避けられてるのかしら…。〟
弱気になっていた。
行きは〝帰りにあの泉に行ったら…〟なんて考えてウキウキしていたのにレルロアに会えなかった事が残念でならなかったのだ。
✱文内で出てくる茶葉は空想の物で取り扱いも空想のものとなります
ご覧下さりありがとうございました。
覚悟を決めてレルロアに会いに行ったはずが会えずじまいのアレクサンドラ。
それはレルロアの思惑によってだった。
初めてのライトノベルですが、既に完結しております。
今後もご覧下さると嬉しいです。




