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第九話:奥様とドラマチックな目安箱

第九話:奥様とドラマチックな目安箱


(♪オープニング:甘く蕩けるようなピアノのメロウな旋律が、聴く者の鼓膜を優しく愛撫するように流れ始める)


あん子の声:「…一攫千金! 危険な冒険! 未知なる発見! あなたの夢を狩り尽くす! 王国公認、ハンター協会では、ただいま春の新人ハンター大募集中ニャ! 経験不問、必要なのは勇気と折れない心だけ! 今なら登録料半額キャンペーン実施中!詳しくは最寄りの協会支部までニャ! …ハンター協会がお送りしましたニャ」


あん子の声:「…旅のお供に、一服の安らぎを。魔力回復から魅惑の媚薬まで、どんな願いも叶える魔法薬は、信頼と実績の『賢者の釜戸かまど』印! ただいま、疲労回復ポーション『オーガの目覚め』お試し価格でご提供中ニャ! 眠れるあなたの野生を呼び覚ますニャ! …魔法薬ギルド御用達、賢者の釜戸がお送りしましたニャ」


あん子の声:「…あなたの瞳に、永遠の輝きを。魅惑の宝石なら、ジュエル・ミャオミャオ。ただいま、魅惑のキャットアイ・サファイア、特別価格でご奉仕中ニャン♪ …ジュエル・ミャオミャオがお送りしましたニャ」


(♪BGM:オープニング曲がフェードアウトし、落ち着いたハープシコードの調べに変わる)


奥様:「うふふ…領民の皆さん、ごきげんよう。あなたの心の灯火、奥様ですわ」


その声は、まるで上質な絹織物のように滑らかで、聴く者の心を優しく包み込む。


伊勢馬場:「そして、奥様の忠実なるしもべ、伊勢馬場でございます。皆様、本日も奥様の甘美なるお声に、存分に酔いしれてくださいませ」


伊勢馬場の声は、低く、それでいてどこまでもクリアで、奥様の声色と絶妙なハーモニーを奏でる。


伊勢馬場:「…ところで奥様、一部の領民の皆様より、『番組が週に一度しかないのは辛すぎる』との切実なる苦情が寄せられておりますが」


奥様:「あら、伊勢馬場。彼らはまだ分かっていないのね。我慢はすればするほど、その後に訪れる悦びを、より深く、より甘美なものへと変えていくということを。うふふ…」


奥様の吐息混じりの言葉に、マイクが微かに震えたような気がした。


伊勢馬場:「ははーっ! さすがは奥様! その深遠なるお考え、この伊勢馬場、感服の極みにございます! 我慢の先にこそ、真の恍惚がある、と!」


(♪BGM:軽やかなフルートの短いジングル)


伊勢馬場:「それでは、まずは領民の皆様への、奥様からのお優しいご報告のコーナーでございます。…先日より続いておりました、我が領土を守る第二防壁の補修工事でございますが、皆様の献身的なご尽力のおかげをもちまして、予定よりも大幅に早く完了する見込みとなりました。夜から日に継いでの作業、誠に感謝に堪えません。これもひとえに、領民一人ひとりの、この地を愛する熱き想いの賜物と、奥様も大変お喜びでございます」


奥様:「うふふ、領民たちが力を合わせ、この地を守り育ててくれようとする姿こそ、わたくしにとって何よりの誇りであり、喜びなの。ありがとう、皆の者。そして、この第二防壁の完成を祝う間もなくではあるけれど、次なる守りとして、第五防壁の拡張工事が開始されるわ。魔獣の侵攻も年々巧妙さを増してきている故、更なる備えが必要よ。引き続き、皆の者の力強い協力を、心よりお願い申し上げますわ」


(♪BGM:少しドラマチックなファンファーレ風のジングル)


伊勢馬場:「さて、皆様、大変お待たせいたしました! 今宵もまた、奥様の愛の光が、迷える子羊たちを導くお時間…『ドラマチックな目安箱』解放の刻でございます!」


奥様:「いいわ、伊勢馬場! 領民たちの、その胸の内に溜まりに溜まった熱く切実な想いを、今宵もこのわたくしに、全てぶちまけなさい!!」


奥様の声が、普段の淑やかさからは想像もつかないほど、情熱的にスタジオ(という名の執務室の一角)に響き渡る。


伊勢馬場:「奥様、前回にも増して、お便りの量が増えておりますね。」


奥様:「うふふ、良いことだわ。恥ずかしがらずに、もっともっと心を開いて、その悩める想いを、この目安箱へとドシドシと送りなさいな!」 そう言って奥様は、伊勢馬場が恭しく差し出した、山のような意見書の束を、まるで宝探しでもするかのように、楽しげにゴソゴソと両手でまさぐる。 「…決めたわ。今宵、わたくしが愛の光を注ぐ、最初の迷える領民は…領民ネーム、『憤怒死ふんどしサムライ』さんね」


(♪BGM:少し物悲しい、しかし希望も感じさせるようなアコースティックギターの調べ)


奥様:「なになに…? 『拝啓、奥様。先月、長年連れ添った妻が、不治の病により天に召されました。これまで、一人息子には何かと厳しく接してきた私と、その息子との間で、緩衝材となってくれていたのが妻でした。その妻が亡き今、息子夫婦との関係がどうにもギクシャクし、会話もままなりません。年老いた私が、今さら息子にどう接すれば良いのか、皆目見当もつかず、ただただ途方に暮れる毎日です。奥様、どうかお知恵をお貸しください』…とのことよ」


奥様の声は、憤怒死サムライの悲しみに寄り添うように、しっとりと潤んでいた。


伊勢馬場:「なるほど…積年のわだかまりと、奥様を亡くされた悲しみが、複雑に絡み合っておられるご様子。すぐに聞き分けの良い、物分かりの良い父親へと変わるのは、なかなかに難しそうですな。奥様、いかがいたしましょう?」


奥様:「うふふ…憤怒死サムライさん。急がなくて良いのよ。そんなにすぐに、完璧な父親になろうとしなくても。大切なのは、変わろうとする気持ち。あなたも、息子さん夫婦も、ほんの少しずつで良いの。お互いのことを見て、思いやって、ゆっくりと変わっていけば良いのよ。でも…そうね、一つだけ、わたくしからの提案があるわ。…子犬を飼いなさいな」


伊勢馬場:「子犬、でございますか…?」


奥様:「ええ。小さな、温かい命よ。憤怒死サムライさんの、その子犬への無償の愛が、きっと凍てついたあなたたちの心を溶かし、新たな絆を紡ぐ助けとなってくれるでしょう。愛らしい子犬の仕草は、どんな頑なな心をも和ませるもの。そして、その子犬を共に慈しむことで、自然と会話も生まれ、笑顔も戻ってくるはずよ。焦らず、ゆっくりとね」


奥様の言葉は、まるで聖母の慈愛のように、スタジオを満たした。


伊勢馬場:「…人とは、実に不器用な生き物でございますね。素直な想いを伝えることすら、ままならないとは」


奥様:「あら、伊勢馬場。不器用なのは、決して悪いことではないのよ。不器用なことを理由にして、何もしようとしないのが、本当に悪しきことなの。大切なのは、一歩踏み出す勇気…そして、愛する心を忘れないことよ」


(♪エンディング:オープニングのメロウな旋律が、より優しく、より甘美に流れ始める)


あん子の声:「…この番組に対するご意見ご要望は、各エリア役場カウンターに設置の『ドラマチックな目安箱』まで、どしどしお寄せくださいニャン。目安箱コーナーへのご投稿の際は、奥様の心をくすぐる素敵な『領民ネーム』をお忘れなくニャン♪ それでは、次回の『奥様とドラマチックな目安箱』を、お楽しみにニャ~」

(♪音楽フェードアウト)


……執務補佐官室。

顰めっ面の長官は、ボイスストーンから流れる番組の余韻に浸ることもなく、ただ静かに肩を落としていた。

彼の渾身の領民ネーム「長官になるのはチョウカンたん」は、今週もまた、奥様の御目に触れることはなかったのである。

その隣では、チャラ男が「ドンマイっす、長官! 次こそ、もっとギリギリを攻めましょう!」と、的外れな慰めにもならない言葉をかけていた。長官の眉間の皺は、また一段と深くなった。


最近、なまずの方を呼んでくれる人がジワジワ増えている気がする。

うれしいのでこちらを投稿。


奥様と伊勢馬場はキャラが勝手に動いてくれるので楽でよいですね。

ちなみに、番組中のBGMは奥様と伊勢馬場がリアルタイムで演奏しています。


次回予告

濃厚なざまぁがご用意できました。前中後編になりますが自分では良い出来だと思いますのでお楽しみにお待ちくださいませ。

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