エピソード0 奥様と伊勢馬場
エピソード0
双子の月が柔らかな琥珀色の光を注ぐ、異世界のとある地方都市。
その街を治めるのは、人々から「奥様」と敬愛を込めて呼ばれる、若き女領主であった。
御年三十二歳。
先代領主であった夫君を亡くした未亡人ではあるが、その愁いを帯びた美貌には隠しきれない色香が漂い、人生の酸いも甘いも噛み分けた深みが、彼女の言葉や振る舞いに知性と落ち着きを与えていた。
その奥様に、日夜影のように寄り添い仕える男がいた。
伊勢馬場、三十四歳。彼はこの世界の人間ではない。
ある日、どこからともなく現れ、その卓越した能力と忠誠心で奥様の信頼を得て、今では領主館の執事長として、その辣腕を振るっていた。
常に完璧な黒の執事服に身を包み、表情一つ変えることなく膨大な業務をこなす伊勢馬場の目標はただ一つ――「超一流の執事」となること。
その道を極めるため、彼は今日も奥様への奉仕に全霊を傾ける。
これは奥様と、彼女に仕える異世界人執事、伊勢馬場が織りなす、「愛の劇場」の幕開けである。
昔、好きだったラジオ番組がふと浮かんできたので書いてみました。
もう一つの作品、喫茶なまずの世界観の片隅で起こっている物語です。
こっちは毎日更新ではなく、気分が乗ったら更新します。
あっちで語られない世界設定などが補足されるかもしれません。