9.完璧からの逸脱
よろしくお願いします。ストーリーに少し矛盾があるかもしれませんが、お目溢しください。
翌朝、クラウスは一睡もできなかった。
夜が明けるのをただ待ち、机の上に積み上げたプロジェクト資料を整えた。
昨夜から、都市開発局の関係者に、一通ずつメールを打った。
急な事情で退任せざるを得ないこと。
説明が必要なら、後日時間を取ること。
すべて丁寧な言葉で書かれていたが、どこか線が乱れていた。
リビングに降りれば、
アンネリーゼは既にいつもの外出用ワンピースに着替え、食卓で静かに待っていた。
「……リーセ、ちょっと話がある」
クラウスは書類をテーブルに置き、アンネリーゼに向かい合った。
「……昨日、移民局から通達が来た。君のことだ」
アンネリーゼは表情を変えなかった。
クラウスは自分のことは話さなかったし、書類も出さなかった。
あの赤い烙印が刻まれたドキュメントを出して、テーブルの真ん中に置いた。
アンネリーゼはただ、うっすらと瞬きをして、紙を見つめる。
「……そう」
「一緒に出ていく。荷造りをしよう。昔居た、あの街に帰ろうと思う。時間がかかるが……」
クラウスは言葉を選びながら、それでも断言した。
「……俺は、リーセと一緒にいる。パパだからね。」
アンネリーゼは、はじめて少しだけ驚いたように目を見開いた。
けれどすぐに、それを包み込むような笑顔に変えた。
「うん。ありがとう、パパ」
その声はどこか、クラウスを安心させるよりも、
少しだけ胸を締めつける響きだった。