5.時代遅れのワンピース
よろしくお願いします。ストーリーに少し矛盾があるかもしれませんが、お目溢しください。
放課後の教室には、机を引く音と、椅子をしまう音が重なっていた。
通学鞄をかけた女の子たちが笑い合いながら廊下へ出ていく。
アンネリーゼは、その少し後ろを歩いていた。
「じゃあまた明日ねー!」
「うん、また明日」
手を振った相手の名前を、彼女は呼ばなかった。
いつからか、そうしていた。
自分の声が、人の名前を呼ぶときに、少しだけ響きすぎる気がしていたから。
「アンネちゃん、その服すごく似合ってるねー!お人形さんみたい!」
そう言ってくれた子の笑顔に、アンネリーゼは微笑み返した。
「ありがとう」
でもそのあと、誰かが小声で「また今日もかー」って言ったのを、耳は拾っていた。
帰り道、アンネリーゼは大通りを避けて、公園の縁を歩いた。
今日はお昼前に授業が終わったので、ひとりで帰宅だ。
リボンのついた靴が、舗装の隙間に小さくカチリと音を立てる。
以前、公園で遊んで、服を泥だらけにしてしまったことがあった。
父は怒らなかったが、
次に買ってくれた服は子供心に泥だらけにはできない、綺麗な色のワンピースだった。
なんだか友達と馴染めなくなったのはその頃からだった。
ふと、道ばたの草花に目をとめる。
小さなタンポポの根本に、折れた羽をもった蝶が倒れていた。
しゃがみこむ。
そっと触れる。
「……わたしは、ちゃんと行けるよ」
それが誰に向けた言葉なのか、彼女自身もよくわからなかった。