16.エピローグ
よろしくお願いします。ストーリーに少し矛盾があるかもしれませんが、お目溢しください。
時が経ち、都市は静かに息を継いでいた。
丘陵を削る工事の音も、今はどこか遠く感じる。
クラウスは、再び都市開発の現場に戻っていた。
スーツの上から羽織ったジャケットはいつものもので、
だが、その襟元には、わずかにしわがあった。
昼下がりの会議を終え、ビルのロビーに降りると、
懐かしい声が後ろから聞こえた。
「……相変わらず、背中に気を張ってるのね」
振り返ると、テレーサが立っていた。
少しだけ髪が短くなっていたが、目の鋭さは変わっていない。
「久しぶりだな」
クラウスが言うと、テレーサはわずかに微笑んだ。
「うん、久しぶり。……元気そうで、何より」
二人は言葉少なに並んで歩きながら、やがてカフェのテラス席に腰掛けた。
特に深い話をするでもなく、世間話と、互いの近況だけで時間が流れた。
だけど、クラウスはどこか安らいでいた。
テレーサも、今日の彼が“完璧主義者”ではないことにほんの少し安心していた。
モノレールを降りてから、旧市街の坂道を歩くのがクラウスの日課になっていた。
気がつけば、自然とその道を選ぶようになっていたのだ。
坂の途中、小さな古着屋のショーウィンドウに目がとまる。
淡い水色のパーカーと、動きやすそうなパンツ。
リボンはない。レースもない。ただ、風をはらんで楽しそうに揺れていた。
(……どこかで、あれに似た服を見た気がする)
そんな感覚が、胸の奥に小さな波紋を投げた。
でも、どこでだったか思い出せない。
名も、声も、顔も――なにも浮かばない。
それでも、心がぽっかりと穴をあけていた。
「……かわいい服だな」
ぽつりと呟いた声に、隣にいた女性が微笑む。
「そう思う? 最近の子って、ああいうのが好きなのよね」
テレーサだった。
クラウスと並んで歩くのが、最近は当たり前になっていた。
かつてのような緊張はない。けれど、落ち着いた、静かな関係。
「自分の子じゃなくても……ふと、思うんだよ。
何か、大切なものを置き忘れてきたような……そんな気がしてな」
「……あなたって、そういうとこ、変わらないわね」
彼女の言葉に、クラウスは苦笑した。
覚えていないのに、寂しい。
いないはずの誰かを、今も探してしまう。
でも、今日はそれでもいい気がしていた。
坂の上では、工事中だった再開発エリアが陽に照らされていた。
いつか、自分が設計した建物が建つ予定の区画だ。
未来は続いていく。
たとえ、思い出せないままでも――。
クラウスは一歩、足を踏み出した。




