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スポットライト  作者: 月宮燈
第一章東区編
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第2話①「赤と青の交差」

これは一筋の光に照らされる小さな世界の話。

そして憧れを追いかける少年とまだ夢を語れない少年の物語。


 ドンッという音を聞き、目を開ける。


「なんだ...夢か...」


 寝起きの弱々しい声で少年は目を擦りながら呟く。落ちたのが上空からではなく、ベッドの上からでホッとした。それでも床に落ちるのは痛いものだが...


 カーテンの隙間からは青空と共に朝日が差し込んでいる。ようやく意識がはっきりしてきて


「今日も清々しいまでの晴天だな」

と、ひとりボソッと呟く。



「じゃあ...行ってくる」


 しばらく経ち、少年はバッグを肩にかけ、積まれたダンボールを避けながら玄関へ向かう。


「おう!友達100人作るんだぞ!」

「小1かよ」


 愉快な父親の発言に、素っ気なくテキトーに返す。


「ぴかぴかのな!」

「.....」


 少年は扉を開く。薄暗い玄関から見る外の光は、やけに眩しく見えた。

 まだ見慣れていない街並みの中へ、少年は進みだす。


「行ってらっしゃい、青人(あおと)


 父の送る言葉は、すでに閉まっていた扉に遮られ、少年・青人には聞こえていない。


 不思議なことに今朝見た夢のことを、青人は綺麗さっぱり忘れていた。朝日が眩しいからと、青人は壁の方に目を向けることはなかった。


 通りかかった道端でふと目にする。そこには東区の日常(いつもどおりの)風景があった。

 危険が迫った誰かの悲鳴。力の限り暴れる無法者。それを捕まえ活躍するヒーロー。目を輝かせ眺める子ども達。そして街の人々が上げる歓声。


「チッ」




第2話①




「ここがスタートラインか...ここでなるんだ!もっと強い自分に!」


 焼は訓練校の校門の前に立ち、まっすぐ前を見据えている。校舎の向こうに見える空は、雲ひとつない快晴だ。


「もっと強い自分か...」


 みどりは足元に生える草花に目を向け、ひと呼吸する。まだ咲いていない蕾を見つめて顔を上げる。


 ふたりはいつもより少し重い足を踏み出し、校門を潜る。


「あっお前!この前見てたぞ!お前がサニーフレアに話しかけてるの!」


 焼は長身の男に呼び止められる。あまりに大きな声で呼んでいるので、周囲7、8人の耳にも入った様だ。

 『サニーフレア』その名前が出るや否や、焼は4、5人に取り囲まれる。


「お前サニーフレアに会ったのか!?」

「中央区のヒーローに!?」

「話したって!?」

「やっぱり綺麗だった?」


 そして質問攻めにあった。

 ヒーローを見て育ってきた東区の少年少女にとって、サニーフレアはみんなの憧れである。当然の反応なのだ。


 校門の側で固まっている焼たちの近くを、誰かが通りかかった。


「チッ、サニーフレアがそんなに偉いかよ...」


 通りかかった少年が、ボソッと呟く。そして、焼はそれを聞き逃さなかった。


「お前、今なんて言った?」


 静かながら鋭利な声で焼は問いかける。

 少年は歩き続け、通り過ぎてしまう。反応がないので繰り返す。


「そこの青髪だよ!」


 青髪の少年は立ち止まって振り向く。

 背丈は焼よりやや高い。青髪とは言っても髪色は薄く水色で、宝石の様な瞳も似た色だ。


「聞こえたんだろ?...みんなに慕われるヒーローの...なにがそんなに偉いのかって言ったんだ」


 青髪の少年はそのまま行ってしまう。


「何なんだ?アイツ.....」




訓練校に通う人間

 訓練校に通う者は、ある基準を超える危険な能力を持つ者。または希少な能力を持つ者である。

 そして前者には通う義務がある。



 

「ここに来たかった者も、そうでない者も皆歓迎しよう。諸君、よく集まってくれた.....」


 台上に立って話しているヒーローは、まだヒーローのいない氷河期のうちから自警団として活動していた筋金入りだ。


 体育館の様な場所に集められ、施設や教員についての説明を受ける。その後、渡された制服に着替えて施設内を周る。


 機能性を重視した軍服風。黒を基調としたショートジャケットには、鮮やかな赤のラインが走り、引き締まった印象を与える。下は、動きやすさを優先した黒のズボンか、シンプルなスカートが選べる仕様だ。



「.....諸君、今日はここまでだ。夕食を取る者は食堂へ行くといい、後の者は寮舎へ。明日は皆の能力を実際に見せてもらう」



 夕暮れ時、食堂。


 食堂には6、8人が座れる位の長方形のテーブルが10数個並んでおり、初対面の多い生徒達の会話の声、食器の音、そして微かに厨房の音が聞こえる。


「なぁ、お前らはどんな能力を持ってるんだ?」


 焼は4人でテーブルを囲っている。

 皿には2割ほど料理が残っているが、焼は食べる手を止め、初対面のふたりに話題を振る。


「よくぞ聞いてくれたな!俺は両腕を鉄みたいに硬く出来るんだ、スゲェだろ!」


「いやお前みたいなデカい図体したのが、鉄の腕振り回してきたらビビるわ...」


 声高々に自慢している長身の彼は流川鋼多(ながれかわこうた)。背丈は焼より遥かに高く、30センチ以上差があるように見える。知らなければ大人と間違えるほどだ。短めの黒髪に四角いメガネがトレードマーク。

 流川の皿にはもう料理が残っていない。早食なのだろう。


「その分、的がデカいから私の能力の格好の餌食だけどね〜。私の能力はビーム系だから」


 左手を口の前にかざし、微笑する彼女は橋本柑(はしもとみかん)。背丈はみどりより高く、焼より低い。ヘアスタイルはややオレンジがかった金髪のポニーテール。

 橋本は料理に手をつけていないのか、皿には9割以上も残っている。


「で、アンタは?」


「...能力は見た通り.....」

「ノリ悪...」


 みどりは、黙々と料理に手をつけていた。手というか、蔓触手を...

 袖から出している蔓で器用に食器を扱っている。


「その姿...もはやマナー良いのか悪いのか、わかんないわ」


「へぇーお前手いっぱいあるのかー!便利そうだな!」


「...大したことは出来ないよ」

 みどりは目を逸らしながら話す。

 1本の蔓はハンカチで口を拭き、もう1本の蔓でパンを口に運ぶ。

「説得力ないわよ」


 焼、流川、橋本の3人は食事の手を止めたまま話し続ける。


「向こうの奴は中学の馴染みでな、手を使わず物を浮かせられるんだ」


「へぇ〜、やっぱみんなすごい能力してるなぁ。みんなどんなヒーローになるんだろうな!」


 焼の発言で食堂中の食器の音が鳴り止む。


 鍋の中で食材がグツグツと煮えたぎる音。包丁が食材を切り、まな板に打ちつけられる音。

 今まで微かにしか聴き取れなかった厨房の音がやけに鮮明に聞こえる様になる。


 しかし数人のクスクスと笑う声に、焼は気付いていなかった。




訓練校について

 訓練校は中央区、東区の2ヶ所にある。

 基本的に東区訓練校には東区、北東区、南東村の者が通い、中央区訓練校には他の区の者が通う。しかしどちらに所属するかは任意である。




「あの...あちらの方は今、なにか可笑しな事を仰られたのですか?皆様そんなに静かになされて...」


「あら、聞き逃したの?吉野さん」


「あそこの貧民はヒーローになりたいそうだ」


 貴族家の生徒達は焼のことを嘲笑う。


 焼たちの座るテーブルの反対側で誰かが立ち上がる。


「これだから東区の人間は馬鹿馬鹿しい」


 呆れた様子で両手を顔の横まで上げ、煽るように笑う。立ち上がったのは昼に見た青髪だった。


「おまえ、昼の青髪だな。何がおかしい?」


 焼は立ち上がって、青髪の方を見る。

 その頃、厨房の奥では料理人がやかんで湯を沸かし始めている。


 青人は焼の方にゆっくりと近づきながら、ペラペラと話す。

「わかんないのか?今お前を笑ってるのは夢見がちな東区民じゃない、北東区の貴族たちさ...」


「.....」

 焼は拳を強く握り締める。


「...それに俺の育った北区じゃ、お前みたいな馬鹿は笑われて当然だ」


 青人は足を止め、焼と向かい合う。

 焼は手の力を抜き、冷静を保とうとする。


「何が馬鹿だって?」


「夢を語るのは馬鹿のする事だ。俺は馬鹿じゃない」


 青人のその言葉はどこか震えていて...


「知らねぇよ.....俺は!サニーフレアみたいなヒーローになるんだ!」


...一方、焼の言葉には勢いがあった。

 焼の一言で青人は大きく目を見開き、歯を食いしばる。青人の表情が初めて険しくなった。



 拳を振りかぶった時、厨房のやかんからは悲鳴が上がっていた。




第2話①「赤と青の交差」


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