第1話④「緑の少年」
これは一筋の光に照らされる小さな世界の話。
そして憧れを追いかける少年の物語。
スポットライト第1話④「緑の少年」
「今...何が起きたの...?」
路地裏が静まり返った後。爆風を逃れた少女は焼の下へ駆け寄る。直前まで隠れていた木箱が倒れているのを見て、背筋が凍る。
怪物は倒れて、意識を失っている様だ。焼の方は意識を失っている上、シャツが真っ黒に焦げている。
今のうちに焼を運び、ヒーローを呼びに行こう。そう考えた彼女は、倒れている焼に手を伸ばす。
ーー.....!
第1話④
ーーあれ?どうなったんだっけ...
...なんか身体中がヒリヒリするな...
曖昧だった意識がはっきりと蘇る。
ーー...少女はどうなった!怪物は!?
目を開けるとそこには少女の姿があった。
「無事だったのか!」
心配のあまり勢いで叫んでしまった。しかし少女が無事でなによりだ。見たところ怪我もない様だ。
「.....あっ、ありがとう...」
少女が言葉を発するまでの間に、焼は気付かない。
「そういやまだ名前も分からなかったな...俺は焼、炎野焼だ。よろしくな」
「す、姿見です...よろしく」
「そっか姿見か、なぁ姿見あの怪物は一体何なんだ?なんで追われてたんだ?」
「.....」
ずっと気になっていたことを聞いてみたが、姿見は答えるのを躊躇している様だ。
少しの間を開けて姿見は口を開け、焼の後ろを指差す。
「あの.....怪物...」
振り向くと怪物がふらふらと立ち上がっている。左腕の雪は完全に溶け、かなり弱っている様だ。しかし、それ以上に焼もふらふらである。
ーーやべぇ、こっちはもう限界だってのに...
次の瞬間、焼に襲いかかろうとする怪物にツルが巻きつく。
「あまりに遅いから、探したよ...」
「.....!」
「...で、どうゆう状況...?」
能力『蔓触手』
背中から生える10本の蔓を手の様に使える。絡めることで太く丈夫になる。
蔓は伸縮自在で、伸びる長さにおそらく上限はない。
「さすがに遅すぎる...何かあったのかも...」
図書館から出た小さな少年は、袖から蔓を出す。
背丈は焼より低く、黒髪に緑色の瞳。顔つきはやや女々しい。服装は黒色に緑ラインのジャケット、水色のスニーカー。
螺旋状に絡まる蔓は、建物の屋上に伸びていく。そして地面をひと蹴りし、高く跳び上がる。伸ばした蔓を引いて、屋上に上がる。
周囲の人は少し驚く反応をする。
少年は屋上に上がった時の脚力で、屋根の上を駆けながら焼を探す。
軽やかな身のこなしで屋根から屋根へ跳び移る。少し離れた場所へは蔓を伸ばして煙突に巻きつけて跳ぶ。
すると、右の方からボンというと破裂音が響いてくる。
ーーあそこだ!
屋根から跳び降りながら、蔓を伸ばし怪物に巻きつける。爪にも気づき右腕も縛っている。
「...で、どうゆう状況...?」
「みどり!」
みどりと呼ばれた少年はスッと着地する。
「えっと、姿見って女の子がこの怪物に追われてて...」
「女の子?...はもう逃したの?」
みどりは首を左右に振り、周囲を見る。
「...いや?ここに...」
焼は振り向いて人差し指を伸ばす。しかしもう姿見の姿はどこにも見えない。
「あれいない!?」
ーーもし逃げたのだとしたらあまりにも速すぎる。能力?
「ところで、丸焦げのシャツとあの破裂音.....爆発でも起こしたの?」
「あぁ、おかげで身体中ヒリヒリするし、発火能力が使えない」
ーー爆発は半分怪物のせいだが...
「オーバーヒートってやつ?」
「多分な」
「おい!そこで何をしている!爆発音が聞こえたと通報があった!」
ヒーローが駆けつけた時には、日差しが遮られて路地裏は暗くなっていた。
その後、俺たちはヒーローに諸々の説明をした。謎の怪物はそのヒーローに引き渡し、恐らく今は詰め所の牢屋だ。
人々の混乱を避けるためか、新聞には取り上げられなかった。現時点、謎の怪物は信憑性のない噂話に過ぎない。
怪物の噂
二本足で立つ姿は人を彷彿とさせるが、その生態はまさに獣。人気の少ない場所で強そうな獲物に襲いかかるとか。
悪魔の手先と関連付け、不安になっている市民もいる。
「えっ、サニーフレアにあったの!?」
路地裏を後にした焼とみどりは、東区の南側、街外れの野原に来ていた。
そしてみどりに今日の出来事を話していた。
「でも中央区のトップヒーローが、東区に何の用があったんだろう.....?」
みどりは不思議そうに呟く。
「理由はわかんないけどさ、今日東区に来てくれて良かったよ。そのおかげであの娘を守れたし、怪物を捕まえれたし、俺はヒーローになれた」
焼の顔は能力の焼け跡と夕陽によって赤く染められた。
その満足気な表情は、どこか無邪気な子どもの様だった。しかし付き合いが4年目になるみどりには、その表情は少し大人びて見えた。
「身体の方はどう...まだ痛む?」
「まだ能力は使えないけど、もうどこも痛くねぇよ」
本当はまだ少し肌がヒリヒリしているが、焼は誤魔化す様に笑顔を繕う。
「まだ能力のコントロール出来てないの?」
みどりは文字通りお手の物と言わんばかりに蔓を動かす。
「その蔓、どうやったら身体の一部みたいに動かせるんだよ」
「それを言ったら、どうやって手足を動かしてるの?って聞いてる様なものだよ...」
「能力の使い方を学ぶためにも行かなきゃだよな。訓練校...」
ふたりは緑茂る草原に寝そべる。路地裏の一件の疲れや緊張なんかが全て、地面に吸われていく様に感じた。
今にも沈んでしまいそうな夕陽。まだかろうじて明るい空にはっきりと見える月。
みどりは空に向かって手を伸ばす。
「焼、見てよこの空...」
「...あの月、この蔓を伸ばせば届くのかな?」
「どうだろうな、やってみるか」
「やめとく」
焼は乗り気だが、みどりは面倒そうに返す。
空は次第に暗くなっていき、昼の間眠っていた星達が姿を表す。
第1話④「緑の少年」