表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スポットライト  作者: 月宮燈
第一章東区編
3/9

第1話②「なりたいもの」

これは一筋の光に照らされる小さな世界の話。

そして憧れを追いかける少年の物語。


 木造の図書館の中、歴史の本を手に取り、本を開く。



『氷河期-黎明期 800-1000』

 かつてこの世界は、冷酷な「氷の悪魔」によって支配されていた。

 太陽の光は厚い氷雲に遮られ、空は灰色に染まり、地上は凍てつく冷気に囚われていた。


 人々の暮らしは悪魔に支配され、その間人類の文明発展は滞った。

 人類に許されたのは生きることのみ。人々は家畜のように狭苦しく日々を過ごしていた。


 空を自由に飛ぶ鳥を、大地を力強く駆ける竜を、小川を生き生きと泳ぐ魚を、新たに生まれる命がそれらを目にすることはない。

 世代が変わる度美しい世界の姿は、人々の記憶から失われていった。


 そうして月日が過ぎ去っていき、やがて人々は希望の光さえも忘れてしまう。

 憧れも、夢も、栄光も.....


 そんな絶望の世界に立ち上がったのは、たったひとりの少女だった。

 後に「サニーフレア」と呼ばれる英雄である。


 フレアは自身の翼で空高く舞い上がり、日照りの炎で人々に人類の夜明けを告げた。「目を開けよ」と。

 その姿に、多くの者達が立ち上がった。


 激闘の末、フレアは氷の悪魔を討ち滅ぼし、悪魔の呪縛を溶かした。

 その後、11体の悪魔を封印し、人類は平和を取り戻した。



 パタンと本を閉じ、棚に戻す。


「遅いなぁ...何かあったのかな?」


 小さな少年はそう呟き、図書館を後にする。




第1話②




「この調子なら余裕を持って間に合いそうだ」


 焼は安堵して息を吐いた。しかし言った後に気付いてしまう。この発言はいわゆるフラグであると。

 直後、前方から甲高い悲鳴があがる。


 どうやら人を乗せた竜車が突然暴走してしまったらしい。近くに御者らしき人が転がっている。振り落とされたのだろう。


 竜車を止めようと焼が足を踏み出した瞬間、視界が暗くなった。いや、周囲は明るい。だが暗くなったのだ。どういう事だ?


 足下を見て、混乱は解けた。陽の光を遮るように焼の真上を何者かが飛んでいた。焼の足下には黒い鳥が浮かび上がっていた。


 気付いた時には既に竜車は止まっていて、焼の真上を飛んでいた何者かはドラゴンを宥めている。


 急展開に驚く隙などはなく、東の街はいつにも増してザワつき始める。


「お前さん、まさか.....」

「ねぇ、あれって本物?」

 

 通り中の人々の視線を集める彼女は、不敵の笑みを浮かべている。




氷河期と黎明期①

 今から40年前、人類が悪魔に支配されていた時代。約200年間続いた氷の呪縛を溶かしたのは、たったひとりの少女だった。




 竜車を止めようと足を踏み出した瞬間、彼女は空から現れた。


「帰り道で悲鳴が聞こえたと思ったら...」


 気が付くと既に竜車は止まっていて...


「ダメじゃないか君、御者を振り落としちゃ!」


...ドラゴンは彼女に撫でられながら説教されていた。

 ーー速すぎるだろ、まるで反応できなかった。


「そっかそっか、びっくりしたんだね」


 彼女は優しく竜を宥めている。

 ーーてか会話が成立してる?


 彼女の止めた竜車に男が駆け寄る。


「お前さん、まさか!?」


「あっ、御者さん?あんまり脅かさないであげて下さいね」


 御者は彼女を目の前にし、思わず固まってしまう。彼女は客室の扉を開く。


「お怪我はありませんか?」


 彼女のあまりの速さに通りの人々は追いついていなかった。

 ようやっと追いついた人々が彼女の正体に気付き始める。


「ねぇ、あれって」


 周囲のザワつく声が一つに纏まる。


「「「もしかして...ドラゴンヒーロー・サニーフレア!?」」」


 世界的な英雄を前に全員が驚きを露わにした。


 綺麗な茶色の長髪に、ルビーの様な真紅の瞳、赤い鎧には金の装飾が付いており、まさに豪華絢爛。彼女は美しく、最強なのだ。




ドラゴンヒーロー・サニーフレア①

 氷河期を終わらせた世界の英雄。ヒーロー時代の立役者にして、中央区のトップヒーロー。

 能力でドラゴンの姿に変身出来ることから、ドラゴンヒーローと呼ばれる。

 彼女の圧倒的な強さの正体は一体何なのか...?




「それじゃあ、私は中央区に帰る途中だったので...」


 そう言って、彼女はパッと人々に向かって手を広げた。


「サニーフレア!」


 焼は思わず声を張り上げ、フレアの元へ駆け寄った。焼の声に気付いたフレアがふと立ち止まり、振り返る。


「何だい、少年」


「あの…!自分は炎野焼えんやしょうと言います!あなたに憧れて…ヒーローを目指しています!」


 ーーしまった!

 咄嗟に右手が動き、敬礼をしてしまい、焼は思わず頬を赤る。恥ずかしさを隠すように、挙げた手で目を覆う。


 フレアは焼に背を向けると、ドラゴンのような大きな翼を広げた。

 翼が眩い光を反射し、彼女の背をさらに大きく見せる。


「少年、目を開けろ」


  焼は恐る恐る目を開き、その背中を見つめる。

 偉大な背は目前にあった。その時、胸の奥に熱いものがこみ上げる。


「.....決めた!俺は、あなたを超えるヒーローになる!」

「...!」


 その言葉に、フレアの口元が少し緩む。


「そうか...なら、私が助けられない人は何としても助けてあげるんだよ」


 焼が言葉を返す前に、フレアは力強く翼を羽ばたかせ、飛び去ってしまう。


 何処までも高く、誰よりも遠くへーー

目前にあった世界は、見る見ると遠いていくーー


 世界最強のヒーローを超える。


 ーー最高の目標だ。なってやる......最高のヒーローに!




第1話②「なりたいもの」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ