第1話①「ヒーローの街」
これは一筋の光に照らされる小さな世界の話。
そして憧れを追いかける少年の物語。
『これだけは覚えていて…..』
よく頭に響く言葉だ。幼い頃、誰かに言われた言葉。
その時の記憶は曖昧で、雲がかかっていたのか空は淀んでいた。
でもその言葉はとても明るく、暖かく、とても励まされる言葉で...
...いつも俺を奮い立たせてくれる。
目の前の困難も、失敗への恐怖心も、ちっぽけになる程の...大きな言葉。
得体の知れない怪物を目の前に、少年は拳を握りしめる。
後ろにいる少女を安心させようと、一度握った拳から親指を立てて見せる。
「安心しろよ!今の俺は、君の“ヒーロー”だ」
第1話①
木造や石造りの建物が並ぶ光景は、中世風の街並みを形作っている。
石で舗装された道路は、町民や商人の竜車が行き交い、明るい細道には楽しそうに遊んでいる子どもたちの姿が見える。
そう、竜車だ。この世界に馬車はなく、人や重い荷物を運ぶ役割はドラゴンが担っている。
ドラゴンと言ってもその背中に翼はなく、見た目は人より大きなトカゲと言ったところだ。
竜車とすれ違うように、1人の少年が街の中心部に向かって駆けていく。
「やべぇ!急がねぇと!」
髪は短く、背丈は高くも低くもない15才の少年。焦げたような髪色に、炎のような赤色の瞳。
袖と裾が共に短い薄着コーデで、少年は早朝の街路を駆けていく。
少年の名前は炎野焼。
車輪で凹んだ轍を軽く跳び越えて、焼は壁を見上げる。
ーーそろそろ日が出てくるな...
時を同じくして、街の北側では“彼ら”が活躍していた。
壁について①
この世界は大きな壁に囲まれている。
太陽が東の壁から顔を出す頃、東区の時刻は午前10時になる。
ここは東区の北側にある広場で、噴水を中心に、周囲に露店が開かれているのが特徴。
「おっちゃん、たんまり稼いでんじゃん?俺達、金に困ってんだ。ちょっと分けてくれねぇか?」
両手の先から刃物を生やした細身の男が首元に刃を突きつけて店主を脅している。隣には頭からドリルのような角を生やした大男が突っ立っている。
店主は抵抗できず困っている様だ。周囲の町民は眺めていることしかできない。
「お前達、そこで何をしている」
二人の背後に、“ある者”が立ち塞がる。その低い声は大男を少し震わせた様だった。
「誰だ?お前」
しかし細身の男は動じる素振りなどなく、平然としている。
「俺を知らないということは、北東区から来た者だな...」
細身の男は振り向き、その姿を見る。道服に黒い帯を結んだ男。その特徴には聞き覚えがあった。
広場の人々はザワつき始める。人だかりの間を縫って、こちらを見ている子供達が、目を輝かせながらその男の名を呼ぶ。
「カンフーヒーロー・ブレイズ!」
「...なら覚えておくといい、ここが何の街と呼ばれているのかを」
「あぁ、お前ヒーローだったのか。通りで変な格好...してるわけだっ!」
ペラペラと喋りながら、細身の男は両手の先から刃を飛ばす。刃はブーメランの様に弧を描きながら、ブレイズに向かって飛んでいく。
次の瞬間、ブレイズの横に二人の仲間が駆けつける。
一人は緑の槍で刃を受け止め、
「わからなかったのかい?」
もうひとりは地面に蹴り落とす。
「この街には“俺達”がいるって事だ!」
「見ろ!東区のスリーヒーローが揃ったぞ!」
広場はより一層騒がしくなった。
そしてブレイズは、黒い帯を橙色の炎で包み、再び口を開く。
「ここ東区は“ヒーロー”の街だ」
東区
中央区の東側に位置する街。この壁内で二番目に人口が多い街。人口に比例してヒーローの数も多い。
他の地区と違い東区はトップが決まっておらず、あるヒーローチームの三人がトップヒーローとして君臨している。
「なぁ、お互い面倒事は嫌だろ?見逃してくれよ〜」
「何ふざけた事抜かしてやがる!」
広場が三人への歓声に包まれる中、細身の男はまだ冷静を保っていた。しかし横の大男は広場の空気に呑まれ、慌てふためきながら暴れ始める。
「おっ?いいぞホーンズ!やっちまえ!」
ホーンズと呼ばれた角の大男は広場の人々に向かって突進する。
「あっバカヤロー!ヒーローの方行けよ!」
細身の男に止められても、ホーンズは額の角を突き出し、大きく地を揺らしながら進み続ける。
「させないよ」
駆けつけたヒーローのひとりが、大男を止めるため、緑の槍を投げる。投げられた十本の槍は地面に突き刺さり、大男の前に柵を作る。
「民間人には指一本...いや角一本触れさせないよ」
「緑のオーラの槍?...アイツまさか!?」
特徴的な能力を見て、細身の男は思い出した。
「密林ヒーロー・ラプトル!」
助けられた人々が彼の名を呼ぶ。
「くっ...こんな槍、助走をつければ.....!」
ホーンズはその場で足を引こうとしたが、何かに足を押さえられていることに気づく。
「コイツの事は任せろ、俺が取り押さえる!」
ホーンズの足元、青色に光る地面は沼の様にどろどろしており、彼の両足を握っている。
「沼地ヒーロー・スワンプ!」
広場の人々はヒーロー達の戦闘を安心して観ている。彼らが負けるはずないと。自分達に危険はないと。これが彼らヒーローに対する街の人々の信頼である。
「今度こそ、喰らえブレイズ!」
まだ懲りない細身の男は、ブレイズに向かって再び刃を投げる。
「軽い...つまらない怒りに任せた攻撃には、つまらないものしか乗っていない」
ブレイズは飛んでくる刃を軽く拳で受け止める。
「く...何でだよぉ!」
ホーンズが取り押さえられることに気づき、ようやく動揺したのか、細身の男はみっともない声を上げながら走り出し、広場から逃げようとする。
「逃がさん」
ブレイズは細身の男に跳び蹴りを決め、地に這いつくばらせる。
「ドリル角のホーンズ380万ルクス、窃盗・器物損壊多数...」
「短刀のポーン懸賞金120万ルクス、窃盗・強盗に脱獄一回とは...やらかしてるね君」
「...こんなチンピラを檻からも逃がしているのか、北東区の怠けどもは...」
「まぁまぁ今捕まえた事だし、な?ブレイズ」
二名の手配人を捕らえたヒーロー達は、広場の人々から今日一番の歓声を浴びる。
ヒーロー達の活躍を見た子供達が何か話している様だ。
「やっぱヒーローってかっけぇなぁ。俺も大きくなったらブレイズみたいに、悪い奴に飛び蹴りを決めてやるぞ!」
「じゃあ俺は西区のトップみたいにバリアでみんなを守るんぞ!」
「ぼ、僕は...」
東区の子供達にとってヒーローは憧れの存在である。
街の治安を守り、犯罪者を取り締まる。近年、ヒーローは騎士に置き換わる形で、世の中に浸透しつつあった。
一方その頃、焼は憧れのヒーローに出逢っていた。
第1話①「ヒーローの街」