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◇098 エルフ姉妹、来訪





「この度はお招きいただきありがとうございます」

「お招きいただきありがとうございます!」


 シームルグのオボロから下りた二人、エルフのミューティリアさんとエルティリアちゃんが私たちへ向けて頭を下げる。

 同じようにオボロから下りてきた、姉妹の護衛のエルフ六人も小さく頭を下げた。

 護衛のエルフの六人が全員女性なのは秋涼会でのことを考慮してだろう。男性は参加できないからな。


「ようこそ、フィルハーモニー公爵家へ。律も送り迎えありがとうね。疲れてない?」

「いえ、大丈夫です」


 オボロに乗って行くとはいえ、往復六時間以上の空の旅だ。疲れていないわけはない。

 朝からずっと飛びっぱなしだったろうオボロも疲れているだろうし、律には今日はもうお休みしていいと伝えた。彼女は大丈夫だと休むことを渋っていたが、休むのも仕事である。

 初対面のお父様とお母様にミューティリアさんとエルティリアちゃんを紹介する。

 ミューティリアさんはエルフの里の長、レクスラムさんの代理及び、精霊樹の巫女として秋涼会に参加する。エルティリアちゃんもだ。

 他の王族と同じく宿泊には一流のホテルを用意していたらしいのだが、彼女たちは公爵家うちに泊まることになった。

 やっと引きこもっていたエルフとの交流が始められるこの時に、なにかトラブルが起きては問題だからね。

 エルフの方々も親しい私たちの方が安心できると了承してくれた。


「サクラリエル様には本当にお世話になりました。フィルハーモニー公爵家の皆様にもお礼申し上げます」

「いえいえ、娘がお役に立てたのなら幸いです。短い間ですが我が家と思ってお寛ぎ下さいね」

 

 お母様とミューティリアさんがお互いに挨拶を交わしていると、お屋敷の門の方から一台の馬車が入ってきた。

 その馬車を見た瞬間、私とお父様の眉根がきゅっとなる。皇家の紋章。皇王陛下おいたん登場かよ……。

 と、思ったら下りてきたのは皇王陛下だけではなく、皇后様と皇太后であるお祖母ばあ様もだった。エリオットはいない。


「兄上……なぜここに?」

「エルフの方々がいらっしゃると聞いて、国の代表たる余が来ないわけにはいくまい?」


 本当かなぁ……。単なる野次馬じゃないの? 疑う私の視線から逃れるように、皇王陛下はミューティリアさんの方へと向いた。


「エルフの方々、よくぞ皇都へ参られた。余がこの国の王、ウィンダム・リ・シンフォニアである」

「この度はお招き下さりありがとうございます、皇王陛下。エルフの里の長、レクスラムの長女にして精霊樹の巫女、ミューティリアにございます。同じくこちらは妹のエルティリア。どうぞよしなに」


 ミューティリアさんは胸に片手を当て、小さく頭を下げる。隣のエルティリアちゃんも慌ててお姉さんの真似をしながらぺこりと頭を下げた。

 同じように皇后様とお祖母様もエルフ一行にご挨拶。それをぼんやりと見ていると、すすす、と皇王陛下がこっちに寄ってきた。


「ところでサクラリエル。また新たな店を呼び出せるようになったそうじゃないか。ここはひとつ、その店でエルフの方々を歓待してはどうかな?」


 おいたん、結局それが目的か? コンビニが見たかっただけだな? 一見、皇王陛下に付き従って皇后様やお祖母様が来たように見えるが、どっちかというと皇王陛下の方が二人に無理矢理ついてきたんじゃないの?

 しかしコンビニが歓待になるかね……? まあ、珍しくは思ってもらえると思うけども。

 一応、うちの家長に意見を聞いてみる。


「どうします、お父様?」

「コンビニのお菓子やお弁当は美味しいから、充分に喜んでもらえると思うよ」


 確かに。ミューティリアさんやエルティリアちゃんも駄菓子でかなり喜んでいたし、コンビニのお菓子も喜んでくれると思う。なら、びますか。

 

「【店舗召喚】!」


 いつもの召喚場所に移動して、コンビニ『セブンスヘブン』を喚び出す。

 驚くエルフの方々を案内して、欲しいものを選んでもらった。やっぱりミューティリアさんとエルティリアちゃんはお菓子に向かい、皇后様とお祖母様はお母様が教えた美容関連の棚に夢中だった。

 護衛エルフの人たちも、氷が入っている冷凍庫やぐつぐつと煮えるおでんに驚きつつも興味津々といった感じだ。あれ? 皇王陛下は?

 私が皇王陛下の姿を店内を歩いてちょこちょこと探すと(背が低いため店内を見渡せない)、雑誌コーナーでとある本を夢中になって読んでいるのを見つけた。って、その本は……。

 うわあ……お父様と同じ顔してら。


「なにを見てるのかしら?」

「ふぁっ!? い、いや、これはだな!」


 うわあ……お父様と同じ目にあってら。

 皇后様のにこやかな笑顔の後ろに般若の姿が見える。

 というか、いいのかこれ? 国賓の前でうちの王様が嫁に責められているの見せていいのか?

 チラリとエルフの方々を見ると、品物を見定めるのに夢中で二人のことは眼中にないようだ。よかった。……いや、よくはないけども。


「というかお父様があそこに誘導しましたよね、あれ」

「なんのことかな? 僕は異界の優れた本を兄上に教えてあげようとしただけさ。あの本を選んだのは兄上だよ?」


 いや、あんなえっちぃ表紙の本が置いてあったら手を伸ばすんじゃないのか? 大抵の男なら。ホント仲いいな、この兄弟。

 とはいえエルフの方々にも悪影響があるので、その類の本は手早く棚の奥の方へ移動させて隠す。

 お父様や皇王陛下のような大人の男性でこうだもの、エリオットやジーンなんかが見たら卒倒するんじゃなかろうか。今日はいなくてよかったよ。

 変な性癖にでも目覚められたら目も当てられない……。コンビニを呼び出す時は注意が必要だな。すっかりコンビニがいかがわしいものになってしまった。

 とりあえずエルフの方々が選んだ商品と、いくつかのお弁当や飲み物を買ってコンビニを出て、別の店舗、パティスリー『ラヴィアンローズ』を呼び出す。

 食べるならこっちの店のほうが便利だからね。ラーメン店『豊楽苑』でもよかったけど、こっちの方がオシャレだし、エルフの人たちに似合うと思ってさ。

 本来ならこういった店に飲食物を持ち込んで食べるなんてことは御法度なのだろうが、そこは私がオーナーであるからなのか問題ないようなのだ。

 ならなんでスタッフルームに入れないの? って言いたいんだけどね……。


「ふわっ!? これ美味しいですね!」

「こ、この飲み物、しゅわしゅわします……! あまぁい……!」


 ミューティリアさんはナポリタンを、エルティリアちゃんはサイダーを飲んでご機嫌だった。護衛のエルフの人たちも自分で選んだお弁当をかき込むように食べている。どうやら気に入ってくれたようだ。


「エルフの里はお変わりありませんか?」

「ええ。何度か黄金蟲が来ましたが、例の薬で一網打尽でした。おかげさまで精霊樹も霊力を失うことなく光り輝いています」


 あー、あのアブラムシもどき、また来たのか。唐辛子とハバネロの激辛液をかけられてあっさりやられたみたいだけど。

 精霊樹が元気だということは、定期的に精霊樹の葉を取引してもらえるということだから皇国うちとしては助かる。

 リオンによれば、精霊樹の葉はいろんな薬に使えるんだとか。私に錬金術はわからないが、様々な種類のポーションを生み出すベースになるものができるらしい。スープを作る時のブイヨンとか出汁だしのようなものだろうか。

 過去、そんな精霊樹やエルフを狙って、欲深い者がエルフの里を襲い、人間はエルフたちからの信頼を失った。

 皇国うちとしてはなんとかまた信用を育み、隣人として仲良くしていきたいわけだけれど……。


「秋涼会は三日後ですが、それまでは公爵家でごゆるりとお過ごし下さい。皇都とはいえ、エルフの方々によからぬ考えを持つ輩がいないとも限りませんので」

「はい。それは重々承知しております」


 皇王陛下の言葉にミューティリアさんが小さく頷く。

 エルフはただでさえ美しい希少な種族だ。皇都を護衛もなく歩いたりしたら、間違いなく拐われる。

 とはいえ、エルフは属性魔法や精霊魔法に長けた種族。警戒は怠らないし、生半可な腕では返り討ちに遭うのは目に見えている。

 それでも実行するやつはそんな常識も知らない馬鹿か、よほど自信があるやつだ。前者なら問題ないが、後者だと綿密に計画を立てている可能性がある。

 万が一、エルフの方々が拐われでもしたら、招待した皇国の面目が丸潰れだし、せっかく持ち直した信頼も地に落ちる。

 残念だけど、今回は秋涼会が終わるまでは我が家で過ごしてもらうことになる。ここなら警備はバッチリだし、何か異変があれば琥珀さんやオボロが気付くからね。


「これで主要なゲストはみんな来たのかな?」

「そうだね。プレリュード、メヌエット、ゴスペル、アレグレット、そしてエルフの里。周辺国の招待客は全部来たね。あとは皇国内の貴族たちかな」


 遠い国のゲストがもう来ているのに、うちの貴族らがまだってどういうこと? とも思ったが、遠い国から来ているからこそ、着いてすぐ早々に、というわけにはいかないらしい。

 疲れもあるだろうし、秋涼会に向けての用意もある。その国々で付き合いのあるうちの貴族もいるだろうから、そこから情報収集する時間も必要だとか。

 そんな背景もあり、うちの貴族は余裕を持って参加するんだと。

 まあ機を見るに敏な貴族は、先乗りしていろんな情報をかき集めているんだろうが。


「ああ、そうそう、サクラちゃんとエステルちゃんのドレスが明日完成するらしいから試着をしないとね。アクセサリーなんかの小物合わせもしないといけないから」

「……ワア、タノシミ」


 忘れていたかったことを笑顔で放ってくるお母様に、私は引き攣った笑顔で返す。

 本当にあのエセゴスロリ服を着るの……? あんまり目立ちたくないんだけど……。とはいえ、公爵令嬢として、みすぼらしい姿を晒すわけにもいかんしなぁ……。

 皇后様とお祖母様が秋涼会のメインホストだとしたら、私は未成年者令嬢たちのホスト役だからね……。舐められるわけにはいかないってのは理解できるんだけど……。

 はぁ。





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