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◇096 曲者の招待客





 コンビニを召喚した次の日、お城からお呼び出しがかかった。

 てっきり陛下が『コンビニ見せて』って言ってるのかなと思ったんだけど、どうも違うらしい。


「福音王国から聖女様がご到着なされたそうです」

「あー……そっちかあ……」


 お城へと向かう馬車の中で、付き添いのアリサさんが登城理由を教えてくれた。

 付き添いには護衛騎士のターニャさん、騎士見習いのビアンカ、メイド見習いの律もついて来ている。あと琥珀さんね。ターニャさんだけは馬車の外で一人馬に乗っている。

 ゴスペル福音王国の聖女か。神の声を聞くことができる、一握りの女性たちである。

 ちなみに『スターライト・シンフォニー』では主人公エステルもいくつかのエンディングで『聖女』として崇められるルートを辿る。

 ゴスペル福音王国かあ……。

 神から与えられる【聖剣】。さらに神の使いである神獣を従える私をどうにかして聖女にし、国に連れ帰ろうとしているんじゃないかと思う。

 もちろん強引に連れてかれるようなことはないと思うが、しつこく勧誘されるのは面倒だ。

 

『心配することはない。もしもそんなことになったなら、我がきっぱりと断ってやろう』

「さすが琥珀さん、頼りになるう」

『むふん』


 私の膝の上で丸くなった琥珀さんが得意げに尻尾を揺らす。

 神の使いである神獣と、たまに神の声を聞くことができるだけの聖女では格が違う。向こうも無理強むりじいはできないはずだ。

 お城へ着くと、侍従長さんに案内されて入った部屋に一人の女性が待ち受けていた。

 白を基調とした祭服に、金の刺繍が派手にならない程度に施されている。

 緩くウェーブした髪はストロベリーブロンド。楕円形の眼鏡の奥には琥珀色の瞳。その目はこちらをじっと見つめていた。


「お初にお目にかかります、サクラリエル様。ゴスペル福音王国から参りました、ルーレット・オラトリオと申します。噂に名高い【聖剣の姫君】にお目通り叶いましたこと、誠に嬉しく存じます」


 深々と大仰にご挨拶をされてしまった。後ろにいたお付きの男女二人も同じように頭を下げる。


「過分なご挨拶、恐れ入ります。フィルハーモニー公爵家が嫡女、サクラリエル・ラ・フィルハーモニーでございます。遠くからお越し下さいまして、ありがとうございます」

「いえ、【聖剣の姫君】には一度お会いしたいと思っていましたので。それと……」


 ちら、とルーレットさんは私の傍らにちょこんと座っている琥珀さんに視線を向けた。


「初めまして、神獣様。ルーレット・オラトリオと申します。よろしければ御尊名を伺うことをお許し願いたく存じます」

『うむ。我は琥珀。四神の一にして西方と大道を司る神獣なり。天におわします神々の命を受けて、これなる小さきあるじの護衛獣となった。よろしく頼む』

「はっ」


 頭を下げたルーレットさんに続いて後ろに控えていたお付きの神職らしき男女も頭を下げる。やはり聖女よりも神獣の方が格が上のようだ。


「神々の命を受けて……とは、なにかサクラリエル様には神より課せられた使命がある、ということですか?」

『いや、そのようなものではなく、単に……。コホン、神々にもいろいろと事情があらせられるのだ』


 琥珀さんが大事なところをはぐらかす。まあ、あまりにも破滅フラグがありすぎて、このままじゃ死ぬかもしれないって女神様方が不憫に思ったから、なんて理由を語れるわけもないか。


「よろしければ我が国からもなにか支援をさせていただきたく思いますが……」

『無用。そなたたちは悩める人々の安寧の為に尽力せよ。さすれば神々も喜ばれよう』


 福音王国からの国際支援をバッサリと琥珀さんが断る。

 やっぱり琥珀さんについて来てもらって正解だったな。私だけだったら断れなかった。善意からの言葉とはいえ、そんな後ろ盾はいらんのよ……。


「そうですか……。サクラリエル様が『学院』に入学する時が楽しみです」


 『学院』……やがて私たちが通うことになる『オルケストラ魔導学院』は、天空に浮かぶ島にある学校であり、ゲーム『スターライト・シンフォニー』の舞台である。

 地上からは各国の首都にある教会からしか転移できず、いかなる国の、いかなる干渉をも許さない、独立した教育機関だ。

 『学院』の所属はゴスペル福音王国であり、福音王国の重鎮が教師というのも少なくない。

 ひょっとしたら、このルーレットさんも『学院』の先生なのかもしれないな。

 ゲームでは先生の攻略対象もいたから油断はできないが、女性の先生なら関係ないか。

 『学院』は世界各国から王侯貴族や一部の優れた平民を受け入れ、高度な教育を与えて母国へと帰す。『学院』は教育の場というだけではなく、そこで出会った他国の者との交流の場でもあり、世界の縮図でもあるのだ。

 極端な話、学生時代の交友や因縁などが、国同士の関係にも深く影響する。

 私の場合も他人ひと事ではない。なるべく他の国の生徒とは友好関係を築き、揉め事を起こさないようにしなければ。それが破滅フラグに直結していなければ、だが。


「私の妹がサクラリエル様と同い年ですから、同級生になりますね」

「私と同い年の妹さんがいらっしゃるのですか?」

「はい。【聖女】ではないのですが。頭はいいと思うのですが、人見知りが激しくて。いつも本ばかり読んでいます」


 福音王国出身で私と同級生? 『スターライト・シンフォニー』にそんなキャラいたかな……?

 まあ、クラスメイトでさえ知らないキャラがいるからな。ルーレットさんの妹さんもゲームの中ではモブキャラだったんじゃないだろうか。

 おっと人様の妹さんをモブキャラ扱いするのはいけないな。反省反省。

 福音王国は『学院』を運営しているが、生徒たちに信仰を押し付けるようなことはしない。

 そもそも生徒の大半は『ギフト』持ちだ。それぞれに信じる神がいる。

 その信仰を捨てるということは『ギフト』を捨てるということだからね。そして二度と『ギフト』を授かることはない。

 まあ、信じる神は一人(一柱?)じゃなくてもいいそうだけど。

 実際私だって、召喚の女神・サモニア様に感謝しているが、創世の九女神様にも感謝している。これは複数の神を信仰していると言えなくもない。

 福音王国の理念としては、『神々に感謝し、人々の役に立ち、己に恥じることなき人生を生きよ』とのことらしいから、それに反しない限りは問題ないのだろう。

 まあ福音王国にいるからといって、全員が全員神に仕える神職かというとそういうわけでもない。

 神は信じていても、神のために人生を捧げるかとなると、また違う話なんだろう。

 ちなみに【聖女】を騙ることはできない。そのような虚偽の発言をした場合、問答無用で『ギフト』を取り上げられて、天罰が下るんだそうだ。どのような天罰かはその都度違うらしいのでよくわからないが、たぶん騙った神によって違うんじゃないかな?

 っていうか、普通に天罰とかあるから怖いよね、この世界……。

 私が神々に恐れ慄いていると、コンコン、とドアをノックする音が聞こえた。


「どうぞ」

 

 私たちの会話を邪魔しないように控えていた侍従長さんが声をかけるとドアが開き、城のメイドさんが姿を現した。

 メイドさんは小走りに侍従長さんの下へ行くと、ぼそぼそと何かを伝える。それを聞いた侍従長さんの眉根が少ししかめられたのを私は見た。


「申し訳ありません、サクラリエル様。只今、帝国の皇女様方がご到着なされまして、サクラリエル様にお会いになりたいと……」


 え!? もう帝国の人たちが来ちゃったの!? 予定じゃ明日だって聞いてたんだけど……。

 どうしようかね。福音王国も帝国も我が国の大事なゲストには変わりはしない。そこに上下の区別は無いのだ。一応、建前上はね。

 こっちを放っておいてあっちに向かうってのも失礼な話だし、向こうを待たせるのも問題あるし。

 まあ、正直言って福音王国よりも帝国の方が私にとっては厄介なんだけども。


「私のことはどうかお気になさらず。今日はお会いできて嬉しかったですわ」

「慌ただしくて申し訳ありません。機会があればまたゆっくりと……」


 軽くカーテシーをして部屋を出る。琥珀さんがいたからか、思ったほど絡んではこなかったな。ルーレットさんも悪い人じゃなさそうだ。

 いや【聖女】である以上、悪い人ではないんだろうけど、いい人でも押しの強い人っているからね……。


「サクラリエル様、どうぞこちらへ」


 侍従長さんに案内されて帝国の皇女たちが待つ部屋へと向かう。まったく、どうせする挨拶なら同時にいっぺんに終わらせてほしい。

 そこまで離れてはいなかった別の部屋の前で侍従長さんがノックすると、『どうぞ』と中から声が返ってきた。あれ? 今の声ってば……。

 侍従長さんに続いて中に入ると、そこには二人の令嬢とおそらくは護衛と側仕えの人たち、そしてエリオットがいた。エリオットの護衛の人たちもいる。

 やっぱりさっきの声はエリオットか。

 そして少し困り顔のエリオットの奥に立つ二人の令嬢。

 一人は二十歳前後。シャーベットブルーのドレスを着た銀髪ロングの御令嬢。こっちが姉の第四皇女だな。

 『氷の皇女』と呼ばれるに相応しく、微笑みひとつ浮かべてはいない。その冷え切った目から飛ぶ視線は、まるで品定めをするが如く私を射抜く。

 そしてその横で小さくなっているのは、同じ銀色の髪を左右の側頭部でシニヨンにして腰まで伸ばした、ちょっとおどおどとした御令嬢。こっちが妹の第九皇女か。

 私と同い年ということだけど、やっぱり私の方が小さい……。

 貧民街スラム育ちと皇室育ちだから仕方ないといえば仕方ないんだけども。

 時々、私ってば本当にゲームの姿のように、身長が伸びてスラリとしたスタイルになるんだろうか……? と不安になるよ。


「サクラリエル・ラ・フィルハーモニー、お呼びにより参上仕りました」


 私が将来に不安を感じながらカーテシーで一礼すると、第四皇女──レティシア・エ・アレグレットが小さなため息をついた。


「【聖剣の姫君】とやらがこのような子供とは……。皇国はなにを考えているのかしら。竜を屠ったと聞きましたが、とても信じられません。今からでも聖剣は神々にお返しになられてはどうかしら?」


 おっとぉ……。いきなり喧嘩腰?


 





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