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◇085 様々なルートと可能性





「……んむ?」

「お目覚めみたいね」


 むくりと起き上がると、どこかで見たような綺麗な庭園。芳しい花々が百花繚乱に咲き誇る美しい風景と、突き抜けるような青空……って、ここは!?

 ばっ、と振り返ると、豪奢なガゼボ(四阿あずまや)の中に三人の女性が座っていた。

 二人は見覚えがある。創世の九女神のリンゼヴェール様とサクラクレリア様だ。

 もう一人は知らない。白に近い銀髪をツインテールにした女の子が優雅にお茶を飲んでいる。背中から半透明な羽根のようなものが見えるけど、間違いなく九女神の一人だと思う。


「正解よ。私の名はリーン。そっちの世界ではリーンベルテよ。よろしくね」

「心を読まないで下さいよ……」

「あら、これは失礼。癖でつい、ね」


 リーンベルテ様はクスリと笑って再びお茶に口をつけた。

 全ての魔法を司る知識の女神、リーンベルテ様、か。知識の女神というのだから、なんでも知っているのかしら?


「なんでもってわけじゃないわ。知らないこともあるし、教えられないこともあるわよ」

「だから心を読まないで下さいよ……」

「あら、失礼」


 この女神様ひと、私をからかっているだけなんじゃ……と思ったところで、再びリーンベルテ様がクスリと笑う。やっぱりからかってる!?


「リーンは人をおちょくってからかうのが好きな、困った女神。性格が悪い」

「あら人聞きの悪い。誰でもってわけじゃないわ。興味ある人間しかからかわないわよ、私」

「なおさら悪い」


 サクラクレリア様とリーンベルテ様がそんな話をしているが、結局なんでここに呼ばれたんだろ、私……。


「ああ、サクラちゃんをここに呼んだのはね、お礼を言おうと思って」

「お礼……ですか?」


 リンゼヴェール様が苦笑しながら話しかけてくる。っていうか、また心読まれた……。


「ほら、精霊樹を治してくれたでしょう? 精霊は神々の眷属のようなもので、世界をより良くするためにお手伝いをしてくれる存在なの」

「言ってみれば上司と部下のようなものね。部下を助けてもらったのに上司が知らんぷりってのも体裁が悪いでしょう。だから感謝の気持ちをね」


 リンゼヴェール様に続いてリーンベルテ様が理由を説明してくれる。

 精霊ってのは女神様たちが世界を作った時に手足となってお手伝いをした存在なんだそうだ。そして天に帰った女神様と違い、そのまま地上に残って世界の管理を手伝っているのだという。

 上司と部下か。精霊って神様の下で働いていたんだね。

 まあ、こっちにも精霊樹の葉をもらうっていう下心があって助けたんだけれど。百パーセントの善意ではない。


「というか、あれはエステルの治癒魔法で治ったので、私の力では……」

「でも黄金蟲を退治したのは貴女の手柄でしょう? あまり自分を卑下するものじゃないわよ。黙って感謝されときなさいな」


 いや、感謝されとけって言われましても。リーンベルテ様が無茶苦茶なことをおっしゃる。


「神に感謝されるなんて滅多にないわよ? ま、そもそも会うこと自体がほぼ無いのだけれど。貴女はいろいろと特別だから」

「それって私が転生者だからですか?」

「それもあるけどね。ほら、私たちはゲームで言うところの貴女のいろんなルートを見ているから。ゲームオーバーにならないようにと、いつもハラハラして見てるのよ? 親身にもなろうってものでしょ」


 そのルートって、全部私が破滅するルートですよね……。ゲームのサクラリエルにハッピーなルートは存在しないからさ……。


「実際のところ、初めてユミナの未来視で見た時は、なんて嫌な女だと思ったものだけれど……。何度も何度も破滅していく貴女を見てだんだんと同情に変わっていったわ」

「そーですか……」


 ユミナってのは未来を見通すという、審判の女神ユミナリア様のことかな? 神様に同情されるってどんだけ破滅ルートがあるんだろ、私……。


「未来視で見た貴女と今の貴女は完全に別人だから、うまく破滅せずにいけるかとも思ったけど、やはり運命の巡り合わせはそう簡単に変えられないのね。なんとか頑張ってほしいわ」

「そりゃあ私だって破滅したくないから、頑張るつもりですけど……。運命の女神と言われるリンゼヴェール様なら、そこらへんどうにかできませんか?」


 私がリンゼヴェール様に視線を向けると、彼女は困ったような微笑みを浮かべた。


「ごめんね。神々の掟でそれはできないの。その代わり、あの世界には『ギフト』という特別な神々からの贈り物があるでしょう? それに運命は自分の力で切り開くものだから」


 切り開ける……かなぁ……? だいぶ厳しいよ、私の運命……。


「そもそも『ギフト』ってなんなんですか?」

「あの世界は私たちが初めて作った世界だから、他の神々がいろいろと手伝ってくれてね……ありがたいことに」

「手伝いというか、アレは完全に面白がってた。おかげで管理するのが大変。九人もいるからなんとかなってるけど」


 私の質問にリンゼヴェール様が遠い目をし、サクラクレリア様が眉根を寄せる。なんかよくわからないが、神々の世界もいろいろと大変らしい。


「『ギフト』は神々からの祝福。これだけ祝福された世界も珍しいのよ? まあ、私たちの場合、夫のコネってのもあるんだけど……」

「リーンベルテ様の旦那様、ですか?」

「リーンだけじゃない。私たち九人の夫。全員の旦那様」


 え!? 創世の九女神様って、全員一人の神様の奥さんなの!?

 なにそれ、ハーレム神とかモテモテ神とかなにかですか!?


「ぷっ。彼はハーレム神でもモテモテ神でもないわよ? 本人が聞いたら気を悪くするからこの話はここでおしまいにしましょう」


 リーンベルテ様にまた心を読まれた! っていうか、旦那神に知られたら不敬になる? もう黙っとこ……。

 しかしこの事実を教会に教えたら大騒ぎになるな……。創世の九女神全員の夫である神様がいるなんて。まあ、教えたら女神様に会ったってことで聖女扱いされるから教える気はないけども。


「ずっと見てたけど、まさか呪病がこんなに早く起こるなんてね。やっぱりサクラちゃんの存在が様々なものに影響を与えて、未来が変わってきている。良くも悪くも、ね」

「タイミングを一歩間違えれば呪病により多くの人々の生命が失われるところだったわ。本来なら間違いなく貴女も死ぬところだったのでしょうけど、聖女エステルを早く覚醒させたことが良い方に働いたわね」

「今回はなんとか生き延びた。次も生き残れるか心配」


 サクラクレリア様が物騒な発言をする。いや、次って!? 次もすぐにあるの!?


「ゲームで言うところの『リオンルート』は潰れたと思うわよ。これで『エリオットルート』、『ジーンルート』と合わせて三つの破滅フラグを潰したわけね。残りはあといくつかしら?」

「あの、『スターライト・シンフォニー』って、本編外伝含めて結構な数が出てるんですけど……」


 リーンベルテ様が気楽な言葉で言ってくれるが、全部のルートを潰せってこと!? かなりキツいですよ、それは!

 本編だけでも『5』まである……。しかも私は『4』までしかプレイしてない。外伝だっていくつかしか……。


「全部潰すことはないと思うよ。実際にこの時点でもう成り立たないルートもあるし。それに悪役令嬢のサクラリエルが出ないルートもあるでしょう?」

「まあ、そうですけど……」


 リンゼヴェール様の言う通り、悪役令嬢のサクラリエルが出ない話もいくつかある。携帯ゲームで出たとある外伝なんかには確か一切出てなかった筈だ。

 ただ私には関係ないとしても、エステルに絡んでくるルートもあるしなあ……。

 エステルは『1』、『2』、そしていくつかの外伝の主人公である。当然ながら全てのルートにバッドエンドがあり、中にはかなり悲惨なものも存在する。

 確かにサクラリエルが全く関わらないバッドエンドもあるが、だからといってエステルが不幸になるのを黙って見ている気にはなれない。

 知り合う前なら放置していたかもしれないけど、もう大切な友達だからね。ビアンカと律に関してはもう大丈夫だと思うけど。

 あとちょっと気になるのはルカとティファかな……。

 プレリュード王国の王女であるルカは、兄である王子ルートの悪役令嬢だ。ハッピーエンドなら王子とエステルが結ばれ、ルカが改心して終わりだが、バッドエンドだと王子が死ぬのよね……。兄を失ったルカは悲しみに暮れ、エステルを追い込んだ自分を責める……ってな展開なのよ。

 好きな人を失った主人公エステルも悲惨だけど、ルカもなかなかに悲惨だ。私自身は関係ないし、エステルも王子とくっつかなければ関係ないけど、ルカのためにこのルートはなんとか潰したいところだ。

 あとはティファ。メヌエット女王国の王女であるティファは、やがて付き人になる少年ルートの悪役令嬢だ。そのハッピーエンドは少年は自由の身になり、エステルと結ばれるというものだが、バッドエンドは女王国に大災害が訪れ、壊滅的な被害を受けるというものである。ティファは死んだりはしてないが、これも看過できるものじゃないよね……。

 自分の破滅ルートだけじゃなく、これらもなんとか回避したいところだけども……。

 やっぱり厳しいよ、私の運命……。

 

「まあ、頑張りなさいな。私たちは天界うえから応援してるから。そうそう、例の『加護』、私からもあげるわ。うまく使いなさい」


 え? 『加護』って、あの【入店禁止】とか【店内BGM】ってやつ? リーンベルテ様からももらえるの?

 うまく使えと言われても【入店禁止】はまだしも、【店内BGM】とか使いようもないんですけど。

 いや、便利は便利なんですが、好きな時に音楽が聴けるし。ピンポイントで選曲ができないのは不便なんだけどさ。だけどあれ、破滅フラグ回避には使えないっていうか。

 できれば使える加護がいいなぁ、なんて思ったところで目の前が暗転し、私はまたうつらうつらと微睡まどろみの中へと入っていく。


「私たちの加護はあくまでサービス程度だからそれは仕方ないわ。結局は貴女の行動が全て。つまんないことに躓かないように気をつけなさい」


 へーい……。だから心読まないでって……。








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