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◇056 魔剣の最期





 【影軍兵レギオン】を消すには強い光が必要。けど、光魔法の使い手はここにはいない。

 火でも怯むらしいけど、駄菓子屋に売ってた花火とかじゃ大して効果はないよね……。どっちかというと騎士の人たちの方が驚いてしまう気がする。

 あ、鏡とかで太陽の光を……って、曇ってら。むむむ……いや、まてよ……? そうか、あれがあった!

 私は収納魔法がかけられたポシェットから、『それ』を取り出した。いろいろ放り込んでおいてよかった。


「なんじゃい、それは? なんかの魔導具か?」

「そんなもの。これで【影軍兵】は一時的に消せると思う」

「そんな魔導具が?」


 バレイさんの横にいたユリアさんも驚いたように私の手の中にあるそれを見つめた。


「だけどディスコードを見つけたとしても、弱点である宝玉を壊さない限り、同じことの繰り返しになるよね……」


 あいつを倒すには身体のどこに宝玉があるかを見つけてそれを破壊しないと。ぐずぐずしてたらまた【影軍兵レギオン】を呼ばれてしまう。

 やはり聖剣の身体強化ブーストをさらに上げるしかないか。何日筋肉痛になるんだろう……。

 私はポシェットから取り出した物をエステルへとポンと手渡す。


「エステル。ここから少し離れて、私が合図したらこれをね……」


 私は簡単な『それ』の使い方をエステルに説明する。設定はこっちでしたのであとはボタンを押すだけなのだが。

 相手にバレると警戒される恐れがあるのでテストはしない。一発勝負だ。


「え、と、はい。わかりました」


 こくんと頷いたエステルが、私たちから少し後方に離れる。騎士団の皆さんも少し巻き込むが、それで影騎士が消えるなら危なくはあるまい。


「問題は黒騎士の身体のどこに宝玉があるかよね……」


 あの宝玉は空気中にある魔素を吸い取りその力の源にしている。だから外気に触れるところにあると思うんだが……。足の裏とか? いや、自分で踏んづけちゃったら意味がないよねえ。


「うーん……」

「あのっ、サクラリエル様! その役目、私に任せてくれませんか!?」

「ビアンカ?」


 私が悩んでいるとビアンカがずいっと志願してきた。


「アンサンブルの力を使えば黒騎士の動きを細かく追えます。私の目で必ず探し出しますから、サクラリエル様はあいつにとどめを!」


 アンサンブルの力で? ビアンカの話によるとアンサンブルの力を使うと、相手の動きがゆっくりに見えるんだそうだ。そうか、それでさっきの試合で急に動きが良くなったのか。

 エステルが【影軍兵レギオン】を消し、ビアンカが宝玉を見つけ、私が砕く、と。

 みんなで協力だね。よし、やってやるか!


「わかったわ。それでいきましょう」


 ビアンカが宝玉を見つけるまで聖剣モードのギアは上げない方がいいな。ビアンカが見つけるのに時間がかかってしまうと、私の体力が先に尽きる可能性がある。

 私とビアンカはエステルに背を向ける形で立ち、騎士たちと戦っている【影軍兵レギオン】を視界に入れる。ここからならどこにいても一目瞭然のはずだ。


「エステル、今よ!」

「はいっ!」


 バシャッ! とエステルの持つ『ストロボ』から強烈な光が放たれる。

 質屋にあったカメラなしのストロボが役に立つとは。ちなみに電池はファッションセンターのレジで売っていたのを買った。

 単体でも光らせることができるその眩しい光を浴びて、さっきまで戦っていた【影軍兵レギオン】が空気に溶けるように、しゅわっと一気に消滅してしまった。

 続けて一定間隔でバシャッ! バシャッ! とストロボが焚かれる。


「うっ!?」

「なんだ!?」

「まぶしっ……!」


 巻き添えになった騎士の皆さんから小さな悲鳴が漏れる。総長さんまで巻き込んでしまった。すみません、少しだけ我慢して下さい! えーっと……。


「あそこっ!」


 試合場の隅に消えていない黒騎士の姿を見つけ、私は一気に走り出す。

 後ろからビアンカも追走しているはずだ。今のうちにあいつを……!


「はあっ!」


 私の聖剣による斬撃を黒騎士がひらりと躱す。やはり斬られることを恐れているのか、あちらから斬り込んではこない。

 もたもたしていたらせっかく消した【影軍兵レギオン】がまた影の中から出てきてしまう。

 二撃、三撃と立て続けに聖剣を振り回すが、ギリギリで躱される。くそう、もう少し真面目に剣術の稽古をしとくんだった!

 いや、私の役目はこいつを引き止めておくこと。その間にビアンカが宝玉の位置を見つければ……!

 パッと見た限りでは身体の正面にはついていないように見える。するとやはり背中か?

 だけど黒騎士の背中越しにこちらを凝視しているビアンカにも見つけたような反応はない。背中でもないの? まさか頭の天辺、頭頂部とか!?

 さすがにそれだと私の身長では確認のしようがない。

 一か八か飛び上がって確認してみるか? 今の私の跳躍力ならできると思う。


「やあっ!」


 どうせ躱されると思った私は三メートル以上も大きく飛び上がりながら黒騎士に斬りかかった。

 空中から黒騎士を視認する。一瞬だけ見えた頭頂部に宝玉は……ない?

 予想が外れた私へ向けて黒騎士が剣先を向けてきた。あ、マズい!

 剣先から黒い稲妻が走り、空中にいる私を襲う。咄嗟に聖剣を翳すと黒い稲妻が切り裂かれ、なんとか防ぐことができたが、私はそのまま背中から地面へと落ちてしまった。

 背中の衝撃と痛みに一瞬息が止まる。高く飛びすぎた……!

 そこをチャンスと見たのか、初めて黒騎士が斬りかかってくる。


「危ない!」


 なんとか躱そうと身体をよじったとき、私の前にユリアさんが飛び込んできてくれて、黒騎士の剣を弾いてくれた。あっぶな……! 助かった……!

 ユリアさんが黒騎士に斬り込んでいく。その素早い連続の剣筋を黒騎士は全て受け止めていた。

 辺境最強と言われたユリアさんと互角の力を持っている? どうりで私の攻撃が当たらないはずだ。


「く……!」


 何回目かの打ち合いの最中、ユリアさんの持つ剣がパキリと欠ける。

 やはり魔剣相手に普通の剣では太刀打ちできない。このままではユリアさんが押し負けてしまう。

 私の体力ももう限界に近い。一か八か身体強化のギアを上げて、攻撃に転じるか? でも宝玉を砕かないと結局こっちが体力切れで潰れる。

 やはりビアンカが見つけるまで時間を稼ぐしか……!


「サクラリエル様! 右腋の下です!」


 私が悩んでいるとそんなビアンカの声が飛んできた。見つけたのね! ナイスタイミング!

 右腋の下? ビアンカに言われたその箇所を確認すると、腕に隠れてよく見えないが、確かに赤いなにかがある。

 こいつ……! そんなところに隠していたのか!

 場所がわかった以上ここからは全力でいかせてもらう。


「ファルネーゼ!」


 私の呼びかけに応えるように聖剣の力が一気に全身を駆け巡った。

 さらに跳ね上がった身体強化の恩恵を受けた私は、一瞬にしてユリアさんと打ち合う黒騎士に接近、右腋の下にあった宝玉目掛けて聖剣を一閃する。

 危険を感じたのか黒騎士が身を引く。ギリギリのところで剣先が宝玉を掠めた。

 惜しい! 踏み込みが甘かったか! だけど次は外さない!

 逃げる黒騎士をさらに追撃し、今度こそ必殺の一撃をくらわそうとする私。

 それを防ごうとしてか、黒騎士の全身から四方八方に黒い稲妻が飛び散る。


「このっ……! 往生際の悪い!」


 聖剣で稲妻を斬り裂く。斬り裂いた先にいた黒騎士へ向けてさらに斬り込むが、その右脇に宝玉がない。移動した? いや、こいつは黒騎士じゃない! 似てるけど、こいつは【影軍兵レギオン】だ!

 雷撃の合間に入れ替わったのか! そのまま聖剣を振り抜き、【影軍兵レギオン】を斬り捨てる。

 本物の黒騎士はどこに……!?


「サクラリエル様! 後ろです!」


 ビアンカの声に反射的に振り返ると、少し離れたところに立つ黒騎士が、私へと向けてディスコードの切っ先から雷撃を放つところだった。

 マズい。これは躱せない。どうする……! そうだ!


「【店舗召喚】!」


 私の目の前に、ドンッ! と一瞬にしてキッチンカーが現れる。

 黒騎士の放った雷撃はキッチンカーに阻まれて私には届かなかった。どうだ! 店舗バリアー!

 すぐさまキッチンカーを送還し、目の前に呆然と立つ黒騎士へ向けて全力で飛び込む。

 突然現れ、突然消えたキッチンカーに対処が遅れた黒騎士が慌てて避けようとするがもう遅い。こっちは剣を振り抜くスピードも段違いに強化されているんだからね。

 一切の慈悲無く、聖剣を振り抜く。

 狙い違わず聖剣の刃は黒騎士の宝玉を捉え、それを粉々に打ち砕いた。

 パンッ! とまるで爆発するかのような勢いで黒騎士の右脇にあった赤い宝玉が勢いよく飛び散った。

 瞬間、まばゆい光彩陸離の渦とともに、取り憑いていた騎士から黒い鎧がモヤとなって剥がれていき、上空へと向かう。やがてそれは苦しむ怨念のような声とともに、空気に溶けるように消滅してしまった。

 その場に試合の審判であった騎士がばたりと倒れ、さらにその横に宝玉が砕かれたディスコードがカランと落ちる。

 パキラ、とディスコード全体に亀裂が入り、呪いの魔剣はあっけなく砕け散った。


「やった! サクラリエル様が勝った!」


 ビアンカの喜ぶ声に私は安堵のため息をつき、全身から力が抜けていくのを感じた。

 やれやれ、なんとかなったか……。

 暗雲が立ち込めていた空から一条の光が差し込み、爽やかな風が不吉な雲を空の彼方へ追いやっていく。

 喜びに溢れる人たちの歓声が辺りに響き渡っていた。


「やったな、嬢ちゃん」

「バレイさん」


 戦斧バトルアックスを担いだバレイさんが私に話しかけてくる。


「これであの馬鹿弟子も少しはあの世で反省するだろうよ。呪いの力に頼った魔剣なんぞ、なんの価値もないってな」


 砕けたディスコードを見つめながらそんなことを口にするバレイさんは、私にはほんの少しだけ寂しそうに見えた。


「おい! 早く担架を!」


 倒れている審判の騎士を心配してか、同僚の騎士たちが集まっていく。聖剣は私の一部のようなものであり、なにを斬るも斬らないも私の自由だ。

 砕いたのは宝玉のみのつもりだったが、ひょっとして骨にヒビくらいは入っているかもしれない。医者か回復魔法使いにちゃんと診てもらった方がいいだろう。

 ああ、エステルに頼めば治してもらえるかな……と考えたところで急に私の視界が歪んだ。

 世界がぐるんと回転し、上へと飛んでいく。いや、違う。私が倒れていっているのか。

 身体の自由がきかない。切り倒される大木のように私の身体はただ倒れていく。


「サクラリエル様!?」


 悲鳴に近いエステルの声を聞いたと思った次の瞬間、地面に倒れ込む衝撃とともに私の意識はぷっつりと途絶えた。









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