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◇055 影軍兵

■一話飛ばして掲載してしまいました…。なので、本日は二話掲載します。





「げ」


 ぶった斬ったディスコードが再生していく。

 あー……そういや、こいつ自動再生って面倒くさい能力あったわー……。

 ディスコードの本体は剣の柄頭にある赤い宝玉だ。そこ以外を壊しても宝玉からの魔力で再生してしまう。宝玉さえ壊せばディスコードも破壊される。

 しかしながら、柄頭にあったはずの紅玉ルビーは今や黒騎士の胸鎧の中心に移動していた。あの黒い鎧もディスコードの一部だから移動することも可能なのだろう。

 つまりあれを壊すためには黒騎士に一撃入れないといけないわけで……。


「やっ!」


 私は聖剣ファルネーゼで斬りかかるが、黒騎士にあっさりと避けられた。

 先ほど刀身を斬り落とされたので警戒しているのか、向こうからこちらに斬りかかってはこない。うぬぬ……。


「はっ! えいっ!」


 連続でディスコードの宝玉を狙うが、全て躱される。

 聖剣の力により身体強化がされたこの『聖剣モード』だが、悲しいかな、剣技においては私は素人の域を出ない。

 おそらくは一流の剣士を本体にしているディスコードにはそれを躱すことなど造作もないのだろう。

 さて、どうするか……。手がないわけじゃないんだけど……。

 この『聖剣モード』になると、身体が一時的に強化され、本来の何倍もの力が出せる。さらに言うと、それはいくつかの段階に分かれていて、車のギアのように上げることもできるのだ。

 しかし最低レベルの今の段階でさえ、私はとんでもない筋肉痛になり、三日もベッドの上から起きられなかった。未だ成長途中の身体にはかなりの負担となるらしい。

 その身体強化のギアをもう一段階上げることによって、のちにどういう反動が返ってくるのか予測もつかない。三日以上筋肉痛で寝込む、なんてのならまだ許容範囲だが、身体のどこかに予測しなかった異常が起こる可能性もある。

 聖剣の筋肉痛は、エステルの『ギフト』【聖なる奇跡】でも治せなかった。ギアを上げた反動も治せない可能性が高い。

 だけどディスコードを放っておくわけにもいかない。長く発動させなければ、最低限のダメージで仕留めることができるかもしれない。こうなったらゴリ押しの短期決戦だ。


「よし……!」


 覚悟を決めて聖剣モードのギアを上げようとしたその時、黒騎士へ斬りかかる一人の騎士の影が視界に入った。


「総長さん!?」


 総長さんの持つ魔剣ペザンテが黒騎士へと振り下ろされる。

 その攻撃を手にしたディスコードで弾いた黒騎士が、今度は反対に総長さんに斬りかかった。

 返した刃で総長さんがそれを受け止める。互いに斬り、受け、薙ぎ、弾き、凄まじい剣技の応酬が目の前で繰り広げられる。おおう……入り込む余地がない……。

 さすが騎士団総長。あの黒騎士と互角にやり合っている。

 このままうまくいけば倒せちゃうんじゃないの? と私が思ったとき、黒騎士の影が不自然に揺らいだ。


「っ! 総長さん、足下に気をつけて!」

「むっ!?」


 私の声に総長さんが飛び退くと同時に、その足下を黒刃が振り抜かれた。

 黒騎士の剣ではない。その足下の影から伸びた別の手が剣を振ったのだ。

 のそり、とその影の中から騎士の形をした影が這い出てくる。

 さらにボコッと泡立った影の中から、何人もの騎士が次々と這い出てきて、あっという間に、何十人もの影の騎士が生まれてしまった。

 みんながみんな剣を持っているわけじゃない。槍斧ハルバード両手剣バスタードソード、双剣を持っている影もいる。


「これは……!」

「【影軍兵レギオン】……!」


 黒騎士となったディスコードの奥の手だ。今までに倒し、力を取り込んできた使い手の影を呼び出す闇の魔術。

 よく見るとこの合同試合でグロリアが倒した相手と思われる影も含まれている。鎧姿ではあるが体格はそのままなので少年の影と判断できた。

 影には本人と違って感情がない。故に完全に冷徹な戦闘マシーンと化している。ゲーム内でもそうだった。

 ゲームでは学園の仲間が駆けつけて来てくれて、【影軍兵レギオン】を引き剥がし、ジーンと黒騎士の一対一の戦闘になるんだけど……。


「おっしゃあ! 総長に続け!」

「俺たちの縄張りで暴れるなんてふざけた野郎だ!」

「ぶっ潰す!」

 

 現れた影の軍団に客席にいた騎士たちが武器を手に立ち向かっていく。

 招待客や応援に来た一般の人たちもいるので、半分くらいはその護衛に残っているが、試合会場は一気に影軍団VS皇国騎士団という縮図に変わった。

 影の騎士は実体化しているので、斬れるし殴れる。一定のダメージを与えれば形を保持できなくなって消えるはずだ。


「ここが騎士団の本部でホント良かったよね……」


 それでも数ではやや不利。だけど皇国の騎士たちがそう簡単に負けるわけはない。【影軍兵レギオン】に充分対抗できるだろう。

 問題なのは────。


「ああ、もう! ディスコードはどこ行ったのよ!」


 影の騎士たちに黒騎士が紛れると、黒に黒でどこに行ったのか判断がつかない。似たような黒の鎧だらけでどれがどれだか……!

 試合会場は皇国騎士たちや観客たちに囲まれているから逃げたってのはないだろうけど……!

 ディスコードを探す私に、槍斧ハルバードを持った影の一人が斬りかかってくる。


「この……! 邪魔!」

 

 聖剣ファルネーゼでその影を一刀両断にする。魔を討ち邪を払う聖剣を受けて、悪しき影は空気に溶けるように雲散霧消した。

 一体倒したと思ったら今度は別の影が襲いかかってくる。あー、もう、めんどくさい!

 襲いかかってきた影を斬り捨てようと聖剣の切先を向けると、突然その影が上下真っ二つに斬り裂かれた。

 霧消する影の後ろから、戦斧バトルアックスを手にしたバレイさんが現れる。


「バレイさん、戦えたんだ」

「魔剣鍛冶師が戦えないでどうする。馬鹿弟子の後始末はきっちりせんといかんからな。酔い醒ましにはちょうどいいわい」


 あ、この人さっきまでお酒飲んでたじゃんか……。本当に大丈夫なのかな……? ドワーフがお酒に強いのは知ってるけどさ。酔って味方を攻撃とか無しだからね?


「とはいえ、こうも多いのではどれがディスコードの本体か分からんな」

「本体には胸に宝玉が……いや、アレって移動できるからほとんど区別がつかないかも……」


 たとえば背中なんかに移動されたら正面からはわからないし。

 ゲームの中でのディスコードはジーンのことを正直舐めてたから、一対一の戦いに乗ったんだよね。

 初手で私が聖剣なんかで斬りつけたから、完全に警戒されてしまったらしい。どうしよ……。


「サクラリエル様! 危ない!」

「え?」


 突然の声に振り返ると、私の目の前まで迫っていた影騎士が真っ二つに斬り裂かれたところだった。

 その先には魔剣アンサンブルを手にしたビアンカが。


「ビアンカ、怪我は……!?」

「私が治しました!」


 ビアンカの後ろから元気よくドヤ顔でそう答えたのは『ギフト』【聖なる奇跡】を持つエステルであった。

 そうか、エステルの『ギフト』で回復させたのか。

 エステルはここ一ヶ月、ビアンカが特訓で怪我するたびに回復役を務めていたからね。もう手慣れたものなんだろう。

 瀕死の重傷ならまだしも、普通の怪我を治すくらいなら騎士団付きの治癒師でもできる。エステルの『ギフト』がとんでもないものだとは周囲まわりにはバレていないはずだ。


「怪我が治っても体力までは回復してないのですから、無理はしないように」


 そう言って影の一人を斬り捨てながらやってきたのはエステルのお母さんであり、私とビアンカの剣の先生でもあるユリアさんだ。

 さすがかつて辺境一の剣士と言われただけあって、襲いくる影の騎士を次から次へと斬り倒している。

 聖剣をユリアさんに使ってもらえたらこんな状況、すぐに解決するのに。貸与機能はないのか、この剣は。

 

「サクラリエル様! ご無事ですか!」


 私の護衛騎士でもあるターニャさんまで来てた。私が飛び出して来ちゃったからな。護衛としては来ないわけにはいかなかったのだろう。申し訳ない。

 ふと、飛び出した席の方を見ると、エリオットが護衛の人たちに囲まれていた。あれはエリオットまで飛び出して行かないように押さえているんだろうなあ。あの人たちは皇太子を危険から守るのが仕事だし。

 本来ならば外に連れ出した方がいいんだけど、エリオットのことだから、一人だけ逃げるわけには! みたいなこと言ってる気がする。


「しかしけっこう倒したと思うんだけど、全然減ってる気がしないわね……」

「ディスコードを倒さん限り、次から次へと影を呼ばれる。このままじゃ最後にゃこっちの体力が尽きて終わっちまうな」


 バレイさんが影と戦いながら私の疑問に答えてくれた。

 やはりそうなるよね……。ホント初手で宝玉を砕かなかったのは痛いミスだったなあ。


「なんとか打開策はないの?」

「こいつらは闇の属性を持っとるから光に弱い。強烈な光なら消し飛ばせるはずじゃ」

「なら光魔法で……!」

「光魔法の使い手は少ないんじゃ。少なくとも騎士団なんかにゃおらんじゃろ。大抵は魔法師団か教会に取られるからの」


 むむむ、そう言われればそうか。そんな希少な魔法が使える人ならスカウトされまくるよね……。

 エステルも希少な属性持ちだけど聖魔法だしなあ。

 あ、聖魔法と光魔法って似てるけどまったく違う魔法だからね?

 光の属性を持つのが光魔法。邪悪なものを滅するのが聖魔法。

 光魔法の方は照明になる【ライト】、光の矢である【ライトアロー】なんかがある。

 聖魔法の方は悪霊なんかを消滅させる【バニッシュ】、浄化をする【ピュリフィケーション】などが有名だ。

 別物の魔法だけど、この二つは被っている部分もあって、例えばアンデッド系なんかは総じてどちらにも弱い。

 邪悪なモノを滅する聖属性の攻撃魔法とか、こいつらには充分に効果があるような気がするんだけどな。たぶん効くと思う。聖剣も効いたし。

 だけどそれ以前にエステルは攻撃の聖魔法をまだ使えないから無意味か。仮に使えたとしてもエステルの力をこんなところで晒したくはないんだよね。

 下手すれば皇王家に取り込まれてエリオットの婚約者まっしぐらだからさ……。私の代わりにエステルが人身御供になるなんて耐えられない。

 本人がそれを望んでいるなら別だけど、どうもエステルはエリオットを嫌っているっぽいんだよねぇ。

 なにやった、皇太子様エリオット


「光魔法じゃなく火魔法でも怯ませることはできるんじゃが……ほれ、あの小僧みたいに」


 バレイさんが目で示す方を見ると、魔剣に炎を纏わせたジーンが影の騎士に斬りかかっているところだった。

 いつの間に来ていたのか。セシルとの戦いで受けたダメージは回復しているようだ。

 そのセシルもジーンと一緒に背中合わせになって影の騎士と戦っていた。

 ジーンの燃え盛る炎の光に影の騎士は怯んでいるように見える。

 なんか影が薄くなってる? 存在が希薄になっているんだろうか。もっとたくさんの火があれば影の騎士が消えるのかな?


「あ、ウイスキーを床にぶちまけて火をつければ……」

「やめぇぇぇぇぇぇい! なんちゅう恐ろしいことを……! 酒飲みへの冒涜じゃぞ、それは! もったいないじゃろうが!」


 バレイさんに本気で怒鳴られた。スピリタスとか派手に燃えるかと思ったんだけど。


「そもそもそれぐらいの火では消すまでにはいかんわい。逆にこっちの味方の邪魔になるわ」


 確かに。炎で囲まれては戦っている騎士の皆さんまで巻き込んでしまう可能性もある。この作戦は却下だな。

 だけど騎士団のみんなだって限界がある。増え続けるこの【影軍兵レギオン】を早くなんとかしないと……!









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