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◇054 黒騎士

■あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します。

■すみません、一話飛ばして掲載してしまいました。二話分載せます…。





「やった! 勝ったわ! おめでとう、ビアンカ! おめでとう!」

「おめ、おめでどう、ビアンガざん~!」

 

 ビアンカの勝利に私は我を忘れてその場から立ち上がり、めいいっぱいの拍手を送った。

 隣のエステルは涙腺が決壊して、苦笑したユリアさんにハンカチで顔を拭われている。

 ビアンカの一撃が胴に決まったグロリアは、そのまま動かなかった。気絶しているようだ。

 急にビアンカの動きが良くなったと思ったら、あれだけ躱すのが精一杯だったグロリアの鞭を押さえ込んでの逆転勝利だ。一体なにがあったのか私にはさっぱりわからない。


「アンサンブルの力を引き出したんだ。あの嬢ちゃん、強くなるぜ」


 そう言って私の隣にいたバレイさんがグイッとグラスを傾ける。よくわからないけど、魔剣の力で勝ったってこと?

 なんにしろ勝ちは勝ち。ビアンカは賭けに勝ったのだ。これまで通り、私の側仕えとして一緒にいられる。それが一番嬉しい。

 ゲーム内ではお互い悪役令嬢だったのに、こんな関係になるなんて自分でも驚きだ。

 ビアンカに取り押さえられるルートはもうないと思いたい。彼女は私の側仕えで、公爵家うちの騎士見習いでもあるわけだし。【獣魔召喚】で食べられてしまうムシャムシャルートももうないし、これでジーンルートはクリアなんじゃない? ルートはルートでもフラグ折りルートだが。


「あ! ディスコードを回収しないと」


 そうだそうだ。グロリアの魔剣ディスコードを取り上げないと。

 今はいいけど十年後に例の辻斬り騎士の手に渡り、皇都で辻斬り事件が起こったら意味ないもんね。ジーンルートの最後に残った折らなきゃいけないフラグだ。

 しかし取り上げるといっても、そのグロリアは試合場の床石の上で白目を剥いて気絶している。ディスコードも床石の上に転がっていた。

 勝手に取り上げても構わないかな? そう約束していたわけだし。

 グロリアが気絶している今のうちに回収しておいた方がいいような気がする。意識が戻った後だとゴネられる可能性も否定できない。

 次の決勝はビアンカ対セシルだが、ビアンカの負傷が酷いため、行われるかどうかわからない。回復魔法や回復の『ギフト』持ちが騎士団にもいるとは思うが、大丈夫だろうか。

 そんなことを思っているうちに、担架を持った騎士が現れ、気絶したままのグロリアを乗せた。

 落ちていたディスコードを審判の騎士が拾い上げている。むう。後で回収しないと。

 と、私が思った次の瞬間、ディスコードを手にした若い騎士の身体から、恐ろしい量の黒いモヤがブワッと噴き出してきた。ちょっと待って!? なにこれ、どういうこと!?


「やべえ! くそっ! 『適応者』か!」


 隣のバレイさんがグラスをひっくり返し立ち上がる。『適応者』!? なにそれ!?


「自分の魔剣じゃないのに、相性がとてつもなく合致しているやつのことだ。滅多にいるもんじゃねえ。儂でさえ見るのはこれで二人目だ」


 魔剣は元々使い手に合わせて作られる。だから基本的にはその人以外が一〇〇パーセントの力を引き出すことは難しい。

 だから魔剣は持ち主が亡くなったりすると、その子供や兄弟などに受け継がれる。使い手の親族であれば他人よりは少しは相性がいいかららしい。血が繋がっている親族とかだと魔力も似通っているからね。

 ディスコードはグロリアに合わせて作られた魔剣ではない。恐ろしいことにあれでも実質五〇パーセント以下なんだそうだ。

 ところがごく稀にだが、本来の持ち主でもないのに相性が一〇〇パーセントの者がいたりする。

 それが『適応者』。『魔剣に選ばれし者』とも言う。

 まさかディスコードの『適応者』がここにいるなんて、いったいどんな確率よ!?

 審判の騎士がディスコードを手に苦しそうに呻いている。あれ? あの騎士の人、どこかで……。

 ああ!? あの人、ゲームに出てきた辻斬り騎士だ!

 ゲームで見たのより若いけど、特徴的な鷲鼻と珍しい黒髪は間違いない!

 なんでこんなとこに……って、騎士団員なんだからいるのは当たり前か! 十年前でも在籍している可能性はあったじゃないか! なんでそこに気がつかないかな、私ぃ!

 あの人が未来の辻斬り騎士ならディスコードと相性がバッチリなのは当たり前だ。だってそういうシナリオなんだから!

 本来ならばグロリアが持っていたディスコードが、十年かけて辻斬り騎士の手元に行くはずだったのに、私がいろいろとシナリオを変えたせいでそれが短縮されてしまった……?

 それともシナリオの強制力で、どう足掻いてもあの辻斬り騎士にディスコードが渡ることになっているのだろうか。ジーンから魔剣フォルテッシモを奪えなかったように。


『オオォォァァアァ……!』


 呻き声を上げ続ける辻斬り騎士の周りに、ディスコードから溢れた黒いモヤがまとわりついていく。

 瘴気とも言えるそれは、やがてだんだんと漆黒の形となって騎士の身体を包み込んでいった。


「黒騎士……!」


 誰からともなくそんな声が漏れた。空が翳り、風とともに分厚い暗雲がたちこめる。

 試合場の上には闇よりも暗い暗黒の鎧を全身に纏った黒騎士が佇んでいた。

 兜に覆われているため、表情は全く見えない。手にはドス黒い禍々しいオーラを放つ、魔剣状態のディスコードを手にしている。

 ええええええ!?

 あれってジーンルートのラスボス、『黒騎士』じゃない!

 辻斬りによって力を溜めたディスコードに使い手の騎士が乗っ取られ、暴走状態になった姿。もうあの状態になれるの!?

 いや、でもゲームで見た時より小さい気がする。ゲームでの黒騎士は一回り大きな重騎士のような体型に変化したはず。

 これはゲーム内で辻斬りをしたディスコードと、してないディスコードの差なのだろうか。


『オオァァ……!』


 突如現れた禍々しい鎧の騎士に、担架を運んできた二人の騎士が危険を感じたのか剣を抜く。

 その騎士たちへ向けて、黒騎士がディスコードをスイッと向けた。


「がッ!?」

「ぐッ!?」


 突然剣先から黒い稲妻のようなスパークが放たれ、二人の騎士たちを撃ち抜く。

 その場でばたりと倒れる二人の騎士。試合会場が一気に騒然さを増し、この緊急事態に対処するべく警備の騎士たちが慌ただしく動き始めた。



          ◇ ◇ ◇



 私は手の中のアンサンブルを強く握りしめた。

 数ヶ月前の親善パーティーで起きた暗黒竜の出現。

 目の前の黒騎士から感じる気はあの時に感じたものと同じ気配がした。

 濃厚な死の気配。こちらへと届く絶望の足音。

 かつて私はこの気配に膝を屈した。戦う心も持てず、全てを諦めたのだ。

 しかし今は違う。

 諦められないものがある。容易く折られるわけにはいかない決意がある。立ち向かう心がある!

 暗黒竜だろうと、黒騎士だろうと、臆するものか!

 黒騎士が私に向けて剣先を向ける。先ほどの騎士たちのように黒い稲妻がこちらへ向けて迸った。


「【二重奏デュオ】!」


 二人に分かれた私たちの間を稲妻が駆け抜けていく。

 左右に分かれた私はそのまま黒騎士へと斬りかかる。完全に別方向から攻撃したにもかかわらず、私の剣は信じられないスピードで振られたディスコードで両方とも弾かれた。


「くっ、なんて速さ……!」


 スピードだけではない。その剣技の腕が段違いだ。グロリアとは違う、完成された騎士の動きだ。

 おそらくディスコードに呑まれた審判騎士の力を増幅させているのだろう。

 審判の騎士は何度か騎士団本部で見たことがあったが、話したことはない。剣技も見たことがなかったので、なにを得意としているか、どういう動きをするのかまったくわからない。これでは対策のしようがなかった。

 【二重奏デュオ】が解除される。

 まずは目の前の黒騎士から距離をとって、相手の動きを見極めねば、と考えていた私の目の前に、一瞬にして黒騎士が迫っていた。


「なっ……!?」

 

 反射的に構えたアンサンブルにディスコードが振り下ろされる。グロリア以上の力に私は勢いを殺すことができずそのまま押し斬られ、袈裟斬りにされた。

 全身に気絶しそうな激痛が走るが、血は吹き出していない。

 おそらく試合場に施された結界の力だろう。そのことに気がついたらしい黒騎士は、ディスコードを天に翳し、黒い雷撃を放った。

 黒い稲妻が四散し、試合場の四隅にあった、水晶を咥えた竜の置物を破壊する。

 これでもう結界はない。

 袈裟斬りにされた身体が軋みをあげる。今にも意識を手放してしまいそうだ。

 それでも歯を食い縛って立ち上がろうとするが、ガクガクと足が痙攣し、力が入らない。

 結界が破壊され、麻痺することはなくなったが、私の身体はグロリアの戦いでボロボロだった。すでに私の身体は限界を超えているのだ。

 立ち上がれない私の目の前に黒騎士がゆらりと立つ。まるで死神のような瘴気を全身から漏らしながら。

 黒騎士がゆっくりと振り上げる黒い刀身を、私はただ見つめるしかなかった。

 これから我が身に襲いくるであろう斬撃に、私は目をつぶり身を硬くする。

 しかし、ザンッ! というなにかを斬り裂くような音がしたのに、私の身体にはなんの衝撃もない。

 恐る恐る目を開けてみると、そこには真っ白な髪をなびかせて眩いばかりの光を纏う、我が主君の姿があった。

 

「サクラリエル様……!」

「大丈夫? ビアンカ」


 その手に【聖剣】を携え、私に微笑むサクラリエル様はまさに聖剣の姫君、いや光の女神のように見えた。

 その先にいる黒騎士の手には折れたディスコードが。

 呪いの魔剣だとて、神の作りし聖剣に敵うわけがない。

 しかし私が歓喜の声を上げる前に、折れたディスコードが黒騎士から漏れる瘴気を吸い取り、みるみるうちに再生していった。


「そんな……!」


 あの魔剣は聖剣で折られても復活するのか!? いったいどうすれば止められるのだ!?




 



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