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◇051 姉弟対決





 休憩を挟んで第三回戦が始まる。これを勝ち抜けばベスト8だ。

 第三回戦は八試合あるので、四つの試合場で二回行うらしい。

 トーナメント表を見ると、ジーンとビアンカ、そしてグロリアの試合が被ってる。もちろんビアンカの応援をしたいが、グロリアの様子も見ておきたいかも。ジーンはどうでもいいや。

 三人とも第一試合なのでそれぞれの試合場に上っている。

 ビアンカの相手はまた年上の少年だった。いや、従卒スクワイアで実力があるってことは、大抵年上になるんだけれども。

 両手剣を持ち、盾は持っていない。身長が高く、体格のいい少年だが、整えてない髪や装備から平民の子じゃないかと推測する。

 騎士団の従卒スクワイアには、貴族の三男三女以下が多いけど、平民もそれなりに多い。ここだけの話だが、平民の方が優秀な者が多いそうだ。

 平民だとコネなんかないから、実力で従卒スクワイアになったってことだし、ハングリー精神や根性も持っている。

 つまりは油断ならないってことで……。

 試合が始まった。両手剣の少年が力任せに剣を叩きつける。それをビアンカが躱して相手に打ち込もうとするが、少年はくるりと身体を回転させ、振り下ろした両手剣が今度は横からビアンカを襲う。


「ほお、重い両手剣をあそこまで振り回すか。歳のわりに力があるな」


 隣のバレイさんが感心したように呟いて、ウイスキーの入ったグラスを傾ける。

 ビアンカの相手はパワータイプってことか。それでいて両手剣を巧みに操る器用さもある。

 さすがはここまで勝ち残った相手だ。実力は確かなのだろう。

 両手剣での連続攻撃をビアンカは躱し続ける。あんなの一撃でもまともに剣で受けたら吹っ飛ばされるもんね。

 さすがに振り回し過ぎたのか、両手剣の少年のスピードがだんだんと落ちてきた。一方のビアンカはスピードが増すばかり。

 これってどうなってんの?


「ビアンカの嬢ちゃんがアンサンブルの力を引き出しているのさ。その力を利用してわずかにだが加速している。魔剣の特性を知らない他の奴らにはわからねぇだろうがな」


 バレイさんがそんなことをのたまう。

 ビアンカの持つ魔剣アンサンブルは時空属性の魔剣と言っていた。自分の動きを速くしているということだろうか。

 躱し続けるビアンカに、とうとう少年の動きが止まった。見てわかるくらいに肩で息をしている。


「あいつは体力の配分が下手でね。始めから終わりまで全力でいけばいいってもんじゃないと、いつも言ってはいるんだが」


 総長さんがそんな風に両手剣の少年を評価する。なるほど、全力少年か。

 動きが鈍ってきた少年の隙を突いて、ビアンカが大地を蹴る。

 真横に振り抜いた両手剣の下をくぐり抜けながら、ビアンカの手にした魔剣アンサンブルがその胴を横薙ぎに切り裂いた。

 実際の戦闘なら腹を切り裂かれて、いや、ひょっとしたら上下真っ二つの即死コースだ。

 スキンバリアに守られている少年に怪我はないが、彼はくずおれるようにその場に膝をつき、うつ伏せにぶっ倒れた。


『勝者、ビアンカ・ラチア・セレナーデ!』


 審判の騎士がビアンカの勝利を告げる。すぐに担架が運ばれてきて、両手剣の少年が医務室へ運ばれていった。

 医務室には回復の『ギフト』持ちがいるから、すぐ元気になるだろう。


「やりました! これで三回戦突破ですね!」


 横にいたエステルが嬉しそうにはしゃぐ。これでベスト8か。あ、ジーンの方はどうなったんだろ?

 向こうの試合場の方を見るともう試合は終わっていて、ジーンは控え室に戻るところだった。どうやら勝ったみたい。

 逆にグロリアの方といえば、今までと同じように相手をいたぶりながら、実力差を見せつけるような試合運びをしていた。

 結果、四つの試合中、一番最後まで長引いてしまっている。

 さすがにこれは騎士道精神としてどうよ? と思ったのか、審判の騎士に警告を受けてやっとグロリアは相手を倒すという有様だった。

 全ての試合が終わり、ベスト8が決定する。そのうちの四人はセシル、ジーン、ビアンカ、グロリアで、あとは全員年長の少年たちだった。

 さて、四回戦だが、ここからは試合場が一つになる。四つの試合場にあった結界を生み出す竜の像を移動させ、土魔法の使い手が少し大きめな試合場を新たに作り出す。

 土で盛り上げた試合場に石で作られたパネルのような床石が次々と並べられ、あっという間に完成してしまった。派手じゃないけど、便利だよねえ、土魔法。

 そして四回戦、初戦はセシルの試合だった。圧倒的な実力で対戦相手を倒し、あっさりと四回戦を突破。さすがは前回優勝者の貫禄とでも言おうか。

 その後に続いたのはセシルの弟であるジーン。魔剣フォルテッシモを使い、剣を持ったいかにも貴族の子といった対戦相手の少年と打ち合っている。

 どうやら彼の持つ剣も魔剣らしく、しかも相性が最悪な水属性の魔剣らしい。ジーンの炎を纏わせた剣と、対戦相手の水を纏わせた剣がぶつかり合い、試合場に激しい水蒸気が立ち込める。

 やがて炎の力を取り込み、赤く輝くフォルテッシモを振りかぶったジーンの一撃が、相手の水の魔剣を場外へと弾き飛ばした。


『勝者、ジーン・ルドラ・スタッカート!』


 審判の声に剣を高々と上げるジーン。

 さすがにベスト8になるくらいの実力者は魔剣を持っている者もいるのか。子供になに持たせてんの、と思わないでもないが、これは子供に勝たせたいという親心かね。

 こればっかりは仕方のないことだが、魔剣持ちは裕福な貴族の子女が多い。元々魔剣自体が高価なものだからな……。

 やっぱり魔剣持ちとそうじゃない出場者をこういった試合で戦わせるのは不公平なんじゃないの?


「そもそも戦いというものに公平さなどありませんよ。寡兵で大軍とやりあうことなどザラにありますし。敵が魔剣持ちだから『不公平だ!』と言って、相手が退いてくれますか?」


 私の疑問に総長さんがそんな風に返す。

 いや、そりゃあ本当の戦いならそんな生温いこと言ってられないと思うけれども……。


「この試合で我々は単純な勝ち負けだけではなく、戦いの技術や駆け引き、勝つためにいかに戦術を組み立てるかなど、あらゆる行動を審査しています。魔剣を使いこなすこともその一つであるし、また逆に魔剣を持つ相手に対しての対処もです。そもそもそれを言い出したら『ギフト』も封じなければいけなくなりますし」


 むう。そうなるのか。前世の記憶がある私なんかだと違和感を感じるが、『ギフト』はその人の力とみなされる。『ギフト』を封じて戦うということは、それ自体がハンデを受けて戦うという考えになるのかな。

 確かに魔剣も使いこなせなければ宝の持ち腐れだし、ここまで何人か魔剣持ちでも負けた出場者もいるしね。

 そんな考えをしていたらビアンカの試合が終わっていた。相手は大きな斧を持った重騎士のような少年であったため、素早い手数で攻めるビアンカとは相性が悪く、あっさりと勝負が決まってしまった。

 続くグロリアの戦いも前の試合で注意されたからか、割と早く決着がついた。対戦相手の魔剣持ちの少年はなにもさせてもらえず、彼女の『ギフト』【透過迷彩】で一瞬消えたグロリアに背後から斬られて気を失った。

 これで第四回戦が終わり、ベスト4が決まったわけだ。

 ビアンカ、グロリア、ジーン、そしてジーンの姉、セシル。予想通りの面子が残ったというわけだ。男子がジーンしか残っていないってのは珍しいらしい。まあ、それは組み合わせによるんだろうけども。

 次の準決勝でビアンカとグロリア、ジーンとセシルが対戦する。


「いよいよですね……」


 隣に座るエステルが胸の前に手を合わせ、祈るようにビアンカを見つめる。

 いや、ビアンカとグロリアの試合の前にジーンとセシルの試合があるからね? 今からそんなに気合を入れてたら最後まで持たないよ?


『それでは準決勝戦第一試合! セシル・ルドラ・スタッカート、ジーン・ルドラ・スタッカート、前へ!』


 セシルとジーンの姉弟が試合場に上がる。姉弟対決だ。前回はセシルが勝ったそうだけど、今回ジーンは魔剣を手に入れている。

 それがどう影響するか……。

 

「いくぜ、姉ちゃん! っらあ!」

「まったく……相変わらず突っ込むことしかできないのかしら」


 試合開始と同時に【炎剣】の『ギフト』で燃え盛る剣を振り回し、ジーンがセシルに向かっていく。

 慌てることなくその剣を受け流し、巧みに捌きながらセシルが素早いステップでジーンの攻撃を躱している。なんか先を読んで避けているような動きだね。


「セシルとジーンは何度も対戦していますからな。セシルにはジーンの動きが手に取るようにわかるのでしょう」

「でもそれならジーンの方もセシルの動きがわかるのでは?」

「あやつは勘と反射神経だけで動いてますから。先を読んではいません。少しは考えることを覚えないといかんといつも言っているのですが……」


 エリオットの返しに総長さんが深いため息をもって答える。勘と反射神経だけでここまでやれるってある意味すごいと思うんだけど……。

 もっと考えて戦うようになればジーンももう一つ上のレベルにいけるんだろうな。

 総長さんの言う通り、セシルにジーンは振り回されているようだ。だんだんと疲労の色がジーンに見えてくる。


「この……ちょこまかと逃げんな、クソ姉貴!」


 ジーンの言葉にピクッとセシルの片眉が跳ね上がるのを私は見た。あれ? 怒ってない?


「あらあら。魔剣を手に入れてお調子に乗っているお馬鹿さんな愚弟には、お仕置きが必要かしらねー」


 ジーンの剣を躱したセシルが前に出た。そのまま彼女の右膝がジーンの腹へと叩き込まれる。

 

「ぐっ!」


 セシルは手にしていた剣を投げ捨てると、流れるようにジーンの右手を掴み、そのまま手首を捻って地面へと押さえつけた。

 ジーンの手からフォルテッシモがカランと落ちる。

 あれって脇固めだっけ?


「で? 誰がクソ姉貴ですって?」

「いででででで!」


 押さえつけられたジーンから悲鳴が上がる。スキンバリアも関節技には効かないようだ。

 笑顔でジーンの腕を軋ませていくセシル。なんだろう、すごく怖い。


「だ・れ・が、クソ姉貴ですって?」

「いだだだだ! お、お姉様! それ以上は! ホントに痛いから! ってえってぇぇぇぇぇ!」


 試合場にジーンの悲鳴が響き渡る。


「関節技ってアリなの?」

「……試合規定には反していませんので」


 総長さんがまたしても大きなため息とともに教えてくれる。

 確か試合の勝利条件って、相手を戦闘不能にする、降参させる、場外に落とす、あとは試合続行不可能となった時の審判による判定……だったはず。あ、相手の反則による勝ちもあったか。この場合どうなるんだろう?

 と悩んでいたら、ジーンが降参したらしい。どう足掻いても逃げられないため、諦めたようだ。


『勝者、セシル・ルドラ・スタッカート!』


 セシルが落ちていた剣を取り、沸き立つ観衆に笑顔で手を振る。

 その足下には、力尽きてぐったりとした彼女のジーンの姿が。

 なんとも切ない気持ちになるね……。相手が悪かったとしか言いようがない。ジーンにとって、天敵ともいえる相手だったんだろうし。

 担架で運ばれていくジーンに南無南無と手を合わせる。


『続いて準決勝戦第二試合! ビアンカ・ラチア・セレナーデ、グロリア・グリム・バルカローラ、前へ!』


 ビアンカとグロリアの二人が試合場へと上がる。

 ついに対決だ。ビアンカは勝てるだろうか……いや、必ず勝てる。私たちが信じないでどうする。

 負けるな、ビアンカ。






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