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◇047 店舗召喚7





 バレイさんから魔剣を作ってもらった次の日、また右手の紋章がレベルアップしていた。これってやっぱりジーンルートのイベントをこなしたからなんだろうな。

 ただ、これがジーンに魔剣が渡ったからなのか、それともバレイさんに魔剣を作ってもらったからなのか、微妙なところがわからない。

 それとももっと単純にスチルのような場面を迎えればレベルアップするのだろうか。

 うーん、でも単なる風景スチルも何枚かあるし、スチルのないイベントもあるしなあ。

 まあ、いいや。今回は仕方がなかったが、なるべくなら攻略対象のイベントを避けて、共通ルートあたりの細かいイベントを狙っていくことにしよう。チャンスがあれば、だが。

 もはや私がサモニア様から祝福を受けることに慣れてしまったお父様とお母様、そして早朝訓練に来ていたエステルを連れて、いつもの召喚場へと向かう。

 ビアンカとユリアさんは試合へ向けて少しでも訓練をしたいらしいので、訓練場に残っている。ちょっとくらい休んでもいいと思うんだけど……。

 さて、そろそろ私の希望する店舗が召喚されてもいいような気がするんですけれども。そこらへんどうなんでしょうか、サモニア様!

 どストレートに言うとお米が食べたい。こっちの世界に来てからお米を食べたことがない。そもそも存在しているのか怪しい。

 薬師のおばあさんと旅をしていた時も見たことがなかったので、近隣諸国にもないと思われる。

 もっと遠くの国にならあるのかもしれないが、果たしてそれが私の求めるお米なのかどうかもわからない。

 なら【店舗召喚】でお米を扱う店舗を呼び出した方が早いかもしれぬ。

 コンビニにレストラン、定食屋、牛丼屋、カレー屋、なんならまんま米屋でもいい。

 どうか私にお米を! ギブミーライス!


「【店舗召喚】!」


 そんな思いの丈を込めて店舗を召喚する。ん! そこそこ大きいぞ! 来たか、飲食店!

 眩い光が収まって目の前にその青い看板が見えた時、私はがっくりと膝をついた。この店か……。

 店頭に並ぶカプセルトイの販売機。壁一面のガラス窓から見える小さな箱の数々。どう見ても飲食店ではない。

 看板に書かれていた文字は『伊達模型店』。前世での専門学校の近くにあった模型屋さんだ。

 私の通っていたデザイン学科は立体造形という授業もある。それに使う素材や塗料なんかを買ったことはあるけど……。


「サクラリエル、この店は?」

「ええっと……模型屋さんです。自分で組み立てる小さな模型を売っている……」

「模型というと……建築前の建物とか船を模したやつかな?」


 うん、まあ当たっている。この店にも船とか家の模型もあるだろうし。ただ、大半はこの世界にない、いや、元の世界にもないものの模型だったりするんじゃないかな……。ロボットとか、宇宙戦艦とか。


「あれよね、駄菓子屋さんにもあった、組み立てると鎧人形になるやつよね?」

「ええ、そうです。ああいったものの専門店です」


 お母様が得意げに話してくる。鎧人形ってのはロボットプラモのことだろう。駄菓子屋にも安いプラモデルは置いてあったから、どういったものかはわかるはずだ。


「あっ、この猫の人形かわいい!」


 エステルは、店頭にあったカプセルトイのひとつに夢中になっている。確かにかわいいけど、それ一回二百円するからこっちのお金だと二千円もするよ?

 私の警告を聞いてもエステルはその猫のカプセルトイが欲しいらしく、お小遣いを入れてガチャリガチャリと回していた。

 出てきた猫のカプセルトイに喜んでたエステルが、またも銅貨二枚を入れてガチャリ、ガチャリと回している。あれ? 狙っていたやつが出なかったのかな?


「これはビアンカさんの分です。絶対に欲しがると思うから」


 ビアンカへのお土産だったらしい。なんだかんだで二人とも仲良くなったよね。ヒロインと悪役令嬢が仲良しなんてゲームじゃありえない……いや、まあそれは私とエステルも同じか。

 自動ドアを通り、店内に入る。

 店内には所狭しといろんなプラモデルの箱が置いてあった。大半はロボットアニメのプラモデルだが、車やバイク、飛行機や戦艦といったものもある。

 奥には模型製作に使う筆とか塗料とか、細々としたものが売られている。

 ああ、瞬間接着剤とかシンナーとか危険だから注意しておかないといけないなぁ。

 店に置いてあったプラモデルの箱を手に取り、じっと眺めていたお父様が唸る。


「ううむ……これはなんとも堅牢そうな建物だな。これはもしや砦か?」

「ん、と……これはお城ですね。熊本城」


 確か熊本城は『難攻不落』とまで呼ばれた城だ。お父様がそう感じたのも無理はないのかもしれない。

 箱を開けて中身を見ると、箱絵に感心していたお父様が眉根を寄せた。


「……これを組み立てると、この城になるのか? とてもそうは見えないが……。私の『ギフト』を使えば元に戻るかな?」

「いえ、これは元からバラバラに作られていますから、【物体修復】をかけても元に戻りませんよ」


 そうか、お父様の『ギフト』【物体修復】を使えば、作り方や塗り方に失敗しても戻せるんだな。意外とお父様と模型製作って向いているのかも。

 だけど説明書が完全に日本語で書いてあるからなあ。でもこっちの人も数字は読めるわけだし、絵だけでもなんとなくわかるから、組み立てることは不可能じゃないと思うけど。


「なんというか……不思議なお店ですね。見たことのないものばかりで圧倒されるというか……」


 エステルがそんなことを言ってくる。まあ、車やらバイクやら、戦車、飛行機、ロケット、果ては宇宙船まで、こっちの世界の人にはわけのわからないものばかりだろうからなあ。

 お母様はプラモデルよりも筆とか塗料だとか、そっちの方に興味があるようだった。

 プラスチックの小さいボトルとか、たぶん手に塗料をつけないための使い捨てビニール手袋とかが気になるみたい。


「これは空を飛んでいるのか? 異界には空を飛ぶこんな乗り物があるのか……」


 お父様が戦闘機のプラモデルの箱を見ながら感心している。こっちの世界にも空を飛ぶ乗り物はあることはあるんだけど、魔導飛行船と呼ばれる失われた古代文明の飛行船なんだよね。

 スピードはお父様の持っている戦闘機に遠く及ばないし、飛ばすには大量の魔石が必要だからおいそれとは飛ばせない。

 あ、魔石ってのは魔獣の胎内にある結晶体で、魔力が蓄積された半透明の鉱石のこと。

 そのままで電池のような使い方や、溶かしたり砕いたりしていろんなことに使われる。魔導具のコアにも使われる便利な石だ。

 この魔石はそのランクにもよるが、けっこうな値で取り引きされる。つまり魔導飛行船は金食い虫であり、よほどのことがなければ飛ばせないってわけ。帝国の方では魔石無しで飛ばせる魔導飛行船を開発中だとかいう噂も聞くけど、本当かね?

 私にしてみたらそれって普通の飛行船なんだけども。爆発とかしない?

 まあ、魔石の話はどうでもいい。

 とりあえずなにか作ってみようということで、初心者でも作れそうな、簡単にデフォルメされた車のプラモを人数分買ってみた。

 キッチンカーを見ているから、車にはそこまで違和感は感じないみたいだし。とはいえ、私もプラモデルなんか作ったことないんだが。

 いや、一回だけあるな。小学校三年生くらいのころ、年下の従兄弟いとこの代わりに作った記憶がある。自分で作れないなら買うなと思ったっけ。

 あの時作ったのはアニメのロボットだったけど、それよりはこのデフォルメカーは簡単そうに見える。

 これは接着剤のいらないキットだったので、さらに簡単だと思う。パーツも少ないし、完成後にシールを貼るだけの塗装もしなくていいやつだ。

 店内に作業スペースがあったので、ここで作ることにしよう。大きなテーブルが二つ、組み立てに使う道具もあるし、都合がいい。


「まずはこの説明書を見て、順番に組み立てていくんです。ほら、初めのこの二つのパーツ。A3ってのとA4ってのをこのニッパーで切り取って……」


 私は説明書通りに二つのパーツをランナーから切り取って、パチンと嵌めた。

 みんなも要領良くパーツを切り取ってパチンパチンと嵌めていた。お父様はニッパーの切れ味に感心していたが。

 ある程度教えるとみんなもプラモデルがどういうものかわかってきたのか、私が説明しなくても組み立てを進められるようになっていた。

 私も自分の車を無言で組み立てる。なんだろうね、こういう細かい作業をしてる時って自然と無言になっちゃうよね。


「できた!」


 一番最初に完成させたのはお父様だった。なにげに器用だよね。完成させた車を手に持って、お父様はいろんな角度から眺めている。

 子供みたいなその行動に、私は少しおかしくなって笑ってしまう。横を見ると私と同じようにお母様も笑っていた。

 全員さしたる問題もなくデフォルメカーを完成させることができた。さすが日本の模型の精密さは世界一と言われるだけのことはある。初心者でも簡単に組み立てられたよ。


「なるほど、こうやって模型を作るのだな。これは実用ではなく、観賞用ということか」

「組み立てる楽しみや、いかにリアル……実物に近く作れるかを楽しむためのものでもありますね。個人で楽しむ趣味の一種です」


 このお店ばかりはあまりこっちの世界では活用できないかもしれない。もともとプラモデルとかって趣味のものだから、その趣味が広まっていない以上、欲しい人があまりいないからね。広めるにしても、こっちの人には訳の分からないロボットとか、車とかでは広めようにも難しいというか。

 なんとか帆船とかなら売れるかも? と言ったところか。だけど帆船のプラモデルなんか、ある程度技術がないと作れないような気がする。

 あとは筆とか塗料とか? どっちかというと、プラモデルよりも、ピンセットとかニッパー、カッターや接着剤とかの方が売れると思う。


「私個人としては気に入ったよ。ひとつひとつ組み立てていって完成させるのはなかなか楽しい。自分の作ったものだと愛着も湧くしね」


 お父様はプラモデルを気に入ったようだ。あれかね、異世界でも男の子は似たようなものに興味を持つのかね?

 そんなお父様に接着剤や塗料、うすめ液などの注意点をしっかりと教えておく。まあ、取扱説明書に書いてあるのを読み聞かせるだけだけども。

 換気や火気、そういったものに気をつけないと大変なことになるからね。この注意事項はこちらの文字に書き出して渡しておくことにしよう。

 こっちの世界にも危険な薬品とかはあるからそういった取り扱いには注意してもらえると思う。

 後日、プラモデルにハマったお父様の部屋に、次々と車やらバイクやらロボットなどが並ぶことになったのは言うまでもない。










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