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◇037 店舗召喚6





 朝目覚めると、右手にある召喚の女神・サモニア様の紋章が大きくなっていた。レベルアップだ。やはり私の説は間違いではなかったとベッドの上でガッツポーズをとる。

 ゲーム内でのイベントを起こすことで私の『ギフト』は成長する。なぜ私だけがこんな仕様なのかはわからないが、それこそそれは神の味噌汁、いや『神のみぞ知る』というところだろう。

 しかしイベントを起こすということは攻略対象とのイベントを進めるということであって、下手をすると破滅フラグが立ってしまう。やるなら慎重に慎重を重ねてやらねばなるまい。破滅フラグが立つような決定的なイベントは避けなければ。

 時間やタイミングによっては起こすことができないイベントもあるよね……。例えばエステルとエリオットの建国祭デートなんかは建国祭が開かれている時じゃないと起こらないだろう。

 いや、開かれていてもあの二人はデートをするだろうか? なんかエステルのエリオットに対する好感度が下がっているんだよねえ。なんでだ?

 さらに言うなら攻略対象たちのイベントのだいたいが『学院』の行事絡みだったりするので、十年前の今ではなかなか難しいのだ。

 出会うだけのイベントならそのキャラと知り合えば起きそうだけれども、そんな危険人物たちと知り合いになんて、できるならなりたくない。


「ま、それはそれとして、新しい店舗の召喚だ! 今度こそコンビニを!」


 私はベッドから飛び降りて、着替えるためにメイドのアリサさんを呼んだ。



          ◇ ◇ ◇



「またサモニア様から祝福を受けたって……? これは初代様の財宝が見つかったことと関係があるのかな?」


 お父様、鋭い! 思いっきり関係あります! だけどこればっかりは教えるわけにはいかない。というか教えても意味がわからないだろう。前世やゲームの話なんてさ。


「次はどんなお店なのかしら。前回はお父さんの好きなお酒のお店だったから、今回は私の好きそうなお店を呼べないかしら、サクラちゃん?」

「いや、こればっかりは神様次第ですから……」


 本当にね、狙って呼び出せるなら苦労もないのにね。それができるならデパートでも呼び出しているよ、私は。

 今回はお父様、お母様、屋敷の使用人の他に、ビアンカとエステル、エステルのお母さんであるユリアさんも召喚場にいる。

 いい機会だから私の『ギフト』のことを教えておこうと思って。もうキッチンカーも見せているしね。


「サクラリエル様の『ギフト』は【聖剣】じゃなかったんですね……」


 後ろにいるビアンカが小さくそんなことを呟いている。あれ、なんかがっかりさせてしまったかな?

 そんなビアンカにエステルがドヤ顔で説明に入る。


「いいえ、ビアンカさん。【聖剣】もサクラリエル様の『ギフト』なのです。サモニア様とホーリィ様、二神の恩恵を受けた聖女。それがサクラリエル様なのです!」


 いや、どっちかというと【聖剣】はあんたのギフトだからね!? ビアンカも『なるほど……』じゃないっ! ユリアさんもそれを聞いてうんうんと頷いている。やめて、あんまり持ち上げないで!

 ただでさえ『聖剣の姫君』なんて呼ばれてるのに、これ以上変なレッテルを貼られてたまるか。

 はあ……。呼ぶ前からなんか疲れたけど、とにかく新しい店舗を呼び出そう。

 気を取り直して私は体内の魔力を集中させる。


「じゃ、じゃあいきます……【店舗召喚】!」


 召喚場にまばゆい光彩陸離の渦が広がっていく。

 んん!? あれ、大きいな? 『藤の湯』よりも大きくない? コンビニより大きいぞ? ま、まさかデパート来ちゃった!?

 やがて光が収まり、私が目を開けるとそこには見覚えのある店舗が鎮座していた。

 大きなガラス窓から見える店内には色とりどりの衣服類。シンプルなデザインの一階建て。そして白い壁に描かれた『ファッションセンター いまむら』の赤い文字。


「ああー……この店かぁ……」


 郊外を中心に多数の店舗を展開する衣料品のチェーンストアだ。私も何度もお世話になっている。

 品質もいいし、種類も豊富、そして何より安い。前世の私みたいな貧乏学生にはありがたい店であった。まさか異世界でも買いに来ることになろうとは。


「あら! あらあらあら! ねえ、サクラちゃん! ここってお洋服のお店よね!」

「ええと、はい。そうです……」


 ガラス窓から見える衣服類を見て、お母様のテンションが跳ね上がっている。わからないでもないが。


「ありがとう! ちゃんとお母さん好みのお店を呼んでくれたのね! さすがサクラちゃんだわ!」

「いえ、これはまったくの偶然で……」

「さ、早く中に入りましょう!」

 

 思った通りの店を呼び出せると思われちゃ困るのでちゃんと弁明したが、聞いちゃいないね、これは……。

 私はお母様に手を引かれて、呼び出した衣料品店へと向かう。


「扉がないけど、どこから入るのかしら……?」

「あ、ここから入るんですよ」


 入口がわからずうろうろしていたお母様に、自動ドアを開いてみせるとすごく驚かれた。

 そうか、なにげに自動ドアは初めてだったか。酒屋もガラスドアだったけど押して開けるやつだったし。


「これは魔導具か? ドアを開けるだけのためにすごいな……」


 お父様も驚きつつも自動ドアを開けたり閉めたりしている。あまり遊ばないように。

 店内に入ると、天井の蛍光灯に明るく照らされた、様々な服とマネキンたちが私たちを出迎えてくれる。

 店内の商品はレディース、メンズ、どちらもあるが、割合でいうとレディースの方が多い。トップスからパンツ、スカート、ワンピース、アウターといろいろ揃っている。

 ただ、いかんせん流行が古い気がする。これは私がこの店に初めて来た時の店なんだろうか。

 感覚としては子供の頃にお母さんたちが着ていた服、といった感じである。つまり子供服は私が昔着ていたようなやつで……。なんとも微妙な気分だ。

 最新の流行を取り入れつつ、低価格な服を大量生産するファストファッションの店なだけあって、本当にいろんな方向性の服が売られている。

 服だけじゃなく、傘や雨ガッパ、小さなクッション、レジ前には電池やお菓子まで売っている。なんで洋服屋にお菓子が置いてあるんだろう……。


「どちらかというと地味な服が多いわね。庶民向けのお店なのかしら?」


 と、お母様が店内を見渡しての感想。そりゃあ貴族が着ているレースにフリル、刺繍いっぱいのドレスとかと一緒にされては困る。まあ、貴族様からすれば地味なのかもしれないが。

 

「でもこういった服もいいわね……。私が着ても似合うかしら……」

「試着してみたらどうですか?」

「試着?」


 コーディネートされたマネキンの服を見ていたお母様にそう提案する。

 この世界、貴族なら服はほぼオーダーメイドである。その人のサイズに合わせて、すでに『買うこと』が前提なので、試着して買うか買わないかを決めることはない。

 当然ながら試着という概念がないお母様は試着室のこともわからなかった。


「ここで服を着替えて自分に合うか確認してから買うのね。……せっかくだから着てみようかしら」


 気に入った服を手にいそいそと試着室へと入るお母様。と、同時にお母様付きのメイドさんも一緒に入る。

 上級貴族は基本的に自分で着替えをしないのだ。私もアリサさんにされている。自分でやると言ったら、メイドの仕事を奪わないで下さいと怒られた。それ以降は無抵抗である。

 ここの試着室はかなり広めなので二人で入っても大丈夫だと思うけど……。着方わかるかしら?

 やがて試着室のドアが開き、上から下まで全身のコーディネートを終えたお母様が現れた。


「どうかしら?」


 マネキンが着ていた服をそのまま着ただけなのだが、なんともよく似合っている。

 私が言うのもなんだが、お母様はとても美人でスタイルもよく、そこらのモデル顔負けなのだ。

 レースのブラウスにデニム地のジャンパースカート、オフホワイトのショルダーバッグにシックなシューズ。

 カジュアルガーリーな大学生といったお母様がそこにいた。


「とてもよくお似合いです」

「いいじゃないか。そういう服も似合ってるよ」


 私とお父様に褒められて、満更でもない様子のお母様である。しかしブラウスのボタンがけっこういっぱいいっぱいのような……。サイズが合ってないのかな?


「夜会なんかには着ていけないけど、普段の部屋着としてはいいわね。ただ少しだけ胸周りが窮屈だけど……」

「あ、えと、ちょっといいでしょうか?」


 お母様の豊かな胸元にビアンカの指先が触れる。そのままビアンカは『ギフト』を発動させた。


「【伸縮自在】」

「あら? あらあら!? ちょうどいい感じになったわ! ありがとう、ビアンカちゃん!」


 なるほど。『ギフト』【伸縮自在】で服の大きさを変えたのか。全体ではなく、胸周りだけ伸ばしたみたいだ。【伸縮自在】にはそんな使い方もあったのか。


「私も小さくなった服を伸ばしてまだ着てたりしますので……」


 お礼を言われたビアンカが照れながら答える。

 ビアンカも私も成長期だからね。お気に入りの服がすぐに着れなくなる。だけどビアンカがいれば、ある程度サイズを自由に変えられるわけだ。便利だな、【伸縮自在】。

 お母様に気に入られたビアンカはその後もサイズ調整に駆り出されていた。ううむ、うちのお母様がごめん……。


「いけない、サクラちゃんの服も買わないとね!」

「いえ、私は別に……」


 と、断ろうとしたが、お母様に有無を言わさず腕を引っ張られた。うわぁ、デジャヴ。これパーティーの時とおんなじだぁ。これから私は着せ替え人形と化す……。

 ふと横を見ると、ユリアさんが娘のエステルの服を見繕っている。向こうは楽しそうだ。いや、私も嫌いじゃないんだけどね?

 お父様はお父様で、使用人の人たちとシャツやらジーンズなんかを見ている。お父様もお母様とお似合いなだけあって、モデル並みにスタイルがいい。

 さぞかしイケメンファッションになると思われ……ちょっと待って、そのスカジャンはどうかな!? 確かに刺繍は綺麗で派手だけれども! なんか悔しいけど似合ってるし!


「サクラちゃん、これなんかどう?」

「あ、いえ、それはちょっと……」


 私の方はといえばお母様が広げてみせたアニメプリントのトレーナーをやんわりと拒否していた。

 それって私よりもうちょっと下の子が着るやつじゃないの……? サイズ的にはぴったりかもしれないけどさあ。

 大人服の方を着たかったなあ……。ビアンカの【伸縮自在】はせいぜい数センチしか変えられないそうだ。

 一度変化させたものを元には戻せるが、さらに変化させることはできないらしい。縮めてさらに縮めるなんてことはできないようだ。

 あ、子供サイズのジャージもある。これは剣の稽古の時に着るかな。動きやすそう。

 さすがに公爵令嬢としては普段着にはできないけどね。








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