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◇024 店舗召喚4





「あー……。この店かぁ……」


 レベル4の店召喚。

 フィルハーモニー家の庭に現れた、見るからに怪しい店構えに私はちょっとだけ引いていた。

 平家の日本家屋。古びた木製の看板が屋根の上に取り付けられている。看板には『綾篠あやしの質店』と書かれていた。

 うちの実家の近所にあった、昔ながらの質屋である。私が生まれた時からあったが、この店も高校生の時に店主のお爺さんが亡くなって潰れた。

 妖怪ぬらりひょんみたいな怪しいお爺さんで、とても死ぬとは思えなかったのだけれども。

 いろんな噂が聞こえていた店で、妖怪の住処だとか、呪いの道具が売られているとか、裏社会と取引をしているとか……こんな店構えじゃそんな噂が立っても仕方がないような気もするけど。

 というか私、この店に入ったの中学生の頃に一度だけなんだけど。おばあちゃんちの蔵で古いコインをいくつか見つけたので、ここで売れないかと思ってさ。五百円くらいで売れたけど、安く騙されたんじゃないかと今でも疑っている。


「サクラリエル……。これも店……なんだよね?」

「なんだか今までのお店とは雰囲気が違うわね……」

 

 漂う怪しさオーラを感じているのか、お父様もお母様も若干緊張した面持ちである。


「これは質屋ですね。不要な物を買い取ってくれるお店です」

「ああ、買取屋か。すると商品はないのかな?」

「いえ、買い取った物を売る店でもありますので、商品もありますよ。いろんなものが雑多になってると思いますけど」


 一度しか入ったことはないが、いろんなものが溢れていて、なにを売っているのかわけがわからない店内だった。ガラクタとしか見えないものから、高そうな壺まで売っていたっけ。


「しかし妙な気を放つ店だな……。まるで結界でも張られているようだ。危険はないんだな?」


 召喚するのに同席したお祖父様がそんなことを尋ねてくる。いや、店の雰囲気からして呪われた品物とかありそうだけどさ。危険はない……と思いたい。

 亡くなった店主の怨念とか無しの方向で。怨念がおんねん、とか言わないからね!

 いざ、開門!


「お邪魔しまーす……」


 気合とは裏腹にカラカラと静かに引き戸を開けて店内へと入る。けっこう広い店内だが、薄ぼんやりとした裸電球のみの光で昼間だというのに薄暗い。窓がガラクタで塞がっているのだから当たり前だ。

 うわ……。あらためて見るといろんな物が置いてあるなあ……。

 大きな壺、掛け軸、番傘、刀、鎧兜、様々な大きさの皿、仏像、茶道具、置時計、ラジカセ、CDプレーヤー、カメラのストロボ、オペラグラス、額縁に入った洋画、いろんな調理器具、鷹の剥製、習字セット、ノートに文房具、色鉛筆に蛍光ペン、羽子板、ケン玉、レジャーシート、香炉、雛人形、貴金属類、箪笥、招き猫、etcエトセトラetcエトセトラ……。

 骨董品ばかりかと思えばそうでもない。本物かはわからないが、ブランドのハンドバッグとか、ランニングシューズにいくつかの楽器まで置いてある。

 なぜか漫画の単行本も何冊か置いてあるけど……。

 カウンターは販売と買取の二つに分かれていた。カウンター前のガラスケースには指輪やネックレス、高級腕時計などが並んでいる。本物かね?


「なんのお店かさっぱりわからないわ……。あら、このぬいぐるみ可愛いわね」


 お母様が棚に飾ってあった、小さな黄色い熊のぬいぐるみを手に取った。ハチミツが大好きな、赤いベストが似合う熊だ。


「これはなんだろう? ロープかな? 先に爪がついている……何かの武器だろうか?」

 

 いえ、お父様。それはただの延長コードです。そんなものまで置いてあるのか。

 というか、隅に置かれた箱の中に延長コードがたくさん入っている。なんでこんなに? 誰かまとめ売りに来たのかな?

 そこそこ広い店内には所狭しと雑多な物が置かれている。こりゃなにがあるのか把握するだけでも時間がかかりそうだよ……。

 ふとお祖父様の方を見ると、刀を鞘から抜いて、その刀身を見惚れるように眺めていた。


「美しい……。こんな剣は初めて見た。鏡のような刀身、波打つ模様……。柄まで細やかな細工がされておる。我が領地の鍛治師でもこれだけの剣を作ることができるかどうか……」


 気をつけてね? それ、たぶん本物だからさ。刀はすごく切れるから、サクッといくと思うよ? 危ないから振り回したりしないでよね。

 お祖父様は鞘へ刀身を納めると、振り返って私に尋ねてきた。


「この店の商品はこっちの貨幣で買えるんだったな?」

「買えますけど……。買う気ですか? それ?」

「うむ。一目で気に入ってしまった。これが欲しい。いくらになる?」


 さあ? 日本刀っていくらだろうね? 基本、私が召喚した店の商品ってぼったくりだからさあ。十倍とかするからね。

 生憎と値札がついていないため、カウンターにお金を乗せて調べるしかない。

 とりあえずお祖父様が白金貨一枚を置いて店の外に出ようとしたが、刀は持ち出せなかった。

 ちょっ、白金貨(百万円)でもダメって? ……まあ、十倍にぼったくってるとしたらそれじゃダメか。十万円の刀なんて安物もいいとこだ。


「お祖父様……たぶんそれ、王金貨までいくと思いますけど、本当に買うんですか?」

「ぬぐっ……! いや、もちろんだ。買う!」


 少し引きつった顔で、お祖父様は断言する。王金貨って一千万円だよ? 一千万円する武器なんて使えるの? 私なら怖くて使えないよ。

 お祖父様とて辺境伯。お金はそれなりに持っている。買えないことはないと思うけど、武器に興味のない私にはどうしても無駄遣いに見えてしまうなあ。

 お祖父様は刃の神・ブレード様から『ギフト』を授かっているから、刀に惹かれるのもわかる気がするんだけれども。

 結局、王金貨一枚と白金貨八枚で買えた。つまり地球ではこの刀は百八十万円で売っていたというわけだ。百八十万……安いのか高いのか、私にはわからない。でもこっちの世界でいったら間違いなく高いと思う。だって千八百万円だよ!?

 歴史のある刀ならまだしも、こんな怪しい骨董品店に置いてある刀が千八百万円とか……。ないわー。実際は百八十万だけども……。

 お祖父様にそれは美術品に近いものだから、戦闘に使える強度があるかわからないですよ、と言うと、あくまでも買った刀は参考で、質の良い鉄やミスリルなんかを使って領地で独自の刀を作ってみるんだそうだ。そのものを実戦に使うわけじゃないみたい。

 だけどそのために二千万近く出すのかと思うと、やはりぼったくり感が否めない。


「この店の商品はピンからキリまであって、高い物はかなり高く、安い物はかなり安いようです」


 私の言葉になるほど、と、お父様たちがお祖父様の買った刀を見て頷く。

 ちなみにお母様の持っていた熊のぬいぐるみは銅貨五枚で買えた。地球じゃ五百円か。こっちじゃ五千円なんだけど、刀に比べたら安いもんだ。

 だけど日本での金銭感覚を知っている私としては、どうしてもぼったくられてるように思えるんだよなあ。

 しかしいろんなものがあるなあ。うわ、この小型ラジカセ、おじいちゃんちにあったやつだ。懐かしい。よく演歌を聴いていたっけ。

 あ、そういえばここ質屋なんだよね。買取ってどうなっているんだろう?

 私はさっきお父様が持っていた古い延長コードを買った。銅貨四枚。こっちでは四千円だけど、地球では四百円。まあ普通……なのかな?

 で、買ったこれを買取の方のカウンターへ置く。なんの反応もない。あれ?


「買い取って欲しいんだけど」


 声をかけると、カウンター上の延長コードが消え、代わりに銅貨二枚がチャリンと現れた。

 よかった。こっちのお金だ。日本のお札や硬貨で支払われても、こっちじゃなんの役にも立たないからね。

 しかし買った時の半額か。買取額は地球での金額で二百円。

 減った。いや、当たり前かもしれないけど。安く仕入れて高く売る。商売の基本だけどさ。


「これじゃあんまり意味ないかなあ……」


 ふと、延長コードはこの店の物……地球のものだから安く買い取られたのでは? という考えが浮かんだ。

 異世界の物ならいくらで買い取ってもらえるのだろう?

 私は昨日の祭りで買ったブローチを胸から取り外し、買取カウンターの上へと乗せた。これは鉄貨五枚で買った。安く買取られるか? 高く買取られるか?


「買取お願い」


 私がそう告げると、ブローチが消えて、代わりに銅貨五枚がジャラッと現れた。……増えた。

 十倍で売れた。異世界の物なら十倍で売れるってこと!?

 地球むこうの物を異世界こっちで買うと十倍の金額でぼったくられる。

 同様に異世界こっちの物を地球むこうに売るときは十倍で買取られるってこと?

 これは要検証だね。うまくいけばものすごいお金を稼ぐことができるかも……!

 私はお父様に言って、売ってもいい物を屋敷から持ってくるように頼んだ。くふふ、ちょっとワクワクしてきたぞう。




 結果から言うと……ダメでした。

 どうも買取の支払い金額に限界があるっぽい。合計が一定金額を超えると買い取ってくれなくなった。

 まあ今までの店だって、商品を全部買ってしまったらそれで終わりで、再召喚するまで補充はされなかった。その逆だってあるよね。

 普通に個人経営の質屋さんだって、その店にあるお金以上の金額を即金で支払うことはできないわけだし。せいぜい百万円が限度だった。

 儲けられると思ったんだけどなあ。いや、儲かってはいるんだけどね。毎日限界まで買い取ってもらえばそれなりの額になるし。

 一度買い取ってもらうと、同じものは次から安くなっちゃうんだけども。まあ、売るものはなんでもいいわけだから、現状、それで良しとするか。

 とはいえ、公爵家うちはそんなにお金に困っていないので、毎日売る必要はないのだが。

 お父様は自動巻きの安い腕時計を二つ買っていた。安いと言ってもこっちで三十万円もするんだけど。

 こっちの世界も二十四時間で時計もあるんだけど、ここまで小さなやつはないからね。うちにだって大きな柱時計があるだけだし。だからその金額でも破格な値段なわけで。

 お父様はさっそく一つを王様に献上してくるってお城へと行ってしまった。あれは単に自慢しに行ったんだと私は睨んでいる。

 持っていったのは自動巻きのやつだから電池切れの心配はないはずだ。

 私もお祖母様に女性用の腕時計をあげようかな。ああ、皇后様にもあげた方がいいか。王様とお祖母様だけ持ってるってのはね。エリオット? 子供には腕時計なんて早いですよ。

 彼には質屋の隅で見つけた木製パズルで充分喜んでもらえると思うよ。

 お祖父様はあれからさらに鎧兜まで買っていた。相当散財したと思うんだが……。鎧兜よりプレートアーマーの方が頑丈じゃないかなあ。確かに動きやすいかもしれないけどさ。

 お祖父様は領地で研究して独自の鎧を作ると言っていた。そのうちジャパネスクな鎧が辺境に流行するかもしれないね。








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