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◇023 暴走状態





「な、なんだあっ!?」

「きゃあぁぁぁぁぁっ!?」


 突然現れたたくさんの召喚獣たちに、祭りを楽しんでいた人たちがパニックを起こす。無理もない。いきなり町中に猛獣が現れたんだから。


「何者かは知らんが、せっかくの祭りに無粋な奴らじゃな」

「ん。神経を疑う」


 こんな状況下であるというのに、ティファとルカは怯えてはいなかった。さすがは一国の王女、肝が据わっているねえ。

 うちの皇太子エリオットもなんとかうろたえずに踏み止まっているようだ。えらいえらい。

 現状、パニくっているのは取り巻きA……あーっと、アンネマリー嬢だけだな。エリオットの腰にしがみつき、あわあわと周章狼狽している。エリオットも動くに動けず、困っているようだ。


『ガルァァアァァァァ!』


 狼の形をした影がこちらへと向けて一直線に駆け出し、大きくジャンプして襲いかかってくる。

 が、私たちの前に出たお祖父様が剣を一閃、哀れ狼は胴体から真っ二つとなり路上へと無残な姿で転がっていった。

 黒い血を流して二つに両断された狼は、シュウシュウという不気味な音を立てながら黒い霧へと戻っていく。


「召喚獣とて実体はある! 斬り伏せろ!」


 お祖父様の言葉に従って、エリオットやルカ、ティファの護衛さんたちは、襲いかかってくる召喚獣に向けて剣を振るい始めた。

 さすがは王家の護衛騎士、実力は確かだ。護衛対象を護りながら、片っ端から召喚獣を斬り倒していく。

 召喚獣たちはエリオットだけを狙って動いてはいない。私たちも含めて無差別に襲いかかっている。完全に暴走状態だ。このままじゃ周りの一般人にまで被害が及ぶかも……!

 おそらく召喚者もコントロールできていないのではないかと思う。一番いいのはその召喚者を捕まえて意識を刈り取ることだけど、この状態ではそいつがどこにいるのかわからない……!

 幸い、()()暴走状態だ。頼むから最終形態にはならないでよ……!

 ゲーム内でのサクラリエルは暴走状態になったあと、完全に自暴自棄となり【獣魔召喚】で最強の暗黒竜を呼び出すのだ。その命と引き換えに。

 その暗黒竜をエステルとエリオットの二人が、【聖なる奇跡】で呼び出した光の剣で消滅させ、めでたしめでたしとなるのがエリオットルートのトゥルーエンド。

 そこまでのエリオットとの好感度が低いと、光の剣は呼び出されず、暗黒竜は消滅できない。『封印の宝玉』と呼ばれる魔導具に封じられるだけとなる。エステルはこの暗黒竜を完全に消滅させるために修行に旅立ち、エリオットはそれを待ち続けるというグッドエンドになる。

 もちろん暗黒竜に負け、二人が共に死んでしまうバッドエンドもある。

 今現在、光の剣を呼び出せるエステルは王都にはいない。ここで暗黒竜を呼ばれてしまったら完全に詰む。大ピンチだ。どうしたら……!

 召喚獣らは誰彼構わず襲いかかろうとする。私たちは建物の壁際に立ち、背後から襲われるのを防ぎつつ、ひたすら守りの態勢を取った。


『グルガァッ!』

「ぐっ!?」

「ひいいいっ!?」


 エリオットの方へ向かった熊の召喚獣に彼の護衛の一人が吹っ飛ばされる。

 恐怖に駆られたアンネマリー嬢が慌てふためいてエリオットから離れ、脱兎の如く逃げ出していった。

 あ、このシーン見たことある。私がゲーム内で罪状を追及された時に、取り巻きたちが逃げ出したスチルにそっくり。取り巻きBがいないけど。

 この状況で私たちから離れるのは危険極まりないのだけれど、運が良かったのか召喚獣たちは彼女を追ったりはしなかった。逃げられるなら逃げてくれた方がいい。足手まといだし。まあ、それは私もだけれども。


「【重力変化】!」


 エリオットが熊の召喚獣に対して自らの『ギフト』を使う。そのタイミングで護衛の一人が熊に対して体当たりをかますと、熊は馬鹿みたいな勢いで吹っ飛んでいった。

 なるほど、熊を軽くしてぶっ飛ばしたのか。重くするだけかと思っていたけど、【重力変化】にはこんな使い方もあるんだなぁ。


「皇太子殿下もなかなかやるではないか」


 ティファが不敵に笑う。うちの皇太子を少しは見直してくれたようだ。

 召喚獣が暴れ回る中、私たちは防戦に徹しながら、少しずつ敵の数を減らしていった。お祖父様が獅子奮迅の働きを見せ、私を護りつつエリオットの方にも気を配り、一匹たりとも通させはしなかった。

 お祖父様の『ギフト』は【刃羅じんら万将ばんしょう】。刃のついた武器ならば、どんなものでも超一流に扱えるという刃の神・ブレード様から授かった『ギフト』だ。

 老いたとはいえ『皇国の獅子』。その見事な戦いぶりにティファがキラキラとした目で追いかけている。

 しかしそれでも本当に暗黒竜が出てきたらさすがにお祖父様でも……と私が危惧していると、ガシャガシャという鎧の音を立てて騎士団の人たちが現場に到着した。

 これだけの騒ぎだ。そりゃ来るよね。

 騎士の中でも赤いマントに一際目立つ鎧を着た人物が、エリオットを見つけると走って駆け寄っていく。

 よくエリオットだってわかったな。ひょっとしてあれって騎士団総長かな? だとしたら攻略対象であるジーンのお父さんってことになるけれど。


「皇太子殿下!? ご無事ですか!」

「私は大丈夫だ! ルカリオラ王女とティファーニア王女を守れ!」

「はっ!」


 すぐさま私たちの周りに盾を構えた騎士が半数集まり、残りの騎士たちは未だに暴れる召喚獣へと斬りかかっていった。

 助かった。これでなんとか────。

 

「むっ……!」


 突然、召喚獣たちが形を失うように雲散霧消して黒い霧へと変化する。

 私はひょっとして暗黒竜召喚の前触れかと恐怖とともに身構えたが、何も起こらなかった。

 暴走がおさまった……? 


「終わったか……? サクラリエル、無事か?」

「あ、はい。大丈夫です、お祖父様」


 私の無事を確認すると、お祖父様はホッとしたように小さく息を吐いた。

 騒ぎも収まり、安堵の空気が辺りに広がっていく。しかしこの騒ぎを起こした犯人が捕まったわけではないので、油断はできないところだ。

 あれだけの召喚獣を呼び出したのだ。かなりの魔力を消費したはず。召喚者の魔力量がよほど多いのでなければ、同じ日に再び襲ってくるなんてことはできないと思う。

 まったく……。せっかくのお祭りが台無しになっちゃったな。

 現場に次々と騎士たちが集まってくる。それと同時に治癒系の『ギフト』を授かった治癒師たちもやってきて、巻き込まれて怪我をした人たちを治していた。

 幸いなことに、死人や重傷者は出ていない。暴走状態にもかかわらずだ。本当によかったよ。

 ザワザワと周りの人たちがこちらを見ている。結局目立っちゃったなあ。エリオットの誕生日パーティーで見た貴族やその子女もちらほらとこちらを窺っている。


「ルカリオラ殿下にティファーニア殿下。お二人には我が国のゴタゴタに巻き込んでしまい、申し訳ありませんでした。このお詫びは必ずさせていただきますので……」


 エリオットが走ってきてルカとティファの二人に頭を下げる。厳密に言えばエリオットのせいではないのだが、エスコート役なのに二人から離れたり、危険に晒したのは事実だしね。招待したお客さんに対しては謝っておかないといけないか。


「いやいや、そこまで気にすることはない。この襲撃は皇太子殿下のせいではないのだからな。一番悪いのは襲ったやつに決まっとる。だが、お詫びというならば……そうじゃのう、サクラリエルから貰いたいのう。お菓子とか?」

「え?」


 私がキョトンとしていると、隣にいたルカがぶんぶんと首を大きく上下に振った。


「それいい。皇太子殿下、私も同じのを所望する」

「えっと……サクラリエル?」


 エリオットが困ったような視線を向けてくる。またお菓子? どんだけハマったんだよ。悪い気はしないけどさあ。


「んー……こんな状況じゃお祭りも楽しめないし、これから私の家に来る? それならいくらでもあげられるから」

「「行くっ!」」


 二人が満面の笑みで頷く。どんだけだよ。


「えーっと、サクラリエル……。私も行っていいのかな?」

「エリオットも? ……まあ、別にいいけど」


 断る理由もないし、皇王陛下の命令でエリオットは二王女をエスコートしなきゃならないんだろうしね。

 楽しむ場が祭りの場じゃないのが申し訳ないが。それもこれもあの召喚獣を呼び出した奴のせいだ。

 いったい誰が犯人なんだろう。エリオットを狙ってこんな町中、しかも祭りの最中に襲ってくるなんて。

 エリオットが死ねば皇国は混乱するだろう。後継者を誰にするかで貴族間で揉めるかもしれない。それに乗じて侵略戦争をしかけようという帝国の仕業とも考えられないこともないが……。

 それにしてもあの【獣魔召喚】……。暗黒竜は呼び出されなかったが、暴走状態まで進んでいる。それはつまりあと一歩、なにかきっかけがあれば暗黒竜召喚までいく可能性があるということだ。

 もー、召喚の女神・サモニア様がそいつから『ギフト』を取り上げてくれないかなあ~。

 まー、ダメだろうなあ。あんだけ悪いことしてもゲーム内でサクラリエルも取り上げられることはなかったし。

 たぶんサモニア様は善悪には興味がないのだ。神々の考えることは我々人間にはわからんよね……。

 そんなことを考えながら、皇太子と王女二人を連れて、私たちは本来の予定より少し早く帰宅した。

 夕方までまだ時間があるので、私は駄菓子屋とキッチンカーを召喚(キッチンカー一台なら他の店と同時に呼び出せるようになった)し、三人にホットドッグをご馳走することにした。もちろんお祖父様にもね。

 ホットドッグを一口食べた王女様二人は、目の色を変えて次々とメニューを注文していく。……太るよ?


「うまっ!? 美味いぞ、サクラリエル! まだこんなものを隠していたとは! 侮れんやつめ!」

「美味しい……! 私、サクラリエルと結婚する……! 毎日これ食べる……!」


 おっとルカにプロポーズされた。ごめんね、ルカは可愛いと思うけど、私ノーマルだからさ。


「これは……聞いてはいたが、サクラリエルの『ギフト』は素晴らしいな……! さすがは我が孫娘!」

「ああっ、六面パズルがこんなに……! 柄付きのもある! さ、サクラリエル、これ売ってもらえることは……」

「え? いや、別にいいけど……」


 お祖父様は呼び出したキッチンカーや建物に感心していたけど、エリオットの関心は全部駄菓子屋の六面パズルにいっちゃったみたい。どんだけ好きなんだよ。

 明日はレベル4の店舗を呼び出してみようかな。今回みたいな襲撃を考えると、やっぱり戦闘力のない『ギフト』は辛いなあ。戦闘力のある店ってないかな? 戦車の移動販売店ってないもんかね?








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