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◇017 店舗召喚3





 翌朝、目覚めてから昨日のことを根掘り葉掘りお父様とお母様に聞かれた。

 仲良くなったルカとティファのことを話すと、お父様がすぐさま両王女の滞在しているホテルへと使いを走らせ、約束通りトランプと駄菓子の山を送り届けた。

 もちろんエステルのところにも同じものを届けてもらった。昨日は無理に付き合わせてしまったからねえ。

 やれやれ、気がかりだったエリオットの誕生日パーティーも終わり、これでやっと一息つける。

 まあ、パーティーでの出来事がこれからどう絡んでくるか、不安がないわけじゃないけれど、この時点ではどうしようもない。なんとか数年後、破滅エンドに向かうことがないように祈るだけだ。

 さて、それはそれとして、今日は試さなきゃならないことがある。

 朝目覚めたら、右手にある召喚の女神・サモニア様の紋章がレベルアップしていたのだ。

 なぜだかはわからない。心当たりがあるとすれば、エステルをはじめ、ルカ、ティファといった登場キャラと遊んだことだろうか。やはり主要キャラの好感度アップが鍵なのかしら?

 それとも攻略対象であるジーンと知り合ったから?

 いったいどうなっているんだろう。ゲームだとイベント進行か攻略対象の好感度アップによって『ギフト』のレベルアップが行われた。ああ、特殊アイテムによっても上がったっけ。

 でもこちらの世界では基本的にそのギフトを授けてくれた神に気に入られることでレベルアップするという。

 つまり戦いの神なら戦えば戦うほど、商売の神なら商売をすればするほどレベルアップしやすいということだ。

 ただし、その神の意向に背くような行いだとレベルアップはしないという。それどころか、最悪『ギフト』を取り上げられてしまうんだそうだ。そして二度と戻ってはこない。

 意向に背くってのは、商売の神なら商品を偽って人を騙したり、芸術の神なら盗作したりといった行為だね。

 だから商売の神様から『ギフト』をもらっているということは、最大の信用になる。商人として真っ当に商売をしているという証だからね。

 ちなみに神様の紋章を偽造することは、教会で最大の罪となり、天罰が下る。

 暗喩的な表現ではなく、本当に下るらしい。おっかな……。

 ただ、神様の意向に背くって判断なのだが、ここらへん、大雑把な神と神経質な神がいるらしいので明確なボーダーラインは難しいみたい。

 戦いの神なら戦ってさえいれば、悪人だろうとレベルアップするらしいから。

 ちなみに私の召喚の女神・サモニア様は、何十年も召喚しなかったり、召喚したものをわざと傷付けたりしなければ、取り上げられたりはしないそうだ。

 まあ、ここはまた呼び出せる店が増えたことを喜んでおこう。

 ではでは、さっそく新店舗を召喚だ!


「こんなわずかな期間でまた祝福を受けるとは……。今まで聞いたこともないスピードだよ」

「本当に。よほどサクラちゃんは召喚の女神様に気に入られたのね」


 お父様とお母様が私のレベルアップを知って、そんなことをのたまう。

 いやー……それはどうかな? あんまり女神様は関係ないかも……。

 私としてはおそらく『スターライト・シンフォニー』の登場キャラの好感度、あるいは知り合ったという『イベント』でレベルアップしてるんじゃないかと思っているのだが、絶対的な確証はない。

 ゲームの登場キャラに限定されるのでは? と思っている理由はお父様とお母様だ。

 ゲームに登場していないお父様やお母様の好感度まで含むのなら、もっとレベルが爆上がりしてるんじゃなかろうか。

 登場キャラでもどこまでが範疇なのかはいまいちわからない。スチルにちょろっとだけ出てた、皇王陛下や宰相さんも含まれる? 取り巻きAとかも? そこらへんどうなんだろう。

 少なくともヒロインと悪役令嬢は対象に含まれていると思うんだが。

 攻略対象はわからない。好感度を上げる気がないからね。上げたら何が起こるかわからないからあまり近寄りたくないし。

 だけど、嫌われてはいないようだから少しは好感度が上がっている可能性はある。友人、あるいは友人未満くらい? これがどう影響していくか……。

 ひょっとしたらゲームの登場人物全員のトータルした好感度が経験値みたいになってレベルアップしているとか? 女神様の気まぐれという可能性もやっぱり捨てきれないんだけども。

 まあどっちにしろレベルアップはありがたいことではあるのだが。

 ちなみに一般的な『ギフト』の祝福……レベルアップのスピードは授けてくれた神々によって違うらしい。成長の神・グロウ様や風の神・ウィンド様なんかだと上がりやすく、新しい技が使えたり、威力や効果が増すんだそうだ。

 召喚の女神・サモニア様はどちらかというと上がりにくい方らしく、お父様が驚いているのもそれが理由らしい。上がりにくい『ギフト』の方が強力だという説もある。

 確かにゲームじゃエステルなんか十六歳になるまでレベル1のまんまだった。エステルの『ギフト』はレベル2になるとかなりパワーアップするので、その説は当たっているかもしれない。

 だとすると【店舗召喚】のレベルが上がりやすいのは強力じゃないってことなのかしら……?

 うーん、『地球のものを召喚する』という特性がなければ、それほど使える『ギフト』でもないのかな? 結局お金が必要になるしさ。普通に店で買うのと変わらないもんね。店の方から来てくれるってだけでさ。そう考えると通販とさほど変わらない気がしてきた。

 まあ、私にとっては使える『ギフト』なのでありがたい。召喚の女神・サモニア様に感謝だ。

 感謝ついでにお願いします。次はコンビニ、贅沢言ってもいいならスーパーマーケット……究極、デパートなんかをお願いできませんか。……さすがに無理かな……?

 以前と同じように、私は結界の張られた庭で召喚の女神・サモニア様に祈りを捧げる。

 なにとぞコンビニを……。無理ならせめて飲食店がいいです。いいかげん地球の美味しいものが食べたい。駄菓子じゃなくて!

 ファミレス……ファミレスもいいなあ! もちろん高級レストランも可! あっ、でも私、高級レストランなんて行ったことないや……。いや、小さい頃に一度だけ行ったか?

 あれ? でも飲食店って、店員さんや料理人がいないのにどうやって買うんだろう?

 ……ま、まあ、呼び出したらわかるよね。


「いざ! 【店舗召喚】!」


 まばゆい光の奔流が辺りを包む。相変わらず登場が派手だ。やがてその光が収まり始め、店舗の全容が見え始める。……あれ? なんかちっちゃくない……?


「え?」

「これは……店なのか?」

「あらあら、綺麗な色ね」


 私の目の前に現れたもの。それは赤と白でカラフルに塗られたボディの、小型のバンのような車だった。

 ドアには『HOT DOG』の英文字。そのバックにはその名の通り美味しそうなホットドッグとハンバーガーの絵が描かれている。全体的におしゃれでかわいい感じの車だ。

 車体の横には立て看板と小さな丸テーブルが二つ、テーブルには椅子がそれぞれ三つずつ出現していた。テーブルの上にはメニューとともに、ケチャップ、マスタード、ドレッシング、タバスコ、塩などの調味類が置いてある。

 これってもしかして、私が通っていた高校の近くによく店を出していたホットドッグの移動販売店?

 これはけっこう最近だよ、買ったの。といっても二、三年前だけど。大人気の店で、私も友達に誘われて帰りに何回も買い食いした記憶がある。懐かしいなあ。


「サクラちゃん、これは食べ物を売っているお店なの?」


 お母様がボディの絵で判断したのか、嬉しそうに寄ってくる。


「えっと、はい。ホットドッグと言って、この絵の通り、パンにソーセージ……お肉の詰まったものを挟んで食べるんです」

「ああ、ヴルストか。ふうん、パンにねえ」


 ソーセージ自体はこっちの世界にもあるらしい。あまり皇国では食べられていないみたいだけど。


「お金はここに置くのかな。そのホットドッグとやらはどこにあるんだい? 売り場はこの中なのかな?」

「いえ、中は厨房です。商品は……」


 お父様がキッチンカーの側面、開いたカウンターに置いてあった釣り銭皿の上にさっそく金貨を載せていた。

 だけど、ホットドッグはどう買えばいいんだろう? 作り置きが置いてあるわけじゃないし、厨房にある食材を使って自分で作れっての? まさかのセルフ?

 私はテーブルに置いてあったラミネート加工されたメニューを見た。写真付きで載っているのはこっちの人たちにもわかりやすいからありがたいな。

 えーっとメニューは、プレーンドッグ、チーズドッグ、レタスドッグ、チリドッグ……いろいろある。

 さすが人気店、メニューが豊富だなあ。ホットドッグだけじゃなく、スープやサラダ、ハンバーガーにサンドイッチ、冷たい、温かい飲み物、ちょっとしたデザートまである。

 普通ならこのメニューを見て……。


「えっと、プレーンドッグひとつ」


 試しにと私が無人のキッチンカーに注文すると、次の瞬間、テーブルの上に熱々のホットドッグが包み紙に包まれて出現した。


「なるほど! 注文も召喚式なのか!」


 お父様が同じようにテーブルにあったメニューを手に取るが、すぐに眉根を寄せて私に助けを求めてきた。うん、日本語読めないよね。

 ゲーム内では日本語を喋っているのに、日本語を読めないってのは不便極まりないよねえ。数字は読めるみたいだけど。

 メニューの金額はそのままみたいだけど、やっぱりこの店もぼったくりなんだろうなぁ。


「サクラちゃん、サクラちゃん。お母さん、これが食べたいんだけど」

「えっと、それは『キャベドッグ』ですね」

「じゃあキャベドッグ、ひとつ!」


 お母様がキッチンカーに注文すると、私のプレーンドッグの横に、ソーセージとキャベツがどっさり挟まったキャベドッグが現れた。わ、これも美味しそう。


「僕はこれがいいかな。サクラリエル、これはなんて言うんだい?」

「え……? それですか? 『ホットソーススペシャル』ですけど、あのっ、お父様!? それたぶんすごく辛いですよ!?」

「ははは、いいね。こう見えて僕は辛いのが好きなんだ。女王国のピリリ肉の赤焼きも食べたことがあるんだぞ?」


 いや、そのピリリ肉ってのは知らないけど! これたぶんすごく辛いよ!? ハバネロとか書いてあるし、トウガラシマークがいくつも並んでるし!


「僕にはホットソーススペシャルをひとつ!」


 うわ、注文しよった……。焼け石に水かもしれないが、ウーロン茶も注文しておこう。いや、ウーロン茶よりアイスクリームの方がいいか。


「この赤いケチャップと黄色いマスタードをかけて食べると美味しい……らしいですよ、お母様。あ、マスタードは辛いやつなのでお父様はかけなくてもいいかも……」

「サクラリエルのおすすめならかけるさ。こんな感じでいいのかな?」


 うわぁ……。なんの罰ゲームなんだろう、これ。お父様はなにか罰せられることをしたのだろうか。

 ホットソースとマスタードがてんこ盛りになったお父様のホットドッグを信じられない目で見ていると、先にお母様がケチャップたっぷりのキャベドッグにがぶりとかぶりついた。


「んんー! 美味しい! このケチャップという甘酸っぱいソースが、お肉とシャキシャキとしたお野菜にものすごく合うわ! こんなの初めて食べます!」


 幸せそうな顔をしてお母様がもぎゅもぎゅと口を動かす。その表情を見て、周りを取り囲んだ使用人さんたちから、ごきゅ、と喉を鳴らす音が聞こえた。


「そんなにかい? どれ、じゃあ僕も……」


 私はお父様の反応が気になって、自分のホットドッグを手にしたまま食べられないでいた。

 だ、大丈夫かな? 売っている以上、食べられるものではあるんだろうけど……。

 私の心配をよそに、お父様は豪快にがぶりといった。いきよった……。


「ん! 確かにこのケチャップというのは甘酸っぱくて美味しいな! それほど辛さも……」


 なにか言いかけたお父様の動きがピタリと止まる。顔色が急に赤くなり青くなり、額からだらだらと滝のように汗が流れ始めた。あれ、小刻みに震えてる?

 チラリと私の方を見たお父様は、意を決したようにゆっくりもぐもぐと無言で咀嚼し、ごくりとそれを飲み込んだ。

 無茶しやがって……!

 娘の手前、弱音は吐けなかったんだろうけど。


「は、はは……。な、なかなか刺激的な味で美味しいよ……。兄上にも、食べさせてあげたいなぁ……」


 お父様? 皇王陛下を道連れにする気ですか? さすがに怒られるからやめたほうがいいと思うよ? 私は無言で注文したバニラアイスクリームを差し出した。

 お父様も無言でそれを口に含み、ほっと安堵の息を漏らしたが、まだ顔が歪んでいる。よほど辛かったとみえる。

 私も久しぶりのホットドッグを味わうことにして、がぶりと一口食らいつく。

 美味しい……! ホットドッグってこんなに美味しかったっけ?

 歯を立てるとプツリと弾けたソーセージから肉汁が溢れ出す。ピクルスとタマネギのみじん切りが載っただけのシンプルなホットドッグがこんなにも美味しいなんて。

 コンビニじゃなかったけど、美味しいものを食べさせてくれてありがとう、サモニア様。

 私たちが食べ終わると、さっそく使用人さんたちにキッチンカーを解放する。

 メニューの方は私が訳したものをメイドのアリサさんが書き留めてくれた。


「チーズドッグひとつ!」

「おれ、シュリンプドッグ!」

「私はレタスドッグで! あ、アイスティーもひとつね!」


 あっという間に公爵家の庭はガーデンパーティーの会場になってしまった。

 みんなが注文し終えた後も、私はメニューの商品を注文し続ける。一回の召喚でどれだけ注文できるかの目安を作っておかないとね。ちなみにこれはあとで使用人さんたちの賄いになります。

 やがてホットドッグが注文しても出てこなくなり、ウーロン茶やコーラといった飲み物も出てこなくなった。

 うーん、思ったより少ないな。通常のサイズの店舗とは違うから仕方ないんだろうけど。

 まあ、この店舗の真価はそこじゃない。一番の真価は『移動販売店』というところだ。

 車だ。厨房付きだが、車が手に入った。これが使えるならかなり便利な移動手段になる。

 私は運転席のドアを開け、車内へと入る。……入れた。ここも『店内』と認識されているのだろう。『移動販売店』となっているのだから、それを動かすためのここも店の一部というわけだ。

 なら『店内』の物は、商品以外は持ち出せないが、『使う』ことはできるはず。

 運転免許取っておいてよかったー。お金を出してくれた前世のお父さんに感謝。

 鍵もちゃんとついてる。……あれ、これって外に持ち出せないよね? ってことはドアに鍵をかけられない? 外からロックかけたら常にインキー状態ですか? さすがにそれは……って、一回車自体を消してまた呼び出せばいいのか。リセットされるし。

 ガソリンも満タン。シートに座り、これなら問題なく────、と思った私だったが、あることに気付き、再び外に出てドアを閉めた。その場でがっくりと膝をつく。

 足が……足がペダルに届かない! 背が低くてフロントガラスから前も見えないよ! 

 運転できない! 六歳児に車の運転は無理でした!







■できないことはないのかもしれませんが、安全上のためやめました。







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