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◇014 令嬢たちの遊び





「お前なあ。エリオットはこれを完成させるのにどれだけ頑張ったと思ってるんだ。可哀想だろ」


 ジーンに可哀想な子扱いされたエリオットが六面パズルを持ったまま、なんともいえない表情を浮かべる。


「なら元に戻します?」


 私がそう言うと、少し考えてからエリオットが静かに首を振った。


「……いや、このままでいい。また初めからやり直すよ。君の言う通り、偶然できたもので満足していてはそこまでになってしまう。そこから先はない。今度は完全に理解して、どんなにバラバラになってても自分で完成させることができるようになってみせるよ」

「決して折れない心。そして強き決意。それこそ一国の王に必要なもの。それでこそ皇太子殿下です」


 あまりいじめると皇太子殿下エリオットの好感度が下がるかもしれないから、少しばかり持ち上げておこう。

 上がりすぎても下がりすぎても困るから、攻略対象は面倒くさい……。


「お前がそう言うならいいけどよ……。ところでそれ、なんだ? 食い物か?」


 ジーンが目ざとくルカたちが食べていた駄菓子に目をつけた。エステルはあわあわと狼狽しているだけだが、ルカはジーンに警戒している様子を見せた。


「なんかうまそうだな。俺にもひとつ────」

「これはサクラリエルがくれた大事なお菓子。おいそれとはやれない」


 ジーンが手を伸ばそうとすると、ルカがその前に立ちはだかった。

 むっ、としたジーンとルカの間に、バチッと、火花が散った。……ような気がした。なんだこれ。


「そんなにあるんだから少しくらいいいだろう?」

「これは他では手に入らない貴重なもの。断固拒否する」

「よほど腹が減ってるんですかねえ、王女サマは」

「なんとでも」


 バチバチッ、とまた火花が散った気が。いやいや、君ら駄菓子でケンカすんなよ。子供か。子供だった。

 『2』では主人公エステルが『1』の誰とも結ばれなかった、いわゆるお友達エンド後からストーリーが進むため、恋愛関係にはならないが、そこそこ仲の良い友達や協力者として『1』の攻略対象たちも登場する。

 中には『2』の攻略対象と深く絡むキャラもいるが、ルカとジーンの絡みは見たことがなかった。まったくルートも違うしね。

 だからこの二人がどんな関係だったのか私も知らない。まあ、そもそも知り合いでさえもなかったかもしれないけれど。

 しかし相手は一国の王女だぞ、ジーン。怒らせるのはまずいでしょ。ルカのお付きの方が睨んでるぞ。ここらへん、もうすでに脳筋ができつつあるんだなあ。

 私が二人の間に割り込もうとすると、その前に動いた人物がいた。


「やめるんだ、ジーン。それ以上はいけない。すみません、ルカリオラ王女。気分を害したのなら謝ります」

「……ん。別に気にしてない。私も悪かった」


 皇太子に謝られて毒気が抜かれたのか、ルカは素直に謝罪を受け入れ、自分も謝罪した。


「ではまだ挨拶回りがあるので我々はこれで。行くよ、ジーン」

「……わかったよ」


 エリオットに促され、渋々ジーンがついていく。ちらりと名残惜しそうにこちらを見るので、私はテーブルに置いてあった個包装の飴玉をひとつジーンへ向けて投げてやった。

 それを難なくキャッチしたジーンがキョトンとしている。


「あげる」

「……おう! ありがとよ!」


 にかっと笑ってジーンはエリオットの後をついて行った。

 つい投げてしまったが、公爵令嬢としてはいささかはしたない真似だったかもしれない。

 まあここで好感度を下げて、後々敵対されても困るしね……。飴玉ひとつで回避できるなら安すぎるってもんだ。


「あの飴どんな味なのか気になってたのに……」

「あー……。あとでちゃんとルカ宛でプレリュードの宿に届けるから……」


 拗ねそうなルカにそう言うと、彼女はすぐに笑顔に戻った。

 あー、つっかれたー……。

 だから誕生日パーティーなんて来たくなかったんだよ! 心労が半端ないから。

 なんて心の叫びを押し込め、公爵令嬢の仮面を被る。いかんいかん、油断すると素が出てしまう。

 そういえば、ジーンルートの悪役令嬢であるビアンカは出てこなかったな。お花摘みにでも行ってたのかしら。

 さらにややこしいことになるので助かったけれども。ゲームと同じくジーンに関わるとビアンカに勝負を申し込まれたりするんだろうか。お祖父様に剣術とか習っておいた方がいいかしら。

 ゲームで申し込まれたのは主人公エステルだけど……エステルは今回、ジーンとほとんど絡まなかったしな。

 どっちかというと、ルカの方が絡んでいた。まあ、さすがのビアンカでも一国の王女に『勝負!』とはいかないと思うけれど。


「あら? サクラリエル様、これはなんですか?」

「ん? ああ、それ?」


 先ほど隠しポケットにあったお菓子を一切合切出した時、一緒に出したミニトランプをエステルが不思議そうに見ていた。

 紙でできたカードケースから安っぽい小さなトランプが出てくる。これも駄菓子屋で売ってたのよね。

 オセロとか将棋もあったけど、大きくて持ってこれなかった。


「ゲーム……遊びに使うカードよ。……えーっとカードはわかる?」

「占いなんかに使われるあれですか? 一度だけ見たことがあります」


 占い? タロットカードのような物だろうか。うーん、トランプの起源はタロットという説もあるから、あながち外れでもないのかもしれないけれど。

 『スターライト・シンフォニー』の世界じゃ遊びに使わないのかな? ゲーム自体がない? この世界自体がゲームの世界だしな。

 でも攻略対象たちがチェスのようなものでは遊んでいた記憶もある。そこらへん、よくわからないわね……。


「遊ぶもの? これでどうやって遊ぶの?」


 ルカも興味を引かれたのか、エステルの持つトランプを覗き込む。

 うーん、教えてもいいんだけどここではね……。

 テーブルはあるけれど椅子はないし、そもそもここは軽食をつまむ場所だし。

 どこか椅子と机のある座れる場所が……あ、バルコニーがある。あそこなら机と椅子があるわ。

 私はエステルとルカを連れて、パーティー会場に繋がっているバルコニーの方へと移動した。

 ルカにはお付きのドレスを着た女性が付いてきたけど。たぶんプレリュード王国の護衛さんなんだろうな。おそらく戦闘も一流。変な真似はしませんって。

 バルコニーには何人かの子息令嬢や貴族たちがいたが、私たちはその邪魔にならないように、端っこに置いてあった高級そうな椅子に座り、丸いテーブルにトランプを置いた。

 最初は簡単なやつからでいいかな。ババ抜きなら難しくないしみんなで楽しめるよね。

 ルールを二人に簡単に教える。数字はこの世界も同じなので助かった。

 さて、じゃあやりますか。



          ◇ ◇ ◇


「むむむ……! こっち!」


 はい残念ー。

 私からジョーカーを引いたルカが絶望感に満ちた顔を見せる。しかしそれも一瞬で、すぐさま手札をシャッフルし、さあ引け! とばかりにエステルへと突き出す。


「えっと……こっちで」

「あっ!?」


 エステルがジョーカーを回避して一番に上がった。私が二番。負けたルカは悔しそうに手元に残ったジョーカーを睨み付けている。


「みんな強い……」

「強いっていうか、ルカは顔に出し過ぎだよ。ジョーカーがどれかわかっちゃうもん。もっと表情を消さないと」


 私の言葉にエステルも苦笑いしている。ルカは感情が薄いように見えて、結構表情豊かだ。あまり駆け引きに向いていない。

 さすがに可哀想なので今度は神経衰弱にした。このゲームなら駆け引きは関係ない。


「これとこれ……! あと、これとこれも」

「ああっ、せっかく覚えてたのに……!」


 エステルの小さな悲鳴が響く。逆にこちらのゲームではルカの独壇場だった。記憶力いいんだなあ。神経衰弱は純粋に記憶力の勝負だからね。私でも敵わない。

 たくさんカードを手元に集めたルカが、ふふんとドヤ顔をする。なんだろう、子猫みたいで可愛いな。

 

「ね、他にはないの?」


 調子に乗ったルカが他の遊び方をせっついてくるので、ポーカーを教えることにした。チップを賭けない簡単なローカルルールのやつでいこう。

 まずは役を教える。ワンペア、ツーペア、スリーカード、ストレート、フラッシュ、フルハウス、フォーカード、ストレートフラッシュ、ロイヤルフラッシュ。

 記憶力が優れているルカは一発で覚えた。エステルもなんとか覚えたみたいなのでとりあえずやってみる。


「交換は三回までね」


 配られた手札を三回交換してみんなで一斉に晒す。私がワンペア、ルカがツーペア、エステルがノーペアだった。


「勝った!」

「むー……。なかなか揃いません」


 ポーカーは運の要素が高いからね。チップを賭けて、ゲームを下りたりする行程が入ると、駆け引きや騙し合いが絡んでまた違ってくるんだけど。

 それから何度かポーカーを続けているうちに二人とも高い役を出せるようになっていった。


「なるほど、なるほど。いかに効率よく役を作るかが大事なのじゃな。なかなか面白い遊びじゃな」

「え?」


 突然背後から発せられた言葉に私が振り向くと、そこにはアラビアンナイトにでも出てきそうな衣装を纏った、私たちと同じくらいの少女が立っていた。

 赤いハーレムパンツに同じく赤いトップス。頭につけた薄地のベールも赤い。日に焼けた褐色の肌の腕には、黄金の腕輪がジャラジャラといくつもつけられていた。

 長い金髪の髪は端の方で一つに結ばれている。強気に見えるその双眸はまっすぐにこちらを見つめていた。

 この衣装は南方にある砂漠の国、メヌエット女王国のものだ。そして赤い衣装は王族のみが身に付けられる衣装である。

 ずいぶんと詳しいって? ゲームの中のこのキャラで覚えたからね!

 嘘でしょ……なんであんたがここにいるのよ……。


「ティファーニア・レ・メヌエット第三王女……」

「む? わらわはまだ名乗ってはおらぬのに、そなたよくわかったな?」


 ティファーニアは少し驚いたような顔を見せた。

 そりゃ知ってるよ。あんたもルカと同じ『2』の悪役令嬢だからね!

 いったいどーなってんの!? なんでルカに続いてティファまで出てくるわけ!? 『1』のキャラになるべく会わないようにしてたのに、また『2』のキャラが飛び越えて来てんじゃん!









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