表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

132/132

◇132 演奏の練習





 スゥティアラ様からいただいた加護、【在庫保管】だが、一つ面白い発見をした。

 物を出し入れしていた時に気がついたのだが、どうやらこれ、慣性というか、入れた時の勢いのまま出てくるみたい。

 試しに駄菓子屋で売っていたスーパーボールを思いっきり投げて収納したら、取り出す時にそのままの勢いで出てきた。

 収納する時は勢いよく入れないように気をつけないといけないな……。ケーキなんかをひょいと投げ入れたら、投げられたまま出てくるからさ。

 まあ、これは私が直に亜空間に手を突っ込んで、物を直接取れば、勢いが無くなるらしい。

 投げ入れたスーパーボールも、直接手を突っ込んで取り出せば普通に出せたし。

 【在庫保管】の使える範囲は自分を中心にして二メートルほど。その範囲内ならどこにも展開できる。

 一つの塊として認識していると、その範囲外のものも吸い込むように収納できる。

 たとえば電車を収納しようとしたら、私の二メートル以内にその一部があれば、他の部分も一緒に収納できるってこと。まあ、この世界に電車なんてないけど。

 あらためて考えると、収納系の『ギフト』持ちってかなりヤバい能力だよね……。だって万引きとか密輸入とか、し放題じゃん……。

 そのことをお父様に聞くと、収納系の『ギフト』を授けてくれる神様はかなり厳しい方らしく、犯罪に使ったりすると、すぐに『ギフト』を取り上げてしまうそうだ。

 なるほど。そりゃあ悪用できないな……。真面目に働けば、収納系の『ギフト』持ちは商売で大儲けできるんだから、神様の不興を買ってまでわざわざ犯罪を犯す必要はないわけだ。……スゥティアラ様が加護を取り上げるかはわからないが、私も気をつけよう……。



          ◇ ◇ ◇



 歳末参りにも行き、後は新年を迎えるだけとなった我が家だが、それでもパメラ先生のレッスンは続いている。

 さらになんとここで、パメラ先生がもう一曲演奏しようとぶっ込んできた。

 ええ……? やっとミスなく『STAND BY ME』が弾けるようになったところなのに……?

 我が家の『新年の宴』は別に元日にやるわけではない。お城の『新年の宴』が元日にあるからだ。

 そこから数日空けて、親しい人たちを招いてパーティーを行うのが貴族家の『新年の宴』である。なので、時間に猶予があるといえばあるが、それでもキツキツだと思うんですけど!

 パメラ先生の選んだ曲は、ザ・スプリームスの『You Can't Hurry Love』だった。邦題『恋はあせらず』でも知られる有名な曲である。

 弾けないことはないけど……。けっこう難しいよ、これ……!

 『STAND BY ME』のしっとりとした曲の後に、『You Can't Hurry Love』って、テンション上がりすぎなんじゃないだろうか。

 まあ私たちが弾けそうなレパートリーが少ないから仕方ないのかもしれないけどさ。

 それよりもパメラ先生がギターどころか、ベースもドラムもキーボードも全部普通に演奏できちゃうのがすごいよね……。ギターとベースはまだわからないでもないんだけども、ドラムとかキーボードは全く違うジャンルじゃない? 

 この世界にはピアノみたいなものもあるからキーボードが弾けるのはまだわかる。でもドラムセットはないはずだ。あるのはティンパニとかああいう感じのだと思う。

 やはりどこの世界にも天才ってのはいるんだなぁ……。

 なんでもパメラ先生も同僚の宮廷楽師の人たちとバンドを組んで練習しているらしい。

 それを聞いたお父様がぜひ公爵家うちの『新年の宴』で演奏してほしいと頼んでいた。

 もちろん、先生たちの演奏は私たちの後だ。どうしたって見劣りするからねえ……。


「はい、ここらで一旦休憩にしましょう」


 パメラ先生の声に、私たちは演奏をやめ、ふーっ、と大きな息を吐いて、その場に座り込む。疲れた……。ミスできないという、漂うこの緊張感が思ったより精神にくる……。

 私は【在庫保管】で、冷やした状態のスポーツドリンクを取り出してゴクゴクと一気に飲む。くぁー……染みるぅ……。

 エステルたちにも同じようにスポドリのペットボトルを取り出して手渡した。水分補給は大事だからね。パメラ先生にはアイスティーのペットボトルをあげた。


「サクラリエル様はカッティングをもっとしっかりと刻みましょう。歌も発音がちょっと違う気がします。エステルさんはほとんど完璧に弾けていますが、もっと音に強弱をつけることを意識して。ビアンカさんは自分だけ走りがちにならないように。律さんは自分の音だけじゃなく、周りの音にもう少し耳を傾けましょうね」


 パメラ先生から何度目かのダメ出しを食らう。パメラ先生ってば、言い方は優しいんだけど、細かいところまで指摘してくるんだよね……。まあそれがまた適切過ぎるから、少しずつ上手くなっているって実感はできるんだけども。

 歌にまでダメ出しを食らうとは思わなかった。パメラ先生、英語とかまったくわからないのに。

 原曲の歌を音として把握してるってこと? ホントにどんな耳してんだろ……。

 まあ、パメラ先生の方もいろいろとゴタゴタがあったのに、こっちに気を遣ってもらってありがたい限りだけども。


「あれから嫌がらせは無くなりましたか?」

「そうですね、目に見えての嫌がらせはほぼ無くなったと思います。ですがまだ新しい音楽を受け入れられない人たちには、陰でいろいろと言われていますね」


 パメラ先生は困ったような顔をして私の質問に答えてくれた。

 若い楽師の人たちはエレキギターなどの音楽にいくらか興味を示してくれたようだが、やはり年配の方たちには受けが悪いようだ。

 異界の音楽でも、クラシックは受け入れられてもロックはダメって感じ? やかましいだけの音楽、とか言われてそうだな……。

 キャリアがあればあるほど、それに裏付けされた自分の音楽ってものがあるからだろうなあ。

 いわゆる『伝統』ってものを守ろうって側だ。これはこうあるべき、それ以外は認めない、そういった保守的な人たちなんだろう。

 伝統が悪いとは言わない。先達から伝承された技や心を次代に受け継いでいく、それはとても大事なことだと思う。一度途絶えてしまったら、二度と再生されないものもある。

 確か日本の古刀なんか、どの産地の鉄を、どんな割合で、どんな配合をしたかなどの資料がまったく残っていないため、もう作ることができないとか先輩が言ってたし。

 だけど、ただひたすら昔の伝統を守るだけ、それは『停滞』である。停滞はいずれ『衰退』に繋がる。

 新たな挑戦を避けていてはその文化の発展はない。

 新しい音楽を頭から否定するのではなく、それも一つのジャンルとして受け入れてほしいところだ。頭ガチガチの伝統主義者には難しいかもしれないが。

 例のバウロン女史のような人がまだいないとは言い切れないが、あの顛末を知っているなら直接的な嫌がらせはしてこないと思う。

 一応、琥珀さん配下の動物に見張らせてはいるから、なにか問題が起こればすぐわかるようにはなっているけど……。

 そもそもパメラ先生の死因がわからないから対応が難しいんだよね……。

 突発的な事故なのか、計画的な犯行なのか。まあ女神様が、『ちゃんと注意深く見守っていれば、何かしらの異変には気がつく』と言っていたからね。監視体制は緩めないよ!


「パメラ先生もお城の『新年の宴』にいらっしゃるんですか?」

「ええ。でも私はもう貴族籍からは抜けていますので、宮廷楽師としての出席ですけども」


 そうか、お城の『新年の宴』は貴族たちが集まってのパーティーだからな。成人して貴族籍を抜けたパメラ先生は貴族としては出席できないんだ。ってことは、ジェレミー先生もか。

 元日にお城で行われる『新年の宴』は、基本的に皇都に出てきている貴族のほとんどが出席する。

 新年の挨拶を家族とともに皇王陛下にして、その後、新年の祝賀パーティーに参加するかしないかは自由だ。

 皇王陛下はこの行事が本当に嫌なようで、今からうんざりしているとお父様から聞いた。

 うん、次から次へと挨拶されて、その度に『やれ、めでたい』と返すマシーンと化すわけだからね。嫌にもなるわ。

 エリオットは挨拶地獄を免除されているみたいだけども、パーティーに集まる未成年貴族の取りまとめ(ホスト)役となっている。ククク、秋涼会での私の立場を思う存分味わうがいい……!

 私といえば、城で行われる元日の『新年の宴』では、特にこれといって役目はない。が、【店舗召喚】による物資の補給は頼まれてしまった。もちろん店に支払うお金とは別途料金もらうけどね。

 というのも、秋涼会で振る舞われたお菓子や飲み物などが大人気で、奥さんや娘さんたちから聞いた貴族たちがかなり期待しちゃってるらしいのだ。男連中に食べさせる機会はなかったからなあ……。

 もちろん、そういった貴族を取り込むチャンスを逃す我が皇王陛下ではないので、数日前からケーキやら料理やら飲み物やら酒やらを城へ納めているってわけ。

 私は店を呼び出すだけだから別にいいんだけどさ、これ、来年もやるわけ? 去年に比べてショボくなったなー、とか言われたくないから、やるよね、たぶん。

 だんだんと魔力量も上がってきたのか、呼び出せる店舗数も増えてきたし、問題ないっちゃないんだけどね。

 ふと、私が死んだらもう全部手に入らなくなっちゃうんだよね、と思った。残念だな。

 今までにいた、異界の物を召喚する『ギフト』持ちは、みんなそんな気持ちになったのかもしれない。


「さて、休憩はそろそろおしまいにして、練習を続けますよ」

「「「「はーい」」」」


 再び地獄のレッスン開始だ。お父様とお母様に恥をかかせるわけにはいかない。とにかくまずはちゃんと弾けるように頑張ろう。

 







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ